インタビュー
「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」「ガチトラ! 〜暴れん坊教師 in High School〜」(&「喧嘩番長」)で,“学園モノはスパイク!”の時代に。その仕掛け人に,ネタバレから今後の展開まで根掘り葉掘り聞いた
「ダンガンロンパ」に込められた
「希望を捨てるな」という想い(ただしゆがんでる)
ダンガンロンパのエンディングって,ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか分かりにくいですよね。そこが僕は好きなんですけど。
寺澤氏:
あえて投げっぱなしにして,プレイヤーの想像に任せるというのがコンセプトなんです。
DD:
あの終わり方も最初から決まっていたんですか?
寺澤氏:
もちろんです。ハッキリさせないというのは,最初から小高のプロットにありました。僕は「SAW」や「CUBE」のようなソリッドホラーが大好きなんですけど,そういうところが小高とは気が合うんです。なので,それでいいんじゃない? ということにしましたね。
でも最近のプレイヤーさんは,完全な答えを求めたがる傾向が強いのかなと感じます。
DD:
ゲームに限らず,世の中全体がそういう雰囲気ですよね。
寺澤氏:
1から10までちゃんと教えてくれと言われちゃうんで,それはそれで僕らは違うんじゃないかなと思っちゃうんですが……古いんですかね?(笑)
DD:
でも作り手って,10まできっちりは作りたくないものですよね。
寺澤氏:
ええ。自分の中に10までの答えがあったとしても,あえて表現しない部分は残したいですし。
DD:
10まで書いちゃうと,決して10以上にならないですからね。
寺澤氏:
それ以上広がらなくなってしまうんですよね。例えば答えとして提示するのは7ぐらいまでにして,あとの3は想像してね……という形にしておくと,プレイヤーの中でどんどん答えが広がっていって,トータルで20,30にまでなることすらあると思うんです。でも,10まで答えがあると,それ以上にはなりにくい。
DD:
そうなんですよねぇ。でもやっぱり知りたがるものなんですよね。
とはいえ,あえて言うなら,ダンガンロンパにはどんなメッセージを込めたんですか?
寺澤氏:
基本的には,「どんなときにも希望を捨てるな」「諦めるな」っていうことですよね。
松本氏:
意外とまともなんですね。もっと変化球だと思ってました(笑)。
寺澤氏:
いや,メッセージはストレートなんですよ。一言でまとめられるぐらいで。
松本氏:
ガチトラもそれに近いメッセージ性なんですけど……。
ダンガンロンパは見せ方がゆがんでるんですよね(笑)。書き手の素直じゃない感じが出ています。
DD:
そういうメッセージが込められていることを理解した上で,ダンガンロンパのエンディングのことを思い出してみると,さらに聞いてみたいことが出てきました。そのメッセージ自体,あのエンディングを前提にしつつ後付けで前向きな要素を付け加えたのか,それとも最初からそういうメッセージを込めたうえで,ああいうエンディングを描いたのか,ということなんですが。
寺澤氏:
そこは小高にしか分からないでしょうし,小高も直接は言わない部分ですね。僕も聞いたことがありません。彼は作ったものがどう受け取られてもいい,感じたままに受け取ってくださいという姿勢なんですよ。それでも僕は,希望を描きたかったんだと信じています。取り繕った希望ではなく,絶望の末の希望ですけどね。
小高が希望を残さないと売れないんじゃないかという打算を働かせたという可能性もありますけど,本当に絶望しか残らない終わり方にはなっていないと思うんです。そうなっていたら,もっとプレイ後の感覚が気持ち悪いものになっていたでしょうから。
DD:
気持ち悪くはないですもんね。
寺澤氏:
ラストシーンは,完全な希望を表現しているわけではなくて,ひょっとしたら,学園の外にはもの凄く悲惨な世界が待っているかもしれないという描き方をしています。でも,そこを曖昧にすることで,想像の余地を残しているんです。だから,バッドエンドのようにも受け取れるという。本当にひねくれてますよね(笑)。
DD:
そうか。一方で,霧切さんがお仕置きされるルートでは,もの凄く気持ち悪いエンディングが待っていますよね。
寺澤氏:
あれは酷いですよね,本当に酷いです。
あの最後のネタって,絵が出来上がるまで僕も知らなかったんですよ。霧切さんが死ぬルートは,シナリオとして見ていたんですけど,あの絵はねぇ……(笑)。
DD:
あれに比べれば,ちゃんとしたエンディングはハッピーエンドかもしれません(笑)。
がらっと話は変わりますが,ダンガンロンパはゲーム業界内での評価も高いそうですね。
寺澤氏:
いやもう,素直に嬉しいですよね。新しい何かの可能性を少しでも表せられたんじゃないかなっていうのは,凄く感じます。
先ほどの話の続きになりますけど,僕らは100点のアドベンチャーゲームを作ろうと思っていたわけじゃないんです。それを作れたとしても,ビジネスとしては厳しいのが分かっていますからね。
アドベンチャーゲームとしては70点でもいいという風に割り切って,そこに違う面白さを重ねていくことで,トータルで120点を目指していこうという作り方だったんですよ。実際,同業の皆さんからはそういう部分を評価していただけたので,素直に喜んでいます。
DD:
実は今のプロレスもそれに近いところがあるんですよ。プロレスを熱狂的に好きな人はいるんですが,パイが小さいんです。じゃあどうするかというと,プロレス+αの部分を積み上げていって,そのパイの外側にいる人達に来てもらわないことには,袋小路に陥ってしまうという。その+αが何なのかな? っていうのが,ちょっと分からない状況ではあるんですけど。
寺澤氏:
僕らも確固たる自信があったわけではなくて,あくまでチャレンジだったんですよね。当たるかどうかは出してみないと分からないものですから。結果が良かったので,ほっとしています。
ストーリーをシステムの上位に置いて
ゲームを作っていくことの理由とは?
