レビュー
Radeon HD 6970搭載のMSI製フラッグシップグラフィックスカードを試す
MSI R6970 Lightning
そんなLightningシリーズで,GPUに「Radeon HD 6970」(以下,HD 6970)を採用し,「Twin Frozr III」クーラーを搭載する「R6970 Lightning」をMSIの日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパンから借り受ける機会が得られたので,今回はカードの仕様やパフォーマンスを見ていきたいと思う。
実測310mmのカード長はPCケースを選ぶ
電源回路に注目のオリジナル基板を採用
R6970 Lightningは,HD 6970リファレンスカードと比べて一回り大きい印象だ |
R6790の背面。基板の横幅がブラケット部よりも長く,はみ出しているのがわかる |
R6970 Lightning単体かつ,クーラーが付いている前面から見ると分かりにくいかもしれないが,HD 6970リファレンスカードと並べてみれば一目瞭然で,R6970 Lightningがかなり大きいことが分かるだろう。また,背面から見ればよりハッキリと分かるかと思うが,横幅――マザーボードの拡張スロットに差したときの垂直方向――が拡張スロットのブラケットより長くなっている。
R6970 Lightningの横幅は,PCI Expressインタフェース部を除いた実測値で117mmとなっており,HD 6970リファレンスカードより27mm長くなっている。そのうえ,補助電源コネクタは,マザーボードに差したとき垂直方向を向くように取り付けられているため,実使用時はカードの横幅以上に幅を取るのだ。
Twin Frozr IIIの話が出たので続けると,本クーラーは,2基のファンを搭載するデザインを初代Twin Frozrから引き続きつつも,搭載ファンが「プロペラブレードファン」に変更されたことで,サイズが80mm角相当から90mm角相当に大型化し,冷却性能も向上しているという。
GPUクーラーの取り外しは保証外の行為であり,取り外した時点で保証を受けられなくなるが,今回はレビューということで取り外してみよう。
外観だけでもヒートパイプを採用したクーラーだというのは見て取れるTwin Frozr IIIだが,取り外してみると,GPUとクーラーの接触面から大型のフィンに向かって,5mm径のヒートパイプが合計5本伸びていると分かる。3本はPCI Expressインタフェース側,2本はその逆側を回るようになっているのも特徴といえそうだ。
また,電源部やメモリチップが大型のヒートスプレッダで覆われているのも目を引くところである。形状からすると,スタビライザーも兼ねているのだろう。
クーラーを取り外したところ。Twin Frozr IIIクーラーのヒートパイプやヒートシンク形状が分かると共に,ヒートスプレッダで覆われた基板部も印象的だ |
R6970 Lightningが搭載しているTwin Frozr IIIクーラー。5本のヒートパイプは,GPUダイと触れる部分から,ヒートシンクの横を這うように引き出されている |
ヒートスプレッダを取り外すと基板が現れる |
カード背面に配置されているLED。使われているフェーズ数によって発色が変動する仕様だ |
電源部は18フェーズの回路構成が採用され,負荷に応じて使用するフェーズ数を動的に変える仕様になっていると,MSIはその作り込みをアピールしている。
ただ,実際に数を数えてみると,メインの電源回路は14+3フェーズ。おそらく14フェーズがGPU用,3フェーズがメモリチップ用で,残る1フェーズは別の場所でほかのコンポーネント用に使われているということなのだろう。
実際,基板の背面には,使われているフェーズ数に応じて光るLEDインジケータが14個並んでいたので,動的に制御されるのはGPU用の14フェーズという理解でよさそうだ。
電源回路部を見る限り,17フェーズのように見えるが,MSIでは18フェーズとしている |
VRMコントローラはuPI Semiconductors製「uP6218AM」。MSI製品ではよく採用されている |
なお,搭載されるR6970 Lightningの動作クロックは,コアが940MHz,メモリが5500MHz相当(実クロックが1375MHz)。HD 6970リファレンスカードと比べ,コアクロックのみ60MHz引き上げられた計算になる。
搭載するメモリチップはHynix Semiconductor製「H5GQ2H24MFR-R0C」(GDDR5)の6Gbps品。動作に500MHzの余裕があることになる。
またこれらに加え,「0D108」と刻印されたNECトーキン製のデカップリングデバイス「プロードライザ」をカード背面に4基搭載しているのも,R6970 Lightningの大きな特徴だ。
プロードライザは,広周波数帯域において高いノイズ吸収性を発揮し,安定した電流供給ができるとされるもの。一般的なデカップリングデバイスに比べ,低くフラットなインピーダンス特性を持ち,設置面積を取らないのがメリットとされている。
●Performance設定時
- コア電圧:800〜1350mV(標準は1174mV)
- コアクロック:470〜1695MHz(標準は940MHz)
- メモリクロック:2740〜7160MHz相当(標準は1375MHz)
●Silence設定時
- コア電圧:Performance設定時と同じ
- コアクロック:470〜1200MHz
- メモリクロック:2740〜5500MHz相当
なお,BIOSの切り替えスイッチは,基板の裏から見て左がSilence,中央がPerformanceとなっている。何も書かれていない右も選べるが,ここを選ぶとPCが起動しなくなってしまったので,この設定は選ばないようにしよう。
オーバークロックの話は後ほど行うが,一般的な環境でPerformance設定の上限値にすることはまず不可能といっても過言ではない。つまり,BIOSの設定はどちらを選んでも問題ないというわけだ。Performance設定は,ガス冷など,エクストリームなオーバークロッカー向けという理解で問題なさそうである。
気になるOC耐性を検証
コア電圧の変更なしで1GHz駆動を達成
カードを一通り概観したところで,R6970 Lightningのテストを行ってみたい。テスト環境は表のとおりで,テスト開始時期の都合上,グラフィックスドライバは「Catalyst 11.4」となる。また,テストシステムはバラック状態に置いてあることも,あらかじめお断りしておきたい。
R6790 Lightningで注目したいのは,リファレンスよりコアクロックが40MHz高い状態から,常用を想定したとき,どの程度までクロックを引き上げられるのか,だ。
というわけで,結果を述べていこう。まず,コアクロックだけなら,コア電圧の変更なしに1GHzで安定動作した。
では,コア電圧を引き上げるとどうかだが,Twin Frozr IIIを組み合わせた空冷を行う限り,コア電圧とオーバークロックマージンはあまり連動しない。コア電圧は,カードの定格だと1.174Vのところ,1.25Vまで引き上げてみたが,それでもコアクロックは1025MHzまでしか上がらなかった。コア電圧&クロックとも,これより高い設定を行うと,安定動作しなくなる。
しかも,この「1.25V+1025MHz」時は,ファン回転数設定を80%に固定しないと,STALKER CoPが完走しなかった。80%というファン回転数はさすがにうるさく,常用するのは相当厳しい印象だ。
面白いのは,コアクロックが1000MHzを少しでも超えると,メモリクロックの上限値ががくっと下がること。具体的に述べると,5600MHz相当(実クロック1400MHz)以下に落とさないと,STALKER CoPが完走しなくなった。
HD 6970においてGPUとメモリのクロックは非同期なので,両者に直接的な関係はないはずだ。カードやGPU側の動作限界に近づくと,メモリのリード/ライトタイミングに影響が出て,上限が低くなるということなのかもしれない。
以上の結果からするに,今回の個体における空冷時の安定動作限界は,コアクロック1000MHz,メモリクロック5960MHz相当と見るべきだろう。
※注意
GPUのオーバークロックは,GPUやグラフィックスカードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,グラフィックスカードの“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロックを試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者および4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
テストは,R6970 Lightningをコアクロック1000MHzかつメモリクロック5960MHz相当(実クロック1490MHz)にオーバークロックした状態,R6970 Lightningの定格(コアクロック940MHz)状態,リファレンスモデルのHD 6970(コアクロック880MHz)といった3項目で行ったが,グラフ内のスペース上の問題で,それぞれ順にR6970(1000MHz),R6970(940MHz),HD 6970(880MHz)と記載している点をお断りしておきたい。
新顔のGPUを搭載するというわけではないので,それぞれのスコアに対する個別の評価は割愛するが,基本的には,いずれのテストもコアクロックに応じてスコアが素直に伸びている結果だ。STALKER CoPの「SunShafts」における高負荷設定だけはR6970 Lightningの定格とHD 6970とで差がほとんどないが,これはメモリ負荷が極端に大きためと思われる。
グラフ8は,PCの起動後30分放置した時点を「アイドル時」として,アプリケーションを実行したとき,最も消費電力の高かった時点ともども,ログの取得が可能なワットチェッカ「Watts up? PRO」で計測した結果となる。アイドル時は自動的に動作クロックが下がるため,テスト対象の3項目に違いはないが,動作クロックを引き上げると,相応に消費電力は上がるのが見て取れるだろう。
リファレンス比で20℃低い冷却力の高さ
ファンの騒音も気にならないレベル
テストは,室温22℃の環境で3DMark 11のExtremeを30分実行し,その間のGPUの温度とファン回転数の変化をAfterburnerのログで記録すると言う方法で行った。
結果は下に記したグラフ9のとおり。GPU温度は,R6970 Lightningがピーク温度が64℃となっているのに対し,HD 6970リファレンスカードでは80℃以上となっている。さらに,温度の推移に注目して見ると,R6970 Lightningがおおむね一定であるのに対して,HD 6970リファレンスカードでは右肩上がりの傾向である。
ピーク時のファン回転数設定は,R6970 Lightningが48%,HD 6970リファレンスカードが37%。ただし,最大回転数が異なるため,当然,実際の回転数は異なる。パルスセンサー読みなので,信頼度はあまり高くないとお断りしつつ続けると,回転数は前者が最大1950rpmなのに対し,後者は最大2100rpmといった具合だった。
では,実際のところどの程度の動作音なのか。カードから約25cm離れた場所にマイクを設置して,ファンの動作音を録音してみたので,ぜひ聞き比べてみてほしい。
アイドル時の騒音レベルにはあまり差がないものの,高負荷時にR6970 Lightningのほうが静かなのは明らかだろう。
標準よりも上を目指せる仕様
性能重視のHD 6970カードとしてはアリ
空冷での常用を大前提とする場合には,そもそもカードの定格クロックがリファレンスと比べて劇的に高いわけではないとか,オーバークロックマージンもそれほどあるわけではないとか,その割にカードが大きすぎるとかいったマイナスポイントも確かにある。しかし,信頼性の高い部品がふんだんに使われ,かつ,動作音も静かというのは,ハイエンドのグラフィックスカードを長く使いたい場合に大きなメリットとなる部分だ。
夏に向けて,安心して使えるハイエンドグラフィックスカードを探しているなら,選択肢に入れるべき製品だといえる。
R6970 Lightningの製品情報ページ
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Radeon HD 6900
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