インタビュー
2か月間ものオープンβテストが始まる「イクシオン サーガ」――これまでの開発/運営と今後の展望を,カプコンの杉浦一徳氏と早川泰彦氏に聞いてきた
アクションゲームに強い同社ならではのオンラインゲームを標榜する「イクシオン サーガ」では,開発初期から断続的にプレイヤー参加型のテストを行い,寄せられた意見や要望を反映し,逐次改善を重ねるという手のかかる作業を進めてきた。しかも,2011年第3四半期の段階で,プレイヤーの評判が悪いという理由から,ほぼ丸ごとゲームを作り直したこともあるほどだ(関連記事)。
そして,先日行われたイベントで,10月4日から約2か月間にわたる長期のオープンβテストを実施し,2012年内には正式サービスを迎えることが発表されている。
今回4Gamerでは,カプコン 東京開発部 部長の杉浦一徳氏と,「イクシオン サーガ」プロデューサーの早川泰彦氏に,いろいろと話を聞いてきた。
「イクシオン サーガ」公式サイト
本日はよろしくお願いします。
「イクシオン サーガ」ですが,2012年8月のクローズドβテストで,ついにαテストの次の段階へと進み,10月4日からオープンβテストが実施されます。ここまでの道のりは,けっこう長かったですよね。
早川泰彦氏(以下,早川氏):
ずっと“αテスト”などと銘打ってPvP部分のテストを行い,クローズドβテストまでの1年間,お叱りを含めてさまざまなご意見を頂戴してきました。8月のクローズドβテストでは,そういったご意見やαテストの過程で見えた方向性をベースに成長要素などを加えて,ゲームの全体像をようやく提示できました。
4Gamer:
ステージが一段階進んで,スタッフのモチベーションも上がっているのではないでしょうか。
杉浦一徳氏(以下,杉浦氏):
ええ。アニメ「イクシオン サーガDT」も10月から始まると決まっていましたから,ゲーム本編もそれに合わせて盛り上げましょう,βテストで多くの人にゲームを遊んでもらいましょうという感じで頑張ってきました。
ただ,今だから言えますけど,最初のαテストのころはひどい出来で……。私も早川と開発チームにはかなりキツく言いました(笑)。
5月に実施したタクティカル・バトルテストも,正直言って厳しい状況でした。開発隊員(テスター)の皆さんは,数時間プレイして「こんなもんか」と内容を把握してしまうと,それ以降はプレイしないんですよ。初日の夜には結果が出ているような状態で,それ以降は同時接続数がガクッと落ちてしまったんです。
4Gamer:
タクティカル・バトルテストの実施は,連休の直後でしたね。
杉浦氏:
そうなんです。それでも初日で人がいなくなってしまうようでは,どんなに予算を注ぎ込もうと,どんなコラボを企画してようと,どうしようもありません。
実際の結果といえる数字に「イクシオン サーガ」チームがプライドを刺激されたのか,時期的にオンラインRPGのアクション性に注目が集まっていたことが重なってそれが功を奏したのか,そのタイミング以降,「イクシオン サーガ」チームが出してくるコンテンツのクオリティがグンと上がったんです。
私も,テスターの1人としてクローズドβテストに参加したんですが,それまでのテストとずいぶん変わったな,というのが素直な感想でした。手前味噌ですが,国産かつPvPメインのオンラインゲームで,これだけのクオリティのグラフィックスとアクション性を両立させたタイトルは,そうそうないと思います。早川も「イクシオン サーガ」チームも頑張ったなあと,正直,感動しましたね。
4Gamer:
プレイヤーの実際の反響はどうでしたか?
杉浦氏:
クローズドβテストでは,2日目以降も遊んでくださる方の比率が確実に上がりました。そういった「続けて遊ぼう」と思っていただけるゲームにできたことは,大きな成果ですね。開発チームもそれが自信につながって,今はいいムードで次々とコンテンツを作っています。
4Gamer:
公式サイトで公開されているクローズドβテストレポートを見ると,全体の28.3%のプレイヤーがレベル20まで上げていますよね。遊び続けるモチベーションがどこにあったと分析しますか?
