インタビュー
ギャルゲーと格ゲーの意外な共通点とは――ついに稼働を開始したアクアプラス格闘「AQUAPAZZA」,その魅力をディレクター陣に聞いてみた
アーケードへのこだわり。そしてギャルゲーと格闘ゲームの意外な接点とは
4Gamer:
先ほどゲーセンで遊ぶなら,という話をしましたが,アクアプラスさんとしては,どういった理由からアーケードでの稼働を選択されたのでしょうか。どちらかというと,家庭用向きのタイトルであるよう思えるのですが。
鷲見氏:
最初の提案の時点から,アーケードでやりましょう,という形でしたよね。
林氏:
ですね。うちもずっとアーケードでやってきたんで,やはりアーケードでやりましょう,と。
4Gamer:
自分もアーケードゲーマーなので,気持ちとしてはもちろん分かるんですが,昨今は家庭用であってもネットワーク対戦で快適に遊べるようになってきましたよね。それでもアーケードにこだわる理由とは?
林氏:
昔に比べれば,確かにお店自体減ってしまいましたけど,格闘ゲームが好きな層って,やっぱりみんなで集まって遊びたいじゃないですか。見知らぬ人とでも顔をつきあわせて対戦する,という遊び方には,ほかでは味わえない良さがあると思います。
それに本作はNESiCAxLiveのカードシステムに対応しています。例えばマイ店舗を登録することで,その店舗で遊ぶことでゲーム内のポイントが貯まりやすくなるような,アーケード向けの仕組みも盛り込んでいます。
4Gamer:
カードシステムは,確かにアーケードプレイヤーには嬉しいフィーチャーですね。カードを使ってどんなことができるんですか?
鷲見氏:
キャラクターのカラーは基本は4色なんですが,ポイントを使用することで16色まで増やせます。あとは称号ですね。ポイントやプレイランク,それからキャラクターへの愛着を示すLPによって,新しい称号が入手できるようになります。
林氏:
LPは勝敗にかかわらず,特定のキャラクターを使い込んでいくだけで貯まっていくポイントなんです。それも友達とギルド――本作の場合はパーティを組んで使用キャラクターを表明することで,普段より多めにもらえるんですよ。
そういったコレクション要素という面では,うちのファンにも通じるものがあるのかな,と思っています。ただアクアプラスの狙いの一つとしては,今までのプレイヤーさんだけじゃなくて,新しい層の人にも作品を知ってもらいたかった,というのもありますね。僕は昔から格闘ゲームって“キャラゲー”だと思っているんですよ。
4Gamer:
というと?
鷲見氏:
格闘ゲームのキャラクターって,ストーリーはバックボーン程度しか設定されていなくても,プレイヤーがどんどんキャラクターを膨らませていくところがあるじゃないですか。キャラクターが動く,動かせるというだけで,そのキャラがとても活き活きと感じられて。
4Gamer:
あぁ,確かに。かつての「ザ・キング・オブ・ファイターズ」シリーズなどは,キャラクター性の高さから人気が爆発したところがありますもんね。
鷲見氏:
いってみればうちで作っているギャルゲーも"キャラゲー"ですし,キャラクターを活かしたゲームという点では,かなり近いものがある。うちのキャラクターが格闘ゲームになることで,例えばそのアクションや台詞から,原作を全然知らない人にもキャラクターを理解してもらえるわけです。そういった入り口を通ることで、続けて原作にも興味を持っていただけるのではないか,と期待をしているんです。
4Gamer:
しかしその理屈でいくと,格闘ゲームでなくとも,アクションゲームならなんでも良いということになりませんか?
鷲見氏:
もちろんアクションゲームにも似ている部分はありますが,何より演出が多様なところが格闘ゲームの魅力ですね。
林氏:
格闘ゲームはキャラクターの魅力を引き出す機会が,ゲームデザイン上多いんですよ。何よりキャラクターのアクションが多彩ですし,登場演出や勝利演出もありますしね。
格闘ゲームをめぐる現在,そして未来へのアプローチ
4Gamer:
さて話は大きく変わってしまうんですが,近年,格闘ゲームの新作タイトルがすごく増えていますよね。
ええ,ちょっとびっくりしています(笑)。
4Gamer:
なぜだと思いますか。例えば開発者側から見て,格闘ゲームのプレイ人口が増えたような実感はあるんでしょうか?
