テストレポート
ソニーの有機ELパネル採用ヘッドマウントディスプレイ最新作「HMZ-T3」発表。第3世代モデルで何が変わったのか,さっそく触って確かめてみた
720p解像度の有機ELパネルを両目用に1枚ずつ搭載し,原理的にクロストークの発生しない立体視に対応する点や,約20m先に750インチサイズの仮想画面が見える設計になっている点はシリーズ従来製品を踏襲しつつ,シリーズで初めて2ラインナップとなり,上位モデルとなるHMZ-T3Wでは「Wireless HD」準拠のワイヤレスHDMI接続に対応したのが特徴だ。また,ゲーム用途で懸案だった遅延にメスが入り,装着時のボケやズレた感じの軽減を実現し,装着感自体も向上したとされるのも大きな見どころとなる。
価格はHMZ-T3Wが約10万円前後,HMZ-T3が約8万円前後。11月中旬発売予定で,予約受け付けは後日開始となる予定だ。
本体デザインとレンズの変更,装着感の改善に低遅延化。フルモデルチェンジに近い進化を果たした第3世代
4Gamerでこれまで指摘してきたとおり,従来製品「HMZ-T1」と「HMZ-T2」では数フレームの表示遅延が存在し,それがシビアなアクションゲームではときとして致命的な問題となっていたが,この新開発LSIにより,60Hz表示時の遅延は,平面視時,立体視時を問わず,1フレーム(16.6ms)まで低減できたとのことだ。さらに,ソニーの最上位Blu-rayレコーダー「BDZ-EX3000」で搭載される映像エンジン「CREAS Pro」の回路とノウハウを継承したという「エンハンスエンジン」により,1280×720ドットのパネルを採用しつつ,フルHDの1920×1080ドットに迫る解像感を獲得できているという。
アンダースキャン機能のイメージ |
スクリーンモードのイメージ |
従来製品だと,せっかくはっきりと見えるように本体の位置を調整しても,装着し続けているうちに少しでも本体が動いてしまうと,すぐに絵がズレてしまうという問題があった。そのために本体をキツめに装着して,結果,ヘッドパッドが額が押しつけられるような思いをした人は多いのではないかと思うが,HMZ-T3シリーズは,広視野角レンズユニットの採用によってスイートスポットが広がり,そこまでシビアな調整を行わなくてもよくなっているとされる。
さらに,レンズユニット自体の重量も20%以上もの軽量化を実現できているとのことである。
バッテリーは5.5時間の充電で3時間の動作という仕様なので,HMZ-T3Wを装着してゲームをプレイするわけにはいかない。見栄えもよろしくなく,バッテリー駆動時間も短いのに,それでもワイヤレス化してきたあたり,HMZにワイヤレス化を望む声は大きかったということなのだと思われる。
なお,これらの仕様を実現するにあたって,ワイヤレスとワイヤードの両接続に対応するHMZ-T3Wだけでなく,ワイヤード接続のみとなるHMZ-T3でも,バッテリーユニットは本体からぶら下がる格好となる。
ワイヤード接続時,バッテリーは5.5時間の充電で7時間動作。ワイヤードモデルとなるHMZ-T3であっても,利用にはバッテリーユニットの充電が必要なので,この点は要注意だ。
というわけで実際に使ってみる。装着性が非常に高い
まずは,装着。
本体重量は320gで,HMZ-T2よりも10g軽くなっているとのことだが,さすがに10g程度の違いだと,手に取ったところで,別段軽くなったという印象はない。HMZ-T2では軽くなったことが最大のトピックだったので,ここは「世代を重ねても重量が重くならなかった」と見るべきなのだろう。
これはHMZ-T1やHMZ-T2を使ったことある人でないと分からないかもしれないが,従来製品では,レンズのフォーカスがきっちり合うように装着するのは結構難しく,既述のとおり,一度合わせても,ちょっと本体が動いただけでフォーカスがズレてしまう問題点があった。ソニーによると,従来製品では画質最優先で,かなり高級なレンズを使っていたとのことなのだが,フォーカス特性はかなりピーキーで,装着時にはちょっと苦労させられたものだったのだ。
それに対して今回は,レンズそのものの精度ランクは少し落ちるものの,幅広い範囲でフォーカスが合い,かつ軽いレンズセットが採用されているのだという。
フロントヘビーなのは従来どおりだが,締め付けなくてよくなったため,装着感はぐっとよくなった |
本体正面から見ると,ヘッドバンド部の大きさがよく分かる |
ヘッドパッドが大きくなったことの恩恵というのも,従来製品をヘビーに使っていた人でないと理解しにくいかもしれない。
HMZは第1世代モデルから一貫して,本体を額で支える仕様だったのだが,レンズのフォーカスが合った状態で固定しようとすると,ヘッドバンドをかなりキツくしめる必要があり,その場合,装着開始後数十分から1時間くらいで,額にかなりの痛みが出てくるのである。