早川氏:
連戦しやすい仕組みを導入したことでしょうか。システム自体はタクティカル・バトルテストの段階で採用していたのですが,そのときはルールが1つしかなかったので,うまく機能しなかったんだと思います。
クローズドβテストでは,開発隊員の皆さんからの厳しいご指摘をもとに「クラッシュ・オア・ビルド」の内容を改善しましたし,新たに「アタック・ザ・ボス」というルールも加わったので,それらが連戦の仕組みとうまくマッチしたんでしょう。
また,装備の強化のような成長要素が入ったことで,「やることがない」という状況を回避できたのも大きいと思います。
4Gamer:
先のアンケート結果でも,次のテストに「ぜひ参加したい」という声が60.3%ありましたから,評価は高かったと判断してもいいですよね。
早川氏:
とくに嬉しかったのは,以前のテストとは違い,ストライカー/ブラスター/キャスターがバランスよく分散したことですね。
クローズドβテストの最後の2日間で「誰でもイクシオン サーガ」というイベントを実施したこともあって,最後に装備していた武器種で見ると,アンケート結果では初期クラスのストライカーに偏った数字になっていますが,人気ランキングや使用回数などを見ると,長くプレイしている方の間では,各クラスの割合は均等に分かれるという傾向が見られたので,非常に大きな手応えを感じています。
クローズドβテストでは誰でも活躍のチャンスがある「クラッシュ・オア・ビルド」が人気
4Gamer:
クローズドβテストで「クラッシュ・オア・ビルド」の評価が高くなったとのことですが,具体的にはどのような改善を施したのでしょうか。
早川氏:
開発隊員の皆さんから寄せられたご意見をもとに,拠点のダメージ蓄積や本拠地を破壊するために必要なダメージ量などのバランスを調整しました。以前のテストより拠点の設置数/破壊数が非常に増えたというデータからも,かなりバランスが取れてきたと言えます。また,開発隊員の皆さんからは,「拠点をめぐる攻防が増えて面白い」というご意見も多数いただけました。
4Gamer:
その一方で,初登場の「アタック・ザ・ボス」は,あまり評価が奮わないという感じでしたが。
早川氏:
一番ご指摘が多かったのは,ワンサイドゲームに陥りやすいという点についてでした。プレオープンβテスト以降は,そうならないよう調整を施しています。
4Gamer:
プレオープンβテスト以降,新ルールも加わるのでしょうか?
早川氏:
まずは,既存のルールをしっかりブラッシュアップすることが大切だと考えているので,新ルールの追加は,その後のアップデートを通じて行う予定です。
4Gamer:
対戦型のゲームだと,ルールが少ないと飽きが早くなる,ルールが多いとプレイヤーが分散してマッチングがしにくくなる,といった問題が生じると思います。「イクシオン サーガ」では,ルール数はどの程度が適切だと考えていますか。
ルールについては,単なる数ではなくサービスの提供方法の問題だという仮説のもとに取り組みを行っています。
まずルールが少ない場合は,おっしゃるとおり,飽きてしまいますから,ある程度のボリュームを持たせる必要があります。逆にルールを増やした場合は,どこにプレイヤーが集中するのかを考えなければなりません。
ですから,例えば「今,このルールで遊ぶと報酬がいいよ」といったイベント的運用を定期的に行い,そのデータを参照して,どうしていくかを判断していけばいいのではないかと。そこをお客様に任せっきりにしないことで,飽きが少なく,マッチングの課題もクリアできるのではないでしょうか。
4Gamer:
これまでのテストで実装されたルールの中では,どれが人気を集めていたのでしょうか?
