インタビュー
「ネットとリアルの和解」がニコニコ超会議の役割――ニコニコ超会議2の総括をする「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第11回
ニコニコ動画のメディアとしてのあり方
4Gamer:
社会的役割って意味でいうと,川上さんは,そもそもニコニコ動画やニコ生の“メディアとしてのあり方”についてはどう考えているんですか?
川上氏:
うーん。一言でいうと「判断をしない」ってところに尽きますね。
4Gamer:
判断をしない?
川上氏:
例えば,「ニコニコはメディアとして考えと責任をちゃんと持つべきだ」っていうのは,いわゆる普通のジャーナリストみたいな人からは非常によく批判される部分なんですよ。簡単に言うと,「この人の意見は偏ってるんだから,公式放送に出演させるな!」みたいな話なんだけどね。
横澤氏:
はいはい。
川上氏:
でも,僕はニコニコ(ドワンゴ)はそういう判断をすべきではないと思っているし,まして社説みたいなものをやるつもりもまったくないんだよね。
4Gamer:
フラットであるべき,ということですか?
うん。だから僕らが今までやってきたことって,その人が本当に正しいのかどうかは別にして,少なくとも聞く価値があるだろうと思える人で,かつ発言が邪魔されている人。そういう人に発言の機会を作ってみようってことだったんだよね。堀江貴文さんにしたってそうだし,小沢一郎さんもそうで。他の媒体が「出さない」と判断した人であっても,僕らまでそれに同調するのは,なんか違うんじゃないかって。
横澤氏:
堀江さんなんかは,最初はネット上でも批判の嵐でしたよね。でも,堀江さんの生の声が浸透するにつれて,結構ネット側の空気も変わっていきました。
川上氏:
堀江に発言させるな!って批判は実際かなりあったんだけど,僕らは,意図的に批判に対しては鈍感になったんです。ただ,別にね。じゃあニコニコ動画(ドワンゴ)が堀江さんや小沢さんを応援しているのかっていうと,そういうことじゃないんだよね。僕にしたって,堀江さんの主張に全部賛同しているのかっていったら,全然そんなことはないし。
4Gamer:
ドワンゴ自体が価値判断をしないことが重要だってことですよね。
川上氏:
僕は「この人は間違ってるから,一切発言させるな!」っていうようなことは,それは違うんじゃないかって思うのよ。だって,それが本当に正しいかどうかなんて分からないもん。
4Gamer:
まぁただ,その情報を取捨選択するって部分が媒体の価値になっている場合もありますよね。今で言うキュレーター的な役割といいますか。
川上氏:
そうそう。情報の取捨選択をするなって話でもないんですよね。そういう判断能力があるメディアだったり,ジャーナリストっていうのは世の中にたくさんいるわけですから,そこはそういう媒体/人がやればいいと思うんです。でも,僕らはプロじゃないから,判断ができないし,しちゃいけない。むしろ,何も考えずに情報を出していくっていうか,ニコニコってそういうポジションであるべきだと思うんですよ。
4Gamer:
レガシーなメディアの話をすると,紙にしろ電波にしろ,掲載できる情報量に物理的な制限がありますよね。だから,そのなかでやりくりしようとすると,どうしても情報の取捨選別をせざるを得ない。で,その選別を人がやる以上は,そこに方向性というか,色というか,恣意的なものが自然と含まれちゃうってのはあるのかなと思います。
川上氏:
でも,それが形式的になって,形骸化するわけだよね。
4Gamer:
そうですねぇ。あとアメリカでは,「通信社」と「新聞社」って役割分担が非常に明確になっていて,通信社はひたすら情報のみを伝える仕事を中心にしている。一方で新聞社はその情報を分析したり,批評したりって形になっているんだけど,日本だと,そこの切り分けがかなり曖昧だみたいな話もありますよね。
川上氏:
そうだねぇ。
4Gamer:
アメリカの新聞社って,そういう役割分担の構造が背景にあって読み手も絞られているから,深い(難しい)記事でも届きやすいと思うんですよ。一方で,日本の新聞って,数百万部〜1000万部みたいな規模だから,どうしても想定する読者層が絞れない。日本の新聞で簡単な記事が主流になっているのにはそういう事情もあるのかなと。
あべちゃん:
なるほどなー。
川上氏:
その話でいうと,僕らが選んだ回答っていうのがブロマガってやつでさ。要するに,選別された情報っていうものを,ユーザーが選べて,なおかつ,情報の出し手にお金が入るような仕組みを準備しようっていうのが,ブロマガの狙いだよね。ニコニコ自体はフラットに情報を出していくから,選別したり批評したりっていうのはそっちの方でやってくれと。
4Gamer:
ブロマガの書き手で,それなりの収入を得ている人ってどのくらいいるんですか?
