インタビュー
2年の開発期間を経て生み出された“本格タクティクス系SRPG”の実力とは。「シュヴァリエ サーガ タクティクス」インタビュー
若者と大人が共存できる課金バランスを想定
4Gamer:
それにしても,SRPGというジャンルをオンラインゲームとして開発するというのは,前例があまりないだけに大変だったんじゃないかと思います。
そうなんですよ。SRPGのオンラインゲーム化という意味においては,ほかに参考にできるタイトルが皆無で,手探り状態で進めているところもあります。そういった意味では,開発作業は常に苦労の連続です。
東郷氏:
たぶん,コンシューマ用SRPGを単純にオンライン化するだけなら,簡単だったと思います。でも実際には,プレイする時間帯も,強さも,有料アイテムを購入する頻度も人それぞれ。最初から決め打ちでバランス調整をすることは,まず不可能ですから。
4Gamer:
そういった前人未到のジャンルに挑戦するにあたり,NHN Japan側からのオーダーは何かありましたか?
薬師寺氏:
実は,オーダーらしいオーダーはないんですよ。SRPGジャンルのゲームを作る能力に関しては,イメージエポックさんを信頼していますから。NHN Japanとしては,オンラインゲームメーカーとしてのノウハウを持っているので,その部分で協力しつつ,二人三脚で開発しています。
東郷氏:
イメージエポック側では今年の5月から,開発スタッフがNHN Japanさんにほぼ常駐する形で,追い込み作業を行っています。通信周りや課金システムのノウハウなどを共有してもらい,とても参考になっていますよ。
4Gamer:
ビジネスモデルに関しては,“基本無料+アイテム課金”と発表されています。課金アイテムは,具体的にどういったラインナップになるんでしょうか。
御影氏:
主な有料コンテンツはユニットになります。もちろん無料でユニットを入手することもできますが,手っ取り早く自分だけの部隊を編成したい人や,特別なユニットを入手したい場合に,お金を払っていただくという形です。
あとはコアプレイヤー向けになりますが,最強キャラを作るためのプロセスで,課金によって時間短縮が可能になることもあります。たとえばアイテムを合成して強力な武器を作ったり,あるユニットの能力を,別のユニットに引き継がせたり。
4Gamer:
なるほど,やり込み要素にも関わってきそうですね。
東郷氏:
SRPGって,中盤以降になると,ユニットの数が数十体に膨れ上がったりするじゃないですか。でも実際に使うのは一軍メンバーの数体に限られることがほとんどです。二軍メンバーの使い道の一つとして,“想いを継承する”みたいな形でユニットのパラメータや習得スキルを組み合わせられるんです。
4Gamer:
たとえばメインシナリオのアンロックとか,ゲーム進行の基本部分に関わる課金は必要なんでしょうか。
東郷氏:
いえ,その点は安心してください。これはNHN Japanさんとも合意の上で進めているんですが,シュヴァリエは「基本無料=無料でも“遊べる”」というスタンスで運営していきます。メインシナリオにせよ,攻城戦にせよ,課金しないと遊べないコンテンツは一切ありません。ただし,有料アイテムを利用すればプレイ時間をある程度短縮できるので,課金者は無料プレイを貫いているプレイヤーよりも,ある程度の近道ができます。
4Gamer:
とはいえ,最初から最後まで無料で快適に遊べたら,商売になりませんよね。
御影氏:
そこは,会議でもよく挙がる部分です。イメージとしては,最終的には課金を行うよりも,無料プレイを続けたキャラクターのほうが,若干強くなれる。ただし,無料でその域に到達するには,相当努力しないと無理……といった感じでしょうか。
たとえば,仮に1か月で1000円使って「+35のソード」を入手したとします。でも,1か月間死にもの狂いで頑張れば,お金を使わなくても「+36のソード」が手に入るといった感じです。
良質なオンラインゲームを作れることを公に示したい
4Gamer:
なるほど。ちなみにシュヴァリエの対象プレイヤー層は,スーパーファミコンのSRPGにハマったことのある,現在30代くらいの人を想定しているんですか?
