インタビュー
“新生”マーベラスエンターテイメントのキーパーソン,現CCOのはしもとよしふみ氏に,今後の戦略と開発体制について聞く
プレスリリースを読む限りでは,PC用ブラウザゲーム「ブラウザ三国志」の企画運営や,コンシューマゲーム機の受託開発で評価されているAQインタラクティブと,モバイルSNS向け「牧場物語 for mixi」「牧場物語 for モバゲー」「牧場物語 for GREE」といったモバイルSNS向けゲームを数多く手がけているライブウェアと合併することで,“マルチコンテンツ・マルチデバイス”戦略に力を入れていこうという意向がうかがえる。
まさに今,マーベラスエンターテイメントが変革の時を迎えているのは,こうしたことからも明らかだ。
今回は,2010年4月にマーベラスエンターテイメントのCCO(Chief Creative Officer)に就任して以来,開発体制の強化に取り組んできたというはしもとよしふみ氏に,ここ最近の同社の動きと,合併後を見越した今後の展開について,話を聞いた。
「閃乱カグラ」「グランナイツヒストリー」は
若手スタッフのチャレンジ
4Gamer:
今日は,今後のマーベラスエンターテイメントの戦略全般についてお聞かせいただけるとのことで,よろしくお願いいたします。
はしもとよしふみ氏(以下,はしもと氏):
お手柔らかにお願いします。
最近のトピックでいうと,ニンテンドー3DS用ソフト「閃乱カグラ -少女達の真影-」が,9月発売にもかかわらずすでに大きな話題を呼んでいます。
はしもと氏:
ありがとうございます。
カグラは若いスタッフの挑戦という意味合いの強いタイトルです。現時点では,「3Dってどうなの?」と真価を問われる向きがあるのも確かですが,エネルギッシュな担当者が「ぜひ,3Dでやりたい」と熱意を持っていたので進めている企画です。結果,大きな反響をいただいているのは,非常に嬉しいところですね。
4Gamer:
ある種,3Dならではの試みが盛りだくさんなタイトルになるんじゃないかと期待しています。
ほかにも新作では,同じく9月にPSP用の「グランナイツヒストリー」をリリース予定ですね。
これはヴァニラウェアさんと開発しているタイトルなんですが,こちらも開発は若いスタッフが中心となっています。PSPでありながら,オンラインゲームのように楽しめる作品です。
ただ,PSPでは常時オンラインというのは考えにくいですから,いわばゴーストのようなものを使って,常時数千人がサーバー内で同期しているような形を採用しています。もちろん,オフラインでもプレイ可能です。
4Gamer:
オーソドックスなファンタジーRPGではない,と。
はしもと氏:
どちらかというと,メールゲームとオンラインゲームを融合させたようなイメージですね。
サーバー内では常に戦局が変化していて,手元のPSPでは最後にサーバーに繋いだときのデータを使って一人で遊び,次に接続するとサーバー内の情報もPSP内の情報も更新されるというものになっています。
4Gamer:
ネットワークを使ったゲームというと,同期型であったり非同期型であったり,いろいろなタイプがありますが,その両方のいいとこどりをしているというような感じでしょうか。
はしもと氏:
そうですね。一つ一つの要素は,すでにあるものですけれど,それらを組み合わせることでわりと新しいことへチャレンジできているという手応えはあります。
4Gamer:
カグラもグランナイツヒストリーも若手中心のプロジェクトとのことですが,何歳ぐらいのクリエイターがメインなんですか?
