テストレポート
「ゲーム環境」としてのWindows 8完全理解(5)Windows 8は速いのか。ゲーム性能をWindows 7と比較してみる
Windows 8をゲーマーはどう捉えればいいのか考える企画の第5回。今回は,ある意味最も気になる,Windows 8のゲーム性能をチェックしてみよう。Windows Vista&7の延長線上にある新世代OSで,ゲーム性能は向上したのか。
(1)Windows 8の立ち位置とラインナップを整理する
(2)Windows 8のセットアップ方法
(3)最大の特徴「スタートスクリーン」とその操作法をムービーで把握する
(4)既存のPCゲームをプレイするにあたって押さえておきたいこと
では,動作するとした場合に,Windows 8では速いのか? Windows 7をベースに改良が加えられたものであれば,性能が向上していても不思議ではない。一方,新世代OSの出始めというのは,OS自体は言うに及ばず,ゲームプログラム,そしてグラフィックスドライバなどのデバイスドライバ側に“こなれて”いない部分が残るため,性能面で思わぬ不具合を抱えることが多い。その点についての問題はないのだろうか。
今回は,下記のGPU計6製品を使い,発売直後の時点におけるWindows 8のゲーム性能をチェックしてみたい。NVIDIAとAMD,双方のハイエンド,ハイクラス,ミドルクラス製品を1つずつ用意したイメージだ。
- GeForce GTX 680(以下,GTX 680)
- GeForce GTX 660 Ti(以下,GTX 660 Ti)
- GeForce GTX 650 Ti(以下,GTX 650 Ti)
- Radeon HD 7970(以下,HD 7970)
- Radeon HD 7870(以下,HD 7870)
- Radeon HD 7770 GHz Edition(以下,HD 7770)
「性能向上」が謳われる最新β版ドライバを利用
ハード構成を共通化してWindows 8&7を比較
さっそくテストのセットアップに入ろう。
今回のテスト環境は表1のとおり。ハードウェアとドライバの構成は完全に共通とし,Windows 8とWindows 7とで入れ替えつつ,両OSの性能を比較するわけだ。
用意したグラフィックスカードのうち,GTX 660 Ti搭載のZOTAC International製「ZOTAC GeForce GTX 660 Ti」だけは,GPUベースクロックが928MHzで,リファレンスの915MHzより若干高いため,EVGA製オーバークロックツール「PrecisionX」(Version 3.0.4)を用いてリファレンスレベルにまで下げて利用することをあらかじめお断りしておきたい。
用いたグラフィックスドライバは,GeForce用がRelease 310世代の公式最新β版「GeForce 310.33 Driver Beta」。一方のRadeon用は「Catalyst 12.11 Beta(Beta4)」となる。いずれもGPUメーカーが「ゲーマー向け」と位置づけるリリースで,従来のドライバと比較して性能面での最適化が進んだと謳われる点,そして,Windows 8と7両対応のワンパッケージになっている点が特徴だ。
テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション12.2準拠。ただしレギュレーション12.2にはオンラインゲームが含まれないため,今回は「ファンタシースターオンライン2」(以下,PSO2)のキャラクタークリエイト体験版に付属するベンチマークモードを用いることにした。同時に,時間の都合から,「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」を省略する。
レギュレーション12.2準拠のテストでは,ハイエンドGPUに合わせて,1920×1080ドットと2560×1920ドットとしている。また,これはPSO2のテストでも採用しているのだが,「Core i7-3960X Extreme Edition/3.3GHz」の省電力機能である「Enhanced Intel SpeedStep Technology」と自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,テストによって効果が異なる可能性を排除するため,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効に設定している。
ほとんどの場面でスコアは変わらず
ただしCPU性能は若干低めに?
