インタビュー
ダンガンロンパは「ピンと来る」を集めて作った作品――「スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園」ロングインタビューを掲載
大山のぶ代さん演じる「モノクマ」の圧倒的な存在感も素晴らしいが,今作では,そこにさらに「サザエさん」のタラちゃん役で知られる貴家堂子さんが演じる「モノミ」も加わるなど,その不思議ワールドっぷりはさらにパワーアップしている。
4Gamerの読者レビューでも「92点」(※8月25日現在)という高得点をマークし,評判の良かった前作をさらに上回る高評価を獲得しているスーパーダンガンロンパ2。しかし,本作のなにがどう面白いのか。その魅力を“ネタバレ無し”で語ることは,非常に難しい。というか,そもそもこのゲームがどういう作品なのか,それを説明することすら至難である。
というわけで,今回4Gamerでは,そんな不思議な魅力を持つダンガンロンパの謎を解き明かすために,当の制作者に直接話を聞いてみることにした。どんな人が,何を考えながらダンガンロンパという作品を作り上げたのか。インタビューに答えてくれたのは,ダンガンロンパシリーズのプロデューサーであるスパイク・チュンソフトの寺澤善徳氏と,シナリオライターを務める小高和剛氏のお二人だ。
閉塞感すら漂う昨今のゲーム市場において,ダンガンロンパのような快作(怪作?)がどうして生まれ得たのか――,そこに込められた熱意や思いなどをいろいろな角度から聞いてみた。スーパーダンガンロンパ2のネタバレに当たるものは一切ないので,これからプレイしてみようと考えている読者も,ぜひ安心してご一読あれ。
※ダンガンロンパ1のネタバレに関しては多少含まれます。ご注意ください。
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「スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園」公式サイト
最近は“よく分からないもの”が人気になる
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
ご本人たちを前に言うのもなんですけれど,ダンガンロンパってとても面白いゲームだと思っています。なのに「どう面白いのか」をなかなか説明しづらい作品でもありますよね。
はい。よく言われます(笑)。
4Gamer:
ストーリーの面白さにしても,言ったら言ったでネタバレになってしまいますし,人に勧める時に「とにかく遊んでみてくれ!」と言うしかなくて。
小高氏:
そうなんですよね。作った側としても「このシーンはこういう意図で入れたんですよ」とか,話したいところはいくらでもあるんですが……。
寺澤善徳氏(以下,寺澤氏):
まぁ言えないよね(笑)。だから,僕(プロデューサー)からすると,ダンガンロンパって「とにかくプロモーションがやりにくいタイトル」でもあったんです。
4Gamer:
我々もダンガンロンパ2について「もっと記事を書きたい!」と思っていたのですが,なかなかネタバレなしで紹介するのは厳しくて(苦笑)。
寺澤氏:
ああ,すいません(笑)。でも,とくにダンガンロンパ2では,Twitterとかで「(まっさらな状態でプレイしたいので)2の発売までは情報をシャットアウトするつもりです」と言ってくれるファンを多く見かけましたし,こちらがプロモーションをしたくても,「それ以上喋らないでくれ」と怒られてしまったりして。だから,僕らとしても本作の魅力をもっと広めるためにはどうすればいいんだ,という部分は結構思い悩んでいたところで。
4Gamer:
ですよね。だったらいっそダンガンロンパ2の話には絞らず,制作者の方に直接お話を聞きながら,ダンガンロンパシリーズそのものの面白さの秘密を探っていきたい……と思って,今日はオフィスにお邪魔しました。
寺澤&小高氏:
ありがとうございます。
小高氏:
しかし,そういう意味で言うなら,そもそも「ダンガンロンパがどういうゲームなのか」を説明すること自体が難しいですよね(苦笑)。
寺澤氏:
いや,ほんとそうなんだよね。
小高氏:
でも最近,話題になる作品って“よく分からないもの”が多かったりもするじゃないですか。ダンガンロンパも,うまい具合にそういう感じにもっていけたのかな?という気はするんですが,そこはどうなんでしょうね。
4Gamer:
近年ヒットしたコンテンツ――例えば「魔法少女まどかマギカ」なんかも,「魔法少女もの」の一言では説明できない魅力がある作品ですよね。
最近は,そういう説明しにくい部分こそに“当たり外れの要因”があって,ダンガンロンパは,その辺が良い方向に転がってくれたのかな,という気はしますよね。
4Gamer:
でも,これは凄く気になっていた部分なんですが,そもそも説明できないような作品(ダンガンロンパのような)の企画を,一体どうやって通したんですか?