はしもと氏:
若手といっても,この業界基準ですのでだいたい30歳ぐらいです。別に若手を登用して世代交代を促そうというわけではなく,意欲のあるスタッフを活かすことで,結果的にこういった形になりました。
4Gamer:
まあ,ある程度の経験と実力が伴わないと,なかなかプロジェクトを動かせないですもんね。
はしもと氏:
ええ。どうしても関わる人数や予算は限られたものになりますから。
ほかにもまだ発表できる段階にはありませんが,既存の人気シリーズに関しては従来どおりに展開していく予定です。人気シリーズは人気シリーズとして大事にしながら,若手をはじめ意欲のある者のチャレンジを後押しして新しいものを作っていくという形で,ある程度の棲み分けを進めている最中なんです。
4Gamer:
ちなみに,これらのタイトルのプロジェクトって,昨日今日に始まったものではありませんよね。
はしもと氏:
ええ。時間をかけてヒイヒイ言いながら仕込んでいたものです。
去年の後半からあまり多くのタイトルを出せていなかったんですが,その裏側ではこうやってシリーズものではない新しいコンテンツを準備してきました。
4Gamer:
ちょっと失礼な言い方になってしまうんですが,ここ数年,マーベラスエンターテイメントとして発売してきたタイトル――とくに新規のIPに関しては,ゲーム自体の出来は良くても,大ヒットには結びついていないものが多かったように思います。
確かにそれはありますね。
その原因を考えていくと,このハードにはこういう作品が向いているだろうというような戦略よりも,ちょっと直感に頼りすぎていたと思うんです。新しいハードが出たらそこにチャレンジしてみようと,とにかくいろいろなラインナップを突っ込んでいたんです。結果,当たるものもそうでないものも出てしまったというのは,大きな反省点ですね。
今では例えば,ニンテンドー3DSなら「3Dで可愛い女の子を描いたら,喜んでもらえるんじゃないか?」と厳選して熟慮した結果のカグラ,PS Vitaで通信機能が拡充される前に「今のPSPの通信機能でも面白いことはできるはず」という考えで作っているグランナイツヒストリーのように,ある程度の“設計図”を書いているんです。
4Gamer:
マーケティング重視とまではいかないまでも,ある程度,ゲームを発売してからの周辺環境を含めて,設計図を描いているということですか?
はしもと氏:
そうですね。マーケティング的な側面も重要なんですが,それだけに頼るのではなく,やりたいこともミックスさせつつ考えています。もちろん,これまでもそういったことは考えていたんですが,さらに重要視しているということですね。
4Gamer:
そこで気になってくるのが,今このタイミングで開発に時間をかけているうちに,市場環境が大きく変わる可能性があるという点です。先行きが見えにくい状況であるのは確かですよね。以前であれば,大作に3〜5年かけるようなケースもよくあったと思うんですが。
はしもと氏:
そこは大いに検討すべき部分ですね。例えば,カグラに3〜5年をかけたからといって,その分良いものになるとは限りません。“揺れ方”は凄くなるかもしれないですけど,プレイヤーの裾野を広げるまではいかないでしょう。
それよりも,時間をかけるべきタイトルと,スピーディに作り上げていくべきタイトルの棲み分けをはっきりさせた上で,何を作るかを厳選していくというのが重要になってくると思っています。
隙間狙いからの脱却と
文化としてのゲームの再興を目指す
4Gamer:
それでは,何を決め手にして開発していくタイトルを厳選するんでしょうか。
以前だと,「このハードで,このジャンルが出ていない」とか,そういう隙間狙いが多かったんです。でもそこには,「このハードを持っている人の中に,こういうジャンルのゲームを買う人がどれだけいるんだろうか?」という視点が欠けていたと思っています。
ですから今は,「このハードを持っている人は,こんなゲームをやってみたいだろう」という部分を重視しています。
4Gamer:
プレイヤーのライフスタイルやプレイスタイルも視野に入れて決めていくというイメージですか?
はしもと氏:
はい。そのハードを持っている人なら,こういう遊び方をしたいんじゃないか,こういう提案をできるんじゃないか,そこのところを企画段階でしっかり考えましょう,と。
たとえ,空き家のジャンルがあったとしても,そこに向けてやみくもに何かを作るのではなく,プレイヤーは何を楽しみたいんだろう? というところから考えていって,新しい提案をできるのかどうかを判断基準にしていきます。もし新しい提案ができないのであれば,無理に作ることはないですから。
4Gamer:
今まではそういう部分がおろそかになっていた,と。
はしもと氏:
そうなんですよね。その結果として面白いゲームができあがっても,ビジネスとして厳しい結果に終わりがちだったことは否定できません。
4Gamer:
ここでいう,新しい提案とは具体的には何を指しているんでしょうか?