以下,文中,グラフ中とも,Windows 8環境でのテスト結果は「GPU名(Win8)」,Windows 7環境でのテスト結果は「GPU名(Win 7)」と表記することにして,順にテスト結果を見ていこう。
グラフ1は,「3DMark 11」(Version 1.0.3 ※Windows 8との互換性を確保すべく「SystemInfo 4.12」を導入済み)から,「Performance」と「Extreme」の両プリセットにおける総合スコアをまとめたものだ。一見,GeForce,RadeonともにOSによるスコアの差はほとんどないものの,よく見るとPerformanceでWindows 8のスコアが若干低めに推移しているのも分かる。
なぜPerformanceでスコアが低めに出るのか。それを確認すべく,Performanceにおけるスコアの詳細を確認したのが表2で,ご覧のとおり,Windows 8では「Physics Score」が低いのだ。
Physicsテストは,物理演算ライブラリ「Bullet Physics」を用いてCPU性能を見るものになっている。Windows 8環境の3DMark 11において,Windows 7環境と比べてCPU性能が若干低めに出ている可能性はありそうである。
実際のゲームタイトルではどうか。グラフ2,3は「Battlefield 3」(以下,BF3)の結果となるが,端的に述べて,Windows 8と7との間でスコアに大差はない。両者の違いは最大でも2fpsに達していないので,Windows 8でもWindows 7と変わらぬ性能が得られていると見ていいだろう。
なお,本稿の趣旨からすると完全な余談だが,Catalyst 12.11 Betaの導入によって,HD 7970がGTX 680といい勝負を演じられるところまでスコアを伸ばしている点には注目しておきたい。AMDはCatalyst 12.11 BetaでGraphics Core Nextアーキテクチャを採用したRadeon HD 7000シリーズに向けての性能最適化を大々的に謳っているが(関連記事1,関連記事2),たしかにその恩恵は得られている印象だ。
続いてグラフ4,5の「Call of Duty 4 Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)では,Windows 8環境のGeForceに問題が発生した。3つのGPUすべてでWindows 7環境からスコアを半分に落としているのだ。ちなみに公式最新版「GeForce 306.97 Driver」へ入れ替えてみたところ,この問題は発生しなかったので,Release 310世代ならではの問題が出た(=Windows 8が原因である)わけではないと見るべきだろう。
ただ,HD 7970(Win8)がHD 7970(Win7)に10fps前後離されるなど,全般的にWindows 8環境のほうがスコアが芳しくない傾向は窺える。Call of Duty 4は最新世代のGPUにとって“軽すぎる”ほどに負荷が低く,いきおいCPUボトルネックが生じやすいのだが,そうなると,3DMark 11のときに指摘した「CPU性能が低く出やすい」という特徴がスコアを左右するのかもしれない。
もっとも,150〜300fps超級の10fpsなどというのは無視できるレベルだが。
公式の高解像度テクスチャパックを導入済みで,グラフィックスメモリ負荷が高まっている「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)だと,Windows 8とWindows 7との間にスコアの違いはないと言っていいレベルだ(グラフ6,7)。
なお,これも余談だが,GeForce 310.33 Driver BetaではSkyrimにおける性能が目に見えて向上しており,Release 304世代のドライバでは「Ultra設定」でHD 7870に太刀打ちできなかったGTX 660 Tiが,Release 310世代のドライバでは一進一退の攻防ができるほどになった。
グラフ8,9の「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)では,GeForce勢がWindows 8環境で総じてスコアを落とす結果となった。Radeon勢はHD 7970(Win8)が1920×1080ドットで落ち込み気味なだけで,ほぼ差がない。Call of Duty 4のスコアも含め,GeForce 310.33 Driver BetaのWindows 8最適化はまだ十分とはいえないということなのだろう。
「DiRT 3」の結果をまとめたグラフ10,11も,Civ 5と似た傾向となった。DiRT 3でもGeForce勢はWindows 8でスコアが低下する傾向にある。このあたりはRelease 310世代のWHQL版に期待といったところか。
性能検証の最後はグラフ12,13のPSO2だが,スコアが明らかに下がるケースがいくつかある一方,目に見えて上がるケースはない,といった印象である。
PSO2もやはりグラフィックス描画負荷の低いタイトルなので,CPU性能が“効いている”可能性はあるが,断言まではできない。
Windows 8とWindows 7で消費電力には大差なし
GPU温度も変わらず
念のため,テスト時におけるシステム全体の消費電力と,GPU温度もチェックしておこう。
前者のテストにあたっては,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計ることにした。ゲーム用途を想定したうえで,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定し,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果がグラフ14だが,結論から述べると,Windows 8とWindows 7とで消費電力に違いはない。「3D性能が変わらないのだから当然」と言える結果にまとまったわけだ。
なお,無操作状態が長く続いたときにグラフィックス出力が切れるようにしておくと,Graphics Core NextアーキテクチャのGPUでは省電力機能「AMD ZeroCore Power Technology」(以下,ZeroCore)によって消費電力がもう一段低いところまで下がるが,HD 7970(Win8)とHD 7970(Win7)ではZeroCore有効時のスコアが順に84W,83Wで変わらなかった。ZeroCoreの挙動も同じと見ていいだろう。
3DMark 11の30分間連続実行時を「高負荷時」とし,アイドル時ともどもGPU温度を取得した結果がグラフ15だ。
テストシステムは,温度14℃の室内に,PCケースへ組み込まない状態でテストしているが,3D性能,そして消費電力と同じく,GPU温度もWindows 8とWindows 7とで大きな違いはない印象である。
Windows 8とWindows 7の3D性能はほぼ同じ
ドライバの熟成を待つのが正解か
以上のテスト結果から言えることは,Windows 8とWindows 7との間に,3Dゲーム性能の目立った違いはないということである。プラス評価するなら,「Windows 8自体には初期状態でも性能面の不安がほとんどない」となるだろうし,マイナス評価するなら「新世代OSとしての“上積み”はなく,むしろ当初はグラフィックスドライバの完成度に足を引っ張られる可能性がある。また,CPU性能は若干低下したかもしれない」ということになるはずだ。
どうしてもいち早く新世代OSを使いたいというのでない限り,Windows 8への移行を検討するのはグラフィックスドライバの熟成を待ってからでも遅くないのではなかろうか。
- 関連タイトル:
Windows 8.x
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