インタビュー
プロデューサーの飯塚 隆氏が語る,「ソニック ジェネレーションズ 白の時空/青の冒険」制作秘話とソニックシリーズ20年の歩み
今回は,シリーズの初期から制作に携わり,現在はシリーズ作品のほぼすべてでプロデューサーを務めているセガの飯塚 隆氏に,「白の時空」「青の冒険」の制作秘話や,ソニックシリーズに関わってから約20年にわたる歩みを振り返ってもらった。ソニックファンは,ぜひ最後まで読み進めてほしい。
「ソニック ジェネレーションズ 白の時空/青の冒険」公式サイト
ソニックチーム公式サイト
20年を支えてくれたファンのために制作した「ジェネレーションズ」。最初に「青の冒険」の制作予定はなかった?
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
「ソニック ジェネレーションズ 白の時空/青の冒険」の発売,おめでとうございます。まずは,今の心境を聞かせてください。
飯塚 隆氏(以下,飯塚氏):
ありがとうございます。今回は「20周年というお祭りを楽しもう」というコンセプトだったので,我々も楽しんで制作することができました。
既存シリーズを2本に詰め込むという,通常とは違う内容だったので,どんなステージが登場するのか,発売前に一通りお見せしたんですが,それらに対しても皆様に好印象を持っていただけたようで良かったです。
4Gamer:
あらためて,「白の時空」と「青の冒険」,2作品の「ジェネレーションズ」を制作するに至った経緯を聞かせてください。
始まりは,20周年を迎える2011年に向けて何かをやりたいという思いからでした。
もともと2011年には,ソニックブランドとしても大きなタイトルである「マリオ&ソニック AT ロンドンオリンピックTM」が発売されることが決まっていました。ただ,この20年を支えてくれたファンの方が喜ぶような話題も提供したいという思いがあり,20周年を実感できるようなタイトルを制作することを企画しました。
4Gamer:
ソニックシリーズは,本流としての作品が2年に一度のペースで発売されていますよね。2010年にはWiiとニンテンドーDSの「ソニック カラーズ」の発売があって,そのあと1年で「ジェネレーションズ」を出すというのは,スケジュールが厳しかったんじゃないですか?
飯塚氏:
実は,「ジェネレーションズ」のスタートは,「ソニック カラーズ」とほぼ同時期だったんです。先にリリースする「ソニック カラーズ」を全力で作っていたので最初は少人数でしたが,20周年に向けたタイトルも仕込んでおきたいという思いから,なんとかやりくりをして開発をスタートさせたんです。
4Gamer:
4Gamerで「ソニック カラーズ」のインタビューをさせてもらったときには,すでに「ジェネレーションズ」が動いていたんですね……。
飯塚氏:
そうですね(笑)。それから,2010年は,Kinect専用タイトルの「ソニック フリーライダーズ」と,ダウンロード配信タイトルの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ4 エピソードI」もありましたから,全部で4つのプロジェクトが同時に進行していたことになります。
4Gamer:
「ジェネレーションズ」として,PS3/Xbox 360向けの「白の時空」と,3DS向けの「青の冒険」の2タイトルを出すことは,最初から決まっていたんですか?
