インタビュー
「rain」みたいなちょっと風変わりなゲイム,何を思って作ったの? 池田佑基ディレクターに,男色ディーノが聞く
4Gamerでは先日,本作でディレクターを務めた池田佑基氏と,でんぱ組.incの古川未鈴さんの対談をお届けしたが,この記事を目にして「私も池田さんと話したい!」と名乗りをあげてきた人物がいた。4Gamerでは「男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ」を連載しているプロレスラー,男色ディーノ選手である。
以前,連載でもrainを取り上げたディーノ選手だが,「遊びながら不思議に思ったことを,直接聞いてみたい。私だってアイドルなんだし」のだという。そこで,ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアにおそるおそる打診してみたところ快諾を得られ,今回の対談が実現した次第だ。
打診したあとで言うのもなんだが,ディーノ選手は一体,池田氏に何を聞きたかったのだろうか……?
男色ディーノ選手 DDTプロレス所属のプロレスラー。得意とする男色殺法は,対戦相手はおろか見る者にまで悲鳴を上げさせることもしばしば。同団体が実施した「DDT48総選挙」では,2010年の第1回,2013年の第4回で1位に輝くなど,けっこうな人気選手でもある。4Gamerでは2007年6月より「男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ」(当時 男色ディーノのゲイムヒヒョー)の連載を開始。ふと気付いたらけっこうな長期連載になっており,当時はちょうど30歳だったディーノ選手も今では36歳 | 池田佑基氏 「rain」ディレクター。特殊造形物の設計,製作を行う会社で,製作およびディレクション業務に携わったのち,ソニー・コンピュータエンタテインメントが開催したゲームクリエイター発掘オーディション,「ゲームやろうぜ!2006」をきっかけに,ゲーム業界入り。文化庁メディア芸術プラザのエンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選ばれたPSP専用ソフト「100万トンのバラバラ」でも,ディレクターを務めていた |
「rain」公式サイト
でんぱ組.incの古川未鈴さん,
「rain」をクリアしてみて,実際のところどうでした?
主人公が見えないという設定から
「rain」の企画はスタートした
男色ディーノ選手(以下,DD):
いきなりだけど,「rain」面白かったわよ。
池田佑基氏:
あ,ありがとうございます。
DD:
細かいことは連載に書いちゃったんだけど,今日はこういう機会だから池田さんに聞いてみたいことがあるのよ。
池田氏:
は,はい。何でしょう……?
DD:
こんなちょっと風変わりなゲイム,何を思って作ったの?
池田氏:
何を思って,ですか?
DD:
そう。漠然とした質問で申し訳ないんだけど。
池田氏:
うーん……今って,たくさんのゲームが発売されていて,その中で目立つのって難しいことだと思うんですよね。そこでどうやって戦っていくかを考えると,新しくないといけない,ウリがないといけないわけです。
そこに立って,なおかつ誰に言っても分かりやすいものを考えていこう,と。
DD:
新しさだけを追求していったら,誰からも理解されないものになりかねないものね。
池田氏:
ええ。そこで,例えば設定に凝るとか,今までにないタイプの魔法が使えるとかも方法としてはアリなんですけど,それだと説明するのがたいへんなんですよ。前提条件から話さないといけないので。
DD:
ほかと比べてどう新しいかを理解してもらわないといけない。
池田氏:
ええ。なので,もっとミニマムなところから考えることにしたんです。
ゲームの中で何がほかと違うものだったら,みんなは驚くだろうか? 極端な話,PVを30秒だけ見てもらったときに分かってもらえる新しさとは何か? と。それを突き詰めたとき,「操作するキャラクターが見えなかったら,驚くんじゃない?」となったんです。
DD:
世界観とか物語ではなくて,主人公が見えないというところがスタートだったのね。
池田氏:
そうなんです。ただ,ずっと見えないだけだったらゲームにならないんで,雨に打たれているときだけ姿が見えるというルールを付け加えて,ゲームにしていきました。
DD:
主人公が見えないっていう設定を最初に思いついて,そこから実際にゲイムを作り上げていく過程で,「あー,これやっぱ見えたほうがいいかな?」みたいに思ったことはないの?
