インタビュー
「Webファントム・ブレイブ」ガマニア&日本一ソフトウェアのスタッフに聞く開発秘話。ライト層を意識しつつ,コアなファンが楽しめる「やり込み」要素も
原作と同じく,舞台となるのは4つの国家に分かれた「イヴォワール」という世界。ただし,原作の300年後という設定である。プレイヤーはクローム(請負人)として,いずれかの国家に所属し,ほかのプレイヤーとの間で「スフィア」の争奪戦を行う――といった内容だ。
オンラインゲームの老舗と「やり込み」に定評のあるコンシューマメーカー,という異色のタッグで作られた本作。今回,その開発・運営を手がけるガマニアデジタルエンターテインメントと,監修を務める日本一ソフトウェアのスタッフにインタビューし,本作の狙いや独自の仕掛けについて詳しく聞いてみた。
「プリニア」に象徴される,2社のコラボレーション
4Gamer:
本日はよろしくお願いいます。まず今回,ガマニアが日本一ソフトウェアの「ファントム・ブレイブ」をオンラインゲーム化することになったきっかけはなんだったのでしょうか。
実は,弊社社長の浅井(清氏)と,日本一ソフトウェアの新川(宗平)社長が,以前から「面白いことをしたいね」といった話をしていたらしく,その流れで決まった――というのが実情です。
4Gamer:
以前,東京ゲームショウ2010にてタイトルが発表された時点でお二方へのインタビューをさせていただいたときには,まだ開発が始まってないということでしたが,その後どういったかたちで作っていったのでしょうか。
平岡氏:
台湾のガマニア本社が持っている子会社による開発も選択肢にはありましたが,今回は「純国産」として全部日本国内で作っています。
4Gamer:
今回,日本一ソフトウェアは「監修」という立場ですが,具体的にはどういった関わり方をしているんでしょうか。
新規のキャラクターが「ファントム・ブレイブ」の世界観に合っているかどうか,といった部分から,細かい素材一つ一つに至るまで,完全監修というかたちを取らせていただいています。
4Gamer:
キャラクターやゲームシステムなどはガマニアが作っていき,その過程で上がっていったものを日本一ソフトウェア側が逐次チェックしていったと。
平岡氏:
そうですね。最初に日本一ソフトウェアさんとお話しさせていただいたときに,「『ファントム・ブレイブ』でやれることは残しつつ,世界観を広げてください」と仰っていただいたんですね。ですので,原作の世界観を膨らませながら,ブラウザゲームとしても「こういう風に作っていきたいんですよ」といったお話をさせていただきました。
4Gamer:
今回,原作の300年後という世界観ですが,こうした設定部分もガマニア側で作っていったものなんですか。
平岡氏:
設定については,弊社で作ったものを「ファントム・ブレイブの世界観的に問題ないですか?」と提案させていただきつつ,逆に「これなら,300年後くらいがいいですよ」と日本一ソフトウェアさんからフィードバックをいただきました。
4Gamer:
ガマニアとしては「Webファントム・ブレイブ」のプレイヤー対象をどのように想定しているのでしょうか?
「ライトユーザーにいかに遊んでいただけるか」をメインコンセプトに作っています。ですので,操作も非常に簡単で,依頼に行って,戻ってきて,合成するだけですね。もし合成が難しくても,経験値を溜めていけばステータスは上げられるので,本当に分からなくても進めていけるという内容がベースです。
ただ,日本一ソフトウェアさんのIPをお借りしている以上「ファントム・ブレイブ」のファンもいらっしゃるので,そうした人たちができるだけ長くやり込めるように,直接表に出てこない部分も作り込んでいます。
4Gamer:
日本一ソフトウェア側としてはいかがですか? ほかにもいろいろとタイトルがある中,今回は「ファントム・ブレイブ」がブラウザゲーム化したわけですが。
「ファントム・ブレイブ」はストーリーこそシリアスな面が多いものの,世界観としては非常に明るいものなので,ライトな層にも受け入れられやすいかなと思っています。
4Gamer:
魔界を舞台にしている「ディスガイア」シリーズなどとは正反対の雰囲気ですよね,「ファントム・ブレイブ」は。
杉山氏:
「ディスガイア」にもハチャメチャな楽しさはあるんですが,弊社としてもやったことのない分野ではありますので,まずはライト層向きの「ファントム・ブレイブ」でいこうと。
4Gamer:
「Webファントム・ブレイブ」をきっかけに原作に興味を抱くというケースも多そうですね。
杉山氏:
弊社のメインターゲットはコアユーザーですが,ライト層と呼ばれる人達の中には,もう少しでコアになるような人もたくさんいらっしゃるのではないかと考えています。ブラウザゲームであれば,そういった方々を呼び込むことができるのではないかと期待しています。
4Gamer:
得意とするジャンルが大きく異なる2社のコラボレーションですが,互いの長所を合わせたものが「Webファントム・ブレイブ」となるわけですね。
平岡氏:
また,日本一ソフトウェアさんは面白いキャラクターもお持ちですので,いずれさらにいろいろなことができればと思っています。
4Gamer:
日本一ソフトウェアの看板キャラクターといえばプリニーですが――。
今回,日本一ソフトウェア×ガマニアということで,プリニーの「プリ」とガマニアの「ニア」を合わせて,「プリニア」という新キャラクターを作りました。
4Gamer:
お馴染みのプリニーに,ガマニアの象徴であるミカンと,オレンジ色のマフラーが付いているデザインですか。このプリニアは,今後どういった活躍を?
