企画記事
大人気の「人狼ゲーム」を徹底解説する集中連載「特集:人狼」。本日スタートの第1回は“人狼ゲームカタログ”で,その歴史と広がりを再検証
「人狼」というアナログゲームがある。
日々ゲームを遊んでいる4Gamer読者であれば,ボードゲームを遊ばない人でも,その名前くらいは聞いたことがあるのではないだろうか。昨年2013年は,まさにこの人狼ゲームが大きく注目された年だった。入門者向けのカードセットからさまざまなバリエーションまで多種多様な関連商品が発売され,YouTubeやニコニコ動画などでも,ゲーム実況動画として定番のジャンルとなった感がある。
ゲームジャンルの垣根を越え,ブームになったアナログゲームはこれまでにも幾つかある。「カタンの開拓者たち」や「マジック:ザ・ギャザリング」,あるいは「ドミニオン」がそうであったように,人狼ゲームもまた,そうしたアナログゲームの一つということもできるだろう。ただ,それらと少し違うのは,人狼ゲームが決して“新しいゲーム”ではないということだ。発祥を辿れば,人狼はかなり歴史あるゲームといえる。そんな言ってしまえば古いゲームが,なぜ今ここまで流行するに至ったのだろう。
今回4Gamerでは,その人気の理由を改めて考えるため,全3回にわたって人狼ゲームを取り上げ,さまざまな角度から考えてみることにした。なお本稿では人狼のことを人狼ゲームと称する。第1回目となる今回は,人狼ゲームのたどってきた歴史と,現在入手が可能な関連商品について紹介してみたい。人狼ゲームはかなりやり込んでいるという猛者から,興味はあるんだけど未プレイだという人まで,ぜひ注目していただければ幸いだ。
■関連記事
- なぜ今,人狼がブームなのか――人狼ゲームの魅力に迫る集中連載「特集:人狼」。第2回はキーマン達に聞く,流行のきっかけと広がりの理由
- 戦い続ける村人達に贈る集中連載「特集:人狼」。最終回は,脱・初心者を目指す人に守ってほしい“15の法則(セオリー)”
そもそも人狼とは
まずは人狼ゲームについて簡単に紹介しよう。各作品によって細かい差異はあるが,大まかなルールとしては以下のようなものだ。
とある村の住人となったプレイヤー達の前に,死体が一つ発見されるという状況からゲームはスタートする。どうやら村人の中に,人間のふりをした凶悪な人狼が紛れ込んだらしい。善良な人間のように見える「村人」(プレイヤー)達だが,この中から「人狼」(犯人)を探しだし,処刑しなければ村の未来はない。
実際のゲームは,昼のターンと夜のターンを交互に繰り返しながら進行していく。
昼は村人達が議論を行い,その後にそれぞれ怪しいと思う村人に投票を行う。結果,最も得票が多かったプレイヤーは処刑され,ゲームから脱落する。
夜のターンは,基本的に人狼のみが行動する時間だ。全員が目を伏せたのち,人狼役のプレイヤーだけが起き上がって,特定の村人一人を食い殺す。人狼に狙われ,殺されたプレイヤーもまた,その時点でゲームから脱落する。
これを繰り返すことで,村からは少しずつ村人が姿を消していくわけだが,村人達もただ手をこまねいてそれを見ているわけではない。村人の中にも少数だが特殊な能力を持った者がいて,彼らがもたらす情報を元に人狼を追い詰めていく。例えば「占い師」なら,毎夜に一人を指定することで,その人物が人狼か否かを知ることができる。「ボディガード」であれば,毎夜に一人を指定することで,その人物が人狼に狙われた場合,襲撃を失敗させられる……といった具合に。
最終的には,生き残っている村人プレイヤーが,人狼プレイヤーの人数以下になれば人狼側の勝ち。
逆にそうなる前に,人狼プレイヤーを全員処刑できれば村人の勝ち,というわけだ。
人狼側となったプレイヤーは,嘘をついて村人のふりをし,昼間に行われる議論のミスリードを目論む。村人側は論理と直感を駆使して,人狼の嘘を見破っていく。推理やハッタリをスパイスに,真相に近づいていく過程を楽しむゲーム,それが人狼なのである。
