レビュー
有機EL搭載の720pヘッドマウントディスプレイ第3世代モデル,徹底検証
ソニー HMZ-T3W,HMZ-T3
ソニーが手がけるヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)シリーズ,「HMZ」。その第3世代モデルにあたる「HMZ-T3W」「HMZ-T3」を入手したので,今回はそのレビューをお届けしたいと思う。
2011年秋に発売されて話題を集めた初代機「HMZ-T1」以来の伝統となる,「720p解像度の有機ELパネルを両目用に1枚ずつ搭載し,原理的にクロストークの発生しない立体視に対応する」「約20m先に750インチの仮想スクリーンが見える」仕様はそのままに,上位モデルでのワイヤレス対応や,ゲーム用途を前提とした低遅延モードが追加されるなど,機能面での拡充がなされた第3世代モデルを,ゲーマーはどう捉えるべきだろうか。
3ピース構造で接続性を増したHMZ-T3シリーズ
利便性が増したかどうかでは意見が分かれる
冒頭でも述べたとおり,第3世代HMZとなるHMZ-T3シリーズは,ワイヤレス/ワイヤード両対応の上位モデルとなるHMZ-T3Wと,ワイヤード接続のみの対応となる“無印”版HMZ-T3の2ラインナップ展開となる。
2012年発売の従来製品「HMZ-T2」からの変更点はいくつかあるが,製品構成という観点からすると,HMD本体「ヘッドマウントユニット」と映像処理系のまとまった外付けボックス「プロセッサーユニット」(以下,プロセッサユニット)の2ピース構成から,ヘッドマウントユニット直結の「バッテリーユニット」が追加された3ピース構成になったのが最大の違いだ。HMZ-T2までのヘッドマウントユニットは,ワイヤード接続されるプロセッサユニットからの給電で駆動していたが,
ヘッドマウントユニットと直結され,着脱不可となるバッテリーユニットは,サイズが約80(W)×119(D)×26(H)mm,重量が約160g。型番は「HMZ-T3W-H」「HMZ-T3-H」と微妙に異なるが,基本的にはリチウムイオンバッテリーの容量も含めて同じと述べていいのではないかと思う。
HMZ-T2まではプロセッサユニットの電源がヘッドマウントユニット側と連動していたが,HMZ-T3シリーズではそうなっていないこともあり,電源ボタン(とHDMI入力切り替えボタン)が天板の右手前側に用意されたのも,HMZ-T3シリーズにおける新要素となる。
HMZ-T3WとHMZ-T3の両方で利用できるワイヤード接続の場合は,まず,プロセッサユニット背面のHDMI入力1〜3にゲーム機などの映像ソースを接続し,
一方,HMZ-T3Wのみが対応するワイヤレス接続では,プロセッサユニットとバッテリーユニットをつなぐHDMIケーブルが不要になる。通信距離は,プロセッサユニットを平置きした場合は約5m,付属のスタンドを使って立てた場合だと約7mだ。
バッテリー残量ゼロからフル充電の所要時間はスタンバイ時(≒使っていないとき)に約4.5時間,
実際,HMZ-T3WでもHMZ-T3でも,使用中にバッテリーユニットを耳に当てると,かすかにファンの回るような音が聞こえる――音が気になるとかいうレベルではなく,ごくごく微小なものだが――ので,ファーストインプレッション記事で紹介した新開発の専用LSIは,バッテリーユニット側に搭載されているのではないかと思われる。
なら,プロセッサユニットは何をしているのかと思った読者もいるだろうが,単なるHDMI切り替え機兼無線送信ユニット……ではなく,サウンド処理,具体的にはサラウンド関連と音質の設定はプロセッサユニット側に残っているようだ。6.3mm径のヘッドフォン出力端子を持つこともあって,サウンド関係の処理はプロセッサ側に残っているのだろう。
ちなみにこういった仕様のため,MHL接続時だと,サウンド関係の機能は利用できない。
以上,HMZ-T3シリーズにおける外観上の特徴をまとめてみたが,もちろんHMZ-T3WとHMZ-T3の間には細かな違いがある。先に写真のキャプションで,ヘッドマウントユニットで外側の表面加工が異なるという話をしたが,基本的にはHMZ-T3Wが上位モデル,HMZ-T3が下位モデルという位置づけになっており,付属品も微妙に異なっているのだ。
具体的には下の写真を見てもらえればと思うが,ワイヤレス接続が前提のHMZ-T3WではHDMIケーブルが1本なのに対し,HMZ-T3では出力機器とプロセッサユニット,プロセッサユニットとバッテリーユニットをつなぐための2本が標準で用意される。一方,付属のインイヤーヘッドフォンは,HMZ-T3Wだと実勢価格が8500〜1万円程度(※2014年1月27日現在)の「MDR-XB90」相当品なのに対し,HMZ-T3ではHMZ-T2から引き続き,同6000円前後の「MDR-EX300」相当品となっている。