川上氏:
有料の読者が1000人以上付いてるブロマガは,確か20以上はいると思う。いや,もっといたかな?
あべちゃん:
ブロマガ全体のユーザー数はどんな感じなんですか?
川上氏:
今は,5万5000人ぐらいかな?
あべちゃん:
結構多いですね!
川上氏:
え,少ないよ? こんなんじゃまだまだぜんぜん駄目です。
4Gamer:
まぁでも,ニコニコってある種の通信社的なポジションなんだってことですね。4Gamerとかですらそうなんですけど,メディアの色付けというか,メディアが情報を選別するのって,それが良さでもある一方で,足枷にもなるんですよね。
川上氏:
僕は,多様性ってとても大事なことだと思うから,そこを大切にしたいんですよね。ニコニコはニコニコだけできることをやればいい。他のメディアと違ったほうがいいんですよ。
この時代に面白い会社を作りたい
4Gamer:
そういえば,以前に公式放送とかのガイドラインがないって話を聞いて,びっくりした記憶があるんですけど,今もガイドラインとかってないんですか?
川上氏:
うん,ない。
横澤氏:
物理的なガイドラインとかはありますけどね。仕様のガイドラインというか。でも「こういう番組を作っちゃいけない」みたいなガイドラインはないです。
4Gamer:
じゃあ,これはまずいだろみたいな判断は,具体的にどういう基準で行うんですか?
横澤氏:
単純に危ないとか,そういう基準ですよね。
川上氏:
あとは,法律に触れるのはやめようっていうくらい?
あべちゃん:
ああ,でも。そういう話でいうと,どこからどこまでOKなのかっていうのが僕もよくわかってないです。例えば,「×××」って言ってもいいんですか?(笑)
川上氏:
いいでしょ。
横澤氏:
問題ない。
4Gamer:
ああ,いいんだ(笑)。
川上氏:
言葉狩りみたいなことは,僕は極力ない方がいいと思うんですよ。サイトが大きくなればなるほど,ルールを作れっていう圧力が強くなっていくと思うんだけど,それに対してどこまで抵抗できるのかっていうのが,ニコニコのユニークさを保つための大きなポイントで。
横澤氏:
でも,お客さんの方がルールを作れっていう人が多いですよね。
川上氏:
なんというんだろ。ルールを作らないってことを「逃げてる」って思っている人って多い気がするんだよね。でも,そうじゃなくて。僕らは,むしろ「覚悟を決めて,作らないことにしている」わけで。
4Gamer:
ああ,分かります。むしろ,ルールでガチガチに縛った方が“運営的には楽”なんですよね。
川上氏:
そりゃそうですよ。ルールを作らないっていうのは,想定外のことが起こることを許容するってことですからね。リスクもあるし,その都度判断しなくちゃいけないから,対応コストが掛かるんです。
4Gamer:
運営マニュアルみたいなものをきっちり作ったりするだけの組織力がある一方で,そういうルールはあえて作らない。そこに,ドワンゴの面白さというか,ユニークさがあるのかなって気はするんですけど。
川上氏:
ルールって何のため?ってことだと思うんですよ。それが面白くなるためのルールだったら作ってもいいと思うんだけど,なんか大抵の場合は,「面倒が起こらないためのルール」じゃないですか。そんなものを作っても面白くないですよね。
横澤氏:
でも,組織が大きくなっていくにつれて,社員からルールを求める動きも強くなっていくんですよね。
あべちゃん:
ああ,すでにそうなってますねぇ。混乱するから,みたいな。
川上氏:
放っておくと,みんなルールを作ろうとしちゃうんだよねぇ。
そうしないと仕事が回っていかないっていうのはわかるし,何かが起きた時に,現場の人間が対応できるか,対応したとして,そのリスク(結果)の責任を負えるのかって話なんですよね。
4Gamer:
何か不測の事態が起きたときの対応って,ドワンゴではどうしているんですか?