難しいですね(笑)。ただ,確実に言えるのは“体感”であり,“体験”でしょうか。
例えば,いまゲームを作っている側の多くは,ゲームで遊んで受けた感動や衝撃を,自分の手でも生み出したいと思って,その仕事を志したと思うんです。だから我々としては,そう思ってもらえるような作品を作っていきたいんですよ。でないと,これからゲームを作ろうと思う人は減ってしまうでしょうし,そうなったらこの業界は先細っていくだけですから。
4Gamer:
では,ゲームを作って売っていくにあたって,一番大事な顧客層はどこだと考えていますか?
はしもと氏:
常に意識しているのは,小中学生ですね。そこでゲームが嫌いになってしまうと,その先,ゲームで遊ぼうと思わなくなってしまうと思うんですよ。今ゲームで遊んでくれている30代や40代の方って,子供のうちにゲームの楽しさを知った世代だと思いますから。
4Gamer:
なるほど,会社としてどうこうだけでなく,そういった将来のゲーム業界に対する問題意識もお持ちなんですね。
はしもと氏:
ええ。例えば今,アニメなんかだとキャラクターの人気がもの凄いことになって,アニメ以外の分野にもその影響力が波及しています。それって,文化として成り立っていることの証だと思うんですよ。
私が業界に入ったのは,格闘ゲームがそこら中に溢れていた時期で,私も格闘ゲームを作っていたんですが,キャラクターに熱い思い入れを持ってくれている方がたくさんいらっしゃいました。バレンタインデーには会社宛にチョコレートが大量に届いたりもしていましたし(笑)。
4Gamer:
ジャニーズ事務所もびっくりですね!
はしもと氏:
コミケのカタログを見ても,格闘ゲームを題材にしたサークルがたくさんあったりして。ただ当時の私は,そのありがたみをよく理解できていなかったんです。文化を生み出しているという自覚がなかったんですよね。
でも,そのゲームなりキャラクターなりを熱烈に愛してくれている方達って,それをきっかけに人生が変わったりもしていたと思うんです。
4Gamer:
惚れ込んだエンターテイメントによって人生が変わってしまうというのは,決してレアなケースではないですよね。
はしもと氏:
たぶん今のゲームからは,そういう力が落ちていると思うんです。
それでも,自社のコンテンツだと「DSの『牧場物語』を子供に遊ばせたら,とても生き生きとした表情を見せてくれた。ありがとうございます」みたいな感想を親御さんからいただいたことがありました。そのときに「このためにゲームを作っているんだ」とあらためて気付かされたんです。
4Gamer:
社会現象みたいなものは起きにくくなっても,ゲーム自体が力を失ったわけではない,と。
はしもと氏:
ええ。会社として損をするわけにはいかないんですけど,こういうご意見をいただけるからこそ,ゲームを作る価値はあると思いますし,そういうことを繰り返していくことで,結果として会社のブランドが高まっていけばいいと思っています。
4Gamer:
そしてそれが,将来のゲーム業界に還元されるようになるのがベストである,ということですね。
はしもと氏:
そうなるように,がんばっていかないといけませんね。
4Gamer:
これまでのお話は,会社としての問題意識だと思いました。では,はしもとさん個人として,ゲームを作る仕事に対してどのようなモチベーションをお持ちなんでしょうか。基本的にはキツい仕事ですし,とくに最近は,市場自体もかつてのような隆盛を極めているわけではないですし……。
私はもともと,お話を作るのが好きなんです。例えば,「ルーンファクトリー」の原作やキャラクター設定なんかは自分でやっていました。それを世に送り出して,お客さんが喜んでくれる……というのが,一番ですし,唯一です。
私はアーケードゲームが出発点なんですが,当時はロケテストを見に行くと,その場でプレイヤーの反応を見ることができたんですよ。つまらないと筐体を蹴られたりもするんですけど,面白いと続けて100円を入れてくれたりします。それを見たときに「作って良かった」と心の底から思うんです。基本的にその頃から,モチベーションは変わってないですね。
4Gamer:
最近,コンシューマゲームのプレイヤーの反応は,ネット上でチェックしているんですか?