林氏:
うーん,どうなんですかね?
4Gamer:
……こちらから話を振っておいてなんですが,プレイヤー側の立場から見ていると,プレイ人口が増えたというよりも,観戦して楽しむ層が増えたんじゃないかと思うんですよ。
林氏:
ああ,確かに。それはあるかもしれません。
鷲見氏:
見てるだけでも楽しいですもんね。
4Gamer:
格闘ゲーマーとしては,それが果たして良いことなのか,正直判断に迷う部分ではあるんですが(笑)。だから先ほどの見ていて楽しいゲームである,というのはとても重要なことだと思うんです。
林氏:
時代の流れなのかもしれませんね。でもそうやって観戦する中で,格闘ゲームに興味を持って,実際にプレイし始める人も少なからずいるハズですよ。
鷲見氏:
そういうときに,例えば本作にも用意されているシンプルモードなどが,入口として機能してくれればいいな,と思いますね。
4Gamer:
そのシンプルモードなんですが,あれって実際に使われるものなのでしょうか。個人的には,シンプルモードから入ったプレイヤーが,普通のモードにステップアップするのは難しいような気がするんですが。
林氏:
そこは本当に難しいところです。うちの「アルカナハート」「デモンブライド」にもシンプルモードを用意していますが,本当にこれでいいのか? という議論が開発の内部でも常にあります。もっとノーマルなモードにステップアップしやすい仕組みのほうが良いのではないか,という。
4Gamer:
まさにおっしゃるとおりです。格闘ゲームって,初心者プレイヤーを育てていかないと,どうしても後に続かないじゃないですか。シンプルモードからステップアップできないと,駆け引きの妙を楽しむところまでいかないんじゃないか,という不安があります。
林氏:
ただそういうステップアップを促す形にすると,途端にシンプルとは呼べなくなってしまうんです。今作ではとくに,格闘ゲームをほとんどやったことのないアクアプラスファンもいるでしょうし,シンプルモードに関しては“本腰を入れなくてもワイワイ遊べる”ところを目指しました。
さすがにロケテストのときにシンプルモード使っている人は少なかったですが,それはまぁ,ロケテストですから(笑)。でも,アクアプラスの社内では,使っている人が結構いますよ。波動拳や昇竜拳コマンドすら難しいと感じるような,本当の初心者でもキャラクターが動かせますから。
4Gamer:
キャラクターゲームとして楽しむなら,それで十二分,ということでしょうか。確かにワンボタンで技が出れば,とにかく必殺技の演出を見たいというファンも楽しめますね。
林氏:
はい。また,“格闘ゲームは不得意だけど,オリジナルシナリオだしストーリーモードだけでもクリアしたい!”というファンに向けた措置でもあります。
鷲見氏:
朝ゲーセンに行って,誰もいないうちにストーリーをクリアしよう,みたいな人もいるはずなんで(笑)。
4Gamer:
先ほどのトレーニングモードも,そういったプレイヤーにとっては嬉しいですよね。とりあえず技の演出を一通り確認できますし。このキャラクターが好きだから超必殺技やスプラッシュアーツは見ておきたい,みたいな。
林氏:
確かにそうですね。そういった理由からトレーニングモードを遊ぶ人もいるかもしれません。コマンドが難しいならシンプルモードとトレーニングモードを組み合わせることもできますし。
4Gamer:
そういう意味で,今作のように原作のある格闘ゲームにとっては,トレーニングモードって意外に重要なのかもしれませんね。でも一昔前のアーケードゲームだと,そういうユーザーフレンドリーな要素ってどうなの? みたいな雰囲気がありませんでしたか? プレイヤーの遊び方をゲームの側から規定したり,露骨に誘導したりするのはいかがなものか,というような。
林氏:
アーケードゲームという時点で、まずインカムの問題がありますし,そこまで至れり尽くせりという感じではなかったですよね。そんな風潮の中で,どこまでやっていいのか,という点は正直かなり迷いました。でも間口はなるべく広く取っておくべきだろうと。
本当に難しい問題ですよね。トレーニングモードがあるだけでゲームの消費が早くなる面もあるでしょうし。
林氏:
そうなんです。実は「すっごい!アルカナハート2」のときにもかなり迷ったんです。結局バージョンアップ版から実装することになったんですが,それはやっぱり最初から入れることに少なからず抵抗があったからで。本作もかなり悩みましたが,ゲームシステムやコンセプト,そして時流を見たうえで,やっぱり入れるべきだろうと。
鷲見氏:
サンプルコンボもあるし,トレーニングモードの設定項目自体,コンシューマタイトルと遜色がないボリュームになっています。
林氏:
あんまり入れ過ぎてしまうのも危険なので,多少は考慮しています。でもアーケードの格闘ゲームとしては,かなり充実しているはずですよ。
カードを使って“俺の嫁”を全国区に!