横澤氏:
大抵は僕とか,上層部側の判断になりますね。だからドワンゴは,上流下流も含めて,コミュニケーションの速度や密度は高い会社だと思います。
川上氏:
ドワンゴって規模の割には,横澤くんの判断であったりだとか,人に依存している割合が大きい会社だと思うんですよね。だから例えば,横澤くんが判断をしなくなった瞬間に,きっと会社の堕落が始まるわけですよ。絶対に混乱するわけ。
あべちゃん:
うんうん。
川上氏:
でも,僕はそれでいいと思ってるんですよね。
4Gamer:
大きな会社の経営っていう意味でいうと,珍しい考え方ですね……。
川上氏:
何かの問題だったり,課題に対して,組織で解決する方法と,人で解決する方法ってあると思うんです。で,普通の会社は組織で解決する方法を選ぶわけですよね。まともな会社は,やっぱりそういう方法を採ると思うんです。だけど……。
横澤氏:
つまんない。
川上氏:
そう。それってつまんないんですよ。僕らは別にね,ソフトバンクの孫 正義さんみたいに100年続く会社を作ろうなんて,これっぽっちも思ってない。そうじゃなくってね,本当に“今,面白い会社を作りたい”んですよ。来年じゃなくて今年,明日じゃなくて今日。今,この時代に面白い会社ってものを,僕は作りたいんですよね。
4Gamer:
なるほど……。
川上氏:
だから,そのための方法論なり最適解が,組織力じゃなくって人に依存するんだとしたら,僕はそれでいいんじゃないかなって考えているんです。
4Gamer:
うーん。いや,この「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」の連載って,もう始めさせてもらってから1年以上経つわけですけど。なぜドワンゴという会社はうまく回っているのか,その秘密を探ろうというのが,僕の中の大きなテーマなんですよね。その意味で,今日のお話では,その理由が一つ分かったような気がしました。
一同:
……。
横澤氏:
ドワンゴってうまく回ってるの?(苦笑)。
あべちゃん:
回ってないでしょ!
4Gamer:
えっ。
横澤氏:
僕らには「うまく回ってる」って意識はまったくないんですよ!
川上氏:
そうそう。本来,ドワンゴってもっといろいろできる会社だと思うんだよね。実際,すごい機会損失をしてると思う。
4Gamer:
えっ。
川上氏:
で,機会損失してる最大の理由はなにかっていったら,やっぱり経営者だよね。だってめちゃくちゃだもん。とくに会長の川上って人をすげ替えると,ドワンゴはもっと飛躍できる会社だと思います(笑)。
(つづく)
川上量生(かわかみのぶお):
ドワンゴ代表取締役会長。1968年,愛媛県生まれ。京都大学工学部卒業後,ソフトウエア専門の商社勤務を経て,1997年に株式会社ドワンゴを設立。携帯電話向けサービス「いろメロミックス」などをヒットさせ,同社を東証一部上場企業へと成長させた。近年では,ニコニコ動画を成功に導くなど,独特の考え方をする実業家として知られる。2011年1月に突如としてスタジオジブリに入社し,プロデューサー見習いとして,鈴木敏夫氏に師事している。
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