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[E3 2013]仮想現実HMD「Oculus Rift」の1080p版を体験してきた。Unreal Engine 4のデモ世界が目の前に広がるのは,もはや感動だ
- タブレット端末向けの7インチ液晶パネルを搭載し,簡単な光学系を組み込んだだけのシンプルな構造とすることで,製造コストを抑え,
- 歪み補正なしのシンプルな光学系により,画角110度(対角)を実現し,歪みに対しては,「表示する映像側の歪みを吸収するように変形するマトリクス」でレンダリングするという逆発想で対応し,
- 1280×720ドット解像度を持った液晶パネルに仕切りを設け,左右に640×800ドット解像度の独立した映像を見せる構造とすることで立体視に対応し,
- 加速度センサーを使った超低遅延なヘッドトラッキングシステムまでも搭載する
といった特徴により,世界中のゲーム開発者から熱い注目を集めている。開発キットの時点で,Epic Gamesの「Unreal Engine」やValveの「Source Engine」,Unity Technologiesの「Unity」と,主要なゲームエンジンの多くが,依然として最終製品版の登場スケジュールが見えていないこのデバイスへの対応をすでに果たしているというのが,何よりの証拠だろう。
……と,ここまでが前振り。E3 2013でOculus VRは,コアパーツである液晶パネルを,従来とほぼ同じサイズに収めつつ,解像度1920×1080ドットのものに変更した,いわばフルHD版とでも呼べるものを,自社ブースで報道陣に披露していた。そして今回4GamerではこのフルHD版を体験することができたので,そのレポートをお届けしたいと思う。
なお以下本稿では,このフルHD版を「1080p版」,開発者キットを「オリジナル版」と書いて区別する。
外観に若干の変更があった一方,装着感は変わらず
そのため,装着時してみると,オリジナル版は液晶パネルを搭載した部分が上唇に被さるような印象だったのが,1080p版では上唇周りのクリアランスがだいぶ広がった印象を受ける。
もっとも,重量感も含め,装着感に大きな違いはない。
これぞ「バーチャル」シアターの「リアル」な形!?
公開されたデモンストレーションは2タイプで,1つは,映画の上映デモだ。
フルHD相当の映像をRiftで見るというものなのだが,ソニーのHMZシリーズのように,「前方の真っ暗な空間に,横長長方形の映像が浮かんでいる」のとはまったく異なるのがOculus VR流。なんと,3Dグラフィックスで,400人は入れそうな,かなり大きな映画館の内部が再現されているのだ。見回すと,前方と左右,後方に,ワインレッドの色をした,座り心地のよさそうな椅子が並んでいる。
後方の上を見上げると,プロジェクタ(=映写機)が設置されている映写室も見える。映像内容に応じて投射レンズから光芒が逆光気味に見えるのも心憎い。
前方に視界を戻すと,正面には巨大なスクリーンが広がっている。
前方下の視野には,前述した前方席群が見えているので,座席の大きさに対してそのスクリーンの巨大さが相対的に把握できる。HMZシリーズの場合,その視覚スペックは「30m先にある,750インチの画面」となっていたものの,視野内に比較できるものがないため,サイズを実感するのはなかなか難しいのだが,1080p版Riftで実現されている“仮想映画館”は,見ている映像の相対的なサイズ感を被験者に伝えてくれる。これは巧いやり方だ。
前述した映写機の光芒もそうだが,表示している映像フレームの平均輝度を算出し,スクリーン位置に光源を配置して,劇場内に動的ライティングを実践しているようだ。この映像で光るスクリーンは,劇場の床も照らしたりするので,臨場感は抜群である。
そういえば,映画館の中はすべて空席だ。
つまり被験者は,「大劇場の中央特等席に一人で座っている」という満足感と贅沢感を,バーチャルに得られるわけである。
もちろんこれは「無人の映画館に一人」という寂寥感ももたらすわけだが,技術的には隣の席にCGキャラクターを座らせることも可能だ。なので,憧れの3Dヒロインと一緒に映画を楽しむ,なんて疑似体験も,今後できるようになるかもしれない(笑)。