ここだけの話,本当に困ったら見えるようにしようかな? とは思ってましたね。ちょっとだけもやっとシルエットを描くとか(笑)。ただそれって,最悪,あとからでも追加できることなんで,基本的には見えないままでぶれずに行こう,と。
最初の頃はいろんな方達から,「FPSの光学迷彩みたいに,見えないというのは設定だけにしておいて,実際には見えるようにしておかないと遊べないんじゃないか」みたいに言われていたんですけど,それをやっちゃったらほかのゲームと同じになっちゃいますし。
DD:
じゃあ,そういうことを言われるたびに,「こいつ,分かってねえなあ」って?
池田氏:
ふふふ(笑)。
あのストーリーの結末を思いついたとき
曽我部恵一さんの気持ちが分かった気がした
DD:
これも聞いておきたいんだけど,rainを作るときって,どんな人達が遊ぶことを想定していたの?
自分達のように,スーパーファミコンやPlayStationぐらいから,いろんなゲームの体験を積んできた人達です。そういう人達に,ちょっと違う見せ方で驚いてもらおう,と。
武器を使って敵を倒していく……というゲームは少し飽きてきたかな? というときに,一晩ぐらい楽しい時間を味わってもらえるようなものを作れたらな,と考えていました。
DD:
じゃあ,主人公が敵に対して基本的に攻撃できないというのも,ほかのゲイムとの違いを出すという目的があったから?
池田氏:
ええ。一般的なステルスゲームだと,たとえ見つかっても敵を殺せばなんとかなったりするじゃないですか。それを少年がやってしまうのは,何か違うと思ったんですよね。なので,攻撃できないということも,かなり初期から決めていたことです。
DD:
そういう基本的なコンセプトから決めていったということは,ストーリーは後付けということ?
池田氏:
ええ。後付けで,しかもちょっとずつ書いていきました。
ゲームを作るプロジェクトって,途中で何度か続行か否かの審議をするタイミングがあって,それに追われてしまうところがあるんですよね。本当は,シナリオの細部まで完成した状態でスタートできるとベストなんでしょうけど,なかなかそうもいかないんです。プロジェクトの初期で提示できるのは、あくまで完成予想図であって。
なので,まず最初に一番おいしいところを作って,ゲームの完成クオリティが想像できるようなものを見せつつ、プロジェクトが先に進むにつれ、どんどん細部を掘り下げていき,全体を広げ……という繰り返しでやってきました。
DD:
それはまた,ずいぶんと見切り発車というか……。
池田氏:
ですよねぇ。なので,まず最初に一番おいしいところを作って,承認を得たらそこを掘り下げていき,全体を広げ……という繰り返しでやっていかざるを得なかったんです。
実は,ストーリーを脚本家の方に原作みたいな形でお願いするという案もありました。それはそれで,ストーリーの部分とゲームの部分を別々で進行させられるメリットもあるんですけど,今回に関してはチームみんなで考えたいね,という話になって,自分達で全部やることにしました。
DD:
たぶん,それはいい判断だったと思うのよね。
結果的にストーリーが能動的に語りかけてくるようなゲイムではなく,あくまでゲイムにストーリーがそれとなく寄り添うようなバランスになっていて,遊んでいて心地いいもの。
池田氏:
ありがとうございます。
DD:
それでいて,後半になって一気に物語が加速する感じもあって。
そのあたりも,作りながら考えていった感じかしら?
池田氏:
そうですね。後半のことは最初のうちはまだ構想のみで。
DD:
最初から順番に考えていったの?
