レビュー
満を持してリリースされたナンバリングタイトルはメガテニストの期待に応えてくれるか
真・女神転生IV
世界中の神話や都市伝説に登場するクリーチャーを総じて“悪魔”と呼称し,戦いに使役するという背徳的な魅力をはらんだ世界観や,プレイヤーの行動によってストーリーが分岐していくマルチエンディングシステムなど,“メガテン”の軸となる要素はそのままに,最新作としてどのような進化を遂げているのか。本稿でじっくりとレビューしていこう。
「真・女神転生IV」公式サイト
平和な東のミカド国と,荒廃した東京
サムライの視点から知る新たな世界
まずは本作の世界観を軽く紹介しておこう。
時はグレゴリ歴1492年。“カントー”という名の緑豊かな大地にある“東のミカド国”で暮らす18歳の主人公は,魔法の篭手を起動する“ガントレットの儀式”に成功したことで,秘密裏の悪魔退治を使命とする“サムライ衆”の一員に選ばれる。
同じく儀式によって選ばれたワルター,イザボー,ヨナタン,ナバールといった仲間たちとサムライの任務を遂行していく主人公だったが,“黒きサムライ”の出現をきっかけに“東京”の地に足を踏み入れることになり,世界の命運を左右する“秩序”と“混沌”の戦いに巻き込まれていく……。
主人公 東のミカド国に暮らす18歳の少年 |
ワルター 荒っぽい言動だが,情に厚い |
イザボー 新人サムライの紅一点 |
ヨナタン 新人サムライたちのまとめ役 |
ナバール エリート意識が強く,負けず嫌い |
メガテンの従来作では,現在や近未来の東京が舞台となっていたり,主人公が高校生だったりと,現実世界に近い設定が多かった。主人公がプレイヤーとは立場も文化も意識も違う別世界の人間というのは,新しいアプローチではないだろうか。
中世ヨーロッパレベルの生活を送っている東のミカド国の人間は,東京に点在する打ち捨てられた電化製品や生活雑貨の類を「魔法の遺物」と呼び,積極的に回収や調査を行っているという設定になっており,これがゲームシステムにもうまく生かされている。
本作では特殊な条件を満たさない限り悪魔からマッカ(ゲーム内の通貨)を得ることができないのだが,その代わりにフィールド上で入手した魔法の遺物を売却することで金策を行えるようになっているのだ。
さらには,そこで例えば“家庭用ゲーム機”を入手したならば,「開かない書物だろうか」というような主人公の的外れな説明文が添えられるなど,“異邦人”の視点まで取り入れられているのも面白いところと言えるだろう。
ちなみに,東のミカド国には“シンジュク”や“キチジョージ”という名称の村があったり,文明レベルから考えると確実にオーバーテクノロジーな“COMP”,もといガントレットが昔から存在していたりと,何かと引っかかる点が多い。荒廃した東京とどういった関係性があるのか? そのあたりの謎が本作のキモになっている。
東京の再現度が非常に高い,というところも特筆すべき点だろう。全体マップでの移動はシリーズでお馴染みの見下ろし型視点で,新宿や池袋といった街(ダンジョン)に入ると三人称視点になるのだが,荒廃こそしているものの,その街並みは確かに現実の我々が見慣れている東京の姿そのものだ。普段待ち合わせに使っているようなランドマークや,某大手家電量販店の店舗までリアルに作られている。
もちろん現実の東京そっくりそのままというわけではなく,人々からまだ知らぬ街やそこに至る道などの情報を仕入れて世界を探索していくわけだが,そのときお世話になるマップの使い勝手に少々問題があると感じた。戦闘が終了してマップ画面に戻るたびにカメラの向きがリセットされるため,自分がどちらに向かっていたのか分からなくなる。無限湧きする悪魔に追い掛け回され,戦闘のたびに位置を把握するのに疲れ果て,3DSを閉じてしまうことも何度かあった。
まぁ,グーグルマップもお手上げレベルの方向音痴である筆者が悪いのかもしれないが……。
さて,シリーズファンがニヤリとできるようなネタが必ずと言っていいほど盛り込まれているのも,メガテンワールドにおける魅力のひとつ。NPCのセリフなど,細かいところまで挙げるとキリがないのだが,本作では2009年に発売されたニンテンドーDS用ソフト「真・女神転生 STRANGE JOURNEY」で強烈な存在感を放っていた“デモニカスーツ”が登場するという点に注目してほしい。
