プレイレポート
リブートされた新生「TOMB RAIDER」を,開発者自らが詳しく解説。日本語版のインプレッションも合わせて掲載
1996年にリリースされた第1作以来,世界中で多数のファンを獲得した人気アクションアドベンチャーシリーズの最新作「TOMB RAIDER」日本語版が2013年4月25日に発売される。タイトルは第1作と同じ「TOMB RAIDER」(PlayStation 3/Xbox 360)で,ナンバリングやサブタイトルをやめた本作では,主人公ララ・クロフトの若き日の冒険が描かれることになる。
今回,そんな本作の開発を担当したCrystal Dynamicsのディレクター,ダニエル・ビッソン(Daniel Bisson)氏が来日し,本作の詳しい内容をメディアに解説してくれた。それと同時に,完成直前のビルドとなる日本語版をプレイする機会も得られたので,そのプレイフィールも合わせてお伝えしたい。なお,今回プレイしたのはPlayStation 3版で,記事中の表記などはそれに合わせたものになっている。
ビッソン氏によれば,Crystal Dynamicsで本作のディレクターを務めているのは二人で,ビッソン氏は主にゲームプレイの部分を受け持っているという。同氏はかつてUbisoft Entertainmentのモントリオールスタジオに所属し,初代「アサシン クリード」や「レインボーシックス」シリーズなどを手がけてきた敏腕クリエイターだが,それまで開発を進めていたチームに新たな力を与えるために,呼ばれたとのことだ。
「TOMB RAIDER」公式サイト
“リブート”によって生まれ変わったララ・クロフト
TOMB RAIDERの主人公ララは,過去のシリーズでは華々しい活躍を見せた女性冒険家であり,2006年には“最も成功したゲームヒロイン”としてギネスブックにも認定されている(関連記事)。映画化もされており,映画版「トゥームレイダー」では,アンジェリーナ・ジョリーさんが無敵のヒロインを演じて話題になった。
ところが,この最新作のララは,シリーズ従来作で見せた,何事にも動じない,たくましくて強い女性のイメージとは裏腹に,何度もピンチに陥って見る者をハラハラさせるのだ。
「本作の開発のテーマになったのは,“リブート”(Reboot=再始動)です。主人公のララの過去を描き,TOMB RAIDERシリーズをもう一度再スタートさせるという意味が込められています。皆さんがご存じのララは,負けることを知らないスーパーヒロインですが,本作で描かれている彼女は大学を卒業したての,21歳の女性。ゲームでの見た目も若々しくなりました。ララというキャラクターがゲームの中で成長していく姿を,プレイヤーに体験してほしいのです」とビッソン氏は,本作の制作意図を説明してくれた。
そのため,シリーズをずっと遊んできたプレイヤーにとっては,多少の違和感を覚えるかもしれないが,ビッソン氏はララをジェームズ・ボンドやバットマンにたとえ,基本設定や大まかなバックグラウンドはそのままに,現在のプレイヤーがより感情移入しやすい姿に「上書き」したと説明した。
リブートについては,ストーリーだけでなく,ゲームプレイにも適用されている。パズルと戦闘がシリーズのメインだが,今回ビッソン氏がとくにこだわったのは操作性の部分だそうだ。
「操作においてとくに重要視したのはフリーダム(自由)であることです。例えばジャンプについても,ただ跳ぶだけではなく,空中である程度方向転換ができるようにしています。また,ララをストレスなく自在に操作できるように,ステージのコリジョン(衝突判定)なども緻密に計算しています」とビッソン氏は言う。
ビッソン氏の言葉どおり,ゲーム序盤,複雑な地形の鬱蒼としたジャングルを走り回るシーンでは,木々や岩などにひっかかったり,また「見えない壁」にぶつかることもなく非常に滑らか。行けそうな場所には必ず行けるし,ララの動きも軽快だ。
このあたりは,アサシンクリードなどを手がけてきたビッソン氏のノウハウが生きているのだろう。