と,ここで筆者は1つ気がついてしまった。ワインレッドの椅子は3Dグラフィックスでレンダリングされているので立体に見えるが,正面のスクリーンに映る映画は2Dであるということに,である。
その点について聞いてみると,担当者は「よく気がついたね」と笑う。これは,劇場の中にいる感覚をあえて演出するために,スクリーン中の映像は2D表示としているためなのだという。技術的には,このスクリーンに,立体視対応の映画を表示すれば,立体映像として楽しめるとのことだ。
「バーチャルシアター」という言葉はずいぶん昔からあったが,このデモはまさにそれを“現実化”したものだと感じられた。
UE4のデモの世界にダイブ。間接照明を体感せよ
もう1つのデモは,ゲームチックなデモの新作。見回すと,なんだか見覚えのある世界だが,これは,「Unreal Engine 4」(以下,UE4)のデモとしてEpic Gamesが開発した「Elemental」における,魔神がたたずむ巨大遺跡の中である。
そう,1080p版のゲームチックなデモは,UE4で描かれる名作デモの中を一人称視点で自由に動ける体験なのだ。担当者によれば,これは1080p版のデモのためにEpic Gamesがあえて用意してくれた,特別なビルドとのことだった。
スタート地点は,巨大遺跡の回廊中央あたり。奥には魔神がスレッジハンマーを携えて棒立ちしている。この遺跡は天井がやや崩壊気味で,回廊には雪がうっすらと積もっている。扉の向こうは無限なる雪原が広がり,屋外にある銀世界からの反射光が,まばゆいばかりの逆光となって目に入る。
遺跡の奥方向にいる魔神に恐る恐る近づいていくと,ムービーデモ版Elementalのように魔神はのっそりと起き上がり,スレッジハンマーを担ぎ挙げだす。こちらに気がついて攻撃態勢を取ってくる模様だ。
命中した魔法弾は弾け飛び,UE4で新たに実装されたSparse Voxel Octree(スパースヴォクセルオクトゥリー,SVO)法の間接照明エンジンによって,それまで漆黒だった魔神の座を淡い光で満たしだす。
足元に目をやれば,魔神の座の床にはマグマが流れており,このマグマからの鈍く赤い光は,この部屋の床あたりをSVO法による間接照明で照らしている。UE4のSVO法による間接照明は,ちゃんと鏡面反射のハイライトを醸し出すので,シーン内を動き回ると,岩肌やら石壁の突起部分に淡い異方性なハイライトを確認できる。もちろん,このデモも立体視対応なので,被験者の移動に対応して,間接光によるハイライトもリアルタイムにその表情を変え,結果として妙に生々しい質感を被験者に見せてくる。
静止画のスクリーンショットでは伝わりにくい場合が多いグローバルイルミネーション(大局照明)も,Riftのようなバーチャルリアリティ体験としてみると,妙にリアルに伝わってくる。
まだドット感の払拭はできていないが
オリジナル版と比べればかなり低減されている
正直にいうと,1080p版といっても,片目あたりの解像度は960×1080ドットになるわけで,光学的に横長画素へと引き伸ばされて表示される。そのため,「圧倒的な解像感が体験できる」という感じではない。ただそれでも,オリジナル版の片目あたり640×800ドットと比較すれば,表示映像の“ドット感”はかなり低減されている感じだ。1枚の液晶パネルで2眼分の視界を賄うという基本構造と,視界が対角110度近くに広げられている光学的特性の兼ね合いもあり,ドット感を完全に被験者に感じさせなくするためには,おそらく,より高い解像度の液晶パネルが必要かもしれない。
現在,シャープが6.1インチサイズで2560×1600ドット,500ppi相当の液晶パネルを製造できているので,最終製品版では,そういったパネルが採用される可能性もあるだろう。
なお,今回公開された1080p版Riftは,あくまで技術デモとのこと。オリジナル版同様,これがそのまま製品出荷されるわけではない。また,念のため確認したが,出荷時期や価格はやはり未定だとのことだった。
「アンリアル・エンジン4」公式サイト
4Gamer E3 2013特設ページ
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Rift
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