インタビュー
「『鉄拳』はB級だからいい!」――CG映画「鉄拳ブラッド・ベンジェンス」で脚本を担当した佐藤 大氏に,同作の魅力を聞いた
映画オリジナルの新キャラクター「神谷 真」の投入は
“デビル因子”を巡る物語を描くうえで必要なものだった
4Gamer:
ところで,鉄拳BVには“神谷 真”という映画オリジナルのキャラクターが重要な役回りで登場しますが,なぜ新キャラクターを投入したんでしょうか?
佐藤氏:
先ほども言いましたが,ゲームのキャラクターが映画の中で死んでしまったり,成長したりする物語は描けません。なので“その部分”を担うキャラクターとして,映画にしか登場しないキャラクターが必要だったんですね。
さらに,“デビルになりそうな新キャラ”というものを配置したかったという理由もあります。鉄拳3以降って,“デビル因子”を巡る物語がメインになっていますよね。実は最初のプロットも,デビル因子を巡る陰謀の話だったので,そこは外したくなかったんです。
4Gamer:
鉄拳の物語を描いていくうえで,デビル因子を抜きにはできないですよね。しかもそこに密接に関わる真が,普通に鉄拳に登場しそうな美形キャラになっていて。
佐藤氏:
物語の中で自然にデビル因子を説明するのは難しいんです。シャオユウという女子高生がデビル因子に興味を持って,探偵のように活躍する物語であれば,同じ学校の美少年という存在は欠かせませんよね(笑)。
4Gamer:
陰があって,しかも何かを知っている美少年って,学園モノにおいては必要不可欠ですね。
この新キャラを投入したのは,佐藤さんのアイデアだそうですが,ゲーム版のスタッフから反対されませんでした?
佐藤氏:
当初は警戒されていました。学園モノにした時点で警戒されましたが,なぜこういう表現が必要なのかをきっちり説明して,話し合ったうえで納得してもらいました。
4Gamer:
そもそも学園モノという時点で警戒されてしまったんですね。
佐藤氏:
たぶん,一番真っ当な作り方としては,仁と飛鳥を主役にして,そこにリリを絡ませる形だろうと思うんです。でも,あえてそうしなかったわけですから……。
4Gamer:
鉄拳ファンだけに向けて作るのであれば,そのほうが作りやすそうではありますよね。
佐藤氏:
そこなんですよ。でも映画でしか見られない画を,バカバカしくド派手に見せたくて,そのためにはシャオユウとアリサ……とくにアリサを主役にしたかったんです。そうじゃないとあのクライマックスは描けませんから。
4Gamer:
確かにもの凄くバカバカしくて,冷静に考えると笑っちゃいそうなんですけど,それでいてぐっと来るクライマックスでした。
佐藤氏:
あのシーンを描きたいがために,それまでの90分があるんです(笑)。
4Gamer:
なぜ,そこまでアリサに肩入れしているんですか?(笑)
僕はもともと,人間じゃないものが人間的なことをするのが大好きなんです。
そういうものを描くために,CGはちょうどいいツールなんです。見た瞬間に実写ではないことが分かるCGで,人間じゃないものが人間っぽい行動をしたり,パンダがパンダ離れした行動をとったりすると,逆に「人間っぽさ」が浮かび上がってくるじゃないですか。
4Gamer:
何となく分かります。CGで描かれた人間が,どんなに人間っぽいことをしても,凄いCGだな……という印象が先に来ちゃうというか。
あ,なるほど。シャオユウが凄く可愛くて,最初はシャオユウ視点で物語を楽しめるんですけど,徐々にアリサに感情移入していっちゃうのは,そういうことだったんですかね。
