インタビュー
八代亜紀さん,「rain」に主題歌を提供するとしたら,どんな歌がいいと思いますか?
雨の降る夜の町で迷子になった,“姿を失ってしまった少年”が,雨の中で“透明な少女”を見つけるところから物語は始まる。プレイヤーは少年を操作し,少女の後を追うのだが,途中にはなぜか怪物が待ち受けていたりもする。
少年も少女も怪物も,雨に打たれているときには輪郭だけ浮かび上がるが,軒下などに隠れれば,その姿は完全に消えてしまう。こうした特性を生かして怪物から身を隠したり,ときにはそこにある物体をうまく利用して怪物を倒したりしながら進んでいくことになる。
ピアノが奏でる静かな旋律と鳴り止まない雨音,そして雨で濡れた夜の町のビジュアルが,独特の静けさを生みだしているのも,大きな特徴である。
そんな本作を,国民的歌手の八代亜紀さんがプレイし,その感想をディレクター 池田佑基氏に直接伝えるという,奇跡としか言いようがない瞬間に立ち会うことができた。何でもこれは,本作でディレクションを務めた池田氏の,たっての希望で実現したものだという。
ともあれ本稿では,その模様と,rainに実際に振れてみた八代さんの感想を,まとめて紹介していこう。
八代亜紀さん 1971年デビュー。熊本県八代氏出身。1973年に出世作「なみだ恋」をリリース。「愛の終着駅」「もう一度逢いたい」「舟唄」など,数多くのヒット曲を持つ。「雨の慕情」では1980年に第22回日本レコード大賞・大賞を受賞。また,絵画ではフランスの「ル・サロン」で5年連続の入賞を果たすなど,マルチに活躍している 八代亜紀オフィシャルホームページ | 池田佑基氏 「rain」ディレクター。特殊造形物の設計,製作を行う会社で,製作およびディレクション業務に携わったのち,ソニー・コンピュータエンタテインメントが開催したゲームクリエイター発掘オーディション,「ゲームやろうぜ!2006」をきっかけに,ゲーム業界入り。文化庁メディア芸術プラザのエンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選ばれたPSP専用ソフト「100万トンのバラバラ」でも,ディレクターを務めていた |
「rain」公式サイト
でんぱ組.incの古川未鈴さん,
「rain」をクリアしてみて,実際のところどうでした?
「rain」みたいなちょっと風変わりなゲイム,何を思って作ったの?
池田佑基ディレクターに,男色ディーノが聞く
“雨”が大好きな八代亜紀さん
「rain」には“ゾクワク”するものを感じる
4Gamer:
今日はよろしくお願いいたします。
今回,池田さんからrainを八代さんに触れてみてほしいとリクエストされたそうですね。
八代亜紀さん(以下,八代さん):
あら,そうなんですか?
池田佑基氏(以下,池田氏):
そうなんです。やはり“雨”といえば八代さん以外に思い浮かばなくて,ずっとお目にかかりたかったんですよ。
八代さん:
rainだからですね。ありがとうございます(笑)。
4Gamer:
ちなみに八代さんは,“雨”と聞いたら,真っ先にどんなイメージを抱きますか?
八代さん:
私,雨って大好きなんです。
子供の頃,父の仕事の都合で引っ越しをしたことがあったんですよ。転校はしなかったんですけど,家の近所にはしばらく友達ができなくてね。
4Gamer:
ああ……。
八代さん:
だから私は部屋にこもって絵を描いていることが多かったんです。あるとき,川の水かさも増すぐらいの雨が降っていて,窓の外では紫陽花がとても生き生きしていたんですね。そういう環境の中で,私は絵を描きながら「これだけ雨が降っていると,近所の子達も外に出られないな,みんな一緒だな」って思ったんです。
4Gamer:
幼い頃の八代さんにとって,雨は寂しさを和らげてくれる存在だったんですね。
ところで池田さんは,なぜこのゲームで雨というモチーフを使ったんでしょうか?
池田氏:
雨って,日本に住んでいれば誰もが体験したことのあるものですよね。雪だと降らない地域もありますが,そうではなくて,みんなに共通している体験を描きたかったんです。
主人公の少年を10歳に設定したのも,このゲームを遊ぶ人は,みんな10歳を経験したことがあるだろう,という理由で。
4Gamer:
共通した体験のうえで遊んでほしいという狙いですね。
となると気になるのは,ゲームで遊んだことはないという八代さんが,rainに対してどんな印象を持つかという部分です。
八代さんは,このゲームの画面を見て,どんなことを感じましたか?
八代さん:
絵が凄く綺麗ですね。
なんだか見ているだけで,ゾクワクします。
池田氏:
ゾクワク……?
八代さん:
そう。ちょっと怖そうな雰囲気にゾクっときて,次第にワクワクしてくるから,“ゾクワク”なんです。
池田氏:
ありがとうございます。素晴らしいキャッチコピーをいただきました!