はしもと氏:
そうですね。直接メールやお手紙をいただくこともありますが,ネットの書き込みを見て一喜一憂することはよくあります。
4Gamer:
となると,批判を目にする機会も多いと思うんですが,時には明らかに間違った情報を元に批判されてしまうこともありますよね。そういったものを目にしたとき,どのように感じますか?
はしもと氏:
ありますね……。例えば,うちの作品に技術的な不具合があったような場合,それについて批判されるのは当然のことだと思うんです。そういった指摘をしてくださることに対して,感謝の気持ちしかありません。
ただ,我々が言ってもいないことが一人歩きをしてしまい,それをきっかけに問題が起こったりすると複雑な気持ちになります。でもそれは,「この会社だったら,そんなことはないよ」という信頼を勝ち得てないからこそなんですよ。だからそういう会社にもなっていかなければならないと思います。
ソーシャルゲームでも
“満足度”を大事にしていきたい
4Gamer:
先ほどの,“新しい提案”という部分に少し繋がるんですが,はしもとさんにとって“ゲームならではの体験”とは何でしょう?
インタラクティブ性みたいなことは,昔からよく言われていますよね。ただ見ているだけではなくて,ボタンを押すことで行動ができるとか。それは一つの答えではあるんですが,そこだけではないと思うんですよ。
アニメとの比較でいうと,気持ち良さ,爽快感みたいな部分は,アニメでは表現しづらい,ゲームならではのものではないかと思います。
4Gamer:
ゲームだからこそ,よりプリミティブな感覚に訴えられるものがある,と。
はしもと氏:
ええ。それがゲームだからこそ得られるものであり,ゲームならではの体験ではないかと思います。
4Gamer:
そういった感覚の部分にフォーカスして,短時間で遊べるように切り取っていった結果として,ここ最近のソーシャルゲームの流行があるのかもしれません。
はしもと氏:
それは大いにあるでしょうね。最近は,総プレイ時間が長いゲームを作っても,「長すぎる。こんなの売れない」みたいに各方面から言われてしまいますから。
4Gamer:
かつてはそれが売りになっていたはずなんですよね。メインストーリーだけで数十時間,やり込み含めると何百時間でも遊べます! みたいな。
はしもと氏:
時代が変わってしまったのは確かですから,それはそれで仕方のないことなんですよね。そのうえで何を作っていくかが重要になるわけで。ひょっとしたら,プレイ時間は3分〜100時間みたいに両立できるものが,一つのゴールなのかもしれないですし。
4Gamer:
現在サービス中の「みんなで牧場物語」や「ブラウザ一騎当千 爆乳争覇伝」なんかは,ひょっとしたらそれに近いのかもしれません。
おかげさまで,みんなで牧場物語も,最近ようやく調子が上向いてきました。
4Gamer:
メインのプレイヤー層は,やはりパッケージの牧場物語シリーズより高めでしょうか?
はしもと氏:
だいぶ高めですね。パッケージのほうは,お子さんが主体ですから。基本プレイ料金が無料とはいえ,アイテム課金というビジネスモデルや,PCを使わなければいけない点は,お子さん達にはハードルが高いと思います。
4Gamer:
子供達が遊ぶものとしては,一度パッケージを買ったら,それ以降,一切お金がかからないようなもののほうが,親御さんとしても安心でしょうしね……。
では,みんなで牧場物語の調子が上向いた要因は,どこにあると分析していますか?
はしもと氏:
やはり,遊べる要素が増えてきたことでしょうね。それによって継続的に遊んでくださる方が増えましたし,プレイヤー同士の繋がりも生まれやすくなってきたのだろうな,と。
もちろん,まだまだ満足はしていませんし,アップデートは続けていきます。ただまだ,様子を見つつ……ですけどね。それはゲームとしての面白さだけでなく,ビジネス面も含めてですが。
4Gamer:
これまで作って売ったらそこで終わりというビジネスをしてきた会社にとって,継続的にアップデートを続けていかなければならない,ソーシャルゲームへの取り組み方って,なかなか手応えをつかみにくいものではないかと思うのですが,そのあたりはいかがですか?
