インタビュー
“余命”をかけて挑んだ作品――「俺屍2」を作った桝田省治氏の原点を探るロングインタビューを掲載
ゲームをしているときの客は「バカ」である
4Gamer:
これは「俺屍」にも通じる部分だとは思うのですが,桝田さんのゲームデザイナーとしての原点というか,素養はどこで培われたんだろうっていうのは,昔から興味深い部分だったんです。やっぱり,さくまあきらさんの影響って大きいものなんですか?
桝田氏:
まぁ,さくまさんからはいろいろ教えてもらったよね。
4Gamer:
具体的にどういう部分ですか?
ん〜。すごく単純に言うと,「お客さんはバカである」ってことかな。ここでいうバカっていうのは,もちろん否定的な意味じゃなくてね。漫画を読んでたり,ゲームをやっているときっていうのは,人間ってそんなに難しいことを考えたくないんだと。そんなことで頭を使いたくないし,“使った気になる”くらいがちょうどいいんだって話で。
4Gamer:
おっしゃる意味はよく分かります。
桝田氏:
僕だってそうだもん(笑)。大人でも,ゲームやってるときっていうのはバカになるんです。あとは,広井さんとかからは“コケおどしまで含めたメジャー感”の出し方とか,そういうものを学んだかなぁ。
4Gamer:
ちなみに,桝田さんがさくまさんや広井さんから学んだことの中で,一番感心したことってなんですか?
桝田氏:
何だろうね。たださくまさんは,すぐに「具体的な人」を出せるんだよ。そこは凄いなと思う。
4Gamer:
具体的な人?
桝田氏:
さっきの話で言うなら,例えば「バカな人」だね。
4Gamer:
……それはもしかして,どんちゃん(井沢ひろしさん)ですか?
※井沢ひろし:編集者,漫画原作者,構成作家。「どんちゃん」のペンネームで「ジャンプ放送局」にハガキを投稿していたことがあり,その縁でさくまあきら氏と知り合い,「桃太郎伝説」「桃太郎電鉄」シリーズの制作にも関わった。
桝田氏:
そう。よく分かったね(笑)
4Gamer:
「俺の屍を越えてゆけ」ってタイトルの発案者ですよね。
桝田氏:
どんちゃんが「俺屍」で関わってるのはタイトルだけだけどね。まぁでも,さくまさんがどんちゃんを連れてきた時のことは,めちゃくちゃインパクトあってよく憶えているよ。
4Gamer:
何があったんですか?
桝田氏:
いや,さくまさんが「これからこいつにファイアーエムブレムをやらせるから,よく見てろよ」って言うんだよ。そうしたら,ほら,あの羽の生えた白い馬に乗ったお姉ちゃんがいたじゃない。他よりもいっぱい移動できる人。
4Gamer:
「シーダ」ですか?
かな? どんちゃんは,あれをブワーッと進めさせて,わっと敵に囲まれて,すぐにやられちゃうんだよ。んで,「あー! やられた!」とか言ってリセットして……また同じことをやるんだよ(苦笑)
4Gamer:
ははは(笑)
桝田氏:
で,それを何度か繰り返しているうちに,たまたまHPが残ったことがあってさ。そしたらどんちゃんは,「よし!」とかって言いながらようやくゲームを続けるわけね。それを指して,さくまさんが「いいか,これが小学生だぞ」って言って。
一同:
(爆笑)
桝田氏:
あれはねぇ,とても説得力があった。ああいうのは“本物”を見ないとなかなか分からないからね。まぁ,早稲田大学まで行ってる奴を捕まえてやることか?とは今でも思うけど(笑)
未知数の塊のような,ケダモノのような人材
4Gamer:
そういえば,公式サイトで掲載されている制作日誌「続編への道」で,「会議は桝田塾の様相を呈してきた」みたいな記述があったんですけど,桝田さんって,会議ではどういったことを話されているんですか?
いや,それこそ僕がさくまさんに教えてもらったようなことを言ってるだけだよ。「いろんなお客さんのことを視野に入れなさい」とか「実際にそれが画面に載ったときにどう見えるか考えなさい」とか,あるいは「そういう状態にするために客は何回ボタンを押してるか考えなさい」とかね。だから,要するに「部品だけ考えないで,全体を見る習慣をつけなさい」……みたいなことを言うわけだよ(笑)。
4Gamer:
これも昔から不思議だったんですけど,例えば,会社に所属しているディレクターだったら,自分のチームを率いていたりして,その場で直接指示を出したりをするわけじゃないですか。
桝田氏:
まぁ,そうだね。
4Gamer:
でも,桝田さんは,これまでもそうですが,ずっとフリーのゲームデザイナーという立場で仕事をされてますよね。桝田さんの仕事の仕方といいますか,現場の開発スタッフとは,どういう距離感でやり取りをしているんですか?