ではそろそろまとめに入らせていただこうかと思います。散々語ったあとではありますが,とくにここを見てほしいという部分で,言い残したことなどあればお願いします。
林氏:
そうですね。アクアプラスさんのキャラクターがこれだけ集結する作品というのは,そうそうないと思うので,原作ファンも格闘ゲームファンもぜひ楽しんでいただけたらと思います。何回も言ってますが,最初のハードルはかなり下げたつもりですので,なるべく多くの方に遊んでもらいたいですね。
鷲見氏:
キャラクターセレクト,超必殺技,スプラッシュアーツなど,一画面を丸々使ったアニメーション演出が沢山入っているんで,ぜひとも見ていただけると嬉しいです。
4Gamer:
そういえば本作のBGMには,原作の楽曲のリミックスVer.が使われているんですよね。
鷲見氏:
はい。各ステージには元ネタとなる作品がありまして,その原作BGMをリミックスして使っています。新規に書き下ろした曲ももちろんありますが。
林氏:
原作に関係したステージを作るにあたって,やっぱり曲も原作に合わせたほうが面白いんじゃないか,というところでお話をさせていただきました。
鷲見氏:
いや,かなり良い感じになっていると思いますよ。ゲームセンターだとなかなか聴きとり辛いかもしれませんが,ぜひ耳を傾けていただければと。
林氏:
最後にもう一つ,ぜひカードを登録してプレイしてください。先ほどもお話ししたように,カラーバリエーションや称号といったコレクション要素を細かく作り込んであります。もちろん今までに対戦した相手の履歴や,キャラクターごとの勝率なんかも見られますし。ポイントやLPの店舗ランキングや全国ランキングなんかも確認できます。
鷲見氏:
称号にも面白いものが揃っていますし,携帯の待ち受け画像の購入なんかもできます(※編注:待ち受け画像コンテンツは現在準備中とのこと)。
林氏:
おまけにキャラクターへの愛着度を示すLPは,対戦の勝ち負けに関係なく上昇していくので,キャラ愛をアピールするうえでも役に立ちます(笑)。
4Gamer:
カードを使えば“俺の嫁”を全国に見せつけられるわけですね(笑)。本日は,ありがとうございました。
アクアプラスファン,格闘ゲームファンのどちらにも楽しんでもらいたいと語る林氏と鷲見氏。そのコンセプトは単純明快ではあるが,実現するためのハードルが限りなく高いのは想像に難くない。なにせ完全なる初心者と,百戦錬磨の上級者の両方を満足させなければならないのだ。今回その解の一つについて伺うことができたのは,“格ゲーマー”である筆者にとって,とても興味深い時間だった。
今後も各地の大会で,数多のプレイヤーが名勝負を繰り広げていくことになるだろう本作。格ゲーマー的にも熱いタイトルになるのは間違いない。そして元ネタを知っていれば,何倍も楽しめるのが原作付ゲームの常。まんまと乗せられているような気がしてちょっと悔しいが,筆者もこの機会に,未プレイのアクアプラス作品に手を出してみようかと思った次第である。筆者の場合,ひとまず「Routes」あたりから。だってほら,エージェントって,なんかカッコ良いじゃないか。
「AQUAPAZZA」公式サイト
――2011年6月21日収録
- 関連タイトル:
AQUAPAZZA -AQUAPLUS DREAM MATCH-
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