寺澤氏:
正直,企画当時のマーケットで考えたら,ダンガンロンパのような企画が通るような状況ではまったく無かったんですよ。何度も会社に突き返されながら,どうにか乗り越えて立ち上げたという経緯があります。
4Gamer:
やはり,アドベンチャーというジャンルで新規タイトルを立ち上げるには相当な苦労があったと。
寺澤氏:
例えば,推理アドベンチャーという枠組みで過去のデータと比較すると,「どんなに売れても4万本だろう」と言われてしまう。なので,「これはハイスピード推理アクションであって,アドベンチャーじゃない。だから過去のデータは参考になりません!」と主張して。
小高氏:
あとはもう,熱意で押し切った感じですよね。
寺澤氏:
それこそ最初は,社内の誰もが「売れる」とは思ってくれなかったですからね。だから「いや,売れるよ」と言い続けて洗脳するしかなかった(笑)。
小高氏:
洗脳って(苦笑)。
4Gamer:
でも実際ダンガンロンパって,ちょっとインディーズに近いノリもある作品ですよね。勢いというか,無鉄砲さがあるというか。そこが魅力……とも思うのですが。
寺澤氏:
他のメーカーさんだったら,企画の段階で潰されていた可能性が高かったと思いますね。だけど,小高の「どうしてもやりたい」という熱意と,そして小松崎の持つイラストのインパクトがあったからこそ,僕もこの企画を押し通すことができました。
4Gamer:
結局,初代ダンガンロンパって,トータルではどのくらい売れているんですか?
寺澤氏:
オリジナル版が10万本。廉価版などを含めると,全部で15万本くらいですね。
4Gamer:
今の時代,新規IPでそれだけ売れること自体が稀ですよね。まして「推理アドベンチャー」で括られてしまうジャンルですから。
寺澤氏:
はい。熱く支えてくれたファンの皆さんのおかげだと思っています。
ダンガンロンパは「面白さの切り貼り」で作った作品
4Gamer:
しかし,改めてお聞きしますが,そこまで売れた要因,あるいはダンガンロンパの魅力って,当の作り手側はどう捉えているんでしょう?
寺澤氏:
そこはずばり,「驚き」なんじゃないでしょうか。ダンガンロンパって,プレイ中に“驚ける回数”がすごく多い作品だと思うんですよ。大どんでん返しみたいなものがいくつも用意されていて。遊んだ方の感想を見ていても,「心地良い驚きの連続」という部分が最も評価されていると感じます。
小高氏:
実際,売れ方という意味でも,そこがクチコミの要因になりましたよね。映画で言えば「シックスセンス」を勧めたくなるのと一緒というか,その驚きを誰かと共有したいんだけど,言うとネタバレになっちゃうから詳しく言えないという。
4Gamer:
だから「とにかくやってみろ!」と友達に勧めて,後で「で,どうだった?」と聞く。そんな広がり方ですよね(笑)。
寺澤氏:
そうそう(笑)。
4Gamer:
そのあたりの仕掛けは,やはり意図的なものだったんですか?
僕は,“物議を醸す”作品――例えば,竜騎士07さんや清涼院流水さんの作品のようなもの――が好きなんですが,ただ物議を醸すだけじゃなくて「それらをポップに楽しませたい」という意識はありました。
寺澤氏:
ただ,そういった物議を醸す作品は,どうしてもハードルが高く感じられてしまうものなんですよね。そういう意味では,ダンガンロンパ特有のバランス感覚こそが,ユーザーさんに広く受け入れられたポイントなのかもしれません。
4Gamer:
なるほど。
小高氏:
まぁでも,何が面白い(と思われている)のかっていうのは,とても難しい質問でよすね。好きになってくれている部分も人によって違うし,あるいは良いところ悪いところも含めた世界観全体を「好き」と言ってくれる人も多い。僕らとしても,どこを推していけばいいのか,相変わらずよくわかっていなかったりしますし。
寺澤氏:
そうだねぇ……。
小高氏:
それに僕からしてみると,ダンガンロンパってゲームは「面白さの切り貼り」で作ってる作品なんですよね。
4Gamer:
面白さの切り貼り?
小高氏:
つまり,企画で立てた目標や理想を目指して作っていくような形ではなくて,とにかく「作ってから考えよう」みたいなノリと言えばいいのかな(笑)。ストーリーも,キャラクターも,そしてシステムもそうなんですが,開発チームのみんなで話し合いながら,その場その場で「ピンとくる」ものを選んでいく作り方というか。
4Gamer:
でも最初に大まかな方向性を示して共有しておかないと,現場が混乱してしまったりはしません?
