インタビュー
「HD 7000シリーズの新製品」がまもなく登場。AMD,PS4でも使われそうな技術など,GPUビジネスの今後を予告
最も大きなものは,PlayStation 4がAMDのAPUをプロセッサとして採用するというものだが(関連記事),それ以外にも,PC版「TOMB RAIDER」で実装された,頭髪の表現をリアルにする技術「TressFX Hair」(関連記事),PC版「DmC Devil May Cry」が推奨GPUとしてRadeon HD 7800シリーズを選定(関連記事)といった具合に,GPUがらみの話が豊富だ。
それに合わせて4Gamerでは,電話会議ベースで,Nekechuk氏をはじめとするAMD本社スタッフに追加取材を行うことができた。そこで今回は,前回のインタビューに続けて起こったAMDの動きについて,追加レポート的にお伝えしてみたいと思う。まずはRadeonの話題からだ。
「Radeon HD 7000シリーズの新製品」がまもなく登場
次世代GPUは年内の発表へ
2月9日の記事でお伝えしたとおり,Nekechuk氏は2013年中,デスクトップGPUではRadeon HD 7000シリーズを継続すると断言した。
この件はPCゲーマーからかなりの驚きを持って迎えられたわけだが,一方で最近になって,海外メディアは,AMDから新たなGPUが登場するという噂を報じていたりする。AMDの製品ロードマップはどうなっているのだろうか。
そこで,まず「2013年中にRadeon HD 7000シリーズの新製品が出たりするのか」と聞いたところ,Nekechuk氏からは「その通りだ」という答えが返ってきた。「Radeon HD 7000シリーズの新製品が,まもなく出てくる」(同氏)。
まだ製品の詳細は明らかにできないとのことだったが,複数が用意されており,その1つは販売数が多くなる価格帯に向けた製品になるという。Radeon HD 7000シリーズが継続されるのは間違いないが,一方で新製品は出てくるというわけで,AMDファン,Radeonファンは楽しみにしておくのがよさそうだ。
製品投入計画関連では,Nekechuk氏が,「年末までには,新しい世代の製品群を発表する予定」と述べていたことも紹介しておきたい。何だ話が違うじゃないかと思うかもしれないが,ポイントは,「発」表が年末までに行われるというところだ。
現時点では,製品出荷が年内に間に合うかが微妙だそうで,先の記事で示されたロードマップは,「Radeon HD 7000シリーズで年内いっぱいを戦うが,年末に次世代GPUを発表して,2014年から次世代GPUで戦っていく」くらいのニュアンスで捉えておくのが正解ということになりそうである。
TOMB RAIDER以外のタイトルに広がる可能性があるTressFX Hair
続いてはTressFX Hairだ。2月13日掲載の記事で,Nekechuk氏が「TOMB RAIDERに盛り込まれる,非常にエキサイティングな技術」としていたものがTressFX Hairだったわけだが,これは簡単にいうと,頭髪の描画をより写実的に処理するというものだ。名称にもなっているTress(トレス)というのは「(女性の)髪の一束」という意味の英単語で,TressFX Hairは,まさに髪の描写のためだけに作り出された技術ということになる。
Nekechuk氏によると,このTressFX Hairでは「それぞれの髪の毛に関して物理シミュレーションを行っている」とのこと。そのシミュレーションにはDirectComputeを使っているとのことだ。
どのように計算しているのかは不明だが,Nekechuk氏は「髪の毛が数千本という単位のレンダリングになると,髪それぞれが相互作用を起こすが,それもTressFX Hairでは計算されている」と述べていたので,相当な計算量になるはずである。「Graphics Core Next」アーキテクチャが得意とするDirectCompute性能を活かした技術と考えていいようである。
具体的にどの程度の性能を持ったGPUがあればいいのかという部分への明確な答えは得られなかったが,かなり“重い”処理であることは疑いようがないので,相当のGPU性能が求められると見ておいて間違いはないだろう。
さて,ここで重要なのは,TressFX Hairが,TOMB RAIDER専用の技術というわけではないことだ。Nekechuk氏は「TressFX Hairは,AMDが(TOMB RAIDERのデベロッパである)Crystal Dynamicsと協力して発表した,AMDの技術」としていたが,Crystal Dynamic以外のデベロッパがTressFX Hairの実装を望む場合,AMDのISV(Independent Software Vendor,独立系ソフトウェアメーカー)サポートチームに連絡してもらえれば,サンプルを提供する用意があるとのことだった。
ちなみにTressFXは,「DirectComputeの代わりに,OpenCLなど,ほかのGPUコンピューティング向け言語でも実装が可能」(Nekechuk氏)とのことなので,これはPlayStation 4でも……と期待が膨らむのだが,もちろん,その点についてNekechuk氏は黙して語らずだった。
冒頭でも紹介したように,氏はデスクトップGPU部門に所属しているので,PlayStation 4は管轄外。そもそも,ソニー・コンピュータエンタテインメントとの関係上,AMDが勝手に話すわけにもいかないだろうから,これは仕方のない話でもある。