また,ステージのいたるところに仕込まれたパズル要素については,プレイヤーが周囲を見回すことで,ある程度自然に分かるように作られている。グラフィックスがリアルになっているぶん“いかにも”な印象は薄れて,中にはちょっと見るだけでは気づかないようなものもあるかもしれないが,L2ボタンを押すことで,「インスティンクト」が発動し,仕掛けのある場所や目的地などが光るようになっており,何をしていいのか分からなくなることはないだろう。また,近くに重要なものがあるときは,ララがそちらに顔を向けるという細かい演出も施されている。
ララの行動によって,敵の行動も常に変わる
ビッソン氏はまた,本作ではとくに敵AIを強化したと語った。
「戦闘にも,やはり先ほどのフリーダムが反映されています。敵をステルスで倒してもいいし,正面から戦ってもいい,ステージのオブジェクトを使って倒すのもいいという感じで,すべてプレイヤーの自由なんです。また,ララの行動によっては,敵の反応が変化し,例えばララがずっと同じ場所で戦っていると,敵の攻撃は次第に正確になってきたりします。敵が2人いる場合,一方を倒すと,残った敵はそれを見て遮蔽物の背後に隠れ,倒しにくくなってしまいます。
同じステージの同じ敵と戦う場合でも,倒す順番や倒し方,またはララの強さやプレイヤーの腕などによって戦況は大きく変わるため,幅の広い戦略を楽しんでもらえると思います」
こうした「利口な」AIのアルゴリズムを組むのはかなり苦労したとのことで,ビッソン氏の過去作では,敵が不自然に動かないよう,ステージを仕方なく単純な作りにしたこともあったという。しかし,本作では,探索要素があるためステージ構造を簡単にはできず,そういう場所でAIキャラクターを正しく動かす労力は,これまでの作品の比ではなかったそうだ。
筆者が,とある洞窟で多くの敵と遭遇したとき,最初は気づかれないように,弓で1人ずつ始末していったのだが,洞窟の奥に見えるランタンを射ることで周囲に火災を発生させ,多くの敵を巻き込めることをビッソン氏に教えてもらった。さっそく実行してみたのだが,敵の動きをよく見ずにランプを壊してしまったため,火災は発生したものの一部の敵しか巻き込むことができず,逆に集中砲火を浴びてしまった。
要するに,筆者のスキルがビッソン氏の勧める戦い方に伴わなかったわけだが,もしここをうまく切り抜けられるスキルを持ち合わせていたなら,弓で1人ずつ倒していくより,はるかに効率よく敵を倒せただろう。
以上のことからも分かるように,本作でララが敵と対峙したときは,行動について多数の選択肢が存在している。矢を射るか,銃を撃つか,それともしばらく待ってやりすごすか。選ぶ行動に正解はなく,どれも一長一短。常に同じ行動をするのではなく,プレイヤーの腕や好みなどによっていろいろ試してみることができるのだ。
プレイヤーの成長とララの成長がシンクロする
上記のように,本作のララはまだ21歳の,あどけなさが残る女性であり,とくに序盤ではプレイヤーが心配になるほどの数々のピンチに見舞われる。それについてビッソン氏は,「冒頭のララは,敵から狩られる側です。しかしゲームを進めることで,彼女は狩る側へと成長します」と語る。
仲間と共に,日本の近海にあるという「邪馬台国」の調査をするために航海に出た彼女だったが,嵐に遭って船は難破。気がつくと見知らぬ場所で全身を拘束された状態で逆さにつり下げられている……というセンセーショナルなシーンからゲームはスタートする。スカベンジャーなる不気味な先住民に「狩られた」姿であり,そこからなんとか逃げ出したものの,全身に傷を負い,血まみれになるララの様子は,かなり痛々しい。
しかしビッソン氏は,ゲームに登場する人物のセリフを用いて次のように語った。
「ララの父親の友人であるコンラッド・ロスのセリフ『お前ならできる。クロフト家の血を引いているのだから』という部分に,本作のストーリーのすべてが集約されています。そのセリフを聞いたララは,まだそれに気づいておらず否定しますが,ただ狩られるだけでは終わらない,彼女が成長していく物語が繰り広げられることになるのです」
序盤では,スカベンジャーの追跡からただ逃げるララだったが,やがて武器や道具を手に入れることでサバイバル術を身につけていく。動物を狩ったり,ピッケルを使って特定の壁を登れるようになったりなど,少しずついろいろなことができるようになっていくのだ。やがて,ある状況で,やむを得ず敵を殺すことになるのだが,初めて人を殺してしまったララの姿は,かなりドラマチックに描かれている。