早川氏:
これまでのテストでは,シンプルな「チームデスマッチ」,そこにボスというギミックを加えた「アタック・ザ・ボス」,そしてキルの取り合いではなく拠点と本拠地の破壊に主眼を置いた「クラッシュ・オア・ビルド」という,3種類のルールしか実装していないんです。
このうち,「クラッシュ・オア・ビルド」では,敵の隙を突いて拠点を立てたり本拠地を襲撃したりと,対人対戦以外にも活躍できるチャンスが多いので,初心者でも入りやすくなっています。実際,クローズドβテストのデータでも,それが立証されています。
4Gamer:
対人戦が苦手な人でも活躍できるよう,間口を広げたルールが人気だったんですね。
早川氏:
最初は「クラッシュ・オア・ビルド」だけプレイしていただいてもいいのですが,開発/運営の立場からすると,ゲームに慣れたら「チームデスマッチ」や「アタック・ザ・ボス」でキルの取り合いをするような,真剣勝負で戦っていただきたいという思いもあります。ですから,そういった流れを作れるようなコンテンツの作り方が今後の課題ですね。
4Gamer:
「イクシオン サーガ」の基本は,8人対8人のチーム対戦ですが,以前のテストでは,4人対4人のルールが採用された時期もありました。人数が少ないとアクションや連携が得意ではないという人が入りにくい印象を受けたのですが,このあたりはどのように考えているのでしょうか。
早川氏:
8人対8人の対戦という根幹の部分は変わりませんが,今後4人対4人の対戦がなくなるわけではありません。ゲームに慣れた方々からは,1チームが4人くらいのほうが意志の疎通を図りやすいというご意見もいただいています。
4人対4人の対戦で問題なのは,1チーム4人という人数とフィールドの広さがマッチしていない点です。4人でも戦いやすい広さのマップと,意志の疎通が重要となるルールを用意するということを課題にしています。
杉浦氏:
対戦ゲームの本質に迫るなら,人数は絞ったほうがいいんですよね。たとえば100人対100人だと,競っている局面では数十人同時に倒れることがあったり,そもそも人が多すぎて何が起きているのか把握しにくかったりといった問題が発生します。
多人数対戦に固執してそういった問題のケアを考えるよりは,少人数対戦で満足度を上げることに注力して,別途,多人数が参加できるお祭り的なコンテンツを用意したほうがいいと考えています。
4Gamer:
もう一つ気になるのが,プレイヤー間のコミュニケーションです。対戦ゲームだと,熱くなって対戦相手だけでなく,味方のチームにまで厳しい言葉を投げかけてしまうプレイヤーも出てくると思います。とくに4人対4人対戦では一人一人の役割が明確になる分,責任の所在を問われるようなトラブルも起きやすくなるのではないでしょうか。
杉浦氏:
熱くなる人というのは,それだけゲームに対してもカプコンに対しても本気でぶつかってくれる人ですから,むしろありがたいんですよ。
確かに,厳しい言葉を投げかけるような場合もあるでしょうけど,瞬間的に気持ちが高ぶっているだけで,それが3日とか1週間とか考えた結果ではないわけです。激しいやり取りだからこそ生まれる絆もありますから。そういったコミュニケーションに,どこまで我々が関与するかは,正直悩んでいます。ただ,お客様が不愉快になる原因を我々自身が作ってしまうことは避けたいですね。
4Gamer:
例えば,他社のオンラインFPSなどでは,離脱率を抑えて定着率を上げるだけでなく,プレイヤー同士の無用な衝突を避ける意味合いで,ギルドの結成や加入を促す運営手段を採っているところもありますよね。「イクシオン サーガ」で同様の運営施策を取ったりはしないんですか?
早川氏:
「イクシオン サーガ」チームとしては,そのあたりはお客様の自主性にお任せするつもりです。ユニオンへの参加を促す導線をゲーム内にシステムとしては用意しますが,ゲームマスターがゲーム内で直接ユニオン勧誘イベントを主催するようなことは,今のところ考えていません。
ユニオン向けコンテンツ「天承ノ儀」「国家戦」をオープンβテスト以降に実装
4Gamer:
今お話しいただいたように,「イクシオン サーガ」にはギルドやクランに相当するユニオンがあります。クローズドβテストでは最大8人のチームと規模が小さめでしたが,今後拡張の予定はあるのでしょうか。
プレオープンβテスト以降は,最大20人までユニオンに加入できるようになります。もちろんサービスイン後も,ユニオンはステップを踏んだ展開をしていきます。
また,ユニオン関連のコンテンツとしては,オープンβテスト開始時に「天承ノ儀」というコンテンツを,11月のアップデートで「国家戦」というコンテンツを実装します。この二つは,ローテーションを組んで定期的に開催し,お客様にメインコンテンツとして楽しんでいただけるようにしていく予定です。
4Gamer:
それぞれについて,もう少し詳しく教えてもらえますか?