芳賀氏:
ゲームの広告塔みたいなかたちで出しつつ,ゲーム中でも活躍していけるように進めています。
4Gamer:
「Webファントム・ブレイブ」に限らず,今後も日本一ソフトウェアとガマニアのタッグを象徴する存在になりそうですね。
芳賀氏:
今回,私達がプリニーのキャップを被って,日本一ソフトウェアのお二人がガマニアのキャップを被っているのも,その辺りを狙ってのコーディネートだったりします(笑)。
デバッグテストの意見をもとに,遊びやすく調整
ファントム・ブレイブをブラウザゲーム化にするにあたって,重視したポイントというのはどこでしょう?
平岡氏:
一番重視したのは,やはり,キャラクターや世界観を絶対に崩してはならないというところですね。とくに,いかにキャラクターを可愛く見せるか,といった部分には非常に気を遣っています。
4Gamer:
キャラクターというと,日本一ソフトウェアの作品は原田たけひとさんによるデザインのイメージが非常に強いと思いますが。
平岡氏:
今回は,「ファントム・ブレイブ」のイヴォワールの世界観に沿った展開の一つですので,原田さんの流れを引き継ぎつつも,デザインやイラストはほかの方にお願いしています。ただし,そういったデザイン部分に関しても監修していただいていますので,元のラインからはそう外れていないでしょう。ちゃんと「ファントム・ブレイブ」のもう一つの時間軸の話になっていると思います。
4Gamer:
確かにビジュアルは,原作の雰囲気をしっかりと引き継いでいる印象ですね。
平岡氏:
また,原作が「やりたい放題」を売りにしたタイトルですので,ブラウザゲームとコンシューマゲームの違いは出てくるとしても,お客さんがやり込むための奥深さには注意して作っています。
シミュレーションRPGだった原作と比べると,戦闘はファントムまかせ本作のゲームシステムは根本的に大きく異なっていますよね。やり込みの余地というのは,どういったところにあるんでしょう?
平岡氏:
まず,「ファントム・ブレイブ」における「ファントムをいかに強くするか」というやり込み要素は当然ながら残しています。
また,ブラウザゲームの場合,プレイヤーとしては,プレイを重ねるにつれていろいろと分かってくる「解析の楽しみ」もありますよね。実は,画面上に出している情報以外にも,裏に隠れたデータがけっこうあるんです。例えば,戦闘で,どの場所にファントムを配置するとどういった結果になるのか――といったデータをログから見ていくと,そこから気付いていただけるような要素があります。もちろん,ライトなプレイヤーの場合は画面にいろいろな情報が出てくると,それだけでイヤになってしまうと思いますので,基本は簡単なボタン操作だけで進めるようにしていますが。
4Gamer:
そうなんですね。ユニットの配置は「おまかせ」でプレイしていたので,そういった仕掛けには気付きませんでした。
平岡氏:
おまかせで配置をするプレイヤーはライトな方が多いと思うので,気にせずそのまま遊んでいただけばいいと思います。ただ,どこかで行き詰まったら,やり込んでいる人から情報を聞くことで「あ,こういう要素があるんだ」と次の攻略法を見つけていただけることでしょう。
また,気をつけた部分としては,ステータスの「ATK」「INT」といった部分にマウスオーバーすると「物理攻撃力」「魔法攻撃力」と説明が出るような機能を付けるなど,初心者が迷ってしまうようなところのフォローアップに務めています。
原作の知識があると有利な場面もあるんでしょうか。
平岡氏:
開発中は,いかに原作ファンのニヤリ度を引き出すのか,というのをミーティングで出していきました。原作にあった「コンファイン」の要素も,少し簡略化したうえで入れてありますね。
4Gamer:
世界観は原作の300年後という設定ですが,原作のキャラクターや,日本一ソフトウェアの他作品からのゲストですとか,そういった要素は?
杉山氏:
具体的にはまだ何が……というのは言えませんが,そこは今後を楽しみにしていていただければと思います。
4Gamer:
キャラクター以外に,コアなファンが楽しめる仕掛けなどはありますか?