もともとの企画は,2Dのドット絵をHDの映像で蘇らせるという趣旨だったので,最初は「白の時空」だけで,「青の冒険」を作る予定はなかったんです。
ですが,制作中にニンテンドー3DSという新しいハードのことを知って,これなら携帯機でも「ジェネレーションズ」を提供できそうだと思ったんです。任天堂のプラットフォームにもソニックファンは多いですし,その方々に向けて出すことにしました。
4Gamer:
複数ラインが走っていて,しかもスケジュール的にあまり余裕がない状況で,プラットフォームを増やすことをよく決断しましたね。
飯塚氏:
今思うと,スケジュールは本当に厳しかったです。20周年記念タイトルなので,2011年末までには発売しなければならないことが,最初から決まっていましたから。
「白の時空」は,「ソニック・ザ・ヘッジホッグ(2006)」や「ソニック ワールドアドベンチャー」での制作環境やノウハウがあったので,主に時間やボリュームとの勝負でした。
ただ「青の冒険」は,新しいハードということで準備期間も必要でしたし,どこまで目指せるのか比較できるタイトルもなく,試行錯誤しながらの制作となりました。ここまで背水の陣だったタイトルも珍しいです(笑)。
ちなみに,6月のE3で「青の冒険」を初めて出展しましたが,そのときにプレイできたグリーンヒルと,製品版のグリーンヒルでは,ソニックの挙動からグラフィックスまで,まったくといっていいほど違っているんですよ。
4Gamer:
E3当時は,完成度でいうとどのぐらいだったんですか?
飯塚氏:
「白の時空」は,ほぼすべてのステージが形になって調整期間に入っていましたが,「青の冒険」は完成にはほど遠い状態で,そのほとんどが作りかけでした。なんとかお見せできるレベルまで完成していたのは,グリーンヒルだけだったんです。
4Gamer:
そういったタイトなスケジュールの中で,「白の時空」と「青の冒険」で,グリーンヒル以外の収録ステージをまったく別のものにしたのはなぜですか? 同じステージを使って,演出を変えるといった方法も考えられたとは思うんですが。
「白の時空」のケミカルプラント |
「白の時空」のカジノナイト。こちらは有料DLCとして配信中(関連記事) |
これまでのシリーズを振り返るうえで,過去の作品から「ジェネレーションズ」に収録したいステージは山ほどあったんです。
たとえば「白の時空」では,「『ソニック2』といえばケミカルプラントだろう」「いや,カジノナイトだ」というように,各作品を代表するステージを一つに絞りきれないまま作り始めました。最終的にはシリーズ9作品のステージを収録しましたが,気持ちとしては全然足りていなかったんです。
ですから,もう1作品「青の冒険」を作るのであれば,やはり「白の時空」には収録できなかったステージを入れるべきだろうと。
4Gamer:
ファンとしては嬉しい限りですが,あえて茨の道を選んだんですね。
飯塚氏:
せっかくの記念なので,両方楽しんでいただきたいというのが希望でしたから。欲を言えば,もっともっと入れたかったくらいです。
ステージに関しては,「白の時空」も「青の冒険」も,満足のいくものになりました。もし白と青だけじゃなくて,“ほかの色”も出ることが決まっていたら,もう少し違うセレクションになったかもしれませんが(笑)。
4Gamer:
ちなみに,入れたかったけど収録されなかったステージはありますか?
飯塚氏:
そうですね……。たとえば「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」のエメラルドヒルがそうです。
今回は,ユーザーさんからの投票も収録の参考にさせてもらったんですが,結果を見ると,どのシリーズも最初のステージに人気が集まりやすい傾向だったんです。
エメラルドヒルも,グリーンヒルと並んで人気が高いステージだったんですが,ゲームデザインとして考えると,似た雰囲気のステージが続くのは厳しい部分があります。
そこで,ステージ構成の前後関係で,雰囲気の異なるステージを選んだというのはあります。
4Gamer:
ちなみに,ステージ選出の投票はどのような形で行われたんですか?
2年ほど前に,まずは我々ソニックチームと,セガ・オブ・アメリカ,セガ・オブ・ヨーロッパで,テスターを含めた関係者を対象にアンケートを実施しました。
それとは別に,北米を中心に,一般ユーザーを対象にしたインターネット投票を行って,それらの結果をもとに選んでいます。ただ,「ソニック カラーズ」のステージに関しては,当時まだ発売されていなかったので,ソニックチームのスタッフが選びました。
4Gamer:
社内と一般で,投票の傾向に違いはありましたか?