本作では,ララが何か経験したり覚えたりすると経験値が入り,プレイヤーは,ララが肉体的にも精神的にも成長したことを実感できる。さらにゲーム全体のレベルデザインもララの成長に合わせて設計されているため,プレイを続けるうちに,ゲームへの習熟と,ララの成長が自然にシンクロするという感覚が,コントローラを通して伝わってくるのだ。序盤の,か弱いララに今一つ感情移入できないという人でも,自然にゲームに入っていけるだろう。
ちなみにここで得た経験値は,「サバイバー」「ハンター」「ファイター」という3つのカテゴリに分けられたスキルの上達に使用できる。いずれも,ゲームの進行にとって重要なスキルだが,どれから鍛えていくかはプレイヤー次第だ。
また,これまで探索してきたエリアは,拠点となるキャンプから「ファストトラベル」によって瞬時に移動できる。新しくスキルを覚えたり,アイテムを手に入れりしたあとで,以前のステージに戻り,それまで開けられなかった箱を開ける際などに重宝するだろう。
ゲーム中のプレイアブルなシーンと,ムービーの演出シーンがシームレスでつながっていたり,序盤のステージからすでに,探索できる場所がいくつも用意されていたりなど,実際にプレイしてみると,やめどきがなかなか見つからないという印象だ。ララと筆者がいい具合にシンクロしてきたところで,プレイ時間が終わってしまったのが名残惜しかったが,続きは製品版で楽しむことにしようと思った。機会があれば,詳しいレビューなどをお届けしたいと思う。
前作「Tomb Raider: Underworld」から約5年が経過した今年,いよいよ登場する最新作は,シリーズの伝統であるパズルや探索の面白さを継承しつつ,リファインされたグラフィックスやドラマチックな演出,戦略性の高いアクションをうまく組み入れた,完成度の高いアクションゲームに仕上がっている。シリーズを知らない人でも,十分に楽しめるはずだ。筆者としては,ララの成長を味わいつつ,過去作同様,ステージの各所に隠された秘密をじっくり探索ながら進めてみるつもり(ビッソン氏によると,隅から隅まで見て歩くと,クリアするには40時間以上かかるという……)。
プロデューサーが語る,リブートされたララ・クロフト
試遊のあとはビッソン氏のプレゼンテーションでは聞けなかった点についてインタビューしたので,本作に興味が出てきた人はぜひ読んでほしい。
4Gamer:
ここまで約2時間ほどプレイをさせてもらいましたが,これで全体のどのぐらいになるのでしょうか。
ほんの序盤,というところです。まだまだですね。実はこのあとに,ムービーでもお見せしているララが電波塔へ登るシーンが続くのですが(関連記事),そこからまた面白くなっていきます。
4Gamer:
続きを早く遊びたいですね。意外なほど難しかったのですが,難度もここからさらに上がっていくんですか。
ビッソン氏:
もちろん,難度はゲームを進めると上がっていきますが,それと同時にプレイヤーの腕も上がっていくはずですし,ララも武器やスキルを得て強くなるので,難しすぎてしまうことはないと思います。また,ステージもどんどん広くなり,戦闘や探索の選択肢が増えますので,プレイヤーはより自由にゲームを楽しめるようになります。
とくに序盤では,ララが追いつめられた小動物のように描かれますが,このあと彼女は武器を手にして成長していくんです。最初は接近戦を余儀なくされますが,新しい武器やアイテムを手にすることで,離れて戦えるようになります。それによってプレイヤーに考える余裕ができ,状況をコントロールできるようになっていくわけですね。そういうことを考えて,作っています。
4Gamer:
武器やアイテムが増えると,操作が複雑になるようなことはありませんか。
ビッソン氏:
操作についてはテストプレイを重ね,できる限りプレイヤーに不満が出ないような設定を心がけました。基本操作をマスターしたあと,その応用となるアクションができるようになりますが,これまでのアナロジーで判断できます。例えば弓ですが,ゲームを進めていくと矢にロープをくくりつけて飛ばせるようになります。これも弓を引く基本操作は同じで,矢を射るときのボタンが変わるという具合ですね。