とは言うものの,人狼ゲームの楽しさは,文字だけでは伝えきれない部分も多い。幸いなことに,YouTubeやニコニコ動画には,人狼ゲームの解説動画,プレイ動画が多数掲載されている。以下には,4Gamerオススメの動画を幾つか紹介しているので,人狼ゲームがどんなものか知りたい人は,それらを観てみるのが一番早いかもしれない。
もちろんこのほかにも,数多くのプレイ動画などがあるので,興味のある人はぜひ自身で探してみてほしい。
人狼ゲームの誕生
では,人狼ゲームはいったいどこで生まれ,どのようにして日本で広まるに至ったのだろう。人狼ゲームの源流は,ヨーロッパの伝統ゲーム(日本で言えば“かるた”や“将棋”など)であると言われている。ドイツや東欧で,長い冬の間に集まった家族や親戚などで遊ばれていたものらしい。現在のような専用カードなどはなく,くじなどで鬼を決めたあとは,その鬼が何らかの方法でメンバーを「殺して」いくという,いわゆる「ウィンクキラー」※に近いものだったと考えられている。
※「ウィンクキラー」……こっそり決まった鬼を探す伝統ゲーム。輪になって座り,鬼からウィンクされると死んでしまう。生き残った者が鬼を見つけ出せば勝ち。鬼は一定人数を殺すことができれば勝ち。鬼を指摘して外れだったら死亡するなど,ルールは地方により異なる。
この伝統ゲームが近年になってから,ロシアでゲーム化される。マフィアと市民の抗争という形を取ったこのゲームは,そのものズバリの「Mafia」というタイトル名で,1990年頃に発売された。そのため欧米では,人狼という呼び名よりも,このMafiaという名前の方が現在も通りが良いようだ。
ちなみにこの時点では,役職は「村人」「人狼」「占い師」の3種類だけとかなりシンプルで,そのほかの役職が登場するのは,後の「デュスターバルドの人狼」(現「ミラーズホロウの人狼」/2001年発売),あるいは「タブラの人狼」(2002年)を待たなければならない。この2作では,「村人」「人狼」「占い師(予言者)」「ボディガード」「霊媒師」「狂人」といった,現在の主要な役職がすでに勢揃いしている。
こうして人狼ゲームは,コアなボードゲームプレイヤー達を中心に,新しいパーティーゲームとして迎えられることになった。7名から20名ほどの人数で,小一時間遊べる,イベント向きのゲームであり,心理的な正体隠匿ゲームの面白さが歓迎された。
人狼ゲームは正体を隠匿したうえでの推理ゲームであるため,遊ぶためには必然的に全員の名前を確認することになり,またコミュニケーション要素も強いため,初対面のグループがお互いを知るためにも,なかなか便利である。アナログ系ゲームサークルやテーブルトークRPGのコンベンションなどでも,2000年代初頭には頻繁にプレイされていたようだ。
その後,より多人数で遊べるようにするため,推理を混乱させて運の要素を高める役職や,死亡率を上げてゲーム進行を加速する役職が追加されていき,やがてコアなファン達の手によって,役職の多さがウリの「究極の人狼」のような作品が誕生していくのである。
■「人狼」ゲームの主要な役職
※同じ能力の役職にさまざまな呼び方があるため,ここでは「タブラの人狼」に準拠し,そのほかのゲームでの代表的な名前も併記する。
- 「村人」:特に能力のない大多数のプレイヤー。「市民」ともいう。
- 「人狼」:密かに村人になりすまし,毎晩,誰かを食い殺す怪物。
- 「予言者」:毎晩,誰か1人が人狼か村人かを占うことができる。村人側の推理の中核を担うが,それだけに行動が難しい。「占い師」「預言者」とも。
- 「ボディガード」:護衛役。毎晩,誰か1人を人狼の襲撃から守ることができる。「騎士」「狩人」「戦士」などの別の言葉が当てられることもある。ゲームによっては,同じ人を二晩続けて守れないなど,制限がある。