飯塚氏:
社内もユーザーも,だいたい同じ結果に落ち着いていましたね。
4Gamer:
ソニックシリーズといえば,ステージの攻略ルートが“縦”に分岐するレベルデザインが伝統といえますよね。「ジェネレーションズ」でもそれが踏襲されていて,さらに“クラシック”と“モダン”でコースが違っているなど,制作にはかなり手間がかかったのではないでしょうか。
飯塚氏:
確かに手間はかかりました。でもそれがソニックというゲームの良さでもあるので,手間をかけた甲斐のあるものに仕上がったと自負しています。
4Gamer:
ソニックが走る場所をモダンとクラシックで変えるとなると,相当な手間がかかったのではないかと思うのですが,これも企画の早い時期からの決まっていたものだったんでしょうか。
最初期の企画書の段階では,「歴代ソニック全員集合」という壮大な考えがあったんです。今回のクラシックとモダンを遊び比べてみると,アクションの違いが明確で,両者のアクションに合わせてレベルデザインや操作も設計しているんですが,作品ごとに歴代ソニックを並べてみると,中にはアクションやレベルデザインで被るところがあって,並べてもあまり違いがないように見えるものが出てきてしまったんです(笑)。
そのあたりも考慮したうえで洗練していった結果,歴代ソニックを代表するメガドライブ時代のクラシックスタイルと,現在のモダンスタイルという形に落ち着きました。
4Gamer:
ソニック以外のキャラクターを,プレイアブルにするという考えはなかったんですか?
それは最初からなかったですね。ソニックの20周年という大前提があったので,基本的にはソニックが主役なんです。
ただ20周年を語るうえで,サブキャラクター達も重要な存在ではありますので,何らかの形でゲームに登場させたいとは思っていました。なのでゲーム中のイベントやチャレンジアクト,あるいはギャラリーなどに登場させるようにしています。
4Gamer:
ファンとしては,「白の時空」と「青の冒険」ともに,ギャラリーは嬉しい存在でした。
飯塚氏:
そう言っていただけると,作った甲斐もあります。
4Gamer:
今回は,PS3/Xbox 360という据置ゲーム機,3DSという携帯ゲーム機で同時発売されましたが,それぞれでターゲットとして想定していたユーザー層に違いはあるんですか?
飯塚氏:
「白の時空」は,近年のハイクオリティなゲームに目が肥えたユーザーの方向けに,過去のシリーズを蘇らせるという趣旨で,「青の冒険」は,昔からのファンの方が懐かしめるようにしたのと同時に,ソニックをまったく知らない小さなお子さんでも遊べるようにしています。
「白の時空」では,クラシックスタイルとモダンスタイルを切り替えて遊べたり,スキルを付け替えてカスタマイズができたりしますが,「青の冒険」ではそういう要素を省いて,モダンスタイルとクラシックスタイルでそれぞれステージを選ぶ形にするなど,システムを極力分かりやすくして,直感的に遊べる方向性になっています。
4Gamer:
「青の冒険」のシステムはシンプルで分かりやすく,手軽に遊べる携帯機向けの作りになっていると感じました。
飯塚氏:
外出中に遊ぶときなどは,ちょっと遊んだらすぐにしまえるような,極力シンプルなシステムのほうが向いていますよね。それと,難度も「青の冒険」は少し落としていますので,より遊びやすいと思いますよ。
中村正人さんの許可がおりたことで実現したサウンド仕様
4Gamer:
今回,個人的に嬉しかったのがサウンドなんです。既存シリーズのステージBGMがクラシックとモダンで別々に用意されていたり,ゲーム中に収録されていない作品のサウンドがコレクションとして聞けたりと,かなりのこだわりを感じました。
飯塚氏:
サウンドに関しては,サウンドディレクターの瀬上をはじめとしたスタッフが「白の時空」「青の冒険」ともに手掛けていて,彼らから提案してもらった,20周年らしいアイデアをたくさん盛り込んでいるんですよ。
4Gamer:
Dreams Come Trueの中村正人さんが手掛けたソニックの「1」と「2」の曲も,クラシックとアレンジの両方が入っていましたよね。