佐藤氏:
思うつぼですね(笑)。
基本的にはアリサが主役で,アリサの成長物語なんです。ただ,その部分は最後に気付いてもらえればいいぐらいに考えてます。
セリフも映像も,細部まで手抜きはなし
今回出せなかったキャラクターは別の機会に……
4Gamer:
ところで,冒頭で仁が「親子喧嘩で滅ぶ程度の世界は滅べばいい」と言いますよね。最後まで見ると,「滅び」という言葉がとても重要なキーワードになっているように感じたんですが,そこに込めた意図を,ネタバレにならない範囲で教えてください。
佐藤氏:
僕は基本的に,仁とシャオユウは相思相愛だと思っているんです。仁は最近浮気しがちですけど,シャオユウは一途に仁のことを思っていて,仁の思想や考え方にも肉薄してきていると思うんですね。
冒頭の仁のセリフは,仁が悪に染まっていることを象徴している部分です。そこにシャオユウが近づけるのか,近づけたとして,仁はそれを認めるのか? というあたりを,「滅び」という言葉で繋いでいます。
4Gamer:
なるほど。ほかにも,アリサがどんどん人間らしくなっていくうえで,「人のルール」という言葉が印象的な形で使われていたりと,一つ一つの細かなセリフまで,きちんと意味が込められているんだろうなと感じました。
もちろんセリフだけでなく,映像の作り込みも激しかったですし。
佐藤氏:
とくにクライマックスの映像は,たくさんの方に見ていただきたいですね。あれは多くの特撮作品に関わってきた樋口(真嗣)さんが絵コンテを描いているからこそ,実現した画作りですから。
4Gamer:
あ,この軌跡は! みたいなものがありますもんね。
佐藤氏:
1970年代を生きた人間としては「マジンガーZ」とか「鋼鉄ジーグ」とか,ああいうものを思い出しますし,「攻殻機動隊」に関わってきた者としては,当時は不可能だった表現を現在のCG技術で見事に実現できていて,そういう意味でも嬉しかったです。
4Gamer:
そんなこんなで,個人的にも凄く楽しめた映画なんですが,映画に登場しないキャラクターのファンにとっては,ちょっと残念な部分があるかもしれません。
佐藤氏:
おそらく,ゲームのファンの方からは,「もっと仁を出せ」とか,「なぜラースが居ない?」「ポールはどうした?」「吉光を出せ」みたいに,いろいろな意見が出ると思います。吉光は凄く出したかったんですけど,人間離れしたキャラクターを出し過ぎてしまうと,収拾が付かなくなっちゃうんですよね。とはいえ,別の機会があれば,吉光はもちろん,飛鳥やリリも出したいと思っています。
リリは……本当は今回,出すつもりでした。実は,だからこそ,京國高校をお嬢様校っぽくしたというのもありますした。
4Gamer:
それが出せなかったとなると,佐藤さんとしては残念なんですね。
佐藤氏:
ええ。ただ,90分できっちり話を収めようとすると,どうしても難しいんですよね……。
4Gamer:
格闘ゲームって,全員が主役みたいなところがありますから,それを少しでも多く出そうとなると,確かに90分じゃ厳しそうです。
佐藤氏:
全キャラに焦点を当てようとすると,トーナメントでひたすら戦う話にでもするしかないですからね。でもそうすると,主役が誰かという時点で勝敗が読めちゃうんです。それでは映画として面白くないだろう,と。どうせトーナメントなら,映画に登場したペアで鉄拳タッグトーナメント2を遊んでほしいと考えたんです。
4Gamer:
その中で,何故リー・チャオランと巌竜はああいう形での出演になったんですか?
