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エンターテイメント業界の先にあるものとは? ゲームデザイナーの斎藤由多加氏とドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏によるトークイベント開催
このイベントでは,第15回「文化庁メディア芸術祭」でエンターテインメント部門の審査委員を務めたゲームデザイナーの斎藤由多加氏と,ドワンゴの代表取締役会長 川上量生氏がトークを展開。ニコニコ動画誕生の経緯をはじめ,川上氏のコンテンツに対する思想などに,斎藤氏がズバズバと切り込んだ。
また「The Tower(ザ・タワー)」や「シーマン」など,作家性溢れる斬新なタイトルを手がけてきた斎藤氏自身も,コンテンツ・エンターテイメント業界の現状や未来について,自身の考えを披露した。ここでは,その内容をお伝えしていく。
ドワンゴ・川上量生氏との対談連載
「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」
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斎藤由多加氏 |
川上量生氏 |
イベントは基本的に斎藤氏が話し手となり,川上氏がそれに答える形で進行。まずは,「ニコニコ動画とは何か」というトピックで口火が切られた。
川上氏は,YahooやGoogleといった大手企業が凌ぎを削るインターネットビジネスにおいて,「進化の本流で勝負してもドワンゴは勝てないので,わけの分からないものを作ろう」という狙いの元で作ったのがニコニコ動画だと話す。
もともとニコニコ動画は,「動画とSNSを携帯電話で出来ないか」という思想がスタートであり,携帯電話の動画サービスを作るために,まずPCの動画サイトを作らなければならなかったのだという。
一方でPCの動画サービスは,YouTubeが先行して大きなシェアを獲得をしていたため,ニコニコ動画ならではの魅力的なコンテンツを提供しなければならない。それこそが“わけの分からないもの”だったのだろう。
こうして,ニコニコ生放送などのコンテンツ群が誕生,その狙いは見事に当たり,ニコニコ動画は大成功を収めたのだ。
また川上氏は,「ニコファーレの始まり」についても語った。ニコファーレは「ネット専用ライブハウスを作ろう」という発想から始まっており,とにかく派手なことをやろうというテーマがあったという。ニコファーレの特徴とも言える「全面LED」は,本来ならばネットとは関係ないのだが,最初のうちはそれくらいしかアイデアがなかったため,そのまま採用になったという。
インターネットでエンターテイメントは変わったか?
それは,エンターテイメント全般におけることで,ゲームもその例外ではないという。オンラインゲームやソーシャルゲームといった新たなスタイルのゲームは登場したものの,本質的な変化は起こっていないと続けた。
しかしその一方で,「重さと形のないものにお金を払いたくない」という人間心理についても触れ,書籍を1000円で買う習慣はあるが,デジタルデータの書籍を1000円で買うのは,まだまだ抵抗感を持つ人が多いのではないかと述べる。
にもかかわらず,数万円のハードウェアを買い,数千円の通信料を払うというスタイルが定着しているということは,そこにエンターテイメントのコンテンツ料金が名前を変えて存在しているのではないかと指摘。そして,その結果ゲームの予算組みが,ハリウッド映画のような形態からテレビ番組のような予算組になっているのではないかと話す。
また斎藤氏はゲームに関して,コンシューマゲームとアイテム課金制のゲームは販売スタイルのみならず,ゲームの中身そのものが変わっているという。
斎藤氏は自身の結論として,「インターネットによって,エンターテイメントは変わった」と述べ,コンテンツサイドではなく,お金の動き方が変わったことが大きいと話していた。
ニコファーレの建設場所はどのようにして決まったのか
続いて,「ニコファーレは,なぜヴェルファーレの跡地に生まれたか」というトピックだ。川上氏はニコファーレを建設するとき,10〜20か所以上の場所を見て回ったという。中には,CCレモンホールのすぐ近くの物件もあったそうで,「こんなところに建てられたら最高だな」と思っていたが,結果,諸事情により借りられなかったそうだ。
そんなとき「ヴェルファーレ跡地が借りられる」という情報を耳にした川上氏は,「ここしかないだろう」と即決したのだという。
氏は,この小さな箱の4面にLEDを貼るなんて誰もやらないだろうし,箱が小さければ小さいほど,お金のかかる周辺設備(楽屋やトイレなど)は無駄になると(ほかの人は)考えるだろうと話す。
しかし川上氏は,4面LEDを貼り付け,楽屋等の周辺設備を充実させるなど,その逆をやってみせたわけだ。これは,「お金が合わなすぎて,誰もやらないだろうことをやる」という,川上氏ならではの独特な発想から来るものだ。
斎藤氏はこれを受け,数字上など外見の結果による「ニコファーレの成功や失敗という言葉は,意味をなさないものかもしれませんね」とコメントしていた。
続いては,インターネットゲーム(オンラインゲーム)とパッケージゲームの時間感覚の違いについてを取り上げた。
斎藤氏は,自身の作品「The Tower」のSNS版を例に挙げて,インターネットのゲームは,1人でも他人が介在すると,自分の時間ではなく,サーバーに合わせた時間になってしまうため,常に受け身になってしまうとコメント。斎藤氏はこのことが最大の衝撃だったとして,「時間の違いというのをすごく感じた」と述べた。
川上氏はニコニコ動画のコメントを例に,違う時間にコメントしているのに,一緒に見ているかのように錯覚させるニコニコ動画の特徴を述べた。
しかし,ニコニコ生放送を導入したときには,非同期のコミュニケーションという新しいものが,完全同期のものに「逆戻りしているじゃないか」という指摘を受けたと話す。
これについて川上氏は,ニコニコ動画にアクセスしている人とニコニコ生放送にアクセスしている人の比率は3:1であると,ユーザー数の傾向を発表し,その一方で,コメントの数になるとこの比率が一気に逆転して,生放送のコメントが,ニコニコ動画の3倍もの数になるということを明らかにした。
この結果から川上氏は,別々の時間にコメントしていても,同じ時間を共有しているような感覚がニコニコ動画のウリではあるが,繋がりたいという欲求そのものを満たすのに最適なのは,やはり生放送なのだと結論づけた。
この後も,「日常化するエンターテイメント」,「ネットサービスの革新」,「ニコニコ動画/ニコファーレをもっと飛躍させるには」などのテーマを中心にトークは進んでいった。最後は,来場者による質問コーナーも設けられ,盛況のうちにイベントは幕を閉じた。
「ニコニコ動画(原宿)」
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