小高氏:
最初に決め付けすぎちゃうと,逆に“そこに到達することがゴール”になってしまうんですよ。自分では「ピンときてない」のに,「まあ,企画書に書いたし,仕様にも書いたし,これでいいか」みたいな。そういうのってあまり良くないと思うんです。
4Gamer:
それはそうですよね。
小高氏:
僕はそれがイヤだったので,とにかく「ピンと来るもの」を重視したんです。だから,ダンガンロンパの開発においては,制作中にストーリーや仕様を変えるなんてことは日常茶飯事でした。
寺澤氏:
ダンガンロンパはほんとにそんな感じだったよね。スーパーダンガンロンパ2はある程度のベースがあったから,そこまででもなかったけど。
小高氏:
よく言えば,ダンガンロンパって作品は,そのときに「いいね!」と思ったものしか選んでいない。それが作品の勢いだったり,魅力につながっているのかなぁという感触はありますね。
4Gamer:
なるほど。確かにダンガンロンパの妙な魅力――遊んでいて,とにかくぐいぐいと引き込まれるような面白さ――は,そういった作り方によるところが大きいのかもしれません。
主人公ですら危ういというドキドキ感は必ず面白さにつながる
4Gamer:
“驚き”というお話がありましたが,思い入れのある主役級のキャラクターが次々と死んでしまうのも,ダンガンロンパの魅力(?)というか,大きな特徴ですよね。
小高氏:
ダンガンロンパを“推理もの”として企画したとき,最初に思ったことは,まさに主役級のメンバーが死んでしまう驚きやドキドキ感を出してみたいってことだったんです。例えばですが,「金田一少年の事件簿」や「名探偵コナン」って,いつものメンバーは絶対に死なないじゃないですか。でも……。
美雪や蘭ちゃんが死んだら,それはもう凄い驚きだよね(笑)。
小高氏:
うん。誰が死ぬか本当に分かわからない,主人公ですら危ういというドキドキ感は,必ず面白さにつながると思っていました。ただそのためには,登場キャラクターの全員がキャラ立ちしなくてはならないという問題もあって。超高校級というプレートを付けてみたり,キャラクターが際立つような工夫を考えていきました。
4Gamer:
一般的な推理ものというと,トリックが主役になりがちで,それをどうやって解き明かすかという話になりやすいですよね。一方で,被害者はどこの馬の骨ともわからないゲストキャラクターだったりして,感情移入しづらいことが多い。
小高氏:
ダンガンロンパはそうではなくて,「事件に巻き込まれるのも主人公たちである」という話にしたかったんです。
寺澤氏:
だからダンガンロンパでは,プロモーション一つとっても情報の出し方として「それぞれのキャラクターの扱いになるべく差を付けない」という方針を持っています。これは声優さんにも同じことが言えて,生き残るキャラだから人気声優を付けよう,なんて意識もないんです。……そのせいで「あの声優さんのキャラをこんなに早く殺すなんて,贅沢な使い方すぎる!」と言われたりもするのですが(笑)。
4Gamer:
その意味でいうと,僕がダンガンロンパを遊んでいて衝撃を受けたところの一つが,「親密度システム」を実装しながらも対象のキャラクターが突然死んでしまう,という部分なんですよね。
小高氏:
ああ……(苦笑)。
4Gamer:
とくにダンガンロンパでは,一見するとヒロインっぽく見える女性キャラがいるじゃないですか。だから,プレイ中に「親密好感度システムがあります」という説明を受けて,僕は恋愛シミュレーションゲームのような感覚で,「じゃあ、とりあえず一番目立つキャラから攻略すればいいか」と思って親密度を上げていたんです。でも,その彼女がいきなり死んでしまって。
小高氏:
「えええ?」ってなりますよね。
4Gamer:
そうなんです。「え,まだ親密度上げてる最中なんだけど……。え? 本当に死んじゃったの?」という。そしてその後も,親密度をせっせと上げた相手がどんどん死んでいく(笑)。「なんだこのゲームは……」と。
小高氏:
普通は親密度システムって,ゲーム中のボリュームを増やすためだったり,アドベンチャーゲームならストーリーを分岐させる手段として使ったりするじゃないですか。でもダンガンロンパでは,まさに今おっしゃったような「やるせない気持ち」を味わってもらうために親密度システムを導入しているんです。
4Gamer:
な,なるほど……。
小高氏:
昔のゲームでいえば,僕は「ファイアーエムブレム」や「東京魔人學園」みたいに,育てた仲間や愛着のあるキャラクターが死んでしまっても,そのまま淡々とストーリーが続いていくシビアさが好きでした。だから,ああいう気持ちを自分が作るゲームでも再現したかったんです。
4Gamer:
やるせない想いをさせる,という以外に親密度システムを入れた理由はないんですか(苦笑)。
小高氏:
成長要素と絡めてあって,親密度を上げると学級裁判に活かせるスキルを覚えるという,ゲーム的な意味もちゃんとありますよ!
寺澤氏:
普通のノベルゲームやアドベンチャーゲームでは,この人とは仲良くして犯人は死んで……といった展開がシナリオに組み込まれているじゃないですか。ダンガンロンパシリーズでは,そこをシステムとして分離したことで,自由度と広がりが生まれているんです。
4Gamer:
でも一般的なアドベンチャーゲームだと,キャラクターごとのルートが用意されていることが多いじゃないですか。それをあえて入れない理由はあったんでしょうか。
寺澤氏:
そこは,あくまでミステリー(仕掛け)が軸になっている作品でもあるので,キャラクターが変わるとそこも変わってしまうからです。中途半端に別ルートを作っても面白くなりようがないから,バッサリと割り切ったんですよね。
小高氏:
キャラクターごとのルートによって,事件もストーリーもまったく変わるなら,やる意味があると思います。ただ,それをやるとボリュームが10倍くらいになるので,予算的に割に合わないかな……(笑)。
寺澤氏:
そんなプロジェクト,とても僕は進められません(苦笑)。
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