今回の試用では,もちろんそこまで長時間のテストは行えていないので,実地での検証は別途必要だが,短時間試した限り,HMZ-T1ユーザーであるaueki,
また,ヘッドバンド部にクッションが用意されたのも,装着感の向上に寄与している印象を受けた。
HMZ-T3のライトシールドは,目の下から側面までを広く覆ってくれる |
ライトシールドは本体側の穴に差し込んで固定する仕様。取り付けやすさはあまり感じないが,取り付けた後の安定性は上がったように思う |
その大きな理由となるのが,HMZ-T3では,外光を遮断するための付属品「ライトシールド」の完成度がかなり上がっており,簡単に着脱できるようになっているうえに,遮光性も向上していることだ。「それがなんでワイヤレスと関係があるの?」と思うかもしれないが,ここで重要なのは,ライトシールドに十分な効果があり,ライトシールド装着時には周囲がまったく見えなくなる点である。
HMZ-T2までは「それほど効果がないから付けるのはやめておこう」ということで,ライトシールドを装着しないケースも多く,その場合は目を下に向ければ手元のキーボードやゲームパッドなどを見ることもできた。それに対し,HMZ-T3のライトシールドにはしっかりした遮光性があり,没入感の向上に大きな効果が出る。取り付けないのはちょっともったいない感じなのだ。
ワイヤレス化によって,どういう利用形態を提案できるのか,ソニーの出すメッセージに期待したい。
画質の改善とゲームモードもチェックする
短時間の試用となる今回,そこまで厳密なチェックはできていないが,少なくとも,ゲームの映像を見た限り,「レンズのグレードが落ちた」ことを確認できるような瑕疵は見当たらなかった。これまた前段で触れたように,ただただ扱いやすくなった感動のほうが大きい。
ちなみに今回の試用では,ソニーの開発チームによる説明を受けながら,画質部分ではなく,ゲームモードの新要素であるクリアブラック調整,つまりは暗部の視認性改善機能を主にチェックすることになったのだが,暗いシーンの明るさを“持ち上げる”ことが,ボタン操作だけで簡単に行えるようになったのは,確かに便利だと感じた。
液晶ディスプレイを前提とした絵作りのなされたゲームを自発光デバイスである有機ELパネルで表示させると,バックライトがない分,本当に暗いのだ。ゲーム開発者の意図を超えて暗くなっている可能性は否定できないため,暗部の視認性が勝敗を左右するようなタイトルでは,クリアブラック調整を積極的に試したほうがプレイしやすくなるだろう。
もちろん3段階のプリセットは自分で設定することも可能。単にガンマを持ち上げるだけではなく,輝度の中域と高域を別に制御したり,それぞれシャープネスを加減したりと,細かな設定が行えるようになっていた。
ここで重要なのは,クリアブラック調整において,明るさとシャープネスの設定が併用されていること。そのため,画面が暗いままでも,シャープネスを強めにして,多少リンギング気味にオブジェクトのエッジが見えていると,それだけで状況把握が格段にしやすくなったりする。
このあたりは,ゲームの画調との相性や個人の好みによるところが大きいと思われるので,プリセットのもので納得がいかなかったら,各自で調整してみるのがよさそうな気配だ。
レンズ位置合わせと装着感の改善で
「普通の人」にも勧められそうな感じに
以上,問題点の改善を確実に果たし,とくにレンズの位置合わせ回りと装着感の改善によって,第3世代モデルの登場で,HMZはようやく“普通の人”にも勧められそうなデバイスになってきたという印象だ。
たとえば,ここまで説明していない進化ポイントとして,「目幅の調整が1段階増えた」というものがあるのだが,レンズの改善で,このあたりの調整はほとんど不要になっている。また,HMZ-T3Wでワイヤレス対応を果たしたのはいいとして,ワイヤード接続でないと機能しないHMZ-T3であってもバッテリーユニットが必要で,いちいち充電しなければならないというのも,やはりどうかと思われる。
以上,全体としては完成形にかなり近づいた気配だが,それだけに,「HMZ-T3Wがワイヤレスであることのメリット」が示されておらず,なんとも中途半端であり,ワイヤレス(とバッテリー)周りは今後の課題として残ったというのが,短時間触れた時点での感想となる。
妄想を膨らませておくと,別途HMT-T3Wに位置と角度を認識できる“角”を付けて,PlayStation 4のカメラと組み合わせたりすれば,部屋を丸ごとVR空間にできてワクワクするような展開も期待できるのだが,どんなものだろうか。
ソニーのHMZ製品情報ページ
- 関連タイトル:
HMZ
- この記事のURL:
Copyright 2012 Sony Corporation, Sony Marketing (Japan) Inc.