東郷氏:
実は,そのあたりを強く意識して狙っている……というわけでもないんですよ。ただ,そういったSRPGファンと同世代の開発者である自分らにとって,「こんなゲームで遊んでみたい!」というのを突き詰めています。
タクティクスという言葉は,なんとなく格好いいから入れてみようぜ! といった軽い気持ちで付けたものです(笑)。でも,実際に開発を始めてからは,「タクティクスオウガ」や「ファイナルファンタジー タクティクス」などのタイトルは,極力見ないようにしようと思っていました。見たら絶対に影響を受けてしまうでしょうし。
4Gamer:
個人的にですが,タイトル名やパッと見のグラフィックスなど,第一印象のとっつき易さという意味で「狙ってるな」と感じました。でも実際に動いているものを見ると,中身はずいぶん違いますね。
御影氏:
確かに,ビジュアルはとっつきやすさの入口になるので,頑張っています。でも同じSRPGでも,コンシューマ向けに作るのとオンラインゲームとして作るのでは,180度違うんだなぁと実感しましたよ。たとえば,今回はWebブラウザを通じてのマウスオペレーションになるので,コントローラ操作でのUI作りのノウハウはほとんど通用しませんでした。
東郷氏:
修正どころか,イチから作り直した箇所も本当に多いですよ。2010年末の段階で,一度シュヴァリエの画面を公開していますが,当時のUIで現在残っているものが,もしかすると一つもないかもしれません。
4Gamer:
先ほどからお二人のやりとりを見ていて思ったのですが,社内でも,納得いくまでとことん,ざっくばらんに話し合う感じなんですか?
ええ,そのまんまです。イメージエポックの良いところって,口うるさいんだけど,常識にとらわれずに理解に務めることだと思っています。「コンシューマだからこうだ」とか「絶対ダメ」とか,偏見じみたことは基本言いませんね。どうやればプレイヤーに受け入れられるのか,そのためであれば納得し合えるまで何時間でも話し合います。
残念ながら,ゲーム業界では今でも,「オンラインよりコンシューマのが上だ」とか,「モバイルのが上だ」「いや違う」といった議論がありますよね。でも僕らからすれば,そんなのはどうでもいい話なんですよ。選んだハードに対して,一番楽しいものってなんだろうね,というところを突き詰めて,完成させればいいんです。
4Gamer:
いやほんとに,おっしゃるとおりだと思います。そういうスタンスであれば,NHN Japanとの共同開発も順調に進んでいそうですね。
御影氏:
NHN Japanさんはオンライン周りのノウハウをたくさん持っているので,こちらとしては貴重な経験をさせてもらっています。自分達が納得できる部分は全部取り入れよう,という心構えです。とくに今回のシュヴァリエは,アイテムの課金も含めてゲームシステムといえますし。
4Gamer:
イメージエポックはこれまでコンシューマが中心でしたが,オンラインゲームに参入するにあたり,特別な心構えなどはありましたか?
御影氏:
これは昔,ゴンゾロッソさんと仕事をしたときに言われたことですが。日本国内で,良質のオンラインRPGを作れる開発会社は本当に数少ないと言われています。
そういった事情を鑑みながら,イメージエポックという会社が持っている開発力を公に示すこと。今回の開発ではゲームの中身もさることながら,そういった面でも意味があると思っています。
開発費用は「ルミナスアーク」の3倍以上
シュヴァリエが“アリ”か“ナシ”か試してもらいたい
ブラウザベースのSRPGというだけでも珍しいですが,シュヴァリエではクロスプラットフォーム展開も予定しているとのことですよね。他プラットフォームの開発状況はいかがですか?
御影氏:
最初はPCブラウザ版で,9月末にオープンβテストから正式サービスへ移行する予定です。その次は,詳細なリリース時期まではお伝えできないのですが,PlayStation 3版のリリースを予定しています。その後にスマートフォン版も検討していますが,こちらはPC版の稼動状況を見ながらになると思いますね。
4Gamer:
PS3版からうかがいたいのですが,具体的にゲーム内容はどうなるのでしょうか。
御影氏:
ゲーム内容は,基本的にPC版と一緒です。ただ,入力デバイスがマウス/キーボードからコントローラに変わるので,ユーザーインタフェースをガラッと変える必要があります。
4Gamer:
PC版はブラウザゲームということで,起動するたびに全データをダウンロードするわけですよね。そのあたり,PlayStation 3版ではどうなるんでしょうか。
御影氏:
現在仕様を検討中なので,詳細が決まったところで発表とさせてください。
4Gamer:
PS3版から新規で始めるプレイヤーにとって,どのあたりがウリになるとお考えですか?
御影氏:
PC版から遅れてリリースされるということは,それまでにPC版で導入されたアップデート内容が,最初から楽しめるわけです。PS3版の新規プレイヤーにとっては,どんなに遊んでも食い尽くせないくらいの量のコンテンツが最初から楽しめるわけで,これは大きいと思いますよ。
4Gamer:
サーバーや運営周りの体制も,PC / PS3とで共通しているんですか?