ヘッドマウントユニットの装着しやすさと
使い勝手はHMZ-T2比で劇的に向上
ここからは,ある意味でHMZシリーズにおける最も重要なポイントといえる,ヘッドマウントユニットの使い勝手と装着感を見ていこう。
HMDでは一般的に,眼の焦点とレンズの焦点がずれると,正しい映像が得られないばかりか,目が疲れて利用にも支障をきたすことがある。そして,HMZ-T2までのHMZシリーズは,レンズの焦点が合うように装着するのがそもそも難しく,一度焦点が合ったとしても,ちょっと頭を動かした程度ですぐにずれてしまう問題があった。
それに対してHMZ-T3シリーズでは,そもそもレンズの位置合わせで苦労することがほとんどない。レンズの幅を調整する機構が左右独立で,数mmステップ間隔になっているという点ではHMZ-T2から基本的に変わっていないのだが,ラフに調整しただけでも,焦点が簡単に合うのだ。これは,従来製品を愛用しているほど驚く変化だろう。
装着感もレンズに負けず劣らずというか,むしろレンズ周り以上に進化している。
- レンズの焦点を合わせやすく,ズレにくくなったため,ヘッドバンドをギチギチに固定する必要がなくなった
- ヘッドパッドが大きくなり,可動範囲も大きくなった
- ヘッドバンドの調整範囲が広がり,クッションが追加された
ことで,もう別モノと述べてもいいほどに装着感が向上しているのだ。
大きくなったヘッドパッド |
こちらは新設のヘッドバンド部クッション |
その点HMZ-T3シリーズでは,レンズユニットの改善により,そもそも頭部を締め付ける必要がなくなった。そのうえ,ヘッドバンドもさらなる大型化を果たしたのだから,HMZ-T2との違いは推して知るべしだ。しかも,ヘッドバンドの調整範囲も広がっており,HMZ-T2は前後に調整できるだけだったのが,HMZ-T3シリーズでは前後だけでなく,(斜め方向の)高さも調整できるようになった。これにより,額に必要以上の圧がかかることを避けられている印象だ。
以上の変更点のおかげもあって,少なくとも筆者は,テストにあたって数時間の連続使用を行っても,額が痛いとか,焦点がズレて再調整が面倒といった思いはしなかった。
先ほど3.として挙げたヘッドバンドは,HMZ-T2がY字で,調整できる範囲も狭かったのが,HMZ-T3では,バンドの上下分岐部分を動かせる作りに変更され,好みの位置で違和感なく固定できるようになった。ヘッドバンドの長さ調整範囲自体も拡張されており,着脱時の自由度がかなり高まっている。
メガネ装着者がHMDを使うにあたっては,メガネの焦点とレンズの焦点を合わせることが必須なのだが,焦点合わせが極めてシビアなHMZ-T2だと,「一度設定したら身動きすらできない」という感じだった。それに対し,HMZ-T3シリーズは,それと比べるとクリティカルさの度合いが圧倒的に下がっているのだ。
もちろん,裸眼やコンタクトレンズ使用時と比べるとどうしても焦点合わせの難度は高くなるのだが,柔軟さを増したヘッドバンドのおかげで,「ヘッドバンドをゆるめた状態でかぶって締めてから調節する」のが,メガネ装着者でも行いやすくなっている。筆者のような,メガネを常時着用している人からすると,HMZ-T3は,HMZシリーズで初めて「使える」ようになったHMDだとさえ言えるかもしれない。
レンズユニットの刷新による影響はほぼない
黒の表現調整機能はかなり有効
前置きが大変長くなったが,ここからはHMZ-T3シリーズのテストに入っていきたい。まずは画質周りからだ。
しかし,結論から先に述べると,HMZ-T3シリーズとHMZ-T2を順番に装着しながら映像で確認しても,レンズユニットの違いによる画質の違いは感じられなかった。ヘッドマウントユニットを頭から取り外し,少し斜めからレンズユニットを見たときに確認できる「虹色」の出方が多少変わっており,HMZ-T3シリーズのほうが,なんというか「虹色が強く出る」傾向にある。その意味では違いがあるものの,実用上,目に見えて画質が低下して感じられるとか,そういった心配は無用と断言していいのではなかろうか。
もう1つ,画質を左右する新要素となるのが,ソニーの最上位Blu-rayレコーダー「BDZ-EX3000」で搭載される映像エンジン「CREAS Pro」の回路とノウハウを継承したという「エンハンスエンジン」の採用である。このエンジンを採用したことにより,1280×720ドット解像度のパネルを採用しつつ,1920×1080ドットに迫る解像感を得られるというのがソニーの主張だ。