それは本当に大きかったですね。
とくに今回は,モダンとクラシックで曲をアレンジすることを当初から企画していたんです。ただ,ソニックの「1」と「2」の楽曲を手がけた中村さんのOKが出ないと,その企画自体が成り立たなかったんですよ。
とくに,中村さんという大物アーティストの曲を,セガ側でアレンジするということは前例がなかったので,中村さんに快諾していただけたのは,本当にありがたかったです。
4Gamer:
中村さんの手掛けたソニック1のグリーンヒルは,白の時空と青の冒険どちらも共通のシンボリックなステージですし。
飯塚氏:
ええ。ソニックシリーズを象徴する曲ですし,レベルデザインなども含めて,クラシックとモダンでどう違うのか,最初に分かるステージですから。
4Gamer:
どのステージのアレンジも素晴らしかったのですが,特に,「白の時空」のスカイサンクチュアリは,非常に印象深かったです。
飯塚氏:
ありがとうございます。私自身がオリジナルを作ったステージなので,完成した曲を聞いて,私も胸を打たれました。
メガドライブ版を制作していた当時はいやというほど耳にしましたが,それ以来ほとんど聴いた記憶がないんです。「白の時空」制作中は,グラフィックスが先にでき上がったので,その時は「当時をよく再現してるな」と感心していたんですが,曲が頭に浮かんでこないんですよ。昔のことすぎて(笑)。
ですから,スカイサンクチュアリに曲が入った瞬間は,当時のことが走馬燈のように浮かんできたほどの衝撃でしたね。個人的にもとくにお気に入りのステージです。
4Gamer:
サントラといえば,予約特典のCDは,全シリーズのステージ1の曲が収録されていて,資料としても貴重なものでしたが,今後発売する予定などはないんですか?
飯塚氏:
特典に関しては,ファンの皆さんの記念になるようなものということで,用意させていただきました。あくまで記念品という扱いですので,今後商品化する予定などはありません。
その代わりというわけでもないのですが,「白の時空」と「青の冒険」のBGM 90曲を完全収録した3枚組のサウンドトラックCDが,2012年1月11日に発売されます。このサントラも,20周年記念として持っているだけで価値のあるような内容に仕上げていますので,楽しみにしていてください。ちなみに,「白の時空」のホワイトステージ同様,BGMのつなぎの部分がシームレスにつながる演出も入っているんですよ。
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2011年はソニック20周年ということで,世界各地で実施されたイベントに出演されていましたが,その感想を聞かせてください。
飯塚氏:
2011年6月に,アメリカ・日本・イギリスの順に開催された,ソニックのバースデーイベントに参加したんですが,中でもイギリスのイベントはすごかったですね。人数的にはいちばん多かったかもしれません。
北米と日本はセガが主催だったので,入場者数をあらかじめ限定していたのですが,イギリスの場合は,ファン主催で毎年開催されている,いわば大規模なオフ会なんです。
私も招待されて今回初めて参加したんですが,あの熱意には本当に驚かされました。夕方になるまで会場の外にずっと人が並んでいましたから。
4Gamer:
ファンのボルテージがすごいんですね。一体どんな内容だったんですか?
飯塚氏:
コスプレコンテストや舞台劇などがあって,それに我々のトークショーや瀬上のライブをやらせてもらった,という体裁ですね。開催場所はロンドンなんですが,ヨーロッパ中から人が集まってくるんですよ。いちばん遠い中では香港から来ている人もいました。
4Gamer:
香港からとはすごいですね……。
飯塚氏:
今回の20周年で,各国の方々と触れ合う機会をいただいて,今後のモチベーションにつながりました。みなさんには感謝の気持ちを贈りたいです。
4Gamer:
ソニック人気は海外でも健在のようですが,やはり開発時は,海外を意識して制作しているんですか?
