レビュー
バランスの取れた性能と価格,バランスを欠く消費電力
GeForce GTX 550 Ti
(GIGA-BYTE GV-N550OC-1GI,
GALAXY GF PGTX550TI/1GD5)
3桁表記への移行後,上2桁めが「5」のGTX型番というのは今回のGTX 550 Tiが初めてになるが,これは市場においてどう位置づけられるべきか。GIGA-BYTE TECHNOLOGYの販売代理店であるCFD販売から「GV-N550OC-1GI」,GALAXY Microsystemsの販売代理店であるエムヴィケーから「GF PGTX550TI/1GD5」と,同GPUを搭載するグラフィックスカード2枚の貸し出しを受けられたので,さっそく動かしてみよう。
“フルスペック版GF106”となるGF116を搭載
アンバランスなメモリ構成が特徴的
実のところNVIDIAは,明示こそしていないものの,2010年第4四半期以降,型番の持つ意味合いを次のとおり変更している。
- GTX:3Dゲームアプリケーションの実行に適した性能を持つ,ゲーマー向けGPU。デスクトップPC向けの場合,SLIや3D Vision Surroundにも対応する
- GTS&GT:3Dゲームの実行やビデオ再生,画像処理に適したGPU。ノートPC向けの場合は,消費電力あたりの性能を強く重視する
- 無印:GPUアクセラレーションの有効なアプリケーションを実行するとき,CPU(やチップセット)に統合されたグラフィックス機能を大きく上回る性能を示すGPU
そう,従来の「スペックに応じたクラス分け」ではなくなり,対象となる市場に応じたものに変わっているのだ。GTXというと,ハイエンド&ハイクラスというイメージが強いと思うが,NVIDIAの新しい位置づけでは,従来におけるミドルクラス以下の3D性能を持つものであっても,ゲーマー向けGPUと同社が判断した場合には,GTX型番が与えられる,というわけである。
具体的にはまず,シェーダプロセッサ「CUDA Core」が48基,8基のテクスチャユニットや1基のジオメトリエンジン「PolyMorph Engine」などとセットになって「Streaming Multi-processor」(以下,SM)を構成。さらにそのSMが4基まとまって「Graphics Processor Cluster」(以下,GPC)を構成するという格好だ。
GPCの数は1基なので,CUDA Core数は48×4×1=192基,テクスチャユニット数は8基×4×1=32基という計算になる。
GTS 450のレビュー記事で筆者は,「(GTS 450は)GF106のフルスペックから,ROPパーティションと,それと対をなす64bitメモリコントローラをそれぞれ1基ずつ削った構成」だと紹介した。しかし,GTX 550 Tiではこれらが削られていない。要するに,GTX 550 Tiのハードウェア構成は,上のブロックダイアグラムで示したGF116コアのフルスペックそのものであり,ROPユニット数は8基×3パーティションで24基,メモリインタフェースも64bit×3で192bitとなるわけである。
そこでNVIDIAがとった方策は,「3基ある64bitメモリコントローラのうち,1基に接続されるメモリチップにのみ2Gbit品を用いる」というものだ。2Gbit品2枚で容量512MBを確保し,残る2基のメモリコントローラには1Gbit品を2枚ずつ組み合わせることで,512MB+256MB+256MB=1GBを実現しているのである。
そんなGTX 550 Tiの主なスペックを,従来製品および競合製品ともどもまとめたものが表1となる。ご覧のとおり,公称最大消費電力は116Wで,GTS 450と比べ10W高い。
メーカーによってはかなり短いカード長を実現
実際の製品も2Gbit&1Gbitメモリチップ混載
カード長は,GV-N550OC-1GIが実測208mm(※突起部含まず),GF PGTX550TI/1GD5が同186mm。前者は一般的なGTS 450やGTX 460 768MBカードとほぼ同程度のサイズで,後者はそれらより短いと考えていい。
一方のGF PGTX550TI/1GD5だと,ファンのサイズは80mm角相当。今回のテストにおいて,ファンの回転数は1380〜2040rpmの範囲で変化していた。こちらも動作音はおおむね静かだと感じられるが,回転数が2000rpm前後を超えると,その風切り音が若干気になったことは付記しておきたい。
GPUクーラーを取り外すと分かるのは,搭載するメモリチップが確かに6枚であること。両カードとも搭載するのはHynix Semiconductor製のもので,2枚の2Gbitチップが「H5GQ2H24MFR-T2C」(5.0bps品),4枚の1Gbitチップが「5GQ1H24AFR-T2C」(5.0bps品)だった。リファレンスクロックは4104MHz相当(実クロック1026MHz)なので,マージンはかなり大きく取られているようだ。
なお,GV-N550OC-1GIの動作クロックはコア970MHz,シェーダ1940MHz,メモリが4200MHz相当なので,リファレンスクロックと比べると,GPUは約8%,メモリは約2%引き上げられている計算になる。
ドライバはレビュワー向けの267.59を利用
GTX 460 768MBとGTS 450,HD 5770と比較
なお,今回用意したカードのうち,MSI製「N450GTS Cyclone 1GD5/OC」はクロックアップモデルなので,MSIのオーバークロックツールである「Afterburner」を用いて,動作クロックをリファレンスにまで下げて利用している。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション10.2準拠。解像度は1680×1050&1920×1200ドットの2種類を選択した。GeForce製品のテストに用いているグラフィックスドライバ「GeForce Driver 267.59」は,NVIDIAから全世界のレビュワーに配布されたものだ。
CPUには「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」を利用しているが,「Intel Hyper-Threading Technology」「Enhanced Intel SpeedStep」を有効化する一方で,テストによって影響が異なるのを避けるため,「Intel Turbo Boost Technology」は無効化している。
もう1つ,GV-N550OC-1GIとGF PGTX550TI/1GD5とを区別するため,文中,グラフ中とも,前者を「GTX 550 Ti(OC)」,後者を「GTX 550 Ti」とそれぞれ表記することも,合わせてお断りしておきたい。
GTS 450よりは速いが,GTX 460 768MBには届かず
HD 5770に対しては互角以上に立ち回る
テスト結果の考察に入ろう。
グラフ1,2は「3DMark06」(Build 1.2.0)の総合スコアをまとめたもの。GTX 550 Tiは,GTS 450より14〜24%高いスコアを見せており,動作クロックの引き上げと,メモリ周りの“フルスペック化”という「GF116コアの採用による上積み効果」をはっきり確認できる。Fermiアーキテクチャが苦手とするDirectX 9アプリケーションでHD 5770を上回っているのも評価できそうだ。
GTX 550 Ti(OC)はGTX 550 Tiからスコアを伸ばしているのものの,GTX 460 768MBとの間にある大きなギャップを埋めるまでには至っていない。
なお,3DMark06の総合スコアとゲームアプリケーションベンチマーク結果では,グラフ画像をクリックすると,1920×1200ドット時のスコアを基準に並び替えたものを別ウインドウで表示するようにもしてあるので,興味のある人はそちらも参考にしてもらえればと思う。
3DMark06のデフォルト設定となる1280×1024ドットの「標準設定」で「Feature Test」を行った結果がグラフ3〜7だ。
グラフ3は「Fill Rate」(フィルレート)の結果になるが,ここでのスコアは総合スコアをほぼ踏襲。GTX 550 Tiは,GTS 450より14〜15%高いスコアを示すが,GTX 460 768MBにはまったく届いていない。
グラフ4,5は順に,「Pixel Shader」(ピクセルシェーダ)と「Vertex Shader」(頂点シェーダ)の結果である。ここでも全体的な傾向は変わらないが,ただ,ピクセルシェーダ性能に関していうと,ATI Radeon HD 5000シリーズがさすがに強く,HD 5770が頭1つ抜け出した。
Shader Model 3世代における汎用演算性能を見る「Shader Particles」(シェーダパーティクル)や,長いシェーダプログラムの実行性能を見る「Perlin Noise」(パーリンノイズ)の結果がグラフ6,7。メモリ周りが効く前者で,GTX 550 TiはGTS 450に対して約20%高いスコアを示し,GTX 460 768MBすら大きく上回っているのは注目すべきポイントだ。
グラフ8,9は,実際のゲームタイトルから,「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)の「Day」シークエンスにおける平均フレームレートをまとめたものとなる。
DirectX 11世代のFPSとなるSTALKER CoPでも,全体的な傾向は3DMark06の総合スコアとよく似ており,GTX 550 Tiのスコアは,GTX 460 768MBとGTS 450の間に収まった。また,HD 5770より若干高いスコアを示せてもいる。
グラフ10,11は,同じくSTALKER CoPから,よりDirectX 11エフェクトの負荷が高い「SunShafts」の結果。描画負荷の高まりにより,全体的にスコアは低くなっているが,上位3製品の力関係に変化はない。
「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)でも,傾向そのものに違いはない(グラフ12,13)。GTX 550 TiのスコアはGTS 450より14〜22%高く,GTX 550 Ti(OC)はGTX 550 Tiからさらに10%高いが,そんなGTX 550 Ti(OC)でも,GTX 460 768MBには6〜11%置いていかれる。
FPSであっても,DirectX 9ベースの「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)だと,DirectX 9アプリケーションに強いHD 5770が存在感を見せる(グラフ14,15)。とくに「標準設定」においてはGTX 550 Ti(OC)を上回るほどだが,しかし「高負荷設定」になると,ROP周りの強化を果たしたGTX 550 Tiが互角の勝負に持ち込んでいる点も要注目だ。GTX 550 Ti(OC)だと逆に差を付けている点も押さえておきたい。
グラフ16,17は,DirectX 10世代のTPS「Just Cause 2」におけるスコアをまとめたものだが,ここでの傾向はCall of Duty 4と似たものになっている。GTS 450は,DirectX 9〜10世代のアプリケーションを前にするとFermiアーキテクチャらしい弱点を露呈するのだが,GTX 550 Tiでは,メモリ周りの改善と動作クロックの引き上げで,それをうまく隠蔽できた印象を受ける。
DirectX 10世代となる「バイオハザード5」でも,傾向はCall of Duty 4やJust Cause 2と同じであることが,グラフ18,19からは見て取れよう。
3D性能検証の最後となるのは,グラフ20,21の「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)。DirectX 11世代のアプリケーションということもあり,GTX 550 TiはGTS 450以上GTX 460 768MB以下のところに収まり,HD 5770に対しては優位性を発揮している。ただ,GTX 550 Tiにおけるクロックアップの効果はそれほど大きくない。
製品の位置づけを考えると消費電力は高め
クロックアップモデルは上位GPUをも上回る
その結果はグラフ22のとおり。そのまま載せると画像が大きくなりすぎるため,本稿中では縮小版を掲載しているが,アプリケーション実行時を見てみると,GTX 550 Tiのスコアは284〜330W。メモリ周りを強化したペナルティは,「GTS 450比で19〜37W高く,GTX 460 768MBとほとんど変わらない消費電力」として,きっちり支払わされている印象だ。
GTX 550 Ti(OC)にいたってはGTX 460 768MBを完全に超えてしまっているのも気になるところ。補助電源コネクタ1基のGPUが,2基のGPUよりも高い消費電力値を示すというのは,やはり懸念が残る。
消費電力という観点では,HD 5770と勝負になっていない。
GPUクーラーが異なるため,横並びの比較にあまり意味はないとお断りしつつ,GPU温度も紹介しておきたい。グラフ23は,室温20℃の環境にバラック状態で置いたシステムにおいて,3DMark06の30分間連続実行時点を「高負荷時」とし,アイドル時ともどもGPU-Zから温度データを取得した結果である。
GTX 550 Ti(OC)とGTX 550 Tiにおいて,高負荷時の温度は70℃を切っており,まったく問題ないレベルにあるとまとめられそうだ。
定格モデルのバランスは悪くない
懸念材料は一にも二にも消費電力の高さ
GTS 450カードの実勢価格が1万〜1万6000円程度,GTX 460 768MBカードが同1万4000〜2万円程度,HD 5770カードが同1万〜1万5000円程度(※2011年3月15日現在)ということを考えると,GV-N550OC-1GIで1万6000円程度,GF PGTX550TI/1GD5で1万5500円程度という予想実売価格も,“初値”として十分に妥当といえる。ようやく,HD 5770に対抗し得る製品が出てきた,といったところだろうか。
より高い性能を狙うのであれば,GTX 460 768MBを選んだほうがメリットは大きいように思う。
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