日本一ソフトウェアさんに,コンシューマ版では出し切れなかったストーリーをご用意いただいています。
4Gamer:
え? それは凄いですね。
小酒井氏:
原作で未収録のエピソードがあるのですが,それを弊社の新川がオリジナルのシナリオに起こしましたので,「Webファントム・ブレイブ」の方に入れていただく予定です。
4Gamer:
楽しみですね。ということは本作は,続編的な位置付けとも考えられますか。
小酒井氏:
続編――というよりは,世界観の広がりを楽しんでいただけるものといった位置付けでしょうか。
平岡氏:
あくまでもベースとしているのはイヴォワールそのものですので,そこから極端に外れたことはせず,かつエンターテイメントとして面白いことを考えながらサービスを提供していきたいですね。
4Gamer:
もともと,ゲームに入りきっていなかった裏設定も多かったんでしょうか。
平岡氏:
本作には「セルレウム」や「セルリアン」といった独自の用語がありますが,これらの中には弊社の方から「こういったゲーム内容にしたい」とお話をしたときに,日本一ソフトウェアさんから「実はこういう元設定があって,名称を使うならこれをぜひ」とフィードバックしていただいたものもありますね。
4Gamer:
そういえば,本作には独自の用語が多いですね。
平岡氏:
そこは,非常に悩んだんです。「セルリアン」のようなゲーム的な用語を出すよりも,「国王」と言ったほうがライトな層には分かりやすいですよね。ですが,元々これはイヴォワールという世界の話なので,そこから外れたことはできないと思い「セルリアン(国王)」といった表記をするなど,きちんと気をつけて世界観の再現をしています。
4Gamer:
日本一ソフトウェア側としては,実際のゲーム内容についていかがですか?
コンシューマと違う部分をしっかり見い出したうえで「Webファントム・ブレイブ」を作っていただいていることについて,ただただ凄いと思っていますね。弊社はオンライン的なものを開発できていないので,ブラウザゲームでどんな風に仕上がるんだろうと期待しております。
4Gamer:
キャラクターの描き方についてはどうでしょう?
杉山氏:
細かい部分ですが,キャラクターがドットでちょこちょこと動いている部分など「良いなあ」と思いますね。
4Gamer:
デバッグテストが2011年9月と12月に2回行われましたが,そのテスターとして参加したユーザーの反応は?
芳賀氏:
テスターの皆さんにはレポートというかたちでいろいろなご意見をいただきました。皆さん,すごくやり込まれていて,大変な分量がきています。それを少しずつ反映していっているんですが,主に多かったのがUI周りですね。操作性のよくなかった部分に関しては,随時改善し実装しています。
4Gamer:
操作性がよくない,というと具体的には?
芳賀氏:
ページを切り替えるためのボタンが,各ページの下部にしかなかったんです。ですが「依頼画面などを切り替えるときには上の方にもページャーがほしいよね」ということで修正しました。あと大きく変わった部分でいうと,HP順・ATK順などのソート機能を第2回デバッグテストの段階で追加しています。
4Gamer:
第1回のデバッグテストで要望を受けた分については,第2回の時点ですぐに反映されたんですね。
平岡氏:
ええ,第2回デバッグテストでさらにいただいた情報をもとに,現在はさらなるバージョンアップをしているところですね。一例を挙げると,アイテムのアイコンがスタックするような改善を加えたうえで正式サービスをローンチしようと思っています。
4Gamer:
そのほかに改善された部分はありますか?
戦闘の結果は,「成功」「失敗」といった報告として入ってくるのですが,自分が失敗したときに「どうして失敗したのか?」といった情報を知りたい,という意見が非常に多かったため,「戦闘ログ」というかたちで誰が何ダメージ与えたのかといった情報を見られるように調整しています。
4Gamer:
UIにしろログにしろ,プレイするうえでの快適さに関する改善が中心で,大枠のゲームシステムとしては大きな変更がないわけですね。
平岡氏:
ええ。実は,こちらとしては「キャラクターを自分で動かすようなブラウザゲームにしてほしい」という声がほとんどを占めるだろうという覚悟をしていまして。ただ,それは今回の開発コンセプトと大きく異なっていますので,「ごめんなさい」とするしかないと思っていたんですね。ところが意外とそういった要望は少なく,今のブラウザゲームとしてのシステムを許容していただいたうえで,前向きな改善のご意見をたくさんいただきました。
4Gamer:
原作のイメージがあるほど,ゲームシステムの違いに戸惑うんじゃないかと思いますが……。
平岡氏:
とはいえ,かなり張りつきでプレイされている方が多かったのも事実ですね(笑)。ブラウザゲームですので,こちらとしては1日5〜10分とか,生活スタイルに合わせた時間帯で「このあと会社に行くから4時間の依頼を受けて,昼休みに遊ぼう」とか「寝る前に8時間の依頼を入れて遊ぼう」といったスタイルを想定していたんです。もちろん,デバッグテストに応募してくださった「ファントム・ブレイブ」プレイヤーの熱意の表れとは思うのですが。
4Gamer:
そのあたりのプレイ時間についてはテスターの意見はどうでしたか。
平岡氏:
作り手側としては,プレイヤーの皆さんには自由に長い時間の依頼や短い時間の依頼も遊んでいただいて,それが邪魔にならないように作っていったつもりです。ただ,「長時間の依頼をうっかり受けてしまうので,そこはなんとかしてほしい」という意見を少数ながらもいただいたので,今の段階では長時間の依頼には【長時間】と表示するようにしています。要望の件数自体が多くなくとも,簡単に対応できるものについてはどんどん対応し,遊びやすいように調整を加えています。
4Gamer:
逆にデバッグテストで好評だった部分はどこでしょう?