- 「霊媒師」:死者の声を聞く者。夜の間に,前日殺された人物が「人狼」かどうかを知ることができる。「予言者」に次ぐ重要な役割だが,人数が少ない場合にはいない場合もある。「霊能者」とも訳される。
- 「憑依者」:村人ではあるが,人狼側が勝利することで,自らも勝利となる。一般的には「狂人」と呼ばれることが多い。「裏切り者」とも。
■追加された役職の例
- 「フリーメイソン」:秘密結社員。プレイ人数が多い場合に,二人組でゲームに投入される。「村人」のバリエーションで,お互いが正体を知っている。秘密結社員ではイメージが湧きにくいためか,日本では「共有者」と呼ばれることが多い。
- 「ハムスター人間」:村人側でも人狼側でもない第三勢力。ゲームの最後まで生き残ることで勝利となる。「人狼」に攻撃されても死なないが,「占い師」に占われると死んでしまう。「妖狐」「吸血鬼」などに置き換えられることも多い。
- 「ハンター」:「狩人」とも。2パターンあり,「人狼」に殺されると反撃して相討ちになる。あるいは,自分が喰われるか処刑されるかしたときに,誰か1人を選んで道連れにして殺す。
- 「一匹狼」:人狼だが,人狼陣営には属しておらず,お互い誰が犯人であるか分からない。人狼陣営とは別に,誰か一人を殺すことができる。非常に人数が多い場合などに,一夜の殺戮数を増やすために追加される。「吸血鬼」などほかの名前であることも多い。
- 「村長」:役職カードを公開してよい役職。昼に処刑する人を決めるとき,2票の投票権を持つ。「市長」「王様」「領主」などとも。村人陣営であることが保証されるので,議論の進行役として重宝される。多人数戦に入れるとゲームの進行が早くなる。
- 「占い師見習い」:「占い師」が死んだ後,その役職を引き継ぐ。「占い師」が誰かを知っている。多人数版では,「霊媒師」にも同様の見習いが生まれることがあり,あるいはゲーム中に1度だけ占いを行使できる能力を持つ場合もある。
- 「タフガイ」:夜に襲われた場合に即死せず,襲われた事実を持って翌日の議論に参加できる(襲われたことを知らないパターンもある)。ただし,その日の議論の終了と共に死亡する。
人狼ゲームの普及
一方,人狼ゲームが初めて日本に紹介されたのは,2000年代の前半頃だった。先にも登場した「デュスターバルドの人狼」や「タブラの人狼」といったタイトルが,輸入ゲームとしてコアなアナログゲーマーを中心に遊ばれていたと同時に,インターネット上で遊ぶチャットゲームとしても,流行の兆しを見せ始めたのだ。テキストチャットさえ可能ならプレイできる人狼ゲームは,日本においてはむしろネット上のほうが人数を集めやすく,親和性が高かったということだろう。
その後,人狼ゲームは三度のブレイクを見せる。
第一は,UO人狼から程なくして生まれた,インターネット上の掲示板を使った人狼ゲームの普及だ。専用の掲示板を用いたこのシステムは,本来必要な司会役(ゲームマスター,以下GM)の仕事の大部分を自動的に処理してくれるため,気軽にプレイできる。各プレイヤーも,それぞれコマンドを入力するだけで,簡単に投票などのアクションが行えることから,ネット上で楽しめるフリーゲームの一種として流行した。
この,いわゆるネット人狼は,プレイスタイルもカードゲーム版の人狼ゲームをチャット感覚で遊ぶ短期決戦型から,ゲーム内の1日が,リアルタイムの1日くらいのスピードで進行するターン制のものまであり,バリエーションが豊かである。また,匿名性の高い掲示板であることと,会話に集中できるシステムであることから,自分のキャラクターになりきって遊ぶ“なりきりプレイ”にも適していて,そういった面でもファンを増やしていった。
普段からボードゲームやテーブルトークRPGなどを遊んでいるアナログゲーマーとは別の,純粋な人狼ファン達が生まれはじめたのもこの時期だ。彼らが繰り返し遊ぶなかで,現在も使われる,さまざまな定番戦術,人狼用語などが,2005年前後のこの時期に確立されていった。ちなみにこの当時から人狼ファンの女性比率はかなり高かったようである。
