レビュー
日本市場に登場した「欧米の一部地域向け数量限定版」をチェックする
GeForce GTX 560 Ti with 448 Cores
(Palit NE5X564010DA-1101F)
「一部の地域」に日本が含まれていないこともあり,国内ではそれほど話題にもならなかった本製品。だが,どういうわけか,2012年になって,Palit Microsystems製品を扱うドスパラが,搭載カード「NE5X564010DA-1101F」の販売を開始したのである。地域・期間・数量限定版のはずなのに,日本国内でも普通に買えるようになったわけだ。
普通に買えるようになったのであれば,試してみるほかない。今回は,ドスパラの運営母体であるサードウェーブからNE5X564010DA-1101Fを入手できたので,本製品,そしてGTX 560 Ti 448の実力と立ち位置を探ってみたいと思う。
GTX 560 Tiとはコアが異なるGTX 560 Ti 448
その実はGTX 570のSM×1無効化版
GTX 560 Ti 448のGPUパッケージ。パッケージ上の刻印は「GF110-270-A1」だ。GTX 570だと「GF110-275-A1」だったので,GF110の後ろにある3桁数字が5だけ小さい |
GF110(&GF100)コアのブロック図 |
ただ,現実的な問題として,GTX 560 Tiが採用するGPUコア「GF114」のフルスペックは384基であり,CUDA Coreの数はこれ以上増やしようがない。そこでGTX 560 Ti 448でNVIDIAは,「GeForce GTX 580」(以下,GTX 580)や「GeForce GTX 570」(以下,GTX 570)と同じ「GF110」コアを採用し,そこからコア数を減らすことで,GTX 560 Ti 448という製品に仕立て上げてきた次第だ。
もう少し細かく述べてみると,GF110では,32基のCUDA Coreが,スケジューラや超越関数ユニット,テクスチャユニット,ジオメトリエンジンなどとセットになって「Streaming Multi-processor」(以下,SM)を構成。そのSMを4基1組として「Graphics Processor Cluster」(以下,GPC)を構成し,GF110のフルスペックとなるGTX 580の場合,GPCを4基搭載することで,512 CUDA Coreとしていた。GTX 570だと,4基あるGPCのうち1基でSMが1基無効化されて480基となるが,GTX 560 Ti 448では,追加でさらに1基のSMが無効化されるため, 480−32=448基 となるわけである。
表1は,そんなGTX 560 Ti 448のスペックを,GTX 570およびGTX 560 Tiと比べたものだが,GTX 560 Ti 448は,GTX 560 Tiと比べると違いが多い一方,GTX 570との違いはCUDA Coreの数だけだ。動作クロックまで同じなので,GTX 560 Ti 448は,GTX 570から1基のSMを無効化したもの以上でも以下でもないことになる。
なお,GTX 560 Ti 448で,テクスチャユニット数がGTX 560 Tiの64基から56基へと減少しているのは,GF110だとSMあたりのテクスチャユニット数が4基なのに対し,GF114だと8基になっているためだ。
GTX 560 Tiのリファレンスデザインとカード長は同じ
GTX 570&GTX 560 Tiとの性能比較を実施
カード長は実測229mm(※突起部含まず)で,GTX 560 Tiのリファレンスデザインとほぼ同じ。GTX 580&GTX 570のリファレンスカードだとカード長は同267mmなので,GF110コアのGeForceを搭載するカードとしては短いわけだ。
また,GTX 560 Tiのリファレンスデザインだと,マザーボードに差したとき,マザーボードと平行になる向きに2基の補助電源コネクタが向いていたのに対し,NE5X564010DA-1101Fではこれが垂直になっているので,PCケース内で占有する空間はNE5X564010DA-1101Fのほうが少ないことになる。
GPUクーラーの下にある基板は,4+1フェーズの電源部を持つ,かなりすっきりしたもの。そこに搭載されるメモリチップはSamsung Electronics製の「K4G10325FG-HC04」(5Gbps品)で,GTX 560 Tiのリファレンスカードが搭載していたものと同種ながら,より新しい世代のものとなっていた。
取り外したクーラーをさらにバラしてみたところ。カバー&ファンと,GPU用放熱部,放熱板の3ピース構成になっている | |
基板は比較的すっきりした印象。メモリチップは5Gbps品だ |
というわけでテストのセットアップに入るが,今回は,表1でその名を挙げた3つのGPUを比較したいと思う。そのほかのテスト環境は表2のとおりで,CPUに用いた「Core i7-3960X Extreme Edition/3.3GHz」は,負荷状況に応じたクロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の効き具合がテスト状況によって異なる可能性を考慮して,UEFIから同機能を無効化している。
BF3のテストにあたっては,2011年11月5日掲載のテスト記事に準拠する形で「THUNDER RUN」シークエンスのテストを行うこととした。ゲーム内のグラフィックス設定メニューから「最高」プリセットと,同プリセットをベースに,アンチエイリアシング関連の2項目と,異方性フィルタリングの1項目とを無効化した「カスタム」プリセットを選択し,それぞれ,レギュレーションの「高負荷設定」「標準設定」に近づける。
一方のSkyrimでは,2012年2月11日掲載のテスト記事に準拠する形で,こちらは「プロローグ」をテストに用いる。テスト条件は,グラフィックス設定メニューから「Ultra」プリセットを用いた状態と,そこからアンチエイリアシングおよび異方性フィルタリングを無効化した「低負荷設定」の2つだ。
GTX 570に近い3D性能を発揮
テクスチャユニットが少ない影響はある
それでは順にテスト結果を見ていこう。
グラフ1は「3DMark 11」(Version 1.0.3)の「Performance」と「Extreme」,両プリセットの結果をまとめたもの。GTX 560 Ti 448のスコアはGTX 560 Tiから16〜21%向上しているので,CUDA Core数の違いがほぼそのまま反映された結果と言ってよさそうである。ちなみにGTX 570とのスコア差は4〜5%程度と,さほど大きくない。