というわけでHMZ-T3シリーズとHMZ-T2を見比べてみたのだが,正直に言えば「よく分からない」。比較にあたっては着脱を挟むため,記憶を頼りに比較しなければならないので,比較するのは非常に難しいのだが,少なくとも,いくつかの映像やゲーム画面で見比べた限り,「ここがこうよくなった」「悪くなった」と断言するのは難しいというのが筆者の見解である。
前段でも述べたとおり,映像エンジンLSIはバッテリーユニット側に搭載されている可能性が高い。新開発のLSIによって,バッテリーユニット側に搭載できるほど小型化,低発熱化できたことのほうが,HMZ-T3シリーズにとっては重要なのではなかろうか。
続いて機能面では,冒頭でも紹介したとおり,ゲーム用の画質設定が拡充されたというのがHMZ-T3シリーズにおけるトピックとなる。
HMZ-T3シリーズでは,OSDの「画質・映像設定」メニューに用意された設定項目「画質モード」から,プリセットされた画質設定を選択可能だ。HMZでは初代機から画質モードに「ゲーム」が用意されていたが,HMZ-T3シリーズには「ゲーム1」「ゲーム2」「ゲーム3」「ゲーム4」と,一気に選択肢の数が増えている。
この4つのモードで何が違うかだが,「ゲーム1」が最も弱く,「ゲーム4」が最も強く,それぞれ,暗部の視認性を引き上げる方向の設定が行われる。実際どの程度の違いがあるのかを確認すべく,今回はあえて,無理を承知でPC版「バトルフィールド 4」の1シーンを使って,HMZ-T3のレンズに映る映像を撮影してみた。その結果が下の4枚だ。ピントが非常に合わせづらいため,ボケているのは勘弁してもらえればと思うが,暗部の“持ち上がり方”に違いがあるのは分かると思う。とくに「ゲーム4」はかなり極端で,画面が白っぽくなるレベルにまで持ち上げているのが分かる。
画質モード「ゲーム1」 |
画質モード「ゲーム2」 |
画質モード「ゲーム3」 |
画質モード「ゲーム4」 |
ちなみに,4つのプリセットは,「画質モード」の詳細設定を組み合わせたものになっており,黒の沈み方を調整する「クリアブラック」,太い輪郭などに対する中域と細部に帯する高域とで2種類用意された「シャープネス」,俗にいうコントラスト設定を行う「ピクチャー」,黒浮きや白沈みを押さえるべくコントラストを自動的に補正する「コントラストリマスター」などを組み合わせたものになっている。なので,プリセットをベースとして,ユーザーがさらに設定を追い込んでいくことも可能だ(※プリセットを標準状態に戻す機能も用意されている)。
たとえば,暗部視認性をクリアブラック設定でさらに調節するといったことが行える。クリアブラックは暗部の輝度を画質が破綻しないよう引き上げる機能で−3〜+3の7段階設定が行えるため,設定を詰めたい場合には試してみるといいだろう。
なお,画質モードには1〜4の「ゲーム」以外に,スポーツなどメリハリの効いた映像に適しているとされる「ダイナミック」,映画向きの「シネマ」,ユーザーが画質をカスタマイズできる「カスタム1」「カスタム2」,それと標準的な画質に調節された「スタンダード」というモードもある。ゲームのプリセットを残しつつ,「カスタム1」や「カスタム2」の設定に自分なりのゲーム向きの設定を追加するのも手だろう。
もう1つ,OSDメニューに「スクリーン」という設定が追加されている点にも触れておきたい。これは平面視表示時のみに利用できる機能で,簡単にいうと,映画館のように,スクリーンがカーブして見えるようにするかどうかを設定できる項目だ。設定「ノーマル」だと従来どおりの長方形画面となるのに対し,「シアター1」だと映画館風に画面の両サイドが縦方向へ少し広がる。そして「シアター2」だとシネスコサイズ向きに画面の両端が縦方向へさらに広がる感じとなる。
説明だけで映画用というのは分かってもらえると思うが,ゲームだとどう見えるだろうか。ここではPC版のBF4だけでなく,PlayStation 3(以下,PS3)版の「The Last of Us」でも試したが,いずれのタイトルにおいても,「シアター1」「シアター2」設定では,開けたシーンで臨場感が増す印象を受けた。両サイドの映像が広がって,包まれている感が増すからだろう。
ただ,室内のシーンだと,画面両サイドの映像の歪みが少し目立つようになるため,あまり向いていないようにも感じられた。いずれにせよ好みの問題という気はするので,興味があれば試してみるのがいいだろう。なお,念のため付け加えておくと,2D表示のゲームは画面が歪むので,あまりオススメできない。
サウンドは機能面が向上したが
ゲームにおけるメリットは?