早川氏:
天承ノ儀は,ユニオンごとに「承者」と呼ばれるリーダーNPCのいずれかの陣営に所属して,「票(ポイント)」を争うコンテンツです。所属ユニオンが獲得したポイントによって承者の順位がリアルタイムで入れ替わり,プレイヤーには,順位に応じてステータスアップや報酬増加といった効果を持つ固有スキルが発動します。最下位の承者には,逆転を可能にできるような効果の高いスキルが発動します。
ちなみに,プレオープンβテストでは承者として4人の姫が登場しますが,承者は毎回同じというわけではありません。
4Gamer:
ユニオンごとに任意で承者を選択できると,バランスの問題が出そうですが。
早川氏:
一部の承者にユニオンが集中した場合は,「番隊」という形でバランスを調整します。仮にゲーム内で実力上位の二つのユニオンが同じ承者を選択したとしても,同じ番隊に配属される可能性は低くしています。
4Gamer:
では,「天承ノ儀」に勝利すると,どういった特典があるのでしょう。
早川氏:
最も多く票を獲得したユニオンには,「天承ノ儀」終了後に開催される報酬期間中に,特殊なアイテムを付与する予定です。
4Gamer:
では次に,「国家戦」について教えてください。
ジャグラバーク連邦 |
ラガルト皇国 |
国家戦は,「イクシオン サーガ」の設定にある二大国家の争いに,各ユニオンが参加するという内容です。詳細は公式メンバーサイトでアナウンスしますが,通常のバトルに領地の取り合いの要素を加えた占領戦となっていて,専用の戦略兵器なども登場します。
4Gamer:
それにしても,オープンβテストを2か月も実施するというのは,昨今のオンラインゲームとしては珍しい事例ですよね。
杉浦氏:
早川を含めて「イクシオン サーガ」チームと話し合ったのですが,我々は「イクシオン サーガ」を3年,5年,10年と,長期的に運営できるタイトルにすることを第一に考えています。そのスパンで考えれば,2か月という期間は決して長いものではありません。
短期間でコンテンツを消費されることを恐れて出し惜しみしているようでは,長期の開発/運営をできるわけがないですから,「まとまった期間を取って,きちんとオープンβテストをやりましょう」と決めました。
4Gamer:
なるほど。
また,「イクシオン サーガ」はゼロから開発したゲームなので,今後,どんな問題が生じるか想定できない側面がある,というのも理由の一つです。言うまでもなく,「イクシオン サーガ」としての大型アップデートは未経験ですから,その実装時にトラブルが発生する可能性もあります。問題が起きたときに,スタッフが即座に対応できないこともあり得るでしょう。
正式サービスを開始してからそういったトラブルが発生しては,お客様に申し訳が立ちませんから,大型アップデートの実装もテストに含めるものとして考えているんです。これはある意味,カプコンという大きな基盤があるからこそできることです。そこから,会社としても本気なんだというところを汲み取っていただけると幸いです。
4Gamer:
ところで,「イクシオン サーガ」のビジネスモデルはまだはっきりと発表されていませんが,実際のところ,どんなビジネスモデルになるんですか?
杉浦氏:
まだお話はできないのですが,基盤となるビジネスモデルは当然決めています。ただ,細かい部分を具体的にどうするかまでは確定していない状況です。これは,オープンβテストの期間中にどのようなお客様が集まるのか確認してからのほうがいいだろうという判断からです。
4Gamer:
無料のオープンβテストを長期実施することで,コミュニティが形成されるというメリットもありますよね。たとえば,オープンβテストだけプレイして正式サービスが始まったら去ってしまうような人でも,そのゲームでフレンドができていたら,正式サービス後もプレイし続けることもあるでしょうし。
そうですね。人が集まることを前提としたビジネスモデルを早々に決めても,人が集まらなかったら成立しませんから。定着率を上げれば,人が人を呼んで総数が増えることも期待できますし,そうなれば,さまざまなビジネスモデルを提案できるようになります。
ですから「イクシオン サーガ」では,まずはお客様に楽しんでいただくこと,カプコンの名だたるタイトルに負けない存在として認知されて受け入れていただくことを優先して準備を進めているんです。
4Gamer:
では,どのような形で課金要素を決めていくことになるのでしょうか。
杉浦氏:
「MHF」の事例を踏まえた話になりますが,今後,「イクシオン サーガ」チームがコンテンツを提供していく中で,お客様に何が受けて何が受けないのかを経験するでしょう。その過程を経れば,受けた部分の中からどのように有料コンテンツを用意すればいいか,自然とアイデアが出てくるものです。
言い方を替えると,「イクシオン サーガ」チームがお客様に楽しんでいただくことだけを考えて作ったゲームを,あとから早川が課金対象にしてしまう,ということなんですけどね(笑)。
4Gamer:
いわば,「MHF」と同じビジネスモデルというか,ビジネスのスタイルというわけですね。
杉浦氏:
私の経験上,「イクシオン サーガ」チームが作りたいものを作り,そのあとでお客様の反応をうかがいつつ,課金要素かそうでないかを切り分けていったほうが,全体としてバランスのいいコンテンツに仕上がります。課金要素を前提に考えてしまうと,コンテンツとして成立しないことのほうが多いんですよ。