飯塚氏:
ソニックに関しては,常に国内外のユーザーのことを考えますね。国内外とも,小学生の男の子を中心にした層をメインターゲットにしています。
ただ,「ソニックアドベンチャー」あたりからシリーズに触れてくれている長年のファン層もいますから,そのどちらにも対応できるような内容を,常に目指しています。
4Gamer:
層の違いによるゲームデザインはどう調整しているんですか?
飯塚氏:
システム面では,子供達が分からなくなる複雑なものにはならないようにしています。子供たちにコントローラを渡したら,説明することなくプレイできるような設計ですね。
難度に関しては,あまり意識することはないです。子供のほうがゲームは上手かったりするので(笑)。
4Gamer:
ステージ上にショートカットできる場所があったり,コアユーザー向けというか,ちょっとしたテクニックで遊びがグッと変わる要素もけっこう用意されていますよね。
飯塚氏:
そうですね。「白の時空」の場合でも,ホワイトスペースの中を歩いているとチャレンジACTが見つかったり,スキルを買って装備できたりと,ゲームのクリアに必須ではないけど,それに触れることでゲームをより楽しめるようになる要素は入れるようにしています。
飯塚氏がソニックに関わることになった経緯とこれまでの歩み――20周年から次なる未来へ,ソニックは走り続ける
4Gamer:
20周年ということで,これまでのソニックシリーズを振り返ることもお聞きしたいんですが,飯塚さんはいつ頃,どのようなきっかけからソニックに関わるようになったんでしょうか?
私がセガに入社したのは1992年で,ちょうどメガドライブの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」がアメリカで作られていた頃でした。入社当時はそのチェックなどをやっていましたね。「2」の完成後すぐに,「ソニック・ザ・ヘッジホッグ3」を作ることになって,そのとき,声をかけてもらったんです。それが1992年の11月ぐらいでした。
4Gamer:
入社して1年未満で抜擢されて,しかもアメリカで制作することになったときの気持ちはどうでしたか?
飯塚氏:
最初に声をかけてもらったときは,嬉しかったですよ。「ソニック2」のチェックをやっていたこともあって,「この続編を自分が作れるのか」と感無量でした。
ただ,実はアメリカ行きを聞かされたのは,返事をしたあとだったんですよ(笑)。
当時,海外に行った経験がなかったので,アメリカに行くということに現実味がなかったんですが,出発が近づくにつれて「本当に大丈夫なのか?」と不安になってきましたね(笑)。
4Gamer:
当時,日本人が海外でゲームの制作を行うということは珍しかったと思いますが,海外で制作するメリットやデメリットには,どのようなものがあったんですか?
飯塚氏:
「ソニック2」は,アメリカ人と日本人のスタッフが混在したチームで制作していたんですが,そのときはデメリットのほうが多かったと聞いています。たとえば,背景のデザイン一つをとっても,アメリカ人と日本人のセンスが違いますから,その調整をしないとちぐはぐなものができ上がってしまうんですね。
その経験を踏まえて,「ソニック3」は全員日本人のチームで,私もそこに参加する形だったので,制作中に困ることはありませんでしたね。
具体的なメリットでは,たとえば,同じグループ内で,現地のチームがメガドライブの別のソフトを作っているものを見て,そこからインスピレーションを受けたり,逆に我々が作っているものを見てもらってフィードバックをもらっていました。
自分達にない感性を持った海外のスタッフと交流することで必然的に,向こうの人にも感覚的に受け入れられやすいものが完成していくんですよ。とくに私は海外が初めてだったので,環境から吸収するものは非常に多かったです。
4Gamer:
なるほど。グローバル志向の作品が作りやすかったということですね。
飯塚さんがセガ入社以降,これまで制作に携わったソニックシリーズ作品で,とくに印象に残っている出来事はなんでしたか?