はしもと氏:
難しいですよね。これまでであれば,こちらが提供した遊びに対して,プレイヤーはその通りに遊んだり,あるいは自分なりの遊び方を見つけたりしてくれていたと思うんです。でも,ソーシャルゲームだと常にプレイヤーの動向を見つつ,新しい遊び方を提示し続けなければいけないんですよね。
それが単なる足し算なのか,あるいは内容をがらっと変えることになるのかは,状況によって変わるとは思うんですが。さまざまな娯楽が溢れている現在は,飽きられるのも早いですから,常にどん欲にやれることはやっていかなければならないと認識しています。
とはいえ,今後のPS Vitaも含めて,コンシューマゲーム機であっても通信機能を搭載しているのが普通になっていますから,こうした取り組みを通じて経験を積んでいくのは必要不可欠だと思います。
4Gamer:
ただバグフィックスのパッチを配信しますというだけでは,通信機能を生かしているとは言えませんもんね……。
一方,ブラウザ一騎当千もなかなか好調と聞いています。
やっぱり狙い澄ましたところに,きっちり受け入れてもらえたと思いますね。こういうシステムのゲーム,こういうキャラクターが登場するゲームが好きな人達に,何を楽しんでもらうか? という部分で,うまく行っているのかな,と。
4Gamer:
みんなで牧場物語に関しては,手探りしながらサービスしているように見えているんですが,ブラウザ一騎当千は迷いがないなと思っていました。そういう意味では,ゲームの内容だけでなく,取り組みとしても対照的ですよね。
はしもと氏:
別の会社のサービスのようですよね(笑)。
PC向けのソーシャルゲームでは後発ですから,いろいろとやってみながら,ノウハウを溜めつつ,一定以上に評価してもらえるようなものを作るべく,チャレンジをしている段階です。
4Gamer:
ソーシャルゲームという分野について,現在はどのように見ていますか?
はしもと氏:
いろいろと言いたいことはあるんですが……難しいですね。ビジネスとしては素晴らしいと思っていますが,この先の5年,10年を考えていくと,どうなっていくのか予想できないんですよ。
4Gamer:
まあ,今の形では長く続かないですよね。きっともの凄いスピード感で,時代に合う形に変質していくとは思うんですが。
はしもと氏:
一つ思うのは,ソーシャルゲームって,新しいハードみたいなものだと思うんですよ。語弊はあるかもしれませんが,どこかアーケードゲームのようになっていけばいいんじゃないかとは思います。
アーケードゲームって,プレイヤーが面白いとさえ思えば,引き続きお金を投下して遊ぶものですよね。ああいう感覚で,プレイヤーがその面白さに納得して,お金をつぎ込んでいくものになっていってほしいな,と。
4Gamer:
納得って大事ですよね。いくら大金をつぎ込んだとしても,そこに納得さえあれば,いい思い出になりますから。
はしもと氏:
今のソーシャルゲームで残念なのは,それこそ100円の価値が軽くなりすぎていることだと思うんです。アーケードのようにいちいち両替してコインを積み上げて……みたいなものがない分,お金を使うことへの抵抗が薄れてしまって,その面白さに納得しているかどうかを考える前に,気楽につぎ込んでしまえるような気がします。
4Gamer:
そうなると,我に返った瞬間に後悔が残るでしょうし,もう二度と手を出すまい……となってしまいそうですね。
はしもと氏:
それが一番怖いことですね。結果,“ゲーム”と呼ばれるもの全般に対して,そういう心理的な抵抗感を持ってしまったら,パッケージのゲームでも遊んでくれなくなるでしょうし。
だからこそ,ソーシャルゲームであれ,つぎ込んだ金額以上のものをもらったと,遊んでくれた人が思えるようなものを作っていきたいですよね。
タイトルラインナップの拡充より
一つ一つのクオリティアップを心がける
4Gamer:
それではそろそろ,今後の戦略についても聞かせてください。
はしもと氏:
私がCCO(Chief Creative Officer)に就任したのが,2010年4月です。それから1年間,先ほどお話ししてきたような新タイトルの種まきと,社内体制の見直しをやってきました。
具体的なところでいうと,DSとWiiに偏りすぎていた部分を,今の時勢にあった形に変えていき,3DSとPSP向けの新規コンテンツの準備を進めてきたという形です。とはいえ,あまり大風呂敷を広げるのではなく,自分達に合ったスタイルを維持しながら,狙い澄ましたものを出していこうという戦略です。
4Gamer:
これまでのマーベラスエンターテイメントは,ライト向けからコア向けまで,とにかく幅広いラインナップを送り出してきたという印象があります。今後は,それをより集約していくという形ですか?