芳賀氏:
「ランダムボトルメール」という,ランダムな相手にメールを送って島トモの申請ができるシステムについては,皆さん好意的に触れていただいています。海外のブラウザゲームでは実装されているものも多いのですが,開発当時の日本ではほとんど見られないシステムだったんですね。そこで,原作にある「ボトルメール」という設定を活かしてこの機能を実装しました。
ゲームは周回型だが,次の周回に引き継ぐものを選択可能?
「島トモ」を増やすことによるメリットは,具体的にどういったものになるんでしょうか?
平岡氏:
島トモについては,大きく分けて二つの意味があります。まず一つは,「島の掃除」によってコミュニティの部分を簡単に形成できるということ。最初はボルドー目当てにクリックするだけだと思うんですが,同じ人にクリックしているうちにだんだん愛着が湧いてくるのではないかと思っています。
二つ目は,やり込み関連ですね。合成師の育て方はプレイヤーごとに違うので,自分は武器に特化した合成師を作って,友達はファントムに特化した合成師を作る,という風に分担していくと,非常に効率よくなっていくわけです。
4Gamer:
一人では限界のある合成も,島トモがいれば成功率がアップすると。
平岡氏:
島トモの合成師を使うのにも制限はあるんですが,そういったかたちで友達と分担するようなやり方をしていくとよいのではないかと。あと言い方は悪いですが,オカルト的なものもあるじゃないですか。誰々に頼むとうまくいきそうだ,とか(笑)。
4Gamer:
各国家ごとにスフィアを奪い合う,というのがゲームの大きな目的になっていますが,正式サービスでは,一定期間ごとにデータがリセットされる方式になるんでしょうか?
平岡氏:
そうですね。いわゆる周回型になっています。
4Gamer:
その周期はどれくらいの長さになるんでしょう?
芳賀氏:
大まかには決まっていますが,ユーザーの進度によっても変化しますので,まだなんともいえないですね。
4Gamer:
と,いいますと?
「ファントム・ブレイブ」にはボスがいますよね。「Webファントム・ブレイブ」においても,ただスフィアを奪い合うだけ終わるか? というと,そんなこともなく(笑),最後にボス戦があって,クリアするとその周回は終わる,というかたちになります。
4Gamer:
なるほど……。現時点だとちょっと具体的なイメージが湧きにくいですが,基本的に,ボスを倒すまで,その周回は終わらないんですね。
平岡氏:
基本的にはそうですね。ただ,ユーザーの皆さんは,たいてい私どもが考えている以上に速く進行されますので,まず倒されないことはないと思っています(笑)。ですので,ストーリーが進行してボスが登場したら,たぶんすぐに終わるんだろうなと。
4Gamer:
スフィアについては,4つの国家間で奪い合いをしている状況にありますよね。どの国家に所属しているプレイヤーであっても,ボス戦自体には参加できるんでしょうか? プレイヤーの所属国家の戦況次第ではボス戦に参加できないということも?
平岡氏:
あるかもしれませんね。ただ,基本的には条件さえ満たしていればどの国家でもボス戦には参加できるようにバランスをとっています。
4Gamer:
周回が終わるとリセットがかかるわけですが,そうなると,次の周回では所属国家から選び直すことになるんですか? どういった部分が次回に引き継がれるのか,というのも大事なポイントになりそうですが。
芳賀氏:
「Webファントム・ブレイブ」の場合,その引き継ぎについても戦略チックにプレイヤーが考えて引き継げたら面白いよね,という話はしています。
4Gamer:
戦略チック――といいますと?
平岡氏:
自分が次の周回に何を持っていくか選ぶ,といった要素ですね。
4Gamer:
なるほど,すべてを引き継げるわけではなく,プレイヤーがなにを引き継ぐか取捨選択