桝田氏:
うーんとね。今回の「俺屍2」に関していえば,最初の「俺屍」を一緒にやってた人達がみんな成長していて。それこそ,当時の新入社員だった人がリーダーとかやってるんだよ。僕は昔,1年くらいアルファ・システムがある熊本に住んでいてさ。その間は,彼らと一緒に飯を食ったりしてたわけ。そうすると,いろんなことを話したり,教えたりってことをするわけじゃん。だから,今回はそれなりに意思疎通の土台みたいなものはあって,その連中に「だよねー」って言ってれば,大抵のことはやってくれたよ。
4Gamer:
桝田さんって,いわゆる仕様書は書かれますよね? そこに細かい指示とかを入れたりするタイプなんですか? 桝田さんは,どういう風に資料を書いているんだろうというのも興味深くて。
桝田氏:
「僕はこういうことをやりたい」っていうのをまずキチンと書く。で,こういうことをやるためには,こういう方法論でやるのが効率がいいと思う。けれども,もっと計算式を短くしたりだとか,管理が楽な方法があるのであれば,上記の「ここをやりたい」の部分がズレなかったら別の方法を考えてくれてもいいよって言って出してます。
4Gamer:
いや,さっきのお話と被るんですが,桝田さんのゲームってとても“軸”がしっかりしていると思うんですけど,どうしてブレないのかが不思議なんですよね。
桝田氏:
不思議? いや,僕だってちゃんとプログラマーが喜んでくれるような仕様書は書いてるよ!(笑)
4Gamer:
ああ,すいません。別に書いてないって意味ではなくて……。でも,“外部の人”である桝田さんは,ゲーム制作時における“求心力”をどこで維持しているんですか?
桝田氏:
うーん。別にそこまで意識しているわけじゃないんだけど,聞かれたことには全部答えるようにはしているよ。で,ちゃんと相手に納得してもらう。
4Gamer:
なるほど。……でも,それが1番難しいですよね。
もちろん,僕も全然完璧じゃないんだけどね。でも,聞かれたことにちゃんと答えることによって,僕はこういう風に考えてて,こういうやり方をしたいと思ってるみたいな話はきちんとしてる。で,さっきも言ったように,でもほかにもっといいやり方があるんだったら君の話も聞くよって。そんな感じだよね。あとは,自分の中で固まってない部分についてもちゃんと伝えて,「僕はこう考えているけど,こういう欠点もあるから,そこを解決してくれるとありがたい」みたいな話も結構する。
4Gamer:
ふむふむ。
桝田氏:
「俺屍2」では,そういう未定の部分についても,アルファ・システムの若い連中がいろいろ考えてくれてさ。まあ,正直なことを言うと,アイデアなんて10個に1個ぐらいしか役に立たないんだけど。それでもね,10個に1個でも使えるものがあれば,すごく助かるんだよ。
4Gamer:
アイデアを10個出すのがそもそも大変ですからね。議論や駄目出しだけじゃなくて,ちゃんとアウトプットを出すのは大事ですよね。
桝田氏:
その意味で言うとさ,アルファ・システムの連中が結構成長してたっていうのは,「俺屍2」の開発で素直に感心した部分なんだよね。もちろん,伸びてないと思ったら違う方向に凄い伸びてたりだとか,伸びてると思ってた人が任せてみたら駄目だったとか,そういうのはあったけど。でも,みんな成長したよなぁって思ってさ。「俺屍」を作ってた頃っていうのは,ちょうど芝村(※)とかが新入社員として入ってきた頃なんだけど。
※芝村裕吏(しばむらゆうり):ゲームデザイナー。アルファ・システム在籍時代に「高機動幻想ガンパレード・マーチ」の開発に携わり,同作の基礎設計を担当した。桝田氏とは,その後の「暴れん坊プリンセス」の開発で関わっており,同作の戦闘システムなどを担当した。近年は小説「マージナル・オペレーション」などで作家としても成功を収めており,活躍の幅を広げている
4Gamer:
それは……とても“濃い”新入社員ですね。
桝田氏:
いやぁ,実際,あいつが新入社員として入ったときってさ,アルファ・システムの役員連中が妙な自慢をしていたんだよ。
4Gamer:
自慢?