佐藤氏:
オープニングで“かっこいい鉄拳”を見せたので,パンダに乗って通学してるシャオユウと巌竜の流れで,「はい! 鉄拳ってこういう部分もありますよ」という側面も早めに見せたかったんです。
しかも巌竜は元相撲レスラーですから,三島高専であれば体育教師くらいやってても不思議じゃなかろうという,割りとギリギリのラインでのギャグです。
4Gamer:
またジャージが似合ってるんですよね(笑)。
佐藤氏:
ね(笑)。リーに関しては,世界中にああいう家を持っていそうだし,世界中を飛び回っていると思うんです。実は裏設定として,木人の秘密を調査するために潜入捜査しているというものがあるので,学校教師として登場させました。さらにいうと,彼も独自の動きで真についても調べていたという設定があるので,シャオユウとアリサに付きまとっているんです。ただ,そこの説明をしているシーンが無くなってしまったので,「もう面白キャラでいいんじゃね?」みたいな感じになっちゃいましたけどね(笑)。
その辺は,「精霊がここに居ます」みたいな説明を授業中にしているので,そこで察してもらえたら嬉しいですね。
4Gamer:
そこまでの裏設定は読み切れませんでした……。
紛れもなく「鉄拳」の映画であると同時に
“萌えアニメ”としても楽しめる作品
鉄拳BVの良いところは,紛れもなく鉄拳の映画であると同時に,萌えアニメとしても楽しめる部分だと思うんです。
佐藤氏:
ええ,可愛い女の子を見てるだけでも楽しい作品にはなっていると思います。そもそも映画って,女の子の一瞬の可愛さを捉えるだけで成立する部分もあるんですよね。
実際,最初に上がってきたキャラクターデザインを見た瞬間,シャオユウとアリサの可愛さだけで,90分くらいは持つと思いましたから(笑)。
4Gamer:
個人的には,約90分という長さだからこそ,作品全体にスピード感があって楽しめた気がするんですが,なぜあの長さに決めたんですか?
佐藤氏:
この映画は3Dで上映することが決まっていたので,100分を越えたくなかったんですよ。どうしても長すぎると目が疲れちゃいますからね。
4Gamer:
確かに鉄拳BVは目が疲れることもないし……頭もそんなに疲れませんでした(笑)。
佐藤氏:
この映画は,考えたらダメです。「シャオユウの推理はめちゃくちゃじゃない?」とか,いろんなツッコミどころがあると思うんですけど,「そういうのは考えちゃダメ!」なんです(笑)。
だって,「E.T.」や「SUPER 8」に一個一個の理屈はいらないじゃないですか。
4Gamer:
自転車が実際飛んでるんだから,そこは納得しろよってことですね。
佐藤氏:
そうです。その代わり,いい画だろ? って。君は自転車が飛ぶ理由を延々と聞きたいのかい? っていうことです(笑)。僕自身も,そういう映画が大好きなんですよ。「キック・アス」や「ゾンビランド」もそうでしたし。
4Gamer:
いわゆるB級映画ですよね。その感覚は,ゲーム版の鉄拳にも通じるところでしょうから,脚本を佐藤さんが手がけたというのも,必然だったのかもしれません。
佐藤氏:
ひょっとしたら,そういうことなのかもしれませんね(笑)。
何にせよ,鉄拳を知っている人はもちろん,知らない人が見ても楽しめる映画になっていると思いますので,ぜひ楽しんでください。
4Gamer:
今日はありがとうございました。
“人気ゲームが映画化!”という話を聞けば,期待と同時に不安を抱える人も少なくはないだろう。しかしインタビューで佐藤氏も言っていた通り,鉄拳BVは「鉄拳らしくない」と言われないようにするということに関しては,細心の注意を払って制作された作品だ。加えて,“鉄拳らしさ”を映像作品として表現することも忘れていない。今回のインタビューから,佐藤氏の「鉄拳」への愛を感じ取っていただけたなら幸いだ。
もちろん,佐藤氏だけではなく,スタッフはゲーム版を中心に鉄拳を知り尽くした面々が揃っており,そのクオリティの高さは折り紙付きといえる。
鉄拳ファンだけではなく,鉄拳をあまりプレイしたことのない人も十分楽しめる内容になっているので,ぜひ劇場に足を運んでみてほしい。
映画「鉄拳 ブラッド・ベンジェンス」公式サイト
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