サウンド関連では,DTS-HD Master Audioと7.1chリニアPCMの新規対応がウリで,PS3で確認したところ,DTS-HD Master Audioの対応を確認できた。7.1chリニアPCMはPS3側がサポートしていないようだったが,いずれにせよゲームで採用されるようなフォーマットではないので,あまり気にする必要はないだろう。ビデオを見るときに,選べるなら選んでおく,くらいの認識でいい。
HMZ-T3シリーズでは,バーチャルサラウンド出力が従来の5.1ch対応から7.1ch対応へグレードアップしたとされているが,これも正直,ゲームをプレイする限りはよく分からなかった。批評的にチェックすれば分かるのかもしれないが,少なくとも,一聴して分かるような違いはないと述べていいのではないかと思う。
なお,余談気味に続けておくと,HMZ-T3シリーズでは,装着するヘッドフォンがインイヤー型がオーバーイヤー型かでバーチャルサラウンド設定を切り替える機能「ヘッドホンタイプ」が用意されている。そこで,設定を切り替えたうえで,筆者私物のソニー製オーバーヘッド型ヘッドフォン「MDR-7506」を試してみたところ,サラウンド感があまり得られず,少し驚いた。「バーチャルサラウンド出力はヘッドフォンを選ぶ」というのはよく聞くが,本当のようである。
表示遅延はHMZ-T2比で大幅に改善
ワイヤレス接続でも低遅延に
ワイヤレスにも対応するHMDとしての基本機能と性能を見てきたが,ここからは,HMZ-T3シリーズの大きな特徴でもある,「60Hz表示で,平面視か立体視かを問わず1フレーム(約16.67ms)」とされる遅延をチェックしていこう。HMZ-T2は4Gamerのテストで2フレーム以内,言ってしまえば一般的な液晶テレビのHDMI入力並みの表示遅延だったわけだが,HMZ-T3で本当に低遅延は実現されているのか。「LCD Delay Checker」(Version 1.4)を使って調べてみることにした。
比較対象として用意したのは,4Gamerのディスプレイレビューにおけるリファレンス機となっているBenQ製の24インチワイドモデル「XL2410T」。ビデオ出力用のPCからDVIでGefen製のDVIスプリッタ「1:2 DVI DL Splitter」(型番:EXT-DVI-142DL)と接続して2系統に分け,片方をDVI−HDMI変換ケーブル経由でHMZ-T3シリーズと,もう片方はXL2410TとDVIでそれぞれつなぐ。その状態でLCD Delay Checkerを実行し,ニコン製デジタルカメラ「D80」を使って,2つの画面表示が映り込むように撮影するというのがテストの流れだ。
XL2410Tでは,「FPS」モードを選択のうえ,いわゆるパススルーモードにあたる「Instant Mode」,さらにオーバードライブ機能に相当する「AMA」も有効という,最も低い表示遅延が期待できる設定にしてある。
まずは,ワイヤード接続となるHMZ-T3の結果から見ていこう。HMZ-T1の画質モードは「ゲーム1」,解像度は1920×1080ドット,垂直リフレッシュレートは60Hzで設定したときの結果が下の写真だ。
HMZ-T3のレンズを覗き込みつつ,奥に置いたXL2410Tの画面も撮るという“無理な”撮影を行っているため,やや見づらいが,テスト結果は「最良のケースだとほぼ遅延なし,ワーストケースだと約22ms」というものになった。遅延には揺らぎがあるので,最小は遅延ゼロ,ワーストケースでは1.5フレーム程度の遅延があると理解しておけばいいだろう。ゲーマー向けを謳うディスプレイでも1フレーム程度の遅延が見られることは珍しくないので,良好な結果と述べていい。
今回は「ゲーム2」「ゲーム3」「ゲーム4」でも撮影を行ったが,暗部の視認性以外に違いはないようで,遅延傾向はまったく変わらなかった。