また,売り上げが立っているコンテンツというのは,一部から不満の意見が上がったとしても,少なからずお客様に認められていると言い換えることもできます。一番情けないのは,お客様から不満の意見が多く売れてもいないという,誰にとってもありがたくないコンテンツです。早川のような責任者に求められるのは,そのバランス感覚なんですよ。
ですから,結果を出すためにも,オープンβテストの2か月間で,お客様とさまざまなコミュニケーションを取っていきたいと思っています。
キャラクターの成長要素と,それに合わせた新たな対戦マッチングシステムが登場
4Gamer:
オープンβテスト以降,キャラクターの成長要素が大きく変わるそうですが,具体的にはどのような形になるのでしょうか。
早川氏:
オープンβテスト時点で,キャラクターのパラメータに大きく手を加えています。従来のレベルに加え,キャラクターのスタイルごとに育成強化ができるようになります。例えばストライカーなら,現状ではブレイドと呼ばれるスタイルしかありませんが,今後はさまざまなスタイルが追加されていきます。これは,成長が一本道化していた部分に幅を持たせようという試みです。
4Gamer:
いわば,カスタマイズのようなものですね。
早川氏:
はい。同じスタイルでも,腕力/技力/心力のどれに特化するかでタイプや成長の傾向が変わります。腕力特化なら通常攻撃力が伸びますし,心力特化ならスキル攻撃が有利になるといった感じです。
ブレイドしか使わないキャラクターであっても,3つのスロットをそれぞれ異なるスタイルで埋めると,3種類の戦い方を楽しめるわけです。ルールによって使うスタイルを切り替えてもいいですし,そのときの気分で使い分けるのもいいでしょう。
4Gamer:
タイプを切り替えて遊ぶこともできると。
早川氏:
そうです。ただ,オープンβテストで初めて実装する要素ですから,スタイルごとのバランスと差別化を図れるよう,期間中にパラメータの調整をかけていこうと考えています。オープンβテスト開始時点では,ストライカーのブレイドは腕力特化,ブラスターのライフルは技力特化,キャスターのロッドは心力特化というように,固定した状態で実装します。
しばらくデータを取ってから,アップデートのタイミングで特化する方向をプレイヤーが任意で設定できるよう,機能を開放する予定です。将来的には,レベルアップ時に上昇するステータス値をプレイヤーが任意に割り振れるような機能の追加も検討しています。
ストライカー |
ブラスター |
キャスター |
4Gamer:
そうなれば,プレイヤーの好みやプレイスタイルに沿ったキャラクターを作れそうですね。
早川氏:
「イクシオン サーガ」は対戦アクションに主眼を置いていますが,同時に成長要素も楽しめるようなタイトルとして,企画/開発を進めてきました。オープンβテストでは,その片鱗をお見せできると思います。
4Gamer:
ただ,成長や武具強化の要素があると,プレイした期間の長さがどうしても対戦の有利不利に関わってきますよね。そうなると,あとからゲームを始めようという人や,あまりプレイ時間を取れない人は敬遠してしまうかもしれません。何か対策は考えていますか?
早川氏:
その点は,マッチングとステータス補正で対応できると思います。自分のチームを編成することを“パーティーマッチング”,対戦相手のチームを決めることを“マッチング”と呼ばせていただきますが,これまでだと,パーティーマッチング/マッチングには,フリー参戦とユニオンでのエントリーしかありませんでした。とくにフリー参戦はレベルや戦績を問わず,誰でも参加できましたから,ご指摘のような問題が発生してもおかしくありませんでした。
プレオープンβテストからは,ロビーにいる段階でパーティを組み,エントリー前にあらかじめパーティーマッチングができる機能を追加しています。
4Gamer:
それなら,パーティーマッチングの課題はある程度解消できそうですね。
早川氏:
マッチングではまず,プレイヤー個人のバトルグレードは,レベルや成長度合いよりも,各自の戦績をベースにしたものを優先します。マッチングにおける最優先事項は,チームメンバー全員のバトルグレードから算出したチーム全体のバトルグレードです。
それに加えて,以前からある機能をさらに強化して,レベル差によるパラメータ補正を行います。これらのシステムは,パーティーマッチングである程度メンバーのレベル/戦績にバラつきがあっても,きちんとマッチングできるというコンセプトで構築しました。
4Gamer:
バトルグレードによる判定を突き詰めると,マッチングに時間がかかる可能性もありますよね。
早川氏:
基本的には,同じバトルグレードでのマッチングを行いますが,合致する相手がなかなか見つからない場合は±1の差で,それでも見つからなければ±2でというように,相手チームのエントリーがあれば,必ずマッチングできるようにしています。そのうえで,低レベルのプレイヤーや初心者が倒されにくいように補正を掛けるという仕組みです。
実際に遊んでくださったお客様の反応によって,調整を掛ける余地はまだまだありますが,快適なマッチングになっていると考えています。
補正に関しては,あくまでも基本の攻撃力/防御力への適用なので,成長させたスタイルには影響がありません。ですから,各自のプレイスタイルを生かすことができます。
アニメ「イクシオン サーガ DT」はゲームとかけ離れた内容になる?