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作中ではキーキャラクターである黒きサムライが,量産タイプらしきブラックカラーのデモニカを着用しているほか,ストーリーを進めると主人公用の装備として入手することもできる。加えて,サムライが装備しているガントレットも,形状を見るに元はデモニカスーツの腕部に装着されていた物だということがうかがえる。直接的なストーリーのつながりこそなさそうだが,一部の設定は共有されているようで,同作をプレイしたファンには嬉しいネタだ。
さらに,メガテンといえばサウンド面の魅力も言わずもがな。新曲は総じて世界観と絶妙にマッチしており,要所で流れる過去作のアレンジBGMも気分を盛り上げてくれる。先ほど「道に迷って中断してしまう」と書いたが,クールなBGMのおかげで「もうちょっと頑張って探索してみよう」と前向きになることも多かった。
駆け引きがアツいプレスターンバトル
救済措置も豊富で初心者に優しい
本作のバトルシステムは,シンボルエンカウント方式のプレスターンバトル。移動中にも武器を振るうことが可能で,敵シンボルに攻撃を加えてから戦闘に突入すると,先制攻撃できる。逆に,背後から接触されたりすると高確率で敵に先制されるので注意が必要だ。
敵の弱点を突いたり,攻撃をブロック・反射するなどしてなるべく行動回数を稼ぐことが重要な本作において,敵に先制されるのはかなり痛い。相手の手の内を見抜ければ一気に畳み掛けることができる一方で,スキを見せればザコが相手でも容赦なく全滅させられるのがメガテンというゲームなのだ。
遭遇した悪魔と会話・交渉し,「仲魔」にするというシステムも特徴のひとつ。なにしろ人間とはまったく違った価値観を持った存在なので,ほとんどの場合,会話は咬み合わない。
こちらとしては褒めているつもりなのに,キレて襲いかかってくるやつもいれば,挑発しているにも関わらず,喜んで仲魔になろうとするやつもいる。一筋縄ではいかないのだが,そこが悪魔とのコミュニケーションにおける最大の醍醐味で,すこぶる愉快だ。
なお,仲魔はレベルアップすることで新たなスキルを獲得。自らが覚えられるスキルがすべて揃ったタイミングで“ウィスパーイベント”が発生し,主人公に自らのスキルを伝授してくれる。スキルは重ねて伝授されることによって+1,+2とパワーアップしていき,消費MPも低下する。主人公は伝授されるスキルを取捨選択できるので,成長の自由度は非常に高い。
いまさら言うまでもないだろうが,一般的なRPGに比べると,メガテンシリーズの難度は高い。ご多分に漏れず,本作でも,戦力が乏しい序盤はゲームオーバーの屈辱を繰り返し味わうハメになる。訓練されたアトラスファンにとってはむしろご褒美だろうが,本作からメガテンデビューをするプレイヤーには厳しいものがあるかもしれない。
とはいえ,救済措置がないわけではないので安心してほしい。まず本作は任意のタイミングでセーブ・ロードが可能だし,死亡しても三途の川の渡し守である“カロン”に賄賂を払うことで全滅直前の状況まで戻ることができる。また,一定回数全滅を繰り返すとゲーム中いつでも難度を選べるようになるので「どうしても敵に勝てなくて詰む」という状況には陥らないはずだ。戦闘が難しすぎると感じたら,素直に難度を下げてみるのもいいだろう。
ただし,中盤以降は戦力が充実していくほどに戦闘がヌルく感じられてくる。バトルシステムの性質上,ある程度は仕方のないことだが,バランス調整は少々甘めという印象を受けた。また,物理属性スキルがHPではなくMPを消費する仕様になったことで非常に燃費が悪くなり,的確に弱点を攻められる魔法に比べて活躍の場があまりないというのもプレイヤーによっては気になる点だろう。
簡略化された悪魔合体システム
バロウズアプリで機能を拡張
サムライが装備しているガントレットには“バロウズ”という女性型のオペレーティングシステムがインストールされており,彼女がクエストのナビゲーションや悪魔召喚プログラムの管理を行ってくれる。さらに本作では,シリーズでお馴染みとなっている“邪教の館”もアプリ化され,どこでも悪魔合体や悪魔全書の使用が可能なのだ。
加えて,邪教の館の主である“ミドー”が手持ちの悪魔からとくにオススメの合体パターンを提示してくれる“おすすめ合体”という新システムも搭載。初心者でも悩むことなく悪魔合体を楽しめるようになった。
さらに,スキル継承のランダム性も撤廃され,好きな悪魔に好きなスキルを好きなだけ組み込めるようになっている。従来作では望みのスキル構成になるまで合体キャンセルをひたすら繰り返したものだが,もう悪魔合体に必要以上の時間を吸い取られることもなくなった。万々歳! 万々歳のはず……なのだが,そこに一抹の寂しさを感じてしまうのは,メガテニストの業と言うほかない。
また,バロウズは主人公のレベルアップ時などに得られる“AP”(アプリポイント)を消費することで,さまざま追加機能を獲得できる。スキル枠を増設したり,仲魔のストック数を増やしたりと,有用なものが揃っているので,どれから取得したものか悩ましいところだ。
とくに注目したいのが,悪魔会話のバリエーションを追加するアプリ。逃がしてくれと交渉したり,回復してくれるよう頼み込んだりと効果はさまざまだ。ちなみに小技として,特定の状態異常にすると強制的に交渉成功に持ち込めるという点もユニーク。
そんなアプリの中でも,悪魔にマッカをせびる“ファンド”は極めて役に立つ。本作ではマッカが常に不足気味なので,優先的に取得しておきたいアプリだ。交渉に失敗すると悪魔はキレて襲いかかってくるのだが,特定の状態異常にすると強制的に3回連続で搾り取れるようになる。もはや交渉というより強奪で,悪魔より悪魔的と言えるデビル・メイ・クライなシステムだ。専用の会話パターンも用意されているので,ぜひとも試してほしい。
本作には,3DSタイトルらしく,オマケ要素として“すれちがい通信”を生かしたシステムも搭載されている。“DDS”(デジタルデビルサービス)でカードに手持ちの悪魔を添付し,ほかのプレイヤーと交流できるのだ。
白いカードに添付すれば悪魔のステータスが成長し,黒いカードに添付すればすれちがった人の悪魔と合体して戻ってくる。貴重なアイテムをお土産として持ち帰ってくることもあるので,どんどん外に持ちだしてすれちがおう。
また,豊富な追加コンテンツも注目すべきポイントだ。特別な装備品を獲得できたり,悪魔の合体条件が解禁されたりするクエストが,手頃な値段でダウンロードできる。中でも「地獄の沙汰も〜」シリーズは短時間で経験値やマッカ,アプリポイントが大量に獲得できるので,忙しい社会人や周回プレイを考えているプレイヤーにオススメしたい。ただし,ゲームバランスを崩しかねないので,ご利用は計画的に。
携帯機向けの改良点は好印象
良くも悪くも“現代のメガテン”
東のミカド国やサムライの設定など,正直に言って発表当初は従来作とかけ離れた世界観に若干の不安を感じたものだが,実際にプレイしてみれば,新たなアプローチに挑戦しつつも,メガテンであることを忘れていない良作だった。
久しぶりに訪れた東京の姿は相変わらず殺伐としており,悪魔が跳梁跋扈する生き地獄のような世界だが,不思議とそこに安心感を覚えてしまう自分がいた。きっと多くのメガテニストが同じような気持ちを抱きながら,本作をプレイしているはずだ。
豊富な救済措置や,簡略化された悪魔合体のシステムには賛否両論ありそうだが,個人的には気軽に楽しめる携帯機向けタイトルに相応しいものだと感じている。遊び方次第だが,メガテンらしい歯応えはしっかりと味わえる作りだ。
個人的にはメインシナリオに関して若干のボリューム不足を感じたが,チャレンジクエストのコンプリートを目指したり,すべてのエンディングを見るために周回プレイをすることを考えれば,それほど気になる点ではないだろう。
その一方で,特撮系のトップクリエイターたちによってデザインされた新悪魔は確かにカッコイイ……のだが,「これがメガテンらしいか?」と言われると首をひねってしまう人も多いと思う。なにより,シリーズを支えてきた中心人物である“悪魔絵師”こと金子一馬氏デザインの新悪魔がいないのはとても寂しい。
ともあれ,良く出来たゲームであることに間違いはない。新規プレイヤーも参入しやすいので,メガテン入門作としては最適だと思う。良くも悪くも,“現代のメガテン”という印象だ。
昨今では「ペルソナ」のヒットに押され気味で,影が薄いように感じられたメガテンだが,今後も本家本元のパワーを見せつけてほしいところである。……つまりは,早くも次回作に期待したいということだ。筆者は10年,20年でも待ち続ける覚悟だが……そりゃ早い方が嬉しいよね。
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