桝田氏:
「アルファ・システムも,ついにああいう人材が採れる会社になったんだ!」って自慢を(笑)
4Gamer:
それはどういう意味ですか(笑)
桝田氏:
つまりね。それまでのアルファ・システムが採ってきた人材っていうのは,「こういうことができるだろう」とか「1年経ったらこういう風に成長しているだろう」みたいな,ある程度“読める”というか,どちらかというと無難な人材を中心に採用していたんだよ。
4Gamer:
なるほど。小さい会社だと,なかなか採用で失敗もできませんからね。
桝田氏:
なんだけど,芝村って男は,そういうのがまったく読めない人材でさ。「ああいう未知数の塊のような,ケダモノのような人材を採れるだけの余裕を,持てる会社になったんだ」って,アルファ・システムの連中がとても誇らしげに語っていて(笑)
一同:
(笑)
桝田氏:
飯を食いながら,「ふうん。そうなんだ」って思いながら聞いてたことをよく憶えてるな。
自分の見つけた面白さがちゃんと伝わるか。期待半分,不安半分
4Gamer:
しかし,「俺屍2」もそうですけれど,コンシューマゲームの制作みたいな規模の大きなプロジェクトで,中心となるべき人間が外部にいるっていうのは,いろいろと難しい面も多そうだなと思うんですけど。やりにくい部分とかってないものなんですか?
桝田氏:
これまでとくに困ったことはないよ。というか,僕はゲーム会社に入ったことはないから,その辺のことはよく分からないな。
4Gamer:
でも,いわゆる有名なクリエイターさんが自分で会社を立てて,チームを率いて制作に当たるってケースは多いじゃないですか。桝田さんはそういうことを考えたことはないんですか?
桝田氏:
組織を維持するのは大変だからなぁ。
4Gamer:
とはいえ,フリーの立場で「俺屍2」みたいな大きなプロジェクトを回すのは,それはそれで大変じゃないんですか?
桝田氏:
別にプロジェクトの大きい小さいは,僕はあんまり考えないからね。ただ,自分が立てた仮説を試してみたい,それに対してお金がかかる場合があると,関わる人が増えるってだけの話でさ。
4Gamer:
著書の「ゲームデザイン脳」では,経験してきた失敗についてのお話もされていましたよね。「俺屍2」のプロジェクトでは,何かその反省を踏まえて……みたいな部分ってあったんですか?
桝田氏:
んー,1番は,やっぱり「ちゃんと話をしよう」ってことかな。
4Gamer:
ああ,なるほど。
桝田氏:
それをやっても失敗するときは失敗するんだけどね。でも,そこをキチンとやれば“くだらない失敗”はしない。いろんな人と密にやり取りをして,「俺はこう思うけど,お前はどう思う?」っていうのをちゃんとやるのが大事かなと思う。
4Gamer:
そこをキチンとやれば,仮に失敗したとしても理由は見えたりしますしね。
桝田氏:
あとは,なんだろうね。自分が見てるビジョンを,どれぐらい具体的な嘘をつきながら言えるか,かな。
4Gamer:
嘘をつく?
桝田氏:
だって,これから作るものなんて,誰も見たことがないわけじゃん。例えば,「俺屍2」の話でいえば,発売日にTwitterで皆が自分の娘自慢をしてて!とか,きっとある人はそれで1000人フォロワー増えて!――みたいなさ。企画を立てて周りを口説くときっていうのは,そんな嘘ばっかり言うんだよ(笑)
4Gamer:
ははは。
でも,そういう具体的なビジョンを伝えることで,その仕様がどんなものかイメージが湧くんだよね。実際,それをやるためにはどういう仕様(システム)が必要か/最適かって部分は,僕よりもうまくやれる人がアルファ・システムとかにはたくさんいるから,そこは彼らに任せてしまえばいい。とにかく,まずビジョンを正確に周りに共有させることが大事なんだ。
4Gamer:
桝田さんは,今後,自分が作れるゲームはせいぜい3〜4本で,“満足できる作品”はそのうち1〜2本になる。だから「俺屍2」は,その“満足できる作品”の一本にしたい,みたいな話をされていましたが,「俺屍2」の“手応え”はどうだったんですか。
桝田氏:
ああ。その意味でいうと,「俺屍2」って,クリアまでを1よりもずっと簡単にしたんだよね。僕の中では,シナリオが終わったあたりがちょうど折り返し地点くらいの感覚で。「俺屍2」で用意したシステムが全部解放された状態で遊べるようになるのは,ゲームをクリアしたところからなんだ。
4Gamer:
へえ。
桝田氏:
もうちょっと分かりやすく言うと……えっとね,「リンダキューブ」って遊んだことある? ちょうど,あんな感じなんだけど(笑)
4Gamer:
つまり,途中からシナリオじゃなくてシステムで引っ張る形になると?