ゲーム以外の画質モードでは「スタンダード」も試した。下に結果を示しておくが,ワーストケースは21msだ。前述のとおり,遅延には若干のゆらぎがあるので,「たまたまそうなった」という可能性はあるが,「スタンダード」とゲーム向けのモードの遅延に大きな違いはないようである。
ところで,HMZ-T1では「コントラストリマスター」という機能の利用で遅延が増える傾向が見られていた。この問題はHMZ-T2で改善されていたが,HMZ-T3では映像エンジンが変わっているということもあり,念のため調べておこう。
なお,コントラストリマスターはコントラストを自動的に調節してくれる機能で,選択肢は「オフ」「弱」「中」「強」の4つ。標準は「オフ」だ。今回は,画質モードを「ゲーム1」,コントラストリマスターを「強」にした状態でテストを行ったが,その結果は下に示したとおり。ワーストケースで1.5フレームほど(22ms)なので,影響はないと述べていいだろう。
ここまで解像度1920×1080ドット入力のテスト結果を示してきたが,今回は,
続いてはHMZ-T3Wだ。まず,ワイヤード接続時の傾向だが,これはHMZ-T3と変わらない。ワイヤード接続時のHMZ-T3WはHMZ-T3とほとんど同じ製品なので,この結果は当然だ。
念のため,画質モードを「ゲーム1」に設定したうえで,HMZ-T3Wをワイヤード接続したときの結果を下に示しておきたい。
では,ワイヤレス接続時はどうか。まずは画質モード「ゲーム1」で1920×1080ドット設定したときの結果からだが,ワーストケースでは21msの遅延が見られた。前述のとおり,ワイヤード接続時はベストケースでXL2410Tとほぼ同じフレームが表示されている例が確認されたが,ワイヤレス接続時は10〜21msの遅延がコンスタントに見られるという違いもある。
とはいえ,ワーストケースでも1.5フレーム以内には収まっているわけで,ワイヤレス接続時でもワイヤード接続時と遅延状況に違いがないとは述べていいだろう。
1920×1080ドット設定でHMZ-T3W側のテスト条件を変えながら撮影した結果も掲載しておくが,ベストケースで10ms台,ワーストケースで約1.5フレームという点は画質モード「ゲーム1」のときと変わっていない。ワイヤレス接続時でも,遅延状況に違いは出ないと述べてよさそうだ。
本稿の序盤でも指摘したように,HMZ-T3シリーズで,映像関係のプロセッサは,バッテリーユニット側に内蔵されていると考えられる。映像のスケール変換もバッテリーユニット側で行われているはずだ。
したがって,HMZ-T3Wにおいては,情報量が多いフルHD解像度の映像がそのままワイヤレスで送信されていると考えるのが妥当で,ワイヤレス接続では遅延が大きくなっても不思議ではない。にも関わらず,ワイヤレス接続時の遅延が高速な液晶ディスプレイと比べて1.5フレーム未満に収まっているというのだから,かなり衝撃的な結果と言えるだろう。
なお,情報量が減る1280×720ドット入力時なら,表示遅延は短くなることはあっても長くなることはないと想像できるが,事実そのとおりで,1920×1080ドット時と比べても大きな違いはない結果となった。あまりにも変化がないので,ここでは画質モード「ゲーム1」で撮影したものだけ掲載しておきたい。
HMZ-T3Wのワイヤレス接続とバッテリー運用は
意外に(?)実用性が高い
最後に,HMZ-T3Wのワイヤレス接続と,それに関連したバッテリー周りのテスト結果をまとめておこう。
HMZ-T3Wのワイヤレス接続は,「WirelessHD Consortium」(ワイヤレスHDコンソーシアム)という業界団体が策定した「WirelessHD 1.1」規格に準拠したものとなっている。WirelessHD 1.1は,60GHz帯(※HMZ-T3Wでは59.40
ただ,ヘッドマウントユニットとバッテリーユニットを持って部屋の外に出ると,とたんにまったく受信できなくなる。木製のドア1枚隔てた状態でこれなので,壁のようなものに遮られるとアウト,という理解でいいだろう。