数えきれないほどありましたが,やはり1998年にドリームキャストでリリースした「ソニックアドベンチャー」は印象深い仕事でしたね。あのときはメガドライブシリーズから少し期間が開いて,何もかもがゼロからのスタートでしたから。
4Gamer:
「ソニックアドベンチャー」では,新ハードはもちろん2Dアクションから3Dアクションへの変化,キャラクターデザインも変わるなど,大きな転換期でしたよね。
飯塚氏:
「ソニックアドベンチャー」ではメインプランナーを担当したんですが,まだ誰も見たことがない3Dのソニックを作り出さなければならない,というプレッシャーはすごく大きかったですね。
また,高性能な新ハードでのプロジェクトだったので,全員で本腰を入れて制作するという意気込みがあった一方,企画がスタートした時点では先がまったく見えなかった,という不安もありました。
4Gamer:
当時,東京国際フォーラムで3回にわたるステージで,合計15000人の前で発表した大作でしたからね。ファンとしても,当時のことはすごく記憶に残っています。
飯塚氏:
そのプレッシャーたるや,本当にすごかったですよ。自社のハードということもありましたが,発売まであと2週間しかない時期まで作っていましたから。大風呂敷を広げた結果,開発はてんやわんやで,実際に発売されるまでは本当にドキドキでしたね。苦労した思い出しか残っていないぐらいです(笑)。
4Gamer:
ソニックシリーズでは,メガドライブからドリームキャストの「ソニックアドベンチャー」に至るまで,本流のシリーズタイトルが出るまでにブランクがあったのは,一体なぜだったんでしょうか?
当時,現在のソニックチームのような“ソニックを作るべき部署”が確立していなくて,どの部署がソニックを作ってもよかったんですね。逆に言うと,我々がソニックを作らなければならないという必然性もなかったんです。
社内ではその間,別の部署やアメリカなどでソニックを作る動きもあったんですが,純粋なアクションゲームとしてのソニックは,結局セガサターンでは発売されることはなかったんです。
そういった動きをナイツを作りながらも横目で見ていて,すごくジレンマを感じていたのと同時に,次のソニックは我々が作るしかないんだと感じてましたね。
4Gamer:
その思いが,飯塚さんをはじめとしたソニックチームが,ソニックのシリーズタイトルを作り続ける結果につながったと。
飯塚氏:
結果的にはそうなりますね。実際ソニックアドベンチャー以降は,ほかの部署や開発スタジオが作ることはほとんどなくなりましたからね。
4Gamer:
ハイエンドなゲーム機でいえば,ドリームキャストの次はXbox 360やPS3が大きな波としてやってきたと思いますが,ソニックを開発することで,何か大きな変化などはありましたか?
飯塚氏:
ドリームキャストが出てきたときも,自社ハードとはいえ,どんなハードなのかはわからない状態で作っていたんですが,PS3やXbox 360についても,最初はそのときと同じような感覚だったと思います。
2006年に発売した「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」は,最初のPS3とXbox 360のソフトでしたが,これらのハードにどんなソニックが合っているのかは手探り状態だったと聞いています。2作目となる,2008年の「ソニック ワールドアドベンチャー」で,やっとハードのイメージがつかめた感じです。
4Gamer:
作品によってハードを選ぶ基準みたいなものはあるんですか?
飯塚氏:
中長期でのロードマップを考えたうえで,タイトルとハードを結びつけるようにしています。
4Gamer:
「白の時空」がPS3とXbox 360で出ることも,それにのっとっているということですね。
そうですね。すべてのハードに対するタイトルラインナップを考慮したうえで,商品に合わせたハードを選定するようにしています。
2010年は,「ソニックカラーズ」をWiiとニンテンドーDSでリリースしましたから,その1年後の「白の時空」は,HD画質で過去のソニックを表現するというコンセプトも含め,PS3とXbox 360のユーザーの皆さんに向けて企画されたものです。
4Gamer:
2011年の大きな話題として,PS Vitaの発売が挙げられますが,「ソニック ジェネレーションズ」をPS Vitaでリリースする考えはなかったんですか?