第二のブレイクは,スマートフォン用アプリとして人狼ゲームが多数登場してきた,2011年頃だ。これらの人狼アプリは,主にGMの補佐をする機能を持っており,1台のスマートフォンにアプリをインストールしておけば,カードがなくても人狼ゲームを遊ぶことができる。リアルで遊ぶ人狼ゲームでは,GMに負担がかかりがちで,それがプレイのハードルを引き上げている部分があった。その点アプリ版ならば,画面の表示に従ってゲームを進めていけば,GMなしでゲームを進行できるので,この便利さがリアルで遊ぶ人狼ゲームの裾野を一気に広げたのだ。
その結果,スマートフォンの保有率が高い高校生や大学生,あるいは若い社会人層のコミュニティを中心に,人狼ゲームは市民権を得ていくことになる。
Twitterなどで検索すると,今では学校の部活や職場の集まり,あるいは合コンなどといったさまざまなシチュエーションで,人狼ゲームが遊ばれている様子を見ることができるだろう。さまざまな定石や論理に基づいて進行するネット人狼とは違い,リアルで行われる人狼は,場の雰囲気やその場のノリ,あるいは人間観察力がより重視されるという,また違った面白さがある。どうやらその辺りが,若いプレイヤー層にとって楽しく,しかも奥が深いパーティーゲームとして受け入れられたのかもしれない。
■スマートフォンアプリの人狼ゲーム
そして第二のブレイクを後押しするように,2013年春から始まった人狼をモチーフとしたテレビ番組が第三のブレイクだ。フジテレビとTBSという二大民放局が,人気のタレントや俳優を集めて人狼をプレイするというこれらの番組は,深夜の不定期特番とはいえ,地上波での放映だったこともあり,人狼ゲームの知名度を圧倒的に広げることとなった。
それに呼応する形で,幻冬舎エデュケーションを皮切りに,バンダイや富士見書房,エンターブレインなどから,カード版の人狼ゲームや関連書籍などが発売され,今なおファン層の拡大が続いている。
フジテレビ「人狼 〜嘘つきは誰だ?〜」
TBS「ジンロリアン 〜人狼〜」
■魅せる人狼「人狼 ザ・ライブプレイングシアター」
人狼ゲームは自ら参加せずプレイ風景を見るだけでも,誰が狼なのかを推理しながら楽しめるという特徴があるため,人狼をモチーフにした小説や漫画が今までにいくつも出版されている。また,最近では映画版の「人狼ゲーム」が公開されたり,人気声優たちによる人狼イベントやDVD発売がニュースになったりもした。
中でも,人狼ゲームをアドリブの芝居として見せる公演は継続して開催され,人気を博している。それが「人狼 ザ・ライブプレイングシアター」だ。2012年10月にスタートし,隔月ペースでキャストを入れ替えつつ,現代風や魔女ものなど,さまざまな設定での公演が行なわれている。オープニング以外に台本はなく,役職もランダムで直前に決まるため,公演ごとに違った物語が生まれる。また,役職を観客が途中で推理して当てるというコーナーもある。
主宰の桜庭未那さんによれば,観客参加型の新しい演劇をやりたいと考えていたときに,もともと遊んでいた人狼を取り入れることを思いついたという。観客がキャラクターを覚えやすいようにしたり,投票をわかりやすくするなど,舞台で見せるための工夫を重ねて2年かけて実現させた。また,世界に入り込んでもらうためにゲーム用語を使わず,ゲーム的に命を粗末に扱うような展開にはしないことを心がけているという。
結果的に「人狼 ザ・ライブプレイングシアター」は人狼ゲームと演劇双方のファンを獲得し,リピーターのお客さんも多い。「魅せる人狼」としてある種の完成形に到達していると言えるかもしれない。
「人狼 ザ・ライブプレイングシアター」公式サイト
- 関連タイトル:
ボードゲーム(アークライト)
- この記事のURL:
キーワード
(c)2011 Arclight. all rights reserved.