なお,挙動はオンかオフという感じで,「電波が弱くて映像が乱れる」という,中途半端な状況は経験しなかった。
さて,バッテリーユニットを身につけた状態であれば,ヘッドマウントユニットを装着した状態で,ユーザーは室内を自由に動き回れるわけだが,当然のことながら,ヘッドマウントユニットを装着した状態だと周囲の視界が著しく悪化する(※ライトシールドを装着した場合はほぼゼロ)なので,現実にはうろうろするわけにはいかない。
「ならば無駄ではないか」と思うかもしれないが,実はそうでもない。HMZ-T2までのシビアな装着感から脱却したHMZ-T3Wは,ケーブルを引っかけたりしてヘッドマウントユニットがずれてしまう心配なしに頭部や身体を動かせるようになるのだ。これがもたらす精神的な余裕は存外大きいのである。
もう1つ,いい意味で裏切られたのが,バッテリー駆動時間だ。プロセッサユニットとバッテリーユニット間の距離を2mほどとし,電波状況が極めて良好な状況を作ったとき,バッテリー駆動時間は公称値の1.5倍となる4.5時間利用できた。ワイヤード接続時も,HMZ-T3WとHMZ-T3は使用開始後8時間を超えても映像出力が行えていた(※バッテリーインジケータは残量0を示していたので,それ以上はテストしていない)。Xperia Aを用いたMHL出力時も3時間30分と,若干ながら公称値よりも長時間動作したことになる。基本的には公称値以上のバッテリー駆動時間を期待できると述べてよさそうだ。
使い勝手と表示遅延の大幅な改善が魅力
「いかにも過渡期」な仕様に納得できるなら買い
また,なんといっても素晴らしいのはヘッドマウントユニットの装着性だ。まだ「重さ」というハードルはクリアできていないので,これが完成形とまでは言わないが,HMZ-T2とはまったく異なる。「装着するごとに焦点を調整して,頭をぎゅっと固定する」作業から解放されたのは,従来製品のユーザーなら感動モノ。また,筆者のようなメガネ利用者からすると,ついに登場した「マトモに使えるHMZ」であり,この点も強調しておきたい。
理想を言うなら,HMZ-T3Wのバッテリーユニットは,ヘッドマウントユニット側に集約されているべきだろう。ヘッドマウントユニットとケーブルで直結されたバッテリーユニットが存在することで,ケーブルからの完全な解放は実現できていない。ワイヤレス接続が前提となるはずのHMZ-T3Wで,プロセッサ側にヘッドフォン出力を備える仕様もちぐはぐだ。また,ワイヤード接続でもバッテリーユニットの利用が必須というのは,「HMZ-T3Wのアイデアが先にあって,それをベースに低価格したのだろう」というのはよく分かるが,それでも,「理にかなった仕様」とは到底言えない。
もちろん,ヘッドマウントユニットにバッテリーを内蔵してしまえば,ただでさえ軽くはないヘッドマウントディスプレイがさらに重くなってしまう。ヘッドバンド部に取り付けるとしても,重量バランスの再考は必要と思われ,一筋縄ではいかないはずだ。その意味では将来に期待といったところだが,それだけに,ワイヤレス対応は時期尚早だったのではないか,という気もする。
その意味でHMZ-T3シリーズは,HMZ-T2までの集大成的な存在であると同時に,次世代モデルに向けたα版,もしくはβ版的な要素も詰め込まれた製品であると言えるだろう。いかにも過渡期モデルといった部分は確かに存在し,また,完成度のそれほど高くない新要素によって実勢価格が上がってしまっているのも残念だが,歴代のHMZで最も万人向けであり,最もゲーマー向けのモデルであるのも確かだ。こなれていない部分に納得できるなら,買う価値のあるHMDだとまとめておきたいと思う。
ソニーストアのHMZ-T3シリーズ販売ページ
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