4Gamer:
対戦型のゲームでは,やはり母数となるプレイヤーが一定数以上必要になりますよね。オープンβテスト以降,プレイヤー数を増やして定着させるために,どのような施策を用意しているのでしょうか。
早川氏:
まずは,大きな窓口となるであろう,ハンゲームでのチャネリングですね。プレオープンβテスト以降,カプコンオンラインゲームズ(COG)とハンゲームの両方でサービスを提供します。またCOGでは,Twitter/Facebook/Google+/mixiのオープンIDが使えるようになりますから,新規の方も参加しやすくなるはずです。
また,「イクシオン サーガ」というカプコンの新規IPを広く浸透させるべく,アニメ,コミック,小説といったメディアミックス展開を実施します。それに合わせて,著名な漫画家さんに武器のデザインをお願いするといったコラボも当然行っていきます。
別冊少年マガジン「イクシオン サーガ」 (C)小宮山優作/講談社 |
コミックZERO-SUM「イクシオン サーガED」 (C)双葉はづき/一迅社 |
杉浦氏:
これだけやるんだから,私としては30万人は集めてほしいところです(笑)。
早川氏:
頑張ります(笑)。
4Gamer:
中でもアニメの「イクシオン サーガ DT」は,監督が「こちら葛飾区亀有公園前派出所」「スクールランブル」「銀魂」などを手がけている高松信司さんであったり,出演キャストも名だたる声優陣が名を連ねていたりと,かなり豪華ですよね。これはどのようにして実現したんですか?
杉浦氏:
「イクシオン サーガ」の立ち上げ時は,私が仕切っていたのですが,そのとき,新規IPを浸透させるためには,やはりメディアミックス展開が必要だろうと考えたんです。そこで人脈をたどって,現在のイクシオン サーガ DT製作委員会のベースとなる人達にご協力をお願いしました。
同時に,私自身も過去7〜8年のアニメ作品で,深夜枠や少しマニア向けのアニメがどう進化を遂げ,今,何が流行しているのかなどを研究しました。もともと私は,それほどアニメを観ているほうではなかったので,1か月に20作品くらいのペースで,まとめてチェックしたんですよ。どれも1〜2クール分はありましたから,話数でいえば300話とか400話分ですよね。仕事が終わって帰宅してから観ていたので,この時期はかなりしんどかったですね(笑)。
4Gamer:
監督に高松さんを起用したのは,どういった経緯で決まったんですか?
アニメ専門チャンネル「AT-X」さんから,高松監督と脚本の大和屋 暁さんを紹介していただいたんです。そこで早川や「イクシオン サーガ」チームのメンバーと一緒にお会いさせていただいたのですが,打ち合わせでは勢いで,「アニメは煮るなり焼くなり好きにしてください」という話になりまして。結果として,もうゲームのゲの字も出ないような不思議なアニメができ上がりました。……いや,1話の最初は出ているかな(笑)。
4Gamer:
高松監督作品ならでは,というアニメになりそうですね(笑)。個人的には楽しみにしているんですが,ゲームのプロモーションとして,それでいいんですか?
