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[GDC 2012]モバイルゲーム開発経験者ゼロのチームがiOS屈指のヒット作を生んだ。「Infinity Blade」のプロデューサーが開発秘話を語る
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印刷2012/03/10 15:44

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[GDC 2012]モバイルゲーム開発経験者ゼロのチームがiOS屈指のヒット作を生んだ。「Infinity Blade」のプロデューサーが開発秘話を語る

「Infinity Blade」シリーズのプロデューサーであるChAIR EntertainmentのSimon Hurley氏
画像集#001のサムネイル/[GDC 2012]モバイルゲーム開発経験者ゼロのチームがiOS屈指のヒット作を生んだ。「Infinity Blade」のプロデューサーが開発秘話を語る
 現在開催中のGame Developers Conference 2012で「Re-orienting Development and Accelerating Production to Create Infinity Blade and Infinity Blade II」と題したセッションが開かれた。iOS用のアクションゲームである「Infinity Blade」「Infinity Blade II」がどのようにして作られたのかを,開発者自身が解説するという興味深い内容だったので,その模様をお伝えする。

 最初に,「Infinity Blade」シリーズの概要を紹介しておこう。
 本シリーズは,剣や魔法を駆使しながら敵と1対1の戦いを繰り広げていくアクションゲームだ。2010年に発売された第1作は,Unreal Engine 3による美麗なグラフィックスや,緊張感あふれる戦闘シーンが話題となり,リリースから6か月で1000万ドルを売り上げる大ヒットタイトルとなった。
 その後2011年に,続編である「Infinity Blade II」が発売され,シリーズ2作ともに,現在もApp Storeのランキング上位をキープし続けている。

Infinity Blade
画像集#006のサムネイル/[GDC 2012]モバイルゲーム開発経験者ゼロのチームがiOS屈指のヒット作を生んだ。「Infinity Blade」のプロデューサーが開発秘話を語る

Infinity Bladeの開発チーム。少人数のため,2つ以上の役職を兼ねているメンバーもいる
画像集#002のサムネイル/[GDC 2012]モバイルゲーム開発経験者ゼロのチームがiOS屈指のヒット作を生んだ。「Infinity Blade」のプロデューサーが開発秘話を語る
 壇上に立ったのは,「Infinity Blade」シリーズのプロデューサーであるChAIR EntertainmentのSimon Hurley氏だ。
 Hurley氏はまず,開発の経緯を説明することからセッションを始めた。もともとは「Unreal Engine 3初のiOSゲームを作る」という目標を立ててスタートしたプロジェクトで,ChAIR Entertainmentの親会社であるEpic Gamesの基準をクリアするものを作れという条件がついていたそうだ。

 素人目に見てもハードルの高いプロジェクトだが,開発メンバーはHurley氏を含めてわずか13人で,モバイルゲームの開発経験者は1人もいなかったとのこと。しかも,期待していたEpic Gamesからの支援がそれほど得られず(Epic Gamesは当時「Gears of War 3」の開発に集中していたとのこと),Hurley氏は途方に暮れてしまったという。

 そこでHurley氏は,iOS市場を詳しく調べることから作業を始めた。その結果,「iOS端末は毎月1400万台のペースで売れている」「ユーザーはアプリ内課金などの仕組みを理解しており,リテラシーが高い」「3Dゲームはそれほど多くない」といったことが分かってきて,「うまくやればiOSの『Halo』になれる」と思い始めたそうだ。

Hurley氏が紹介したモバイルゲームのコンセプト
画像集#003のサムネイル/[GDC 2012]モバイルゲーム開発経験者ゼロのチームがiOS屈指のヒット作を生んだ。「Infinity Blade」のプロデューサーが開発秘話を語る
 次はどんなゲームを作るかという話になるわけだが,Hurley氏は市場調査の結果を踏まえて,徹底的にモバイル向けの仕様とすることにこだわったという。そして「コアゲーマー向けとはしない」「指一本で操作できる」「レジの待ち時間など,短い時間でもプレイできる」「音がなくてもプレイに支障がない」「ストーリー性は必要最小限にとどめる」などの方向性が決まった。

 実際の制作にあたっては,スケジュール厳守を最優先したという。そのため,作業の終わりに会議を行って進行状況を確認するなど,コミュニケーションには気を使ったとのことだ。
 一方でHurley氏は,完璧主義は捨て,当初に決めたスケジュールにこだわりすぎるようなこともしなかったと述べた。そう聞くとのんびり作業しているように思えてしまうが,わずか6週でバーティカルスライス(ボリュームこそ少ないものの,システム的にはほぼ完成された試作品)を作り上げたというのだから,さすがである。

 さて,「完璧主義を捨てた」というHurley氏だが,その例外といえそうなのがテストプレイである。
 テストプレイは,新しいバージョンができあがるたび,開発メンバー自身が10分から30分のプレイを頻繁に繰り返したという。新しいバージョンができるまでのサイクルを短く設定し,修正部分の反映をすぐ実感できるようにしたため,開発メンバーのモチベーションが上がるという効果もあったようだ。

 また,プレイの際に使用するメモリ容量も毎日チェックしたという。それも,OSのバージョンと端末の組み合わせをすべて再現して行われたそうだ。Hurley氏は「もしAndroid版を作ることになったらどうしよう?」と,笑いながらこのエピソードを紹介してくれた。

メモリチェックの資料。OSのバージョンによって使用容量が大きく異なっているのが分かる
画像集#004のサムネイル/[GDC 2012]モバイルゲーム開発経験者ゼロのチームがiOS屈指のヒット作を生んだ。「Infinity Blade」のプロデューサーが開発秘話を語る

 こういった苦労が実ってInfinity Bladeが完成し,大ヒットを記録することになったわけだ。Hurley氏はInfinity Bladeから得た教訓として,「モバイル機向けのゲームデザイン」「長く売るためにはアップデートを続けること」「開発では常にプランB(代替手段)を考えておくこと」などを挙げ,中でも「App Storeのランキングはセールスに直結する」「1位と2位でもかなり数字が変わってくる」という点を強調していた。

ユーザーのプレイスタイルがデータとしてまとめられている
画像集#005のサムネイル/[GDC 2012]モバイルゲーム開発経験者ゼロのチームがiOS屈指のヒット作を生んだ。「Infinity Blade」のプロデューサーが開発秘話を語る
 Infinity Bladeがヒットを受けて,次はInfinity Blade IIの開発となる。Infinity Blade IIは新しいiOSや端末向けに,よりボリュームをアップさせ,ストーリー性を深めるというコンセプトを立てて開発したそうだ。開発に当たってまずHurley氏が行ったのはInfinity Bladeのプレイデータの見直しだった。
 「使用している端末」「好みの武器」,「一番多く使ったアイテム」「アイテムを使った場所」といったデータを分析し,ユーザーの声なき要望に答えられるような要素を入れていったという。
 その結果,Infinity Blade IIはリリース後わずか8時間でApp Storeのランキングトップになり,その後1週間以上もトップをキープし続けるなど,前作に続くヒット作となった。

 セッションの最後で,Hurley氏は「残すべきか切るべきかをすぐに判断しなければならない。コンテンツは僕らの赤ん坊みたいなものだが,赤ん坊を次々に殺す覚悟が必要だ」と,少々物騒な物言いで語り,「その判断をする時,自分の感覚だけに頼らないこと。あなたの経験がほかの人と同じとは限らない」と付け加えた。

Infinity Blade
画像集#007のサムネイル/[GDC 2012]モバイルゲーム開発経験者ゼロのチームがiOS屈指のヒット作を生んだ。「Infinity Blade」のプロデューサーが開発秘話を語る

 開発前の徹底的な調査を軸とするゲーム作りと,その結果として得られた成功は,Hurley氏が自分のセンスを盲信するのではなく,客観的なデータを重視した開発者であることを証明している。とかく職人タイプが目立ちがちなゲーム業界において,彼のような開発者は興味深い存在と言えるかもしれない。
 ただ,そんなHurley氏が初めて関わったタイトルが,iOS屈指のヒットとなったことは紛れもない事実である。プラットフォームが変われば,プロデューサーに求められる才能も変わるのだということを,分かりやすい形で提示してくれたセッションだった。
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