薬師寺氏:
はい。どのプラットフォームに関しても,NHN Japanとイメージエポック,両社のスタッフが共同で開発/運営を行います。
4Gamer:
スマートフォン版については,さすがにまったく同じゲーム内容にはならないと思うのですが,いかがでしょうか。
東郷氏:
おっしゃるように,PC / PS3版の“SRPG”とは大きく違った内容になります。方向性としては,ちょっと余った時間を使って,ユニットを育成できるという感じですね。具体的には,所有ユニットに対して“遠征”というコマンドを与えてしばらく放置し,あとで再びログインすると,遠征から帰還したユニットが,報酬を得るというイメージです。
4Gamer:
なるほど,いわゆるソーシャルゲームのように,空き時間で気軽に遊べるコンテンツなんですね。
東郷氏:
ええ。スマートフォン版は出先でちょこちょこログインして,家に帰ったらPC版でみっちりプレイする感じです。「今晩は残業で遅くなりそうだから,12時間遠征させちゃえ」といったこともできるようにします。理想としては,スマートフォン版だけでも楽しめるけど,PC / PS3版と合わせることでもっと面白くなる,という風にしたいですね。
4Gamer:
スマートフォン版の開発状況はいかがですか?
御影氏:
まだ実際には着手していないんですが,開発作業そのものは,始めてしまえばすぐに終わると思います。まずはPC版のサービスを開始して,プレイヤーのニーズを調査するのが先決ですね。スマートフォン版でどんな風に遊びたいか,アンケートを取ってみるのもいいかな,と考えています。
4Gamer:
それでは最後に,シュヴァリエに注目している人に向けてのメッセージをお願いします。
弊社はかつて,コンシューマ用のSRPG「ルミナスアーク」を開発しましたが,シュヴァリエにはその3倍以上の開発費用がかかっています。ブラウザゲームとしては,はっきり言って「ありえない」金額といえます。
だからといって,これが大作だと言うつもりはありません。お金も時間もかけて「イメージエポックのブラウザゲーム」を真面目に開発しましたので,これが“アリ”か“ナシ”か,プレイヤーの皆さまにぜひ一度試してほしい,という気持ちが僕の中で強いですね。
“アリ”だと感じられた人なら,「こうしてほしい」という要望がいくつも思いつくはずなので,そういった声をぜひとも聞かせてほしいと思っています。1日1個の要望を受けとめられれば,1年で365もの項目が改善されます。そんな気持ちで開発していきますので,よろしくお願いします。
東郷氏:
今回,一人の開発者としてオンラインゲーム開発にチャレンジするにあたり,楽しんでプレイして,納得してお金を払っていただけるような,そんなゲームが作りたいなと,ずっと考えながら開発してきました。
シュヴァリエは,これまでどのメーカーもチャレンジしたことのないジャンルに,ガチで取り組んだ作品です。従来の常識にとらわれず,自分達が「これは面白い!」と感じたものを形にしていきます。ですので,βテストを通じて「ここをこうすればもっと面白くなる!」と感じた点があれば教えてください。必ず社内で検討します。
薬師寺氏:
その点は運営元としても同感で,シュヴァリエに関しては,まずエンターテインメントとして面白いものを提供して,その対価として課金していただけるタイトルを目指しています。運営サイドとしては,面白いものをプレイヤーに届けるのが使命だと思っていますので,どうかよろしくお願いします。
御影氏:
あ,最後にもう一つ言わせてください。シュヴァリエは元々,2011年の7月にリリース予定だったんですが,僕がわがままを言って,3か月延期させてもらっています。なぜかというと,万全の状態で世間に出したかったからです。
2011年度より,コンシューマのほうでパブリッシャになりまして,ユーザーの皆様のおかげで“お金の問題”で開発を打ち切りにしなくていい余裕を持つことができました。開発スタッフに対して,本当の意味で「目指すべきクオリティまで作っていいよ」と,指示を出せるようになりました。シュヴァリエはその恩恵を受けて,作り込まれています。
シュヴァリエのサービスが良いスパイラルに入れば,きっと次に開発する作品でも,良い開発体制を整えることができます。そういった意味でも,シュヴァリエはイメージエポックにとって,大きなチャレンジといえます。そのあたりも含め,注目してくれると嬉しいです。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「シュヴァリエ サーガ タクティクス」公式サイト
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