杉浦氏:
今までにもオンラインゲームがアニメ化されたことはありますが,どれもヒットしたとまでは言えない結果ですよね。私なりの分析なのですが,ゲームを忠実に再現した内容だと,そこに相当のプラスαがないと,あまり受けないんじゃないかと思うんです。
また,イクシオン サーガ DT製作委員会でも指摘されたのですが,現在のアニメ作品は,1話目でインパクトを与えないと継続して観ていただけないんですね。
4Gamer:
放映作品も多いから,何話か見た時点で面白くなかったら見切りをつけるという話もよく聞きますね。
杉浦氏:
「イクシオン サーガ DT」第1話のシナリオを読んだのですが,煮るなり焼くなりどころじゃなくて,切り刻んだあげく原型を留めていない状態でした(笑)。
でも,面白かったんですよ。これならアニメを面白いと思う方も大勢いらっしゃるだろう,そこからゲームに興味を持ってくださる方も増えるだろうという計算が働いたんです。まあ,何かと話題の絶えない監督と脚本家ですから,私も,上司達に呼び出されないか,今からヒヤヒヤしています(笑)。
ただ,仮にそのようなことが起きたにせよ,私と早川が始末書を書いて「イクシオン サーガ」というIPが世間に浸透し,カプコンの大きな資産になるなら本望です(笑)。
オープンβテスト期間は顧客満足度の向上とプレイヤー数の拡大に注力
4Gamer:
正式サービスの時点でストーリーモードが実装されるそうですが,今の話を聞いた限り,アニメとはまったく別の内容となりそうですね。
そうですね。アニメはゲームの20年前の話になるので,ストーリーとして直接のつながりはありません。ただ,ゲームとほかのメディアで展開しているコンテンツを連動しやすい仕組みを用意していますので,イベント的な形で,アニメの要素を取り入れることはできますし,実際に検討もしています。
杉浦氏:
アニメを観たあとに,ゲーム本編のストーリーを気に掛けていただけないようだと本末転倒ですから,連動要素の基本部分はきちんと押さえています。
4Gamer:
ストーリーモードは,プレイヤーが1人で進める内容ですか?
早川氏:
最初は1人で始めて,次第にPvEの協力プレイへと移行していくという流れですね。今の予定だと,最終的には最大4人参加の協力型ミッションも登場します。
4Gamer:
別のプレイヤーが参加するミッションは,プレイヤー各自の進行度合いに基づくイメージですか。
早川氏:
はい。基本的には,ミッションを受託したお客様のストーリーが進行する形を予定しています。
4Gamer:
ストーリーは,アップデートでその先の物語が追加されると考えていいのでしょうか。
早川氏:
そうですね。ストーリーモードは,「イクシオン サーガ」を長期的に遊んでいただくために用意したものですから。やはり,対戦メインのゲームではありますが,それだけで継続して遊んでいただくのは難しいと思います。
杉浦氏:
ストーリーモードを用意することは,武具のデザインは好みだけど対戦は苦手というお客様の救済策になり,ひいてはお客様の層の拡大にもつながるんじゃないかという考えなんです。
対戦ゲームといっても,今はキャラクターのアバター性が重視されるようになっています。そこで「イクシオン サーガ」チームでも,お客様が個性を出せるような武具デザインに注力しているのですが,そうなると今度は,見た目が好きだから遊びたいという方が増えていくんですよね。
しかし,見た目が好きだからという理由で入ってきていただいたお客様の誰もが対戦ゲームが得意かというと,そうではありません。そういった方々でも楽しめるよう,ストーリーモードを用意したということですね。
ただ,あまりやり過ぎてしまうと対戦メインのゲームという軸がブレてしまいます。そこをバランスよく進めていくことが,今後の早川と「イクシオン サーガ」チームの大きな課題でしょうね。
4Gamer:
「MHF」では,全国47都道府県を回るオフラインイベントを開催し,杉浦さんもそのすべてに出演していましたが,「イクシオン サーガ」でもオフラインイベントを開催する予定はありますか?
2012年末のサービスイン以降から,何か始めようと検討はしています。まだ決定はしていませんが,やはり対戦ゲームですから,大会を開催して,最終的には日本一のチームを決定するようなことをやりたいですね。
ただ,その前にまずはオープンβテストから正式サービスまでの準備と運営をきちんと進めて,お客様の満足度向上と母数の拡大など,やらないといけないことはまだまだたくさんありますので,それらをクリアしてからの話になります。
4Gamer:
ちなみに,公式サイトの「イクシオン サーガ 開発隊」は,今後どうなるのでしょう?
