レビュー
価格対性能比&消費電力対性能比を追求した,GTX 500シリーズ第2弾
GeForce GTX 570
(GeForce GTX 570リファレンスカード)
筆者はGTX 580について,対抗となる「Cayman」(ケイマン,開発コードネーム)ことRadeon HD 6900シリーズの登場を待って,どちらを選ぶか比較検討したほうがいいのではないかと述べたが,その直後にCaymanの遅れが決まったことで,事情は変わってきた。実際,GTX 580に手を伸ばしたハイエンド志向のユーザーも多いようだが,“今度こそ”のCayman登場を12月13日からの週に迎えるこのタイミングで登場してきたGTX 570は,市場でどう位置づけられるべきなのか。NVIDIAから入手したリファレンスカードを用いて,その素性を明らかにしてみたい。
(GTX 480+GTX 470)÷2=GTX 570!?
外観はGTX 580そっくりで,GTX 470より長い
GeForce GTX 570 GPU。GTX 580と同じく,ダイはヒートスプレッダに覆われている。刻印は「GF110-275-A1」で,GTX 580の「GF110-375-A1」と比べると,中央の3桁数字が100低い |
GTX 580と同様,2スロットの外排気仕様となるGPUクーラーを搭載 |
NVIDIA SLI用のブリッジコネクタは2系統。2〜4-way SLIに対応する |
GF110コアのフルスペックとなるGTX 580は512 CUDA Core仕様だが,これは,32基のCUDA Coreが集まって,テクスチャユニットなどと一緒に「Streaming Multi-processor」(以下,SM)を構成,さらにそれが4基1組で“ミニGPU”こと「Graphics Processor Cluster」(以下,GPC)となり,GPCを4基搭載することで実現していた。32×4×4=512 CUDA Coreという計算だ。
これに対してGTX 570では,4基あるGPCのうち1基でSMが1基削減されている。つまり,512−32の480 CUDA Core仕様になっている,というわけである。
また,メモリインタフェースでは,GF110コアのフルスペックで6基搭載される64bitメモリコントローラのうち1基が無効化され,メモリインタフェースがGTX 580の384bit幅に対して64bit×5の320bit幅になった。Fermiアーキテクチャにおいてメモリコントローラは,8基で1パーティションを構成するROPユニットと対になるため,ROPユニット数もGTX 580の48基から40基になっている。
勘のいい読者なら,ここでお気づきのことかと思うが,GTX 570のCUDA Core周りは「GeForce GTX 480」(以下,GTX 480)とまったく同じで,メモリ周りは「GeForce GTX 470」(以下,GTX 470)とまったく同じなのだ。NVIDIAはGTX 570を,「GTX 470の後継」と位置づけているので,その観点ではCUDA Coreが増えたモデルということになるが,GTX 480の後継製品として,GTX 580との性能差が近くなりすぎないよう,メモリ周りに制限を加えたモデルと見ることもできる。
ただ,PCI Express補助電源コネクタはGTX 470の仕様を踏襲した6ピン×2となっており,GTX 580の6ピン+8ピンという仕様よりは電源要求が緩くなっている。
なお,リファレンスデザインのGTX 570カードが採用するGPUクーラーについては,NVIDIAのSteven Zhang(スティーブン・ザン)氏が「基本仕様はGTX 580が搭載するものと同じだが,製造しているメーカーが異なる」と述べており,実際,取り外してみると,設計が微妙に変わっているのが見て取れる。
さて,基板を見てみると,メモリチップや電源周りに空きパターンがあるので,GTX 580用のものを流用していると考えられるが,搭載するメモリチップはSamsung Electronics製のGDDR5「K4G10325FE-HC05」(4Gbps品)で,GTX 580が搭載していた5Gbps品からは変更されていた。もっとも,GTX 570のメモリクロックは3800MHz相当(実クロック950MHz)なので,まだ若干の動作マージンがある計算にはなる。
GPUクーラーを取り外したGTX 570リファレンスカード。基板上のところどころに空きパターンを確認できる |
搭載するメモリチップはSamsung Electronics製の4Gbps品だ。片面10枚の実装で容量1280MBを実現 |
GeForce上位陣の位置関係を探る
ドライバは263.09を利用
テスト環境は表2に示したとおり。比較対象には,先に挙げたGTX 580やGTX 480,それにGTX 470,そして競合するAMD製GPUから,12月7日時点のシングルチップ最上位モデル「ATI Radeon HD 5870」(以下,HD 5870)も用意した。
GeForceのテストに用いたグラフィックスドライバは,GTX 580&「GeForce GTX 460 SE」用となる公式最新版「GeForce Driver 263.09」をベースに,GTX 570などにも対応させたレビュワー向けバージョン。対するHD 5870のテスト用には,公式最新版となる「Catalyst 10.11」を用いている。
ところでドライバについては,NVIDIAが,レビュワーに向けた参考資料の中で「Radeonシリーズを『Catalyst 10.10』以降のドライバと組み合わせてテストする場合,『Catalyst Control Center』から『Catalyst A.I.』を無効化するように」と注意を促しているので,この点に触れておく必要がありそうだ。
“証拠”へのリンクもあるので,今回はNVIDIAに分がありそうな気配もあるが,ただ,検証もせず一方の言い分を鵜呑みにするわけにもいかないため,本件はCayman,もしくは「Catalyst 10.12」が登場してから追検証することにし,今回はCatalyst A.I.を有効にしたままテストを行う。仮にNVIDIAの言い分が100%正しい場合は,HD 5870に多少有利な条件ということになるが,この点はご了承を。
話を戻すと,テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション10.2に準拠。ただし,今回はレギュレーション11世代において採用に足るかどうかを見る意味や,手薄なストラテジージャンルの可能性を見る意味から,「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ5)を試しに追加している。同タイトルのベンチマークモードを利用して,実行中の平均フレームレートを「Fraps」(Version 3.2.3)から取得することにした次第だ。
なお実際に動かしてみたところ,現行のハイエンドGPUに対しては「標準設定」だと負荷が低すぎた。そのため,今回は「高負荷設定」と,8xアンチエイリアシングおよび16x異方性フィルタリングを掛けた「8x AA&16x AF」でのテストを実施することにしたので,あらかじめお断りしておきたい。
テスト解像度は,ハイエンド市場向けのGPUであることを踏まえ,1920×1200,2560×1600ドットの2パターン。さらにこれはいつものことだが,テストに用いた「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」は,「Intel Hyper-Threading Technology」「Enhanced Intel SpeedStep」を有効化する一方,テストによって影響が異なるのを避けるため,「Intel Turbo Boost Technology」は無効化している。
GTX 480とほぼ同じパフォーマンス
ゲームによってはGTX 480を上回ることも
まずはグラフ1,2に示した,3DMark06の総合スコアから見ていこう。
GTX 570は,標準設定の1920×1200ドットだとGTX 580に3%程度まで迫っているが,高負荷設定の2560×1600ドットだと11%置いて行かれる。このあたりは,ROP数やメモリインタフェースの違いが顕著に出た印象だ。
一方,GTX 480とはほぼ互角で,足回りという弱点を,高い動作クロックで埋めた格好と言えよう。HD 5870にも3〜8%の差をつけている。
3DMark06のデフォルトとなる標準設定の1280×1024ドットで「Feature Test」を実施した結果が,グラフ3〜7となる。
グラフ3は「Fill Rate」(フィルレート)の結果だが,GTX 570はGTX 580比でSM 1基分,テクスチャユニットにして4基少なく,シェーダクロックも95%程度に抑えられているため,ほぼ順当なスコアにまとまっている。GTX 480との比較では,よりテクスチャユニット性能が“効く”Multi-Texturingで,より数の少ないGTX 570のほうが高いスコアを示しているのは興味深い。
Fill Rateのスコアを左右するスペックで,GTX 570のほうがGTX 480よりも優位なのは60MHz程度高いシェーダクロックくらいなので,半導体設計の見直しが何かプラスに働いている可能性はありそうだ。
グラフ4,5は「Pixel Shader」(ピクセルシェーダ)と「Vertex Shader」(頂点シェーダ)の結果だが,ここでGTX 580とGTX 480のスコアはほとんど同じ。
Vertex ShaderのSimpleテストでGTX 570とGTX 580,GTX 480,そしてGTX 470までもが同じスコアで並んでしまっているのは,GTX 580のレビュー時にも見られた傾向である。
Shader Model 3世代における汎用演算性能を見る「Shader Particles」(シェーダパーティクル)や,長いシェーダプログラムの実行性能を見る「Perlin Noise」(パーリンノイズ)の結果がグラフ6,7。GTX 580では,新設計の「Z-Cull」ユニットが前者のスコアを押し上げていたが,GTX 570はGTX 480に届かず,GTX 580との差も大きい。
グラフ8,9は「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)における「Day」シークエンスの結果だ。
ここではGTX 570とGTX 480がほぼ互角で,この点は3DMark06の総合スコアとほぼ同じ。GTX 580とのスコア差は8〜13%で,やはりグラフィックス描画負荷の高まりにつれて,足回りの違いからスコアは開いていく傾向にある。
同じくSTALKER CoPから,こちらは負荷の高い「SunShafts」シークエンスにおける結果をまとめたものがグラフ10,11だ。全体的にスコアが下がるものの,傾向自体はDayシークエンスと変わらず,やはりGTX 570とGTX 480はほぼ互角となる。
一方,GTX 570がGTX 480より高いスコアを示すこともあるという例が,グラフ12,13の「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)である。
BFBC2では,低負荷設定の1920×1200ドットでこそCPUのボトルネックによる120fps付近での頭打ちが見られるものの,同じ低負荷設定でも2560×1600ドットや,高負荷設定の1920×1200ドットで,GTX 570はGTX 480を超えるスコアを示した。ただ,高負荷設定の2560×1600ドットでは,やはり足回りの制限が影響し,GTX 570とGTX 480のスコアはかなり近くなっている。
FermiアーキテクチャがDirectX 9世代のタイトルに弱いというのは再三指摘してきた。その観点から,GTX 580のレビュー記事では,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のスコアでGTX 580がHD 5870に完勝したことを意義深いとしたが,GTX 570はGTX 480と並んで,HD 5870といい勝負を演じている(グラフ14,15)。DirectX 9世代の性能をどこまで重視するかによって,この結果が持つ意味は違ってきそうだが,少なくとも負けてはいないわけで,この点は相応に評価していいのではなかろうか。
GTX 580,GTX 470に対するGTX 570の位置づけは,DirectX 10世代のタイトルでも変わらないということを確認できるのがグラフ16,17に示した「Just Cause 2」のスコアだ。Call of Duty 4とは異なり,GTX 570はHD 5870に対して13〜45%高い平均フレームレートを示している。
同じくDirectX 10世代のタイトルとなる「バイオハザード5」でも,傾向は変わらない。グラフ18,19を見ると,GTX 570は,GTX 580より5〜15%程度低く,GTX 480とほぼ同じスコアを示した。Just Cause 2ほど景気よくはないものの,HD 5870に対して9〜16%高いスコアを示した点も指摘しておく必要はあろう。
グラフ20,21に示した「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)では,BFBC2と同様,GTX 570がGTX 480よりも高いスコアを示した。例によって高負荷設定の2560×1600ドットでは足回りの影響から差は縮むのだが,最大では約12%。一部のDirectX 11アプリケーションにおける特定のグラフィックス設定という限定的な条件にはなるものの,GTX 570のスコアがGTX 480を上回ることはあるというわけだ。
より高いGPUクロックや,半導体設計の見直しの効果が出ている,といったところだろうか。
最後にグラフ22,23は,今回新たにテストしてみたCiv5の結果になるが,同作では1920×1200ドットで主役たるGTX 570のスコアが振るわないという現象が見られた。
NVIDIAにレポートしたところ,同社からは「(本件を)確認しており,GeForce Driverのプロファイルが持つ不具合か,CPUボトルネックが原因になっている可能性がある」という回答があった,GTX 580ではきちんとスコアが出ていることからするに,前者の可能性のほうが正解には近そうだ。今度のドライバアップデートで修正されることを期待したい。
“当たり個体”のGTX 480より若干低い消費電力
GPUクーラーの冷却能力はGTX 580に及ばず
消費電力の検証に移ろう。
いつものように,ログの取得ができるワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測してみた。各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点をタイトルごとの実行時とし,アイドル時ともども各時点の数値をスコアとしてまとめている。
GTX 580のレビュー時にもお断りしたとおり,4Gamer編集部で独自に入手したEVGA製のGTX 480カードはいわゆる“当たり”で,一般的なGTX 480カードと比べると消費電力もGPUの発熱も低い。それもあって,GTX 580のレビュー時には,NVIDIAの「GTX 480より消費電力が低い」という謳い文句を確認できなかったのだが,GTX 570はそんな当たりのGTX 480よりも低い消費電力になっており,これは大いに評価できそうだ。
ちなみにコア電圧をチェックしてみると,GTX 570は1.025Vで,GTX 580と同じ。GTX 480の1.023Vと大して変わりなかった。カードの設計もGTX 580の流用ということも踏まえるに,GTX 500シリーズに施された物理設計の最適化がこの結果を生んだと考えるのが妥当だろう。
また,アイドル時の消費電力がほかのGeForce製品より一段低いが,これもGPUコア電圧が一因のようだ。アイドル時のコア電圧は,GTX 570が0.912Vで,GTX 580の0.962VやGTX 480の0.955Vより一段低かった。
GTX 580が搭載するクーラーは「静かで冷える」という,理想的なものになっていたが,外観は似ている一方,製造メーカーが異なるクーラーを搭載したGTX 570はどうなのか。アイドル時の高負荷時のGPU温度をGPU-Zから計測し,その結果をまとめたものがグラフ25になる。
テストは室温20℃の環境下で,PCケースに組み込まず,バラック状態で行ったが,その結果を見てみると,GTX 570の温度は,アイドル時,高負荷時ともGTX 580より高かった。当たりのGTX 480や,HD 5870リファレンスカードのクーラーと同等のレベルではあり,ハイエンドGPU用クーラーとして問題のない水準の製品であることは間違いないのだが,GTX 580の後だけに,インパクト不足が否めないのも確かだ。
GTX 470だけでなく,GTX 480も置き換えるGTX 570
価格対性能比,消費電力対性能比はいずれも向上
GeForceやRadeonといったブランドにこだわりがないなら,近々に迫るCaymanのリリースを待って,じっくり選ぶべきというのはGTX 580と同じ。ただ,GTX 480やGTX 470と比べて,価格対性能比,そして消費電力対性能比はいずれもかなりの向上を見せており,3万円台のハイエンドGPUとして,相当に扱いやすいGPUになった印象を受ける。競合製品の登場を待たず,ボーナスなどを元手に「えいやっ」と購入してしまっても,まずもって後悔することはないのではなかろうか。
もちろんCayman次第ではあるのだが,2010年の年末商戦で,3万円台の有力な選択肢になりそうだ。
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