飯塚氏:
今回の「ソニック ジェネレーションズ」は,ソニック20周年である2011年内に発売するという大前提があったので,候補としては挙がりませんでした。発表当時,PS Vitaは2011年内に発売されるかどうかも分かりませんでしたから(笑)。
4Gamer:
PS Vitaのような新ハードでのソニックシリーズの発売はありますか?
飯塚氏:
PS Vita自体はすごく魅力的なハードで,クリエイターとしてはチャレンジすべきだと思います。ただ,発売されたばかりのハードですし,ユーザー層がどのような傾向になるのかまだ見えていない部分があるので,ソニックを作るかどうかというビジネス的な判断は,まだ時期尚早ですね。もう少し,様子見をしてからになると思います。
4Gamer:
ソニックに関係する作品をほぼ毎年リリースされて,本編も2年に1タイトルは確実にリリースできていることについて,何か秘訣などはあるんですか?
飯塚氏:
新作をリリースするたびに経験値を得ることで,技術的にチーム全体がレベルアップしているというのは当然ありますが,まずはソニックというアクションゲームが目指すところをぶれずに作り続けることですね。
一時期は作品のたびにあれこれ考えすぎていたこともあったんです。最近は,私も現場から離れて,プロデューサーとして一歩引いた目線からすべてのプロジェクトを見るようになったので,「ソニック カラーズ」「ソニック・ザ・ヘッジホッグ4 エピソードI」,そして「ソニック ジェネレーションズ」と,いい形でファンの皆さんの期待に応えられたかと思っています。次の21年目からも,この形を維持していきたいですね。
4Gamer:
飯塚さんがプロデューサーとして存在している限り,今後のソニックは安心してプレイできそうですね。当然,次へつながる動きも,そろそろ動き始めている頃ですよね。
飯塚氏:
当然そうなりますね。まだ詳しい内容はお話しできませんが,これまでのソニックの歴史からも分かるように,やはり2Dで遊ぶソニックと3Dで遊ぶソニックはまったく違うゲームで,それぞれにファンの方がたくさんいらっしゃるんです。
今回のソニック ジェネレーションズはそれらを1本にまとめましたが,これからも2Dのソニックと3Dのソニックを,何らかの形で提供できればと考えています。
4Gamer:
それでは最後に,20周年を迎えた2011年の締めと,2012年以降の展望を聞かせてください。
飯塚氏:
ちょうど2010年の今頃は,この20周年の仕込みが始まったばかりで,2011年をソニック1色に染めようと腹をくくったところでした。おかげさまで20周年らしい企画もいろいろと実施でき,世界中のファンの方とも会えましたし,メインタイトルとなる「ソニック ジェネレーションズ」も無事発売することができました。そういう意味で,世界中のファンの方に楽しんでいただけた1年になったのではないかと実感しています。
この勢いを30周年40周年とつなげていきたいと思っていますので,来年からのソニックにもご期待ください!
4Gamer:
今後の展開も楽しみにしています。ありがとうございました。
ソニックシリーズは,2年に1作品のペースで新作がリリースされているほか,スピンアウト的なタイトルを含めると,ほぼ毎年,何らかの形でタイトルがリリースされている。
2011年12月に発売された「ソニック ジェネレーションズ 白の時空/青の冒険」は,20年という「ソニック」シリーズの歴史を1パッケージで堪能できる作品になっている。しかも,インタビュー中でも触れられたように,収録されているステージは,最初の1ステージ以外,すべて内容が異なっている。対応ハードを持っているなら,シリーズのファンなら,両方ともコレクションしておきたいところだ。
メガドライブの時代からソニックに携わってきた飯塚氏は,ソニックを家族のような存在だと話していた。今後も30周年,40周年と,ソニックとともに走り続けると語ってくれたので,この20周年を機に,さらなるソニックのステップアップに期待したい。
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- ライター:稲元徹也
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