杉浦氏:
当初は,役目を終えるオープンβテストの終了と同時に閉じる予定だったのですが,非常に効果的に機能しているので,サービスイン後の継続を前向きに検討しています。
開発隊は「『イクシオン サーガ』チームと実際に遊んでくださるお客様で,一つのゲームを作り上げよう」というコンセプトで進めてきましたが,海外タイトルのフォーラムともまた違った,カプコン独自のものとして発展しているんじゃないでしょうか。
こうした場は,今後,カプコンでオンラインゲームを企画開発する場合のスタンダードな手法にしていきたいと思っています。
4Gamer:
PCもまだオープンβテスト段階なのに気の早い話ではありますが,PC以外のプラットフォームでの「イクシオン サーガ」の展開はどうでしょう? 仮にクロスプラットフォームなどが実現すれば,プレイヤーの母数増加にもつなげられると思うのですが。
杉浦氏:
「イクシオン サーガ」はカプコンのMTフレームワークで開発していますから,コンシューマ機への移植も技術的には可能です。またコンシューマ機で展開できるというのも,ほかのPCオンラインゲームのデベロッパ/パブリッシャではなかなかできない,カプコンの強みといえますから,チャレンジしたい気持ちも確かにあります。
ただ,仮にマルチプラットフォームで展開するにしても,クロスプラットフォームは難しいでしょうね。対戦ゲームでは,環境の違いで有利/不利が出てしまったら,勝負が成立しませんから。
いずれにせよ,まずはオープンβテストを頑張って成功させないといけません。PCで成功させない限り,その先は可能性の域を超えることはないと思います。
4Gamer:
では最後に,今後に向けての意気込みをお願いします。
早川氏:
「イクシオン サーガ」は,東京開発部の完全オリジナルオンラインゲーム第1弾,しかも対戦モノという,かなりチャレンジしたタイトルになっています。
最初のαテストから1年以上かけてお客様のご意見をいただき,さらに2か月間のオープンβテストを実施するという,いろんな意味で,ほかに例のないことをやっています。また,お客様のご意見をいただき開発の参考にするというのは,オープンβテスト後も続けていきますので,ぜひ,オープンβテスト期間にプレイしていただいて,「もっとこうだったらいいのに」といったご意見をお寄せください。
あとは2012年10月からアニメ「イクシオン サーガDT」もスタートしますし,コミック連載も始まります。さまざまな形で展開する「イクシオン サーガ」に,ぜひ期待してください。
企画の立ちあげから2年以上掛けてコツコツと進めてきたタイトルが,ようやくオープンβテストにこぎつけました。当初は,オープンβテストには一生たどり着けないんじゃないかという不安が頭をよぎることもあったので,今の感慨もひとしおです。早川をはじめ,「イクシオン サーガ」チームは,クローズドβテストで結果を出して,今,非常に勢いに乗っています。上司として,彼らの成功に期待しています。
オンラインゲームのサービスはビジネスですから,無論,収益を上げることも確かに重要です。ただ,このタイトルでは「遊んでくださるお客様を大事にしよう」というカプコンのマインドを,スタッフ一人一人が大事にしながらここまで来ました。
また私にとっては,一つのゲームに企画開発から携わるのは初めてで,これまで他社が開発したタイトルを運営していただけでは経験できない,生みの苦しみを味わいました。そうした,「イクシオン サーガ」チーム全体で分け合った苦労が報われることを願っています。
早川氏:
2012年末には,正式サービスを開始します。オープンβテストを経てなお,多くのお客様が継続して遊んでくださる内容を目指しますので,ぜひよろしくお願いします。
4Gamer:
ありがとうございました。
「イクシオン サーガ」のクオリティが,この半年ほどで目に見えて向上したのは,インタビュー中でも言及されているとおり,テスターから寄せられた意見/要望によるものだが,実は2012年4月にカプコンの東京開発部で行われた組織変更も大きく影響しているとのこと。このタイミングで,同部の管轄する各タイトルでは,運営チームと開発チームの垣根が取り払われ,「イクシオン サーガ」チームに統合されているのだ。
そのため「イクシオン サーガ」においては,プロデューサーたる早川氏が開発隊の議論を踏まえて下した意思決定が,スピーディにチーム内に浸透するようなったというわけである。よく,前例のない新しいチャレンジを成功させるためには,的確な意思決定だけでなくスピードも必要となるといわれるが,「イクシオン サーガ」はその好例だったのではないだろうか。
カプコンとしてさまざまなチャレンジが施された,“オンラインチーム対戦アクションRPG”「イクシオン サーガ」は,ついにオープンβテストに突入する。テスト期間も2か月間とたっぷりあるので,同タイトルに興味を持った人はぜひ一度プレイしていただきたい。
「イクシオン サーガ」公式サイト
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イクシオン サーガ
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