インタビュー
Oculus VR開発インタビュー。CV1やOculus Touchに開発の話までいろいろ聞いてきた
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。6月にRiftのCV1を発表して以降の反響はいかがでしたか。
Pruett氏:
反響は非常によかったですね。Oculusは,DK1からVR端末を出していましたが,DK2で大きな飛躍がありました。その後登場したCrescent Bayを体験した人は少ないのですが,さらに大きな飛躍が行われています。そしてRiftの製品版(CV1)が発表され,TGS会場にもモックアップが展示されています。E3で実際にCV1を使った人の反応は非常によかったですね。
4Gamer:
いまさらですが,Crescent Bayはどういう位置付けの製品だったのですか? 最初はDK3に当たるものだと思っていたのですが。
Pruett氏:
Crescent BayとCV1では中身はほとんど同じです。解像度やフレームレートを上げているものの,技術的に大きな違いはありません。着用したときの感覚や見かけなど,コンシューマ向け端末としての完成度が上がっているのがCV1の特徴ですね。
4Gamer:
Crescent Bayはごく限られたところでしか使われていないようですね。
Pruett氏:
4Gamer:
普通の人はDK2ベースで開発しているわけですよね。それで開発したものはCrescent BayやCV1に問題なく移行できるようになっているのでしょうか。
Pruett氏:
大丈夫です。解像度とフレームレートがともに上がりますので,それに対応できないソフトも多少はありますが。
4Gamer:
DK1からDK2への移行では動かないものも多かったようですが,それに比べると緩和されている感じでしょうか。
Pruett氏:
はい。API的にはほとんどギャップはなくなっているはずです。ただし,ずっとDK2で開発していた人だと,少し最適化が必要になるかもしれません。
4Gamer:
Crescent Bayまでは有機ELパネル1枚でしたが,CV1では左右2枚に分けられていますよね。これはどうしてなんでしょうか。
Pruett氏:
私はハードウェアのエンジニアではないので詳しいことは分からないのですが,解像度も上がっていますのでフレームレートを上げるのにパネル2枚のほうが都合がよかったのではないでしょうか。
これはIPDの調整機能でパネルごと動かすためなのかなと思って聞いてみたのだが,Pruett氏はハードウェア関係に詳しくないとのことで,明確な答えは得られなかった。パネルごと動かすのはちょっと大変そうなので,レンズだけかもしれないと思っていたのだが,Oculus Connect 2ではパネルごと動かす仕組みが紹介されていてちょっと驚いた。なんというか,妥協のない製品作りがされている感じだ。
4Gamer:
ところでCV1では,PCへの要求スペックがかなり高くなっていますよね(関連記事)。
Pruett氏:
はい。我々としては,推奨スペック(GeForce GTX 970 or Radeon R9 290以上など)であれば,かなりよいVR体験ができることを保障しています。それより低いスペックだと,フレームレートがもたなかったり,体験的にちょっと厳しいところが出てくるかもしれません。一応,ミニマムのスペックも規定はしてあります。
ちなみに,CV1のミニマムな必須スペックというのは,グラフィックスでいうとHDMI 1.3以上に対応していることといった感じで,性能に関しては言及されないものとなっている。例えば,私が現在使っている仕事用ノートPC(Panasonic Let's Note CF-LX3:Intel HD Graphics 3000)のような,3D性能はまったく期待できないPCでも動くことになるが,まあ「接続は可能」という以上の意味を期待しないほうがよいのだろう。
4Gamer:
そうなるとやはり推奨スペックはクリアしたいところです。実は,今日来る前にSteamでの8月分のGPUサーベイを見てきたのですが,CV1の推奨に適合するGPUの利用率を見ると,全体の5〜6%くらいでした。CV1はどれくらい出荷が見込まれているのでしょうか。
Pruett氏:
発売されて時間が経つと,グラフィックスカードの値段は綺麗な降下線をたどりますので,CV1の発売時期にはGTX 970クラスのグラフィックスカードも現在より下がっているはずです。発売時点で,あまり高くない価格で確実にVRを実現できますし,その後は,さらに全体の値段が下がっていくはずです。
4Gamer:
CV1では非同期Time Warpが導入されますよね(参考記事1,参考記事2)。それが入ると,多少性能が低いGPUでも大丈夫になったりしませんか?