いえ,必ずしもそういうわけじゃないんですけど……。みんな,この物語はちゃんと終わるんだろうか? と思っていたはずです。
プロジェクトを進めなければいけないというプレッシャーを常に感じつつ,ほかのスタッフが物語の仕上がりを待っている状況の中で,必死になって考えていましたね。
DD:
連載漫画みたいに「作者急病のため休載」ってなって,そのままフェードアウトしていくわけにはいかないしねぇ(笑)。
池田氏:
そうなんです。とくに最後のまとめ方ではけっこう悩んで。
DD:
そういうとき,どこに逃避するの? 例えば趣味に没頭するとか。
池田氏:
あー,土日を楽しみにしていましたね。家族の元へ帰れるというのが。
DD:
美しい! なんだか悔しくなってきたわ(笑)。
池田氏:
いやぁ,本当にそれぐらいなんですよ。
でも終わらせ方を思いついた瞬間,「なるほど,ここに行けば良かったんだ!」と思えて,そのときには「ああっ,俺やれた!」って,凄くほっとしました。
DD:
ネタバレになるから詳しくは言わないとして,あの終わり方というのは,考えているうちに何度か通り過ぎたもの? それとも,全然違うものが突然ひらめいた感じ?
池田氏:
ずっと考えていたこととは,全然違うところで見つけた答えでしたね。プレイヤーさんからすると,「まあ,そう終わるよね」と思う人も意外に多いようなんですけど,それがなかなか見つからなくて。
DD:
遊ぶだけの側からすると,きれいにまとめてるなって思っていたんだけど,そういう苦労があったのね。でも物作りって,そういうものよね。
池田氏:
自分でも「なるほど,これか!」って思ったぐらいです(笑)。
あれを思いついたときに,その前の展開なんかもきれいにつながっていったんです。それはまあ,そうなるように考えているから当然といえば当然なんですけど,「つながった! 良かった!」って,凄い嬉しかったですね。
DD:
実際,物作りで一番難しいのって,その“当然の答え”を導き出すことだと思うのよ。あらかじめ用意された正解があるわけじゃないんだし。それを見事にやり遂げたのは,胸を張っていいと思うわよ。
池田氏:
ありがとうございます。
そうそう,僕が好きな曽我部恵一さんというアーティストが,アルバムを制作中に最後の曲がなかなか決まらなかったことがあるという話をインタビューでしていたことがあるんですよ。ある朝にようやくできた瞬間,「あ,俺やったじゃん!」って思ったそうなんです。
rainのストーリーを結末まで持って行けたとき,その曽我部さんのエピソードを思い出して,「ああ,あの人と同じ感触を今,味わっているんだ!」とも思いましたね(笑)。
DD:
ああ,それはいい話。
ひょっとしたらこれを読んだ次の世代のクリエイターが,「あのときの池田さんはこういう気持ちだったんだ!」と思うこともあるかもしれないわ。
池田氏:
いやぁ,それはどうでしょう(笑)。
だって,ストーリーの結末を紡ぐのに相当苦労しました! って,格好いい話じゃないですから(笑)。
DD:
確かに(笑)。
主人公が怪物から逃げ惑うという状態も,実は池田さんが追い込まれている状況と重なっていたのかもしれないわね。
池田氏:
そうですね。逃げ続けていましたからね。
DD:
まあ,逃げ切れば勝ちだから。
池田氏:
勝て……ましたかね(笑)。
時間という制約ゆえに取捨選択を繰り返し
現在の「rain」の形になっていった
ちなみに,パッケージではなくダウンロード販売という形を選んだのは,どうして?
池田氏:
ダウンロードタイトルの市場が世界的に盛り上がってきていたというのもあって,挑戦してみようかな? と。
でもまあ,一番の理由は予算ですね(笑)。PlayStation 3用のパッケージソフトとなると,定価5000〜6000円ぐらいで売られるものが多いと思うんですけど,rainでその金額に見合うものを作ろうとすると,現状の3倍ぐらいのボリュームが必要になると思うんです。
DD:
それを作るとなると,人数も期間も必要になって,開発費もどんどん上がってしまうということね。
池田氏:
ええ。ただ,予定ではもっと早くリリースしたかったんですけど,結果的には時間がかかってしまいましたね……。
DD:
それは,どこに時間がかかったの?