4Gamer:
では実際に,少し遊んでいただきましょうか。
八代さん:
私,こうやってゲームで遊ぶの初めてなんですけど,うまくできるかしら? なんか操作するってことが,まず難しく感じちゃうんですよ。
池田氏:
大丈夫ですよ,そんなに難しくないですから。
八代さん:
面白い!
怪物が現れるとコントローラがぶるぶるって震えるのも凄いわねぇ。
4Gamer:
初めてコントローラを握ると,アナログスティックを倒すとキャラクターが歩くといった感覚にも戸惑うのではないかと思ったんですが……。
八代さん:
やっているうちにだんだん分かるようになりましたよ。ふふふ。
池田氏:
けっこうできてましたね。素晴らしいです。
八代さん:
少年がしゃべるんじゃなくて,画面に気持ちが文字で出てくるのがいいですね。
池田氏:
ありがとうございます。
少年に直接しゃべらせないことで,もどかしさを表現したかったんですよ。
4Gamer:
もどかしくて,ちょっと切なくなるんですよねぇ。
八代さん:
姿が透明で見えないっていうのも不思議ですよね。こんなの現実ではありませんし。
池田氏:
八代さんが透明になったら,何をしてみたいですか?
八代さん:
えっ,私が? うーん,何をしようかなぁ。
透明になったら……,きっとほかの人の心をいっぱい見られますよね。
4Gamer:
こっそりほかの人を観察したり?
八代さん:
そう。すっごくいい人だと思っていても,透明になって観察してみたら,以後はそれなりの付き合いにしなきゃいけなくなるかも(笑)。
八代さんが好きな色はウルトラマリンブルー
それに近いものを「rain」から感じる
八代さん:
ゲームのこういう絵って,どうやって描いているんですか?
池田氏:
細かく説明すると難しいんですが,三次元のCGでミニチュアみたいなものを作るイメージです。画面からは見えない裏側は作っていないんですけど。
八代さん:
なるほど……。映画のセットみたいで面白いですねぇ。
私は写実画を描くんですけど,光と影を立体的に表現しなければいけないんですよね。だからこういう映像の仕組みを見るのも好きなんです。
池田氏:
rainは夜の町が舞台ですが,八代さんは夜の絵なども描かれますか?
八代さん:
ええ。私の中では子供の頃から,ウルトラマリンブルーという色が夜の色なんです。夜中の3〜4時の空の色なんですけど,ピーターパンが泣いている子供達のところへやって来るときって,きっと空はこんな色なんだろうなと思っているんです。
それで,ウルトラマリンブルーを使った絵も描いてきたんですけど,それに近いものをこのゲームの画面を最初に見たときに感じたんです。だから,ゾクワク(笑)。
4Gamer:
おお,そういう背景があったんですね。
八代さん:
このゲームもきっと,夢のような世界を表現しているんですよね。私も夢の世界や物語を作るのが子供の頃から好きなので,ちょっと共通点があるような気がしました。
池田氏:
お話も作られるんですか!
八代さん:
小学校の頃は,マンガを描いてクラスのお友達に読んでもらっていたんです。みんなに「続きはまだ?」って言われるのが嬉しかったな。
池田氏:
当時からスターだったんですね。
八代さん:
そんな大げさなことじゃないですよ(笑)。
ただ絵を描くのが好きで,夢みたいな想像をすることが好きだっただけで。
4Gamer:
ちなみに当時,どんな想像を絵に描いていたんですか?
八代さん:
自分の部屋の窓の外に,バナナの木やリンゴの木,ミカンの木なんかを描いて,窓から手を伸ばすと果物がすぐに獲れるというような絵を描いていましたねぇ。
池田氏:
それは可愛らしい……。
4Gamer:
一方,歌の世界ではそういう夢とはある意味反対側にあるような,大人の世界を歌われていますよね。そのギャップが不思議だなと思ったんですが。
八代さん:
歌では,私は代弁者に過ぎなくて,どの歌にも自分の生き様は入っていないんです。常に誰かの言葉,誰かの思いを表現しているだけで。
4Gamer:
そういえば,お酒にまつわる歌もいろいろと歌われていますが,八代さんご自身はお酒を飲まれないと聞いたことがあります。
八代さん:
酔っ払っているおじさんや,ホステスのお姉さんなんかは,クラブシンガー時代には何度も見てきていますから,気持ちは分かるんですよ。そういう経験をもとに,歌うときには想像力を膨らませているんです。
池田氏:
子供の頃から絵を描き続けてきたことで培われたものかもしれないですね。
八代さん:
それはあるかもしれません。
でも絵だと,すごく自分が出ているんですよ。例えば果物を描くときだって,美味しい果物が好きだから,美味しく見えないとイヤなんです。
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