武器の操作は基本的に一緒で,また特定のシーンで入るイベント関連のボタンもすべて共通で,操作が複雑になりすぎないようにしています。
4Gamer:
それを聞いて安心しました。ゲームの序盤はかなり高い緊張感でしたが,そのあたりは意識して作られたんですか。
先ほどお話ししたとおり,序盤のララは追いつめられた小動物であり,どこから何が襲ってくるか分からない緊張感に包まれています。彼女は敵にライトを当てられて逃げまどう立場でしたが,ゲームが後半に近づくにつれ,しっかりとした目的を持ったララは逆に狩る側になり,自分から敵を探すようになります。
4Gamer:
今回のプレイでも,狩る側から脱却する様子がなんとなく分かりました。そこに至るまでがすごく自然な展開になっていましたね。
ビッソン氏:
そういってもらえると嬉しいですね。ゲームのすべてにおいて,プレイヤーに違和感を感じさせないように作るのは,実に大変でした。
例えばジャンプで飛び移れる場所はちょっと白くなっているのですが,それを自然の中に置いたときに違和感がないよう,デザインにも苦労しました。プレイヤーがそこで何ができるのか,直感で分かるように設計しているんです。
4Gamer:
ララのキャラクターデザインについて,今回とくに意識したところはありますか。
ビッソン氏:
おなじみのララ・クロフトを新作のためにどう調理するかではなく,新たに一から人間像を構築しました。彼女は21歳の大学を卒業したての女性ですから,自分がどんな人間なのかも分かっていないという未熟さを持つ一方,やがてクロフト家の一員として秘めた力に目覚めていきます。そうした弱さと強さのバランスには,とくに気を使いました。
もしかすると本作のララは,「ゲームのキャラクター」というより「映画のキャラクター」に近いかもしれません。ゲームキャラクターは最初からスーパーヒーローというのが普通ですが,成長の過程を描いていくのは,どちらかといえば映画に近いですね。
4Gamer:
この新たなララ・クロフトから始まる展開の可能性を教えてください。
それはきっと次の作品を作る人の課題でしょう(笑)。
我々はけっして過去を忘れたのではなく,シリーズの伝統をかなり意識しつつ制作を続けてきました。ただ,やはり過去に積み上げてきたものの中には重荷や切り捨てなければならない部分も多くあり,本作でそれをリブートしたことで,これからのシリーズの土台を強固なものできたと思っています。
過去作と比較すると,一部つじつまが合わないところもあるかもしれませんが,ここから始まる新しいララをぜひ楽しんでもらいたいです。エンディングでは,プレイヤー全員が笑顔になれるような展開が待っています。
4Gamer:
発売がさらに楽しみになりました。
ビッソン氏:
とにかく我々は,ある限りの情熱を込め,長い歳月をかけて本作を作りました。皆さんが本作を気に入っていただければ嬉しいですし,それが次の作品へのはずみにもなると思いますので,ぜひよろしくお願いします。
4Gamer:
期待しています。ありがとうございました。
「TOMB RAIDER」公式サイト
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TOMB RAIDER (C) 2011 SQUARE ENIX LTD. Published by Square Enix Co., Ltd. CRYSTAL DYNAMICS, the CRYSTAL DYNAMICS logo, EIDOS, the EIDOS logo, LARA CROFT and TOMB RAIDER are registered trademarks or trademarks of Square Enix Ltd. SQUARE ENIX and the SQUARE ENIX logo are registered trademarks or trademarks of Square Enix Holdings Co, Ltd.
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