そうですね。一時期は年間30タイトル以上リリースしていました。そのときは,高級料理もあるしジャンクフードもあるよ! というノリだったんですが,当たるもの,当たらないものの差が激しかったのは事実です。そういった姿勢をすべてやめてしまうというわけではなく,例えば牧場物語のように一般向けのもの,「NO MORE HEROES」のようにとんがったものと,今後も引き続きやっていきますが,本数としては年間10本程度に集約して,一つ一つのクオリティを高めていきたいと思っています。前期には開発戦略室という部署を新設して,クオリティコントロールにこれまで以上に力を入れ始めました。
4Gamer:
逆に言うと,一つ一つのクオリティを高めるためには,本数を集約していく必要があるということですか?
はしもと氏:
そうですね。CCOとして一人で見られるタイトルには限りがありますし。
4Gamer:
ここ最近のゲーム市場を見ていると,海外市場も無視できないものになっていますが,そこへの取り組みについてはどのようにお考えですか?
そうですねぇ。例えば「朧村正」は海外で評価されましたが,海外での評価を狙って作ったものではありません。自分達のとんがったものを研ぎ澄ましていった結果,たまたま海外でも評価されたんだと思っています。
もっと露骨に海外での評価を意識していたら,さほど評価されることもない作品になっていたと思うんですよ。
4Gamer:
それはどういうことでしょう?
はしもと氏:
日本で「ファンタジー」というと,中世ヨーロッパを舞台にしていて,エルフやドワーフが出てくるようなものが一般的ですよね。そして,エルフやドワーフの造形も似通っているという。でも海外には,神話ごとにさまざまなファンタジーの世界観があるわけです。海外のスタッフと話をしたときに,「日本のファンタジーっていつも一緒だよね」と言われたこともあります。
つまり,自分達が好きなファンタジーをベースに海外を狙ったところで,海外ではニッチなものにしかならないんですよ。
4Gamer:
文化的な多様性に,日本発の発想だけでは対応しきれないということですか?
はしもと氏:
たぶん,そこをうまくクリアしたとしても,今度は日本で評価されないということになりかねません。それは避けたいんです。私達は日本でゲームを作っているわけですから。
なので,自分達が好きなものを研ぎ澄ましてとがらせていくことで,結果的に海外で評価されるような形が良いのではないかと思うんですよね。
4Gamer:
本気で海外での大ヒットを狙おうとしたら,開発予算の規模も膨大なものになっていくこともあるでしょうし。
はしもと氏:
それはちょっと厳しいので……。
これは海外を意識しているからという話ではないですが,ユーザーインタフェースやメニュー周りに関しては,海外でも受け入れられているものを研究して,ある程度は実践もしています。
4Gamer:
それは,変に海外を意識することはなくても,間口は広くしておこうということですか?
はしもと氏:
ええ,そういう取り組みです。
4Gamer:
ところで,PS Vitaへの取り組みはいかがですか?
はしもと氏:
かなり積極的に研究して,面白いのを出そうとしています。シリーズものも新規も出せたらいいですよね。詳しいことはまだ言えないんですが。
4Gamer:
今後の発表に期待,というところですね(笑)。
こんな時代だからこそ
三社の合併で攻めの体制を作る
4Gamer:
今後の開発体制についても聞かせてください。
発表済みのものでいうと,閃乱カグラやグランナイツヒストリーは外部の開発ですよね。今後は内部開発も出来るようですが,タイトルごとに開発体制を変えていくという認識でよろしいですか?