Pruett氏:
非同期Time Warpはあくまでも保険なんですよ。多少フレームレートが落ちても気づきにくくなるのは確かですし,首振りなどに対する画面の追従性も上がります。ただ,ゲーム内のアニメーションが低いフレームレートだと,感覚的に違和感を覚えます。すでにGear VRに非同期Time Warpが実装されているので分かるのですが,フレームレート自体が落ちるとやはりダメですね。60Hzで動作するGear VRで55fpsのゲームだと非同期Time Warpがあってもあまりよい体験にはなりません。
4Gamer:
簡単にはいきませんか。
ところで,Oculusというと以前はカウチに座ってのデモが印象的だったんですが,Crescent Bay以降のデモでは立ってプレイするものが増えた気がします。座ってプレイするのと立ってプレイするのは,どっちが主流になるんでしょうか。
Pruett氏:
両方に対応したいですね。どちらの対応も問題ありませんので,あとはお客さんと開発者がどんなコンテンツをほしがるか次第です。
4Gamer:
立ってプレイする場合に危険はありませんか? とくに日本では家屋が狭いので気になるのですが。
Pruett氏:
ああ,なるほど。
Oculus Touchのデモで目の前にテーブルが表示されていたと思うのですが,あれは意図的に設置しています。テーブルがあると,なんとなくそこにめり込むような動きはしたくなくなるものなんですよ。これで動きを制限して,ゲーム内容も同じ場所で立ったまま遊べるようにしています。ですから比較的狭い場所でも立ったままプレイすることはできます。ゲームの作り方次第ですね。
4Gamer:
Crescent Bayのデモでは下に厚めのマットが敷いてあることが多いのですが,あれは転倒したときのためのものですか? それとも動ける範囲を示しているのですか?
Pruett氏:
近くに障害物がある場合などに,プレイヤーが動ける範囲が分かるようにああいうマットを敷くことがあります。絶対に必要というものではないです。
Pruett氏:
今回のTGS 2015のデモでなにかお勧めのものはありますか?
Pruett氏:
私はホラーゲームが好きなので,「Edge of Nowhere」に注目していますね。
4Gamer:
なるほど。ところで,PlayStation VRではカプコンさんが「Kitchen」というホラーもののデモを出されていますが,そちらは体験されましたか。
Pruett氏:
そういうのを出されているらしいですが,PSVRにはほとんど触ったことがないんですよ。
4Gamer:
PSVRもそうだったのですが,第3人称視点で移動がほとんどないデモが非常に多いのが気になりました。
Pruett氏:
第1人称視点のそういうゲームは,当然ながら黙っていてもたくさん出てくるでしょうし,我々としては,そういうのとは違ったVRの楽しみ方があるというのを示したかったんですよね。
4Gamer:
3D酔いに対して安全策を取っているわけでもないのでしょうか。
Pruett氏:
3D酔いについては古い端末,DK2あたりから使っている人は結構鍛えられているはずです。ソフトについては,オープンプラットフォームですので,結構とんでもないものも出てきます。
4Gamer:
よく分かります(笑)。片っ端から試すと結構つらいですよね。
Pruett氏:
快適なVRコンテンツを増やすために,まずハードウェア側でレイテンシを低くする必要があります。我々はそこにかなり力を入れてやってきました。
また,ソフトウェア側ではカメラの移動システムなど,細かいゲームプレイの部分までがこの問題に関わってきます。我々がお勧めの方法を示すこともできるんですが,最終的には開発者がいろいろ試して,どれがベストな方法かを決めなければなりません。
4Gamer:
3D酔いの対策については,各社ともだいたい同じ方向で進めていますよね。ほとんどはTime Warpをベースにしていますが。
Pruett氏:
現在のVRというのは,そのときの状況に似ています。Haloのような実験が現時点でたくさん行われていますので,そのうち,お手本になるようなものも出てくるのではないでしょうか。
4Gamer:
フレームレート以外の酔いの原因についてはどうでしょうか。
Pruett氏:
人間の脳というのは非常に複雑で,いろいろな要因で酔いが引き起こされることが分かっています。フレームレートが足りないと酔いやすいというのが最大のものですが,それ以外に例えば,目で見るものと耳で聞く音がずれていると酔いやすくなります。乗り物で本などを読んでいると,(視界や加減速などで)自分が動いている感覚はなくても,耳から入る情報で動きを感じるとそのギャップで酔ってしまうこともあるようです。
ソフト側の対応策もいろいろありますが「ここだけを直せばなくなる」というものではなく,多くの部分が関連してくるものなんです。
4Gamer:
VR対応HMDは何社からか発売される予定ですが,構造的にはどれも似ているように思われます。VRについては標準化を進めている人達もいますが,それについてはどう思われますか。
