プレイレポート
個性的なシステムが光る新作「特殊報道部」を先行プレイ。“超常現象”をテーマにしたテンポの良い会話劇が楽しめる秀作アドベンチャー
基本的なゲームデザインこそ,オーソドックスなアドベンチャーゲームを踏襲している本作だが,番組制作をテーマとした独自のシステムが強い個性を放っている。今回,本作の開発版をプレイする機会を得たので,その魅力をお届けしよう。
特殊報道部の一員となり“超常現象”の真相を解き明かせ
他部署のスタッフからは胡散臭い目で見られているということもあり,特殊報道部に対して最初は懐疑的な印象を持っていた遼。しかし,行動力・決断力・情報収集能力にすぐれた先輩,棚橋 彩(CV:沢城みゆき)の人柄や,「世界の真実を追究する」という特殊報道部の理念に少しずつ心を動かされていく。そして遼を始めとするトクホウのスタッフは,次々に起こる超常現象の真実を解明するべく,独自の観点から取材を続けることになる。
シナリオは1話ごとに独立したものとなっており,話ごとに“UFO”や“ポルターガイスト”“人体発火”といった,誰でも一度は聞いたことのありそうな題材が扱われる。ボリュームはゆっくりとプレイして,大体1話につき3,4時間ほどだ。
遼が特殊報道部に関わるきっかけとなる第1話のテーマは“アブダクション”。論理学をかじっている人にはなじみのある語かもしれないが,ここでは“宇宙人による誘拐”を意味している。
新米ADとしてニュートリノに関する発表を取材していた遼は,報道部の先輩がドタキャンしたことで,「施設から学校へ通う女子高生」の実体に迫るドキュメンタリー番組の仕切りをまかされる。その取材対象となるのが,のちに特殊報道部でアシスタントを務める度会 楓(CV:瀬戸麻沙美)だ。遼は初めての大きな仕事ということで,熱いジャーナリスト精神の元に,丁寧な取材を続けて行くが,そこから事態は思いも寄らぬ方向へと動いていくのである。
姉御肌の彩や,大人びた口調だが友達思いな一面を持つ楓は本作の華。このほかにも,クールなナイスガイ鷲見 衛(CV:細谷佳正),ひょうひょうとしたオヤジ佐曽利昭雄(CV:藤原啓治),そして女性フェロモンを振りまくアナウンサー村瀬知華(CV:藤田 咲)といった個性豊かなキャラクターが物語を彩る。
度会 楓 |
鷲見 衛 |
佐曽利昭雄 |
村瀬知華 |
テンポもよく,ときにはクスリとしてしまうような洒落っけも含んでいる会話劇は,読んでいて飽きが来ない。決して文章量が少なくないのにサクサクと読み進められるのは,巧みなシナリオ展開もさることながら,ノリの良い会話に寄るところが大きい印象だ。
番組制作をテーマにした斬新な分岐システム
さて,物語を読み進めていくアドベンチャーゲームにつきものなのが,展開の分岐だ。多くのアドベンチャーゲームでは,会話中に出てくる選択肢から任意の回答なりを選ぶことが,その後の展開に影響を与えるようになっているが,本作にはそのようなシステムはなく,代わりにかなり特殊な手法が用いられている。
冒頭でも紹介したとおり本作には,“超常現象”の取材をとおしてテレビ番組「トクホウ」を制作するという目的がある。そのためシステムにも,番組制作を意識したようなものが用意されており,これが展開の分岐にも関係するようになっている。
・マテリアルチェックシステム
撮影した映像や音声データの中から,事件に関係がありそうなシーンを探し出し,怪しい部分を指摘することが目的の「マテリアルチェック」。指摘した場所が事件と関わりの深いものであればストーリーが進み,間違っていれば,それに付随した会話が発生して,登場キャラクターが何らかのヒントをくれる。データの内容によっては,「どこが怪しいポイントだっ!?」と,思わず頭を抱えてしまうくらい観察力を必要とされるものもあるので,なかなか侮れない。ちなみに,間違った指摘をしてしまうとクリア後のランクに影響するので,よーく観察してから指摘するようにしたい。
・プランニングシステム
物語が佳境に差し掛かると,最終的な番組の内容について決断を迫られる「プランニングシステム」が発生。ここでは,遼が取材した内容を元に制作された,異なる切り口の企画書が2つ用意される。プレイヤーは,この2種類の企画書から「トクホウ」で放送するほうを決めるのだが,選んだ企画書によってその後の展開が大きく変わってくる。要するにこのプランニングシステムが,一般的なアドベンチャーゲームにおける選択肢の役割を担うわけだ。
・プログラムディレクション
企画書を出して番組の方針を決めたあとは,クライマックスへと一直線。1エピソードの終盤で,事件の資料を組み合わせて番組の収録を行っていく「プログラムディレクション」が発生する。
ここでは,プレイヤーが体験してきた数々の出来事を元に,アナウンサーの村瀬知華が番組を進めていく。プレイヤーは知華の進行に合わせて,スタジオのモニターにVTRや音声を出して行くのだ。タイミング良くボタンを押して,正しい資料を選べばPERFECTまたはGOOD,タイミングを外してしまうと放送事故扱いでBADとなり,視聴率が下がってしまう。視聴率はプレイヤーの評価に直結しているため,なんとか高視聴率を保ちたいところ。ちなみに,ランクはSが最高で,ABCDと下がっていく。
ともあれ,このプログラムディレクションを終えれば,その話の終わりは近い。特殊報道部として取材してきたことをまとめて振り返れるこのシステムは,ゲームの要素として面白いことはもちろん,物語を頭の中で整理するうえでも非常に役立つ斬新な試みだ。
アドベンチャーとしての完成度は高水準。
“超常現象”好きは迷わずプレイすべし
マテリアルチェックシステムを始め,独特な要素が目立つ本作だが,バックログやスキップ,自動再生といったアドベンチャーゲームでお約束となっているシステムもきっちり完備されている。これらがPlayStation Vitaのインタフェースを利用して,直感的に操作しやすくなっているのは,非常に嬉しい。
ジワジワと押し寄せる緊張感がたまらないシナリオと,日本一ソフトウェアらしい独特のシステム,そして基本的なアドベンチャーゲームとしての要素をしっかりと入れてきた本作の完成度は高い。超常現象という題材が若干人を選ぶ可能性はあるが,清原氏の手がけた美麗なキャラクター達の魅力が,本作への入口を広げてくれている。何より,ホラー映画の視聴にも似たそのプレイフィールは,夏の終わりにはピッタリだ。
また,やや蛇足となるが,本作の制作には,過去にPlayStation 2やPSPで発売され,今も根強いファンに支持されている「流行り神」シリーズのスタッフが参加している。「流行り神」は,一部の選択肢を選ぶごとにポイントが減少していく「カリッジ・ポイント」や,自問自答して推理の方向性を決めていく「セルフ・クエスチョン」など,“選択する”ということの重要性を非常に重視しているタイトルだった。流行り神が題材としていた「都市伝説」は,今回の超常現象に通じるところも多い。
特殊報道部は,そんな流行り神の精神的な続編っぽさを感じさせるものの,題材やキャラクターはより一般化されて遊びやすくなった。超常現象という題材,あるいは清原氏の描いたキャラクターを見てピンときた人にとっては,間違いなく楽しめる作品になっているので,ぜひ手にとってみてほしい。
なお,8月1日から全国のPS Vita試遊機設置店舗にて「特殊報道部」の店頭体験会が開かれている。本稿を読んで実際に触れてみたくなったという人は,近くの店舗に足を運んでみてはいかがだろう。
「特殊報道部」公式サイト
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