DD:
ガチトラもダンガンロンパも,ストーリーが主軸ですよね。結果,プレイヤーが操作をしないシーンも多くなっています。ゲームという形で,こうしたストーリー重視の手法をとることのメリットを,どこに見いだしているんでしょうか?
ガチトラに関していえば,まず学園モノのお話に興味を持ってもらわないと,ゲームを進めるモチベーションに繋がらないと思うんです。そこを考えていくと,お話を見てもらうための工夫が必要不可欠になるんですよ。見てる時間に飽きられてしまったら,もう続きを遊んでもらえなくなっちゃいますし。だからこそ,早送り機能なんかも用意しているんです。
DD:
これはタイトルごとに違うと思うんですが,ゲームシステムとストーリーのどちらが主で,どちらが従かと考えていくと,ガチトラとダンガンロンパは,ストーリーですよね。
松本氏:
ええ。商品として考えた場合,お話として面白いというのは,やはりストロングポイントなんですよ。じゃあ,その全部をどうやって見てもらおうかというところからの逆算をした結果なんです。
寺澤氏:
確かにシナリオありきですよね。どちらも面白いシナリオがあって,初めて遊んでもらえるものになっていると思いますし。逆に,最近の喧嘩番長シリーズは,少しシステム寄りにしていて,それを楽しく遊ばせるストーリーをうまいこと載せていると言えるかもしれません。
松本氏:
続編モノはそれがやりやすいんですよ。世界観はある程度,それまでの作品を遊んでくれている方には伝わっていますから。
寺澤氏:
侍道シリーズもそうですね。システムありきで,システムを生かすためのシナリオを考えるという作り方をしています。ガチトラとダンガンロンパに関しては,やっぱり新規コンテンツなので,ストーリーの部分で引き込みたかったというのは大きいです。
DD:
新規コンテンツは,システムとストーリーの両方がうまくかみ合っていて,その両方が評価されるように作っていかないと,次に繋がりにくそうな気もします。
寺澤氏:
基本的にはそうなりますよね。そこのバランスは,作りながら感覚的にジャッジをしています。
DD:
方程式みたいものがあるわけではなく。
松本氏:
ないですねぇ。
寺澤氏:
作っていくうちにシナリオに比重が寄りすぎてしまっているときには,軌道修正が必要になりますしね。一方,シナリオを見せるイベントシーンって,開発にかかる負荷も高いので,開発的にはそこを削りたがるんですが,どこまで削るべきかというのは,開発期間や予算の問題も出てきますから,バランスのとりかたが凄く難しいんです。
DD:
ガチトラとダンガンロンパの続編があるとしたら,それぞれどちらを重視しますか?
ダンガンロンパに関しては,シナリオで高い評価をもらっていますから,今後もこれを続けていくならば,シナリオ主導の作り方になっていくでしょうね。ガチトラは,シナリオも評価していただきましたが,ミニゲームなんかの評判もいいので,半々ぐらいのバランスで考えていけるんじゃないかという気はしています。
DD:
ストーリーを重視したからこそ,ダンガンロンパもガチトラもメッセージ性が自ずと強くなったようにも思えるんですが,そもそものところでゲームにメッセージ性は必要だと考えていますか?
寺澤氏:
ゲームに必要かといわれれば,必ずしも必要なものではない気がします。ですが,シナリオを楽しんでもらうタイプのゲームの場合,書き手はメッセージを込めるものなんですよね。どこまで意図しているかは別として。長い期間ゲームを作っていると,その過程で思いが凝縮されていくので,何かしらのメッセージ性が自然と生まれるものなのかもしれません。
DD:
例えば,作っている側が想定していないようなメッセージ性を,遊ぶ側が受け取っちゃうようなこともありますよね。そして怒られたりとか。
寺澤氏:
とても多いですねぇ。とくに今は,多種多様の感じ方をされる時代ですから。ただ,分かってもらえないのは悔しいですし,残念でもあるんですが,そういう見方もあるんだなぁって気付かされるというプラスの側面もあるんですよ。厳しいご意見をいただくと,僕なんかは簡単にへこんじゃうんですけど,それを糧に次に行こうと。
DD:
最近だと,Twitterなんかで気軽にクリエイターに対して怒りの声をぶつける方もいます。
寺澤氏:
ええ。でもその人がそう受け取ったのであれば,それは作り手の責任ですから,すべて受け入れるしかないと思っています。立場が違えば感じ方や考え方が違うのは仕方ないことなので,少しでも正確に想いを伝えられるように,僕らが努力しなければいけないと常に思っています。
「ガチトラ」「ダンガンロンパ」の続編は!?
