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AMD,プロフェッショナル用途向け新型GPU「Radeon Pro VII」を発表。Radeon VIIベースの性能強化版
名称から想像できるとおり,本製品のベースとなっているのは,すでに発売済みのゲーマー向けGPU「Radeon VII」そのものだが,商業映像制作や科学技術計算,シミュレーションといった用途に向けた細かな仕様変更や強化が行われている。間違ってもゲーマーがゲームPC用に買う製品ではないが,簡単に紹介しておきたい。
Radeon Pro VIIはRadeon VIIとどこがどう違うのか
Radeon Pro VIIは,台湾TSMCの7nm FinFETプロセスを用いて製造されたVega世代GPUコアである「Vega 20」そのものを採用した製品だ。
AMDが公開した主なスペックは,以下のとおり。
いわゆるシェーダプロセッサである「Stream Processor」の総数は3840基で,
単精度浮動小数点演算の理論性能値は,13.1 TFLOPSとのこと。モダンなGPUの理論性能値は,「総シェーダープロセッサ数
動作クロックがゲーマー向けGPUより低いのは,業務用GPUではよくある事例で,動作の安定性や長時間連続利用に配慮した設計に基づいたものであろう。
グラフィックスメモリは,Radeon VIIと同じく16GBのHBM2を,基板上ではなくGPUパッケージ上に実装する。
ビデオ出力端子としては,mini DisplayPortを6基実装しており,6画面同時出力に対応する。
蛇足ながら補足しておくと,近年のAMD製GPUは,すべてが内部的にディスプレイ出力エンジンを6基実装しており,Radeon RX VegaシリーズやRadeon RX 5000シリーズも同様だ。グラフィックスカード上にビデオ出力が4系統しかないモデルでも,DisplayPortのMulti-Stream Transport機能を活用すれば6画面出力が行えた。Radeon Pro VIIにおける6基のmini DisplayPortは,GPU内部のディスプレイ出力エンジンに6基の端子を接続したもの,と考えて差し支えない。
このほかにもAMDは,Radeon Pro VIIの特徴として以下の4点をアピールしている。
- PCI Express(以下,PCIe) Gen.4対応
- 倍精度浮動小数点演算の理論性能値が6.5 TFLOPSに達する
- 16GBのHBM2はエラー訂正に対応(ECC対応)
- Infinity Fabric LinkによるマルチGPUソリューションに対応
これらのうち1番めは,Radeon VIIがPCIe 3.0対応止まりだったことに対する優位性のアピールといったところか。
次の2番めは,Radeon VIIの倍精度浮動小数点演算性能が3.46 TFLOPSだったことに対する優位点だ。Radeon VIIの場合,倍精度浮動小数点演算性能の理論性能値は,単精度浮動小数点演算の理論性能値と比べて,4分の1に抑えられていたのだが,これが2分の1まで引き上げられたわけだ。
3番めは,信頼性が重視される業務用途向けなので,当然というか必然の改良点といえる。Radeon VIIも,メモリバス帯域幅は同等の1TB/sを誇るHBM2を採用していたが,ECCには非対応だったのだ。
最後の4番めは,これまでのRadeonファミリーにおいて,長らくマルチGPUソリューションとして使われていた「CrossFireX」とは別モノのマルチGPU技術を採用したという意味である。
Radeon VIIにおけるCrossFireXでは,PCIeインタフェースを通じて,個々のGPUでレンダリングしたピクセルデータを相互にやりとりしていた。これに対してRadeon Pro VIIでは,専用のInfinity Fabric Linkブリッジアダプタを利用するマルチGPUソリューションを導入した。仕様上は,最大4基までのRadeon Pro VIIをブリッジで相互接続することが可能で,システムからは1基の大きなGPUとして使うのと,異なる個別のGPUとして使うやり方の両方に対応する。
ちなみに,技術的な基盤となっているのは,Radeon GPUのみならず,Ryzen CPUにもプロセッサ内部バスとして採用されているInfinity Fabricインタフェースだ。
マルチGPU描画に特化したピクセルデータのやりとりに限定しているCross
なお,Infinity Fabric Linkのバス帯域幅は,2 GPU間で上り下りそれぞれ84GB/sずつ,合計168GB/sとのこと。GPU 3基以上の接続では,リンクバス接続となるため,相応の遅延をともなうことになる。ちなみに,「Radeon Instinct MI60」発表時のInfinity Fabric Linkは,バス帯域幅が200GB/sという話だったので,少し減っているわけだ。
Radeon Pro VIIはRadeon Instinct MI60のグラフィックス用途版?
さて,AMDがアピールした「Radeon Pro VIIにおける4つの特徴」だが,それ自体に大きな驚きはない。Radeon Pro VIIのGPUコアであるVega 20は,ゲーマー向けのRadeon VIIとして発売となる前に,機械学習を初めとしたAI用途向けGPUであるRadeon Instinct MI60として,一足早い2018年にリリースされていたからだ。
総括するなら,今回発表となったRadeon Pro VIIは,2018年末に発表となったRadeon Instinct MI60を,業務用グラフィックス向けのRadeon Proとして仕立て直して再発売したもの,という捉え方でいいと思う。
そのためだろうか,AMDは,Radeon Pro VIIの北米市場における想定価格を1899ドル(税別)と設定して,競合に対して価格対性能比面で対抗していく戦略のようだ。13 TFLOPS級の単精度浮動小数点演算性能と,6.5 TFLOPS級の倍精度浮動小数点演算性能を有する業務用途向けGPUとしては,実際,かなり安価な価格設定であることは間違いない。
また,AMDは,このRadeon Pro VIIの発表に合わせて,AMDのレイトレーシングプラットフォーム「Radeon Pro Render」の新版となる「Radeon Pro Render 2.0」のβ版をリリースしたことを発表した。
2019年夏に行われた「SIGGRAPH 2019」のAMDブースでも,Radeon Pro Render 2.0β版は展示されていたので,今回の発表が正式リリースではなくβ版のであることには少々驚いた。とはいえ,「Unreal Engine」や「SideFX Houdini」「Autodesk Maya」「Blender」といったデジタルコンテンツ制作ツール向けのプラグインソフト群にRadeon Pro Render 2.0対応版としてリリースされるというのは新情報である。
Radeon Pro Render 2.0正式版のリリース時期は未公表であるものの,これはおそらく,2020年末に登場すると言うハードウェアレイトレーシング対応の第2世代Navi「Navi 2X」との調整を行っているからかもしれない。
AMDのRadeon Proグラフィックスカード製品情報ページ
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Radeon Pro,Radeon Instinct
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