池田氏:
どこで,というわけではないんですが,開発チームが小さくて,アクワイアさんを入れて15人ぐらい,一番多いときでも20人に満たないぐらいの規模だったので,その分,時間が必要だったということですね。人数が少ない分,かなり濃い形での制作はでききたというメリットはあったんですが……。
DD:
でも,もっと大きい開発チームだったら,こういう作品にはならなかったと思うのね。このゲイムって変に要素を足していないというか,むしろいろいろなものを削っていったからこそ,独特の雰囲気が生まれているんだと思うし。
池田氏:
ゲームを作っているときって,最初のうちはいろいろと妄想が膨らんでいって,もっとこうしたい,ああしたいという欲求が生まれるんです。でも,ゲームが形になってくるにつれて現実が見えてくるんですよ。この妄想を実現するためには,さらにこれだけの作業時間が必要で……とか。
ただまあ,そこで欲張ったとしても,AAAタイトルになれるわけではないから,取捨選択をするしかなかったんです。とくにrainは,そのあたりの制約が大きかったかもしれません。
DD:
その取捨選択で,rainにとって必要なものだけを選んできたんでしょうね。遊んでいて,そういう感じがあったもの。
池田氏:
そう言ってもらえると嬉しいですね。
DD:
ちなみに,プレイヤーの意見なんかは見聞きしていますか?
池田氏:
幸いなことに,「良かった」と言ってくださる方が多いですね。
たぶん,遊んでいて邪魔になるようなものが少なかったからかな? と思うんです。
DD:
ああ,けっこうすぐ死んじゃうわりに,放り出したくなるわけでもなく,すんなり続けられるのは,そういうことなんでしょうね。
池田氏:
開発の段階では,もっと難しかったんで,そのままだったら放り出されていたかもしれません(笑)。
やっぱりダウンロードタイトルを購入するのは,ゲームに対するリテラシーの高い方が多いだろうと考えていて,それならけっこう難しめでも大丈夫じゃないかな? と。でも作っていくうちに,もう少し広い層に遊んでもらえるんじゃないか? という感じになってきたので,難度をぐっと下げてヒント機能なんかも盛り込みました。
ただやっぱり,もっとチャレンジがあったほうが良かったという声もありましたね。
DD:
それはもう,しょうがないわよね。どっちに振っても必ず反対の意見が出るところだから。
池田さんは,そういう意見をぶつけられたとき,どんな反応をするの?
僕はあんまり,人の話を聞かないんですよ。他人から何かを言われてへこむのは良くないと思ってるんです。
確かに僕はrainを作りましたけど,出したのは僕じゃないですから,そこはプロデューサーの責任でしょ? って。気楽なもんです(笑)。
DD:
そういう腹の据わり方はいいと思うわ。
こういうのって正解の形が一つじゃないと思うのね。だからこそ,自分が正解だと思ったことを貫いて,何を言われてもぶれない気持ちがないと,やってられないと思うの。
池田氏:
そうなんですよね。何が本当に効果があるのかって,分からないんですよ。だから思いついたことは試してみたくなるし。で,あとになって考えてみると,意味がないことに気付いてやり直さなきゃいけなくなったり。
DD:
でも,プレイヤーにとっては意味があるかどうか分からないけど,やりたくなってしまうことってあるわよね?
池田氏:
そうなんですよ! 誰も気付かないだろうなってこととか。
……それこそ,僕はディレクターなんですけど,細かいエフェクトを自分で置いたりしてましたからね。デザイナーが完成したって言ったものを,あとからチクチクいじったりして。たぶんこれは,デザイナーすら気付いてないと思うんですけど(笑)。
DD:
それは,どういう心理状況だったの?
池田氏:
たぶん,ストーリーを考えなきゃいけないんだけど,これをやれば無心になれるなぁ……みたいな感じで。
DD:
あ,家族以外にそういう逃避もしていたのね。
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