はしもと氏:
このあたりの話し合いはまさに始まったばかりなので未定ですが,合併後もお互いの良い部分はそのままにしたいと思っています。なので,基本,現時点は今まで通りですが,将来は外部の開発のもの,内部の開発のものと棲み分けしていくかも知れませんね。
4Gamer:
最近だと,ゲームの開発費が高騰していることもあって,開発を内部で抱えること自体をリスクとして見る向きもあります。一方,マーベラスエンターテイメントの場合,AQインタラクティブとライブウェアと合併することで,内部の開発の比重が大きくなるのかな? と思っていたんですが。
いえ,内部開発の比重がそのまま増えるというわけではありません。これまでのマーベラスエンターテイメントは,どちらかというとパブリッシングを主軸にやってきました。一方,AQインタラクティブさんはパブリッシングも手がけてきましたが,内部に素晴らしい開発部隊を持っています。また,ライブウェアさんもモバイル向けで強い開発力を持っています。いわば,三社がそれぞれ得意とするフィールドが異なっているわけです。
それが合併することによって,お互いの長所を生かした開発体制も作れますし,それによってパブリッシングタイトルにも幅を作れると思っています。
4Gamer:
必ずしも内部開発を重視するということではなく,開発からパブリッシングまで,きちんとコントロールできる体制を目指しているということですか?
はしもと氏:
ええ。そういう形が作れれば,内部で開発を抱えることのリスクよりも,新しいものを生み出しやすいというメリットが生まれると思うんです。
例えば,コンシューマで評価されたタイトルを,モバイル向けにも展開しましょう,ソーシャルゲームとして展開しましょうといった流れも作りやすくなりますからね。
4Gamer:
混迷を極める市場だからこそ,いかようにも対応できる体制作りを目指している,と。
では,内部開発と外部開発のどちらでやるかという部分の判断は,どのように行っていく予定ですか?
はしもと氏:
ケースバイケースでしょうね。従来のシリーズものであっても,内部で開発することも,外部に委託することもあるでしょうし。そこは企画とタイミングによって柔軟に考えていきます。
4Gamer:
一般論ですが,ゲーム業界に限らず同業の会社が合併すると,文化的な違いからなかなかうまくまとまらないというケースが多いと聞いています。そういった懸念はありませんか?
そういった懸念はありましたが,思ったよりいい感じですよ。やってることも近いし,人材的にも近いし,そもそもベンチャー企業だし……それでいて,少しずつ得意分野が違うので,お互いの立場が明確なんです。一つの会社になっても,うまく棲み分けをしつつ,同じ方向を向いていけるんじゃないかと思っています。
確かに今,コンシューマゲームの開発費が高騰している割に,なかなか売れない。一方で,ソーシャルゲームで大きな黒字を出している会社もある。そういう時代だからこそ,チャンスは豊富にあると思うんです。
4Gamer:
昨日までの正攻法が突然通用しなくなる時代ですし。
はしもと氏:
ええ。だからこそ,攻めていくしかないし,そのための体制作りをやってきました。その一つとしての合併です。守るだけだったら,合併をすることもなく,ただ内部で体制を変えるだけでもしのげると思うんですよ。でもそれだと,どんどん会社として弱くなってしまいます。
攻めの姿勢で戦っていくには,いろいろな力を得る必要がある。そういう風にとらえていただけると嬉しいです。
4Gamer:
分かりました。とりあえず,閃乱カグラとグランナイツヒストリーを楽しみにしています。今日はありがとうございました。
ここ最近のマーベラスエンターテイメントに,「面白いゲームを発売しているものの,大ヒットには恵まれない」といったイメージを持っている人も少なくないだろう。実際,はしもと氏も「直感に頼りすぎていた」と,反省の弁を述べていた。
だが,はしもと氏はCCO就任後,開発戦略室の新設や「自分達に合ったスタイルを維持しながら,狙い澄ましたものを出していこうという戦略」を推し進めてきた。9月1日に発売されるグランナイツヒストリー,9月22日に発売される閃乱カグラは,その最初の試金石であるとも言えるだろう。
今回のインタビューを通じて,はしもと氏の中には“ゲームはプレイヤーがいてこそ”という強い思いがあることを感じ取ることができた。そんなはしもと氏が,10月1日以降に新たな体制となるマーベラスAQLでどのように腕をふるっていくのか,注目していきたい。
マーベラスエンターテイメント公式サイト
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