桝田氏:
そうそう。「リンダキューブ」って作品は3章立てになっていて,1つめと2つめはシナリオで引っ張って遊ばせて,プレイヤーさんを世界中連れ回すような作りなんだけど,3つめには大したお話が入っていなくて,その代わり行ける場所が増えて,掴まえられる動物がドカっと増えてって感じになっている。ゲームとしては,ある意味,そこからが本番だったじゃない。
4Gamer:
はい。
桝田氏:
「俺屍2」もそんな感じで,途中からシナリオで引っ張らない状態になる。なので,その時に僕が作ったシステムがどのくらい機能するのか,どのくらい遊べるものなのかっていうのが,期待半分,不安半分って感じなんだ。
4Gamer:
以前にお話を伺ったときにも思いましたが,桝田さんにとってのゲーム制作は,やっぱり自分が見つけた面白さや考えた仕掛けに対して,みんながどう反応するのかを見るのが楽しい,みたいな。そういう部分に集約されるんですね。
桝田氏:
そうだよ。そこは常にある。新しい面白さっていうものを,自分では見つけたつもりだし,それをプレイヤーさんに分かりやすい形で提示してみせたつもりなんだけど,ちゃんと上手く伝わるだろうか? あるいは,その面白いと思っていたものは,皆が共感できる普遍的な面白さだったんだろうか?――というね。ゲームの発売日というのは,3年間くらいかけて頑張って作って,それがやっと分かる瞬間なんだから,結構ドキドキするんだよ(笑)
4Gamer:
そろそろお時間なので,最後に4Gamerの読者,あるいはプレイヤーさんに向けて,一言お願いします。
桝田氏:
いや,さっきの奴でいいよ。僕自身は,ゲームをクリアした時が折り返し地点だと思っているから,その後の部分がちゃんと遊ばれるといいなって思ってますって感じで。頑張って作った作品だから,ぜひ多くの人に遊んでもらいたいな。
4Gamer:
分かりました。今日はありがとうございました。
――2014年6月25日収録
初代「俺屍」から15年。長い年月を経て,なぜ「俺屍2」という作品が生まれ得たのか。その背景を探れればと思い挑んだ,今回のインタビュー。
初代「俺屍」に関わったSCE側のメンバーをはじめ,プロジェクトを形にすべく動いた多くの人間の熱意と働きかけ,そして何よりも,生みの親である桝田氏自身の長年に及ぶ取り組みがあったからこそ,この「俺屍2」という作品は日の目を見たのではないか。そう感じられた取材であったように思うが,いかがだっただろうか。
その語り口からも分かるように,桝田氏は,とても飄々(ひょうひょう)とした雰囲気を持つ人物である。口では「たまたま,プロジェクトが動いた」といった体のことを言う一方で,断られながらも何度もSCEとの交渉を行っていたり,何年もかけて「俺屍2」制作に向けてのアクションを根気強く続けていたあたり,桝田氏自身が「俺屍」というものに相当なこだわりをもっている(当たり前だが)のは確かであろう。
もちろん,熱心なファンの存在や,時間が経つに連れ高まっていった知名度/ブランド価値――そういったものがビジネス的な判断の後押しをしたことは間違いない。しかし,やはりそれだけでは作品は生まれ得ない。本作は,桝田氏の粘り強い地道な努力があって,初めて日の目を見たタイトルなのではないかと思う。
そんな桝田氏が“余命”をかけて挑んだ「俺屍2」は,前作の不満点を解消し,ブラッシュアップが図られた内容になっている。コアなファンの期待に応えるのは並大抵のことではない。しかし,本作がそうした難しさを踏まえつつ,“これから始めてみたい人”にとっても丁寧に作り込まれた作品であることは確か。ファンだけではなく,ぜひ多くの人に遊んでみてほしいと思う。
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