「学園モノはスパイク!」のイメージを大事にしたい
スパイクさんは今,喧嘩番長シリーズ,ダンガンロンパ,ガチトラと学園モノのIPが三つ揃っていますが,それぞれの今後の展開について,具体的に決まっていることはありますか?
寺澤氏:
ダンガンロンパとガチトラは,新規タイトルでもあるので,次に繋げていくことが大事だと思っていますし,遊んでくれた方達からも続編の要望が届いていますので,それに応えられるといいですよね。
DD:
とくにガチトラの場合,見事なまでのハッピーエンドで終わってますし,これはシリーズものになっていくのかな? と思っていました。
松本氏:
シリーズ化は皆さんからのご支持があればこそなので,ぜひ応援してください!。
DD:
スパイクさんでは,海外ゲームのローカライズも手がけていますよね。こうした学園モノを海外に……というのは考えていないんですか? 自分で言っておきながら,難しそうだと思っているんですが(笑)。
寺澤氏:
この学園モノは海外に持って行けないですよね(笑)。うちの海外グループからは,「グローバルで売れるものを作ってくれ」というオーダーをいつもされているんですが。
DD:
ああ,それもあってダンガンロンパは当初,海外も視野に入れていたわけですね。
寺澤氏:
そうなんです。ただ,そもそも僕らが割りとベタな日本人なので,日本でも受けて海外でも受けるものっていうのが……難しいんですよね。
DD:
何だか困らせてしまってスミマセン。
ちょっと話題を変えますね。2010年末から今年にかけて,新規の学園モノが二つ出たというのは,当初から計画していたことなんですか?
寺澤氏:
たまたまですね。侍道と喧嘩番長がシリーズを重ねてきましたが,いつまでもその2本に頼っているわけにはいかないので,新しいものを作らなければいけないという考えは,以前から持っていたんです。ただ,企画を出してもなかなかうまく立ち上がらないというのが続いていたんです。そうこうしているうちに,同じようなタイミングで二つの企画が立ち上がって,たまたま両方とも学園モノだっただけで。
DD:
じゃあ,学園モノ縛りでいこう! みたいに決めていたわけではないんですね。
寺澤氏:
本当に偶然なんですよ。発売計画を立ててみたら,ダンガンロンパ,「喧嘩番長5 漢の法則」,ガチトラと立て続けにPSPの学園モノが出ることになったので,じゃあ「学園モノはスパイク!」みたいにこじつけちゃって(笑)。
DD:
偶然をうまく転がしたということなんですね。
では,この勢いでさらに別の学園モノを立ち上げる予定はありますか?
寺澤氏:
今のところはまだないですけど,今後はちょっと考えていきたいですね。今回たまたまではありますが,学園モノはスパイクというイメージを少しは作れたと思うんで,それに恥じないようなものを,いずれは。
DD:
それにしても,学園モノというジャンルが,どこかのメーカーの専売特許じゃなかったのが意外といえば意外です。
学園を舞台にしたタイトルはいっぱいあるんですけどね。いいタイミングで3タイトルを同ハードでリリースすることはあんまりないので,勝手に名乗っちゃったみたいな(笑)。
DD:
恋愛モノを含めたら,学園モノはかなりあるんですけど,恋愛モノというイメージのほうが上位かもしれないですし。
松本氏:
そこで,あえてスパイクが恋愛モノに打って出るというのも?
寺澤氏:
う〜〜〜ん……。
DD:
でも恋愛モノとなると,声優さんに強くないことには。
寺澤氏:
僕はこの2タイトルの開発中にかなりアニメを見て勉強したんで,社内では詳しいほうになりましたよ! ……外に出たらまだまだ通用しないレベルですけど。
松本氏:
恋愛モノには手を出さないほうがいいかなぁ(笑)。
DD:
そんな感じで,今日は長い時間ありがとうございました。
ガチトラとダンガンロンパを中心に,細かいことからちょっと広めの話題まで,聞いてみたいことが山ほどあったため,この記事のボリュームもなかなかのものになってしまったが,お楽しみいただけただろうか。
両タイトルを遊んだことのある人なら,うなずける部分も豊富にあったはず。逆に言ってしまうと,遊んだことのない人にとっては,何のことやらさっぱり……という内容になっていることは否定できない。が,もしもこのインタビューを通じて,ガチトラとダンガンロンパに少しでも興味を持てたなら,ぜひプレイしてみてほしい。その上で,この記事を再読していただけると幸いだ。
そしてプレイ済みの人と共に,ガチトラとダンガンロンパの次なる展開に期待しよう。
「ガチトラ! 〜暴れん坊教師 in High School〜」公式サイト
「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」公式サイト
- 関連タイトル:
ガチトラ! 〜暴れん坊教師 in High School〜
- 関連タイトル:
ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生
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