続いてグラフ2〜5は,「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の公式ベンチマークテストから,「Day」と「SunShafts」シーケンスの結果をまとめたものとなる。
まず,最も負荷の低いDayを見てみると,GTX 560 Ti 448は,標準設定でこそ対GTX 560 Tiで14〜16%高いスコアを示しているものの,高負荷設定ではこれが約5%にまで縮まってしまう(グラフ2,3)。メモリ周りのスペックはGTX 560 Ti 448のほうが高いので,テクスチャユニット数や,シェーダクロックがGTX 560 Tiを下回ることが,こうした結果を生んでいるのだろう。
テスト条件によって,テクスチャユニット周りの相対的に低いスペックが影響する可能性はある,ということだ。なお,GTX 570との力関係は3DMark 11と変わっていない。
最も描画負荷の高いSunShaftsのスコアをまとめたグラフ4,5でも,傾向自体は変わらず。高負荷時のスコアで約108%と,GTX 560 Tiとの差を広げたのは,メモリ周りのスペックが奏功した結果といえるかもしれない。
さらにグラフ6,7でスコアを示したBF3においても,GTX 560 Tiと比べてテクスチャユニット数が少なく,動作クロックも低いことの影響は確認できる。カスタムプリセットでGTX 560 Tiに対して13〜14%高いスコアを示すGTX 560 Ti 448が,最高プリセットでは7〜8%に迫られる。
グラフ8,9は「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のテスト結果だが,もともとテクスチャユニット性能がスコアを左右しやすいCall of Duty 4だけに,スコアはBF3を踏襲するものとなった。GTX 560 Ti 448とGTX 560 Tiのスコア差は,標準設定だと10%台半ばだが,高負荷設定になると1桁%台へ落ち込んでいく。
一方,グラフ10,11にスコアをまとめたSkyrimでは,GTX 560 Ti 448がGTX 560 Tiに対して14〜18%と,安定的に高いスコアを示した。Ultra設定では若干下がり気味になるが,少なくともBF3やCall of Dutyとは異なる傾向にあるといえるだろう。
GTX 570とのスコア差は3〜4%。これも優秀である。
「Sid Meier's Civilization V」の傾向も,Skyrimと同様(グラフ12,13)。GTX 560 Tiと比べて,GTX 560 Ti 448は標準設定でも12〜13%高いスコアを示した。GTX 570とのスコア差は4〜5%だ。
グラフ14,15に結果をまとめた「DiRT 3」だと,GTX 560 Ti 448とGTX 560 Tiのスコア差は,標準設定で約14%,高負荷設定で11〜12%。まずまずの伸びは見られる,といったところか。少なくともBF3やCall of Duty 4のような事態にはなっていない。
スペックほど消費電力は高くない
むしろGTX 570からの「下がり幅」に注目
GTX 560 Ti 448を語るうえで見過ごせないのが,210Wとされる公称最大消費電力だ。これはGTX 560 Tiの同170Wから40Wも高い。GF110ベースである以上,GTX 560 Ti 448の消費電力はどうしても高くなってしまうだろうが,実際にはどの程度に収まるだろうか。
今回も,ログの取得が可能なワットチェッカー,「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測してみよう。テストにあたっては,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点をタイトルごとの実行時として,それぞれ計測している。
その結果はグラフ16のとおり。アプリケーション実行時を見ると,GTX 560 Ti 448の消費電力値は304〜333Wで,GTX 560 Ti比6〜25W程度高いレベルに留まっている。一方,GTX 570からは18〜24W低いので,消費電力はむしろGTX 560 Tiに近い印象だ。
SMが1基減っただけでこれだけ消費電力が下がるというのはちょっと考えづらいので,NE5X564010DA-1101Fの基板設計が,消費電力の低減に焦点を当てたものになっているということなのだと思われる。
3DMark 11の30分間連続実行時点を「高負荷時」として,アイドル時ともども,「GPU-Z」(Version 0.5.8)からGPU温度を計測した結果がグラフ17だ。
テスト時の室温は24℃。システムは,PCケースに組み込まず,いわゆるバラック状態としているが,ここでGTX 560 Ti 448,というかNE5X564010DA-1101FのGPU温度は高負荷時に65℃と,いずれもリファレンスデザインを採用したGTX 570およびGTX 560 Tiよりも9℃低い結果となった。デュアルファン搭載のGPUクーラーは,しっかりと仕事をしているというわけだ。
気になるGPUクーラーの動作音は,筆者の主観であることを断ったうえで続けると,あまり気にならないレベルである。もちろん,ハイクラスのGPUを搭載する以上,静音性に長けているとまではいえないが,PCケースに組み込んだとき,NE5X564010DA-1101Fに搭載されたGPUクーラーの動作音が耳障りになることはまずないだろう。
悪いのはGPUブランド名と展開方法
GTX 570の廉価モデルとして価値はある
問題があるとすると,「欧米の一部地域のみ」とされていたにも関わらず,結局国内流通が始まったことや,GPUコアからして異なるにもかかわらず,人気となっているGTX 560 Tiの名を冠してきたNVIDIAの姿勢のほう,ということになるだろう。
GTX 560 Ti 448というGPU名は,いたずらにユーザーを混乱させるだけだ(※だからこそNVIDIA Japanは日本市場に正式投入しないという決断を下したのだろうが)。NVIDIA本社には,もう少しユーザーのことを考えた製品展開を望みたい。
ドスパラのNE5X564010DA-1101F販売ページ
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