Pruett氏:
標準化については知りませんでした。我々はクオリティの高い商品を作りたいだけなんです。VRは,まず慣れてもらう部分にいちばん時間がかかりますので,他社からもクオリティの高い製品が出てくるのであれば,それは我々にとってもよいことだと思いますよ。
4Gamer:
現状では,方式の違いがあるとすればトラッキングの違いくらいですよね。
Pruett氏:
はい。そうですね。Gear VRは“ワイヤレス”であるというのがゲームデザインによっては重要になってくるでしょう。
なお,Oculus Storeというオンラインストアでは,RiftとGear VRで同じアカウントが使えます。同じソフトが動くわけではありませんが,プラットフォームとしては統一されています。
4Gamer:
VRゲームの開発で難しいところというのはどこでしょうか。
Pruett氏:
VRではそれまでのゲームと同じシステムが使えるとは限らないんです。とくにロコモーション(キャラクターやカメラの移動)については以前のゲームのゲームプラットフォームのものがまったく使えませんので,さまざまな実験が必要になってきます。ゲームシステムも,従来のゲームのものをそのまま持ってきてもよい結果にはなりません。基本的なところから考え直さなければならないと思います。
4Gamer:
VRゲーム開発での失敗談などはありますか。
Pruett氏:
はい。以前,VR対応でないミステリーゲームの移植を試みたのですが,まず困ったのはUIでした。2Dでメニューを表示できないんですよ。そもそも2D用の画面が存在しません。そこでメニューを5個くらいに分けて立体化して配置してみたのですが……,これが凄く目が疲れるんです。目は奥のほうを見たいのに,手前になにかあるとフォーカスしにくくなるんです。これでそれまでのシステムは捨てて作り直さなければならないと理解しました。そういうのは実際にいろいろやってみないと分かりませんね。
4Gamer:
やはりUI周りは難しそうですね。
Pruett氏:
UIだけではなかったですね。カメラの移動なども苦労しました。VR専用という条件でどうやって面白いコンテンツを作るかという部分がチャレンジングですね。
4Gamer:
一般の人がVRに求めているものはなんだと思いますか。
Pruett氏:
やはりプレゼンス(その場にいるという感覚)じゃないですか。または,VRでないと体験できないようなことでしょうね。
4Gamer:
そういったものを作るうえで気をつけることはありますか。
Pruett氏:
私の経験から言うと,とにかく「面白いものでないと誰もプレイしてくれない」ということです。一般のゲームでも同じことは言えるのですが,VRの場合,環境がよければ「その世界にいる」という感覚が凄いんですね。やることがなくてもしばらくは楽しいんです。しかし長く遊んでもらうためにはそれだけでは足りません。プレゼンスを持った環境を作るのが第一ですが,さらに面白いコンテンツが入ってないと続きません。
4Gamer:
確かに積み木があるだけでも結構楽しめましたが,あれだけでは飽きるでしょうね。
Pruett氏:
そこが最初のステップですね。そこで立ち止まらずに開発者の人には作り込んでいってほしいですね。
4Gamer:
日本のVRコンテンツ開発者に期待するものはありますか。
Pruett氏:
日本は世界中のゲーマーに人気のコンテンツをたくさん作ってきていますので,ぜひVRでもコンテンツを作り込んでほしいです。日本でしか見られない種類のコンテンツもたくさんありますので,そういうのを作った開発者がVRコンテンツを作るとどうなるのか,非常に興味がありますね。そういう人達がいないと日本のVRプレイヤーも寂しいと思いますので,ぜひVRコンテンツ制作に参加してほしいと思います。
4Gamer:
次に,入力デバイス周りについてですが,とりあえずOculus Touchのデモはとてもよかったです(参考記事)。
Pruett氏:
4Gamer:
ボタンやトリガーが並んだあの外見で,ああいう素手感覚の使い方になるとは思わなかったですね。
Pruett氏:
これまでになかった動作じゃないでしょうか。我々もコントローラを作るだけではなくて,VR空間に「自分の手」を作ることが目標でしたから。いろいろと頑張りました。
4Gamer:
私もLeap Motionコントローラを使っていて,最初に手が出てきたときには,「これだ」と思いましたが,認識がうまくいかないこともあったり範囲外になったりで,まだちょっと扱いづらいと不満を持っていました。Oculus Touchであそこまでちゃんと手が出てくるとは思いませんでした。
Pruett氏:
VR空間で手をちゃんと表示してやると,コントローラを持っていることを忘れるんですよね。「ボタンを押して」といった考え方ではなく,「これを持とう」と自分の手でものを掴む感覚で操作できるようになります。
4Gamer:
ただ,あれって放すと危なくないですか?
Pruett氏:
ぜひストラップを付けてください(笑)。
4Gamer:
Oculus Touch用のSDKはもう配布されているんですか。
Pruett氏:
社内には開発中のものがあって一部のデベロッパには出していますが,一般にはまだ公開されていません。近いうちに公開できると思います。
4Gamer:
そのときは,当然,Oculus Touchの開発版も一緒に出てくるんですよね?
Pruett氏:
はい。UnityとUnreal Engineでもサポートされますので,一般の人もOculus Touchを使ったソフトを開発できるようになります。API的には頭のトラッキングとほとんど変わらないんですよ。ただ,手のだいたいの場所を判定するのは簡単なんですが,手の状態を正しくレンダリングするのはちょっと大変かもしれません。実際の手と表示されている手が少しずれていたりすると,脳が「これは自分の手だ」と判定しないんです。ですので,手のポジショニングを完璧にするのに手間取るかもしれません。
4Gamer:
入力デバイスは当面これを中心に展開していくのでしょうか。
Pruett氏:
Xbox Oneのコントローラが付属しますので,ごく普通のコントローラタイプのものにも対応します。
4Gamer:
以前,Palmer Lickeyさんにインタビューしたときには,カメラを使った入力に可能性を感じているようではありましたが(参考記事)。
Pruett氏:
会社にはリサーチグループがありまして,解決したい問題というのをいくつも挙げているんですよ。どうやって解決したらいいのか分からない問題がたくさん並んでいます。いろいろ実験して,いけそうなテクノロジが確立できましたら,次はそれを商品化する手続きに入ります。「手をVR空間内に表示する」というのはずっと以前から実現したかったことなんです。
4Gamer:
それがようやく実現されたわけですか。研究自体はほかにもいろいろ行われていそうですね。
ところで,Gear VRなんですが,対応している端末がSamsungの2機種だけと限定されていますが,Gear VRのようなものをほかのメーカーでやるという話は出ていないのですか?
Pruett氏:
あれは単にAndroid端末を挟んでいるだけではないんです。非同期Time Warpなどもそうですが,Gear VRではSamsungと協力してかなり内部まで踏み込んだ最適化を行っています。ほかではちょっと無理でしょうね。
4Gamer:
ところで,会社がFacebook傘下になったことでなにか変わりましたか?
Pruett氏:
Facebookはとにかく我々を応援してくれていますね。ほぼOculusが動きたい方向に動けている感じです。私はアメリカではFacebookのキャンプで働いていますが,Facebookにある社員向けのサービスなどはすべて使えますし,ぶつかるといったことはまったくないですね。
4Gamer:
将来的には,VRを使ったコミュニケーションサービスなども展開していくのでしょうか。
Pruett氏:
ありそうですね。私は会社の戦略については分かりませんが,そういう展開も十分に考えられます。
4Gamer:
とくに具体的な話があるわけではないようですね。
Pruett氏:
はい。まだなにも発表されていません。
Zuckerberg氏は,歴史の中でキーとなる重要なテクノロジとしてVRを位置づけているようだ。モバイルの登場などに続くようなものとして,今後はVRプラットフォームがいろいろな可能性を持っているのではないかと非常に楽しみにしているという。
(参考)Oculus VR買収を報告するMark Zuckerberg氏の書き込み
4Gamer:
非常に理解のあるところが親会社になったようですね。本日はありがとうございました。
Oculus VR公式サイト
- 関連タイトル:
Rift
- この記事のURL: