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雨宮慶太監督と稲船敬二氏が3Dエンターテイメントの最先端について対談。DC EXPO 2010で行われたシンポジウムをレポート
PlayStation 3は3D立体視に対応済みであり,ニンテンドー3DSが2011年2月26日に発売される予定,3D立体視に対応した映画の上映も増加傾向にある。そんな状況のなか,実際にコンテンツ作りに携わっている二人は,3D立体視に対してどのようなことを考えているのだろうか。
渡辺浩弐氏 |
雨宮慶太氏 |
稲船敬二氏 |
3D立体視で実現できる表現の可能性と,その裏にある制作上の困難
雨宮慶太氏が監督した映画「牙狼<GAO>〜RED REQUIEM〜」のポスター |
まず雨宮氏は,通常の映画と3D映画の撮影方法の違いに触れた。3D映画の場合,大きいものは大きく,小さいものは小さくと,よくも悪くもそのまま表現されるので,すべて計算尽くで撮影を進めなければならないのだという。したがって,通常の映画で使われている撮影手法がまったくといっていいほど通用しないそうだ。
例えば顔を殴るシーンの場合,通常の撮影だと,実際には触れていなくても,目の錯覚を利用してあたかも当たっているかのように見せられる。だが3D映画になるとその手法は使えない。そこで,女優の顔を蹴るシーンでは,ブーツを手にはめてゆっくり顔に当てる様子を撮影し,あとからハイスピード処理を施すといった形をとることになる。
また3D撮影用のカメラは,通常の映画撮影用カメラとは形状が大きく異なるため,撮影現場での取り回し方も従来とは違うものになる。さらに3D映画の場合はごまかしが効かなくなるため,特殊効果の大半はCGになるそうだ。
ちなみに,稲船氏は映画「屍病汚染DEAD RISING」の監督を務めており,3D映画の撮影にも興味を持っていたそうだが,楽屋で雨宮氏の苦労話を聞き,当面はチャレンジしないことにしたという。
続いて稲船氏は,初代「ロックマン DASH」の開発エピソードを披露。とくに困難だったのはジャンプの距離感だそうで,「その部分における操作感が嫌われた」と,プレイヤーから不評だったことを明らかにした。続けて,10年ぶりにシリーズ続編の開発に取り組むにあたり,「今回は,3Dでキッチリ表現できるので,そうした悩みを解決できるのではないか」と展望を述べ,その一方で「前回は言い訳できたが,今回はそうはいかない。皆が黙っていないだろう」とも付け加えた。
さらに稲船氏は,今回,3DSをプラットフォームに選択した理由として,3D立体視対応であることはもちろん,携帯ゲーム機であったことが大きいと述べる。稲船氏は「ロックマン DASH」でやりたいこととして温めてきたアイデアが,携帯ゲーム機向きだったという。なお,その具体的な内容は,今後発表されていくとのことなので,楽しみに待ちたい。
また稲船氏は「コンテンツの中身を刷新するだけでは,“新しい”とはいえない。作り方や考え方を刷新する必要がある」という自らの考えを述べる。「従来はゲームの開発に関する情報を重要機密として取り扱い,発売ギリギリまで公開しないのが普通だったが,もうそんな時代ではない。今は真似しようと思っても,技術的に真似できない」と指摘し,「そうであれば情報を共有して,さまざまな意見を募った方がいいのではないか」と述べた。
そこで「ロックマン DASH3 PROJECT」の開発にあたっては,作るのはクリエイターであっても,シリーズのコアなファンの意見を取り込むような試みをしていくという。ある意味,コアなファンを“味方に付ける”ことで,さほど興味がなかった人にもアピールできるのではないかという目論見もあるそうだ。
しかし,コアなファンは熱心にサポートしてくれる一方で,口さがない──無礼とも取れる発言をする場合もある。稲船氏は,「きちんと渡り合うのが僕の信条」「本音を出さないと,いいゲームは作れない」と述べ,そうしたファンに対する姿勢を明らかにした。
アイデアは隠さずに表面化。出し惜しみしても風化するだけ
稲船氏の雨宮氏に対する質問は,「3D映画の撮影には通常の映画の比ではないほどの労力を要するが,それでも作品を作りたいというエネルギーはどこからくるのか?」というもの。雨宮氏は,どのコンテンツに取り組むときも,常にチャレンジする課題を設定すること,そして観客──そのなかには雨宮氏自身も含まれる──を喜ばせるのことを考えることが,エネルギーになっているのだという。
また自分の頭の中にあるビジュアルを他人に見せるという点について,表現するメディアにはこだわらないと雨宮氏は述べる。映画でなければ,ゲームでなければ表現できない部分が存在するのは確かだが,そこに固執するよりは,自分の作りたいものを作った方が,より自分の考えるビジュアルを実現できるという。
雨宮氏は,今回,「牙狼<GARO>」を完成させたことにより,3D立体視のさらなる可能性に気づいたとのこと。稲船氏はその発言を受けて,やりたいことを吐き出すと,また新たなアイデアが沸いてくると述べる。さらに,「アイデアを隠してしまうと,コンテンツはすぐに古くなる。次々に誰かに見せて,いい反応なら続ける。悪ければ次のアイデアに取り掛かる」と,自身の企画に対する姿勢を説明した。
その一方で稲船氏は,「他人の意見に左右され過ぎると,クリエイティブではなくなる」という見解も示す。他人の意見を取り入れすぎて作家性が失われ,“誰が”“誰のために”作ったのかが分からなくなる事態は避けたいと続けた。
さらに稲船氏は,「映画はある意味,観客にストーリーを押し付けることができるので,作家性を確立しやすいが,ゲームはインタラクティブな要素が介在するため,そうはしにくい」と指摘。同じ“監督”とはいっても,映画なら監督の考え方をある程度はそのまま作品に反映できるが,ゲームはさまざまな意見を集約しなければならないので,作家性の確立という意味では,割に合わない仕事かもしれないと述べた。
続けて稲船氏は,現在,カプコンが全社的に“ディレクター(監督)至上主義”を掲げてゲーム開発に取り組んでいることを挙げた。これには,さまざまな意見を取り入れながらも,今まで以上にディレクターの作家性を重視していくという狙いがあるのだそうだ。しかし,社内,社外ともに“ディレクターが独善的にすべてを決定する”という意味に捉えて反発する人も少なくないため,「僕は鈍感だから大丈夫だけれど,繊細な人は参ってしまうかもしれない」と冗談めかして感想を述べていた。
ここで渡辺氏が,「これまでにアイデアを出し尽くしたクリエイターが,また新たなアイデアを思いつくためのツールとして,3D立体視技術に注目が集まっているのではないか」と,自らの見解を示して,一旦,ディスカッションをまとめた。
稲船氏は「ゲーム開発で最も難しい部分」と前置きしてから,アイデアを思いついてから,どんなに短くても3〜4年はかかると返答。したがって常に3〜4年先を考えなければならないが,初代「ロックマン DASH」では先を行き過ぎてしまったために売れなかったと続けた。そしてヒットを出すゲームクリエイターは先を読み,流行る手前,流行りそうというものを形にする,先を読めない人でもいいゲームを作ることはできるが,それでは売れないと述べ,「プロデューサーが先を読み,ディレクターがその時点で最高のゲームを作る体制が理想的」とまとめた。
さらに稲船氏は「今,批判されるのは,皆が今しか見ていないから。しかしゲームが発売される3〜4年後にマッチしていれば勝ち。どこを目指すのかが重要」と述べる。
その発言を受けた渡辺氏は,上記のゲーム開発にファンやプレイヤーを巻き込もうとする試みも,そうした考え方に基づいているのではないかと指摘。稲船氏はそれを肯定し,「映画でいえば,観客にラッシュを見せながら撮影を続けるようなもの」と述べ,「ゲームは作家性を一方的に押し付けるものではない。したがって作っている段階から情報を出して参加してもらった方が,効果的ではないかと考えた」と説明した。
また,そうした取り組みでは「よい」だけでなく「悪い」という評価も避けられない。しかし悪い評価であっても,注目してもらえているならば説明する機会を得られるし,十分に宣伝になり得ると稲船氏は述べる。
観客からの評価に関しては,雨宮氏もチェックしており,例え悪い評価であっても,作り終えたものなので,「そういうものか」と受け止めるそうだ。また雨宮氏自身は,評価の良し悪しよりも“作り続ける状況を維持すること”を重視しており,稲船氏と同様に,出し惜しみせず常にその時点で最高のものを作るようにしているそうだ。その具体例として,雨宮氏は2005年に放映されたテレビシリーズの「牙狼<GARO>」を挙げた。実は最終話用に構想していたアイデアを第7話で早々に使ったそうだ。
さらに雨宮氏は,プロデューサーとしていくつものタイトルを並行して手がける稲船氏に,大変ではないかとの質問を投げかけた。稲船氏は,それに対して「失敗することを恐れない姿勢があれば,何にでもチャレンジできる」という自らの考え方を説明し,「自分が好きなことをやって失敗したら納得できるが,会社や誰かから指示されたもので失敗してしまうと馬鹿らしい」「やりたいことなら何でも挑戦する。好きなことなら,どんなに大変でもツラくない」と続けた。
ニンテンドー3DSの登場以降,3Dエンターテイメントはゲームに集約されていく
そして対談の話題は,2011年2月25日に発売されるニンテンドー3DSへと移行する。稲船氏は,「どうやって3D立体視をゲームとして面白いものに仕上げるか,各社がいい意味で苦労している」と感想を述べた。カプコンが開発中の「BIOHAZARD THE MERCENARIES 3D」シリーズに関しては,ゾンビが後ろから襲い掛かってくる感覚が分かりやすくなるなど,よりゲームとして面白くなると述べ,開発チームは日々新たな発見があり,楽しみながら開発を進めているという。
また雨宮氏は,3Dのエンターテイメントはゲームに集約されるのではないかという見解を述べた。というのも映画では,複数の観客が体験を共有するという点において,劇場のスクリーンサイズを超える3D表現は不可能だからだ。その点,ゲームなら多眼式カメラを使うことで,回り込んで別の角度から見せるという表現も可能となる。仮に,3DS用に映像作品をリリースするのであれば,ほかのメディアからの流用ではなく,専用に作らないとゲームには勝てないだろうと雨宮氏は述べ,「でも,それをやるのは面白そう」と付け加えた。
と,雨宮氏がゲーム開発に興味がありそうな雰囲気で話は進んだが,ゲームを作りたいという欲は薄れているそうだ。というのも雨宮氏がかつて作りたかったゲームというのは,自分の行動によってリアルな反応が返ってきて,世界が変わっていくというようなゲームであり,それは,「Fallout 3」などですでに実現されているからだ。
一方,稲船氏は,まだまだ作りたいゲームがあると述べる。その中でも意外性やギャップを重視しており,人々の想像の上や逆を行ったりしながらも,ヒットするものを目指したいと述べ,そうした特徴を持たせないと今の世の中では注目してもらえないと続けた。
さらに稲船氏は,出し惜しみせず,さまざまなことに挑戦する姿勢は変えないと述べ,「10個のことを並行して進めるのは困難だが,だからこそ,それを成し遂げれば人の上を行くことができる。人のできないことにチャレンジしたい」と,極めて前向きな姿勢を示した。
最後に雨宮氏は,10月30日に公開される映画「牙狼<GARO>」にあらためて言及し,「しばらくは少しお休みするが,そのあとすぐ,次の作品に取り掛かるべく,画策中です」と述べた。また稲船氏は,旧知の雨宮氏や渡辺氏と再び同じステージに立てたことに感謝するとともに,今後もいいゲームを提供すると同時に,新しいアイデアを提示していきたいとして,「叱咤激励だけでなく,できればときどき褒めてもらえると嬉しい」と述べ,シンポジウムを締め括った。
- 関連タイトル:
ロックマン DASH 3 PROJECT
- 関連タイトル:
バイオハザード ザ・マーセナリーズ 3D
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