ただ,AMDが開発してゲームデベロッパへ提供する技術というのが,PlayStation 4をはじめとする次世代ゲーム機を睨んだものである可能性は決して低くないだろう。その意味でもTressFX Hairは注目に値するといえる。
よりリアルな光の表現を模索する
AMDの研究チーム
今回の電話会議には,AMD本社で研究開発部門に所属し,物理シミュレーションを中心としたGPUコンピューティング技術を専門とする原田隆宏氏にも参加してもらうことができた。氏は,「DiRT Showdown」に採用された「Forward+」についても詳しいということで,以下はその話題をお届けしてみよう。
3Dグラフィックスのレンダリングは一般に,(1)ジオメトリデータを渡してジオメトリ処理を行い,(2)ピクセル処理し,(3)描画という一方向のパイプラインで行われてきたのだが,この方法にはいくつかの問題があった。たとえば,動的光源に対応しづらく,動的光源を増やすと描画負荷が高くなりすぎる,といった具合だ。
そんなDeferred Renderingに対し,先ほど(1)〜(3)で示した従来式のパイプライン――「Forward Rendering Pipeline」という――を改良することで,複数の動的光源を扱えるようにしたものが,Forward+である。
具体的にどういう方法になるのかを示したのが下のスライドで,キモは,「まず最初に『頂点データを基にしてZバッファを埋めるプリパス』を走らせる。そしてそのうえで,画面をタイルに分割し,『タイルごとに影響がある光のリスト』を計算して作成する」点だ。
原田氏は,この「光のリストを作成する工程」を「Light culling」(ライトカリング,cullingは一群のなかから不要なものを間引く意)と呼んでいたが,この処理にDirectComputeが用いられているという。
あとは通常のForward Renderingに準じた描画パスを走らせ,ピクセル処理時に「事前計算しておいた光のリスト」を使ってピクセルの陰影を作り出す。Light cullingによって複数の光源それぞれが影響を及ぼす範囲をあらかじめ弾きだしておくことで,動的な複数の光源に対応するのがForward+の特徴というわけである。
Forward+の利点は,半透明体表現など,Forward Renderingの技法がすべてそのまま使えることと,Deferrd Renderingでは,複数のバッファにアクセスしなければならないことからコスト高になるMSAA(マルチサンプル・アンチエイリアシング)を低コストで使えること,そして同じシーンを複数のバッファへ書き出したりする必要がないため,Deferred Renderingと比べてメモリバス帯域幅を食わないことが挙げられる。
というわけで,Forward+の負荷は低いというのがAMDのアピールポイントなのだが,実際に採用されたDiRT Showdownでは,GeForce GTX 600シリーズでフレームレートが上がらないことを確認できている。「負荷が低いはずなのになぜこういう結果になるのか」という疑問を原田氏にぶつけてみたが,氏からは「NVIDIAのGPUではテストしていないので我々には何も言えない」という,当然といえば当然の答えが返ってきた。
ただ,推測はできそうだ。Forward+で両GPUに違いが出るとすれば,DirectComputeの性能しかないと考えられる。Radeon HD 7000シリーズとGeForce GTX 600シリーズを比較したとき,DirectComputeにおける大きな違いが出るのは整数演算や条件分岐で,とくに後者はRadeon HD 7000に対してGeForce GTX 600シリーズは数十倍のペナルティという,極めて大きな違いがある。
Forward+でDirectComputeが多用されるのは,Light cullingの部分だが,GeForce GTX 600シリーズの苦手とする整数演算が主体でないとすれば、条件分岐の遅さが足を引っ張っていると考えていいだろう。
ちなみに,DiRT ShowdownのCodemastersだけでなく,ほかのゲームデベロッパに対しても,AMDはForward+関連の技術供与を行っているという。気になるPlayStation 4に直接言及することは避けた原田氏だが,「次世代(ゲーム機)のGPUは,PlayStation 3世代のGPUよりもALUの性能が上がっているだろう。であればForward+のような手法も視野に入ってくるのでは」と語っていたので,これも次世代ゲーム機の時代で花開く可能性はありそうだ。
ところで現在,AMDの研究チームでは「もう少しリアルな光の表現ができないか試行錯誤している」(原田氏)とのこと。Forward+を用いたAMD製技術デモ「Leo」デモでは,光のリストを用いたVirtual Point Light(VPL)というグローバルイルミネーション技術が使われているが,原田氏は「VPLはやや大雑把な方法」と述べていたので,より厳密な方法の実装を志向しているようである。
そういう技術も将来的にはPlayStation 4をはじめとする次世代ゲーム機に……という期待が持ててしまうわけで,AMD研究チームの動きは単なる技術研究・発表というレベルを超えて,今後,ますます注目する必要が出てくるだろう。
なおAMDは,3月下旬に開催されるゲーム開発者向け会議「Game Developers Conference 2013」で,複数のセッションを持つと発表されている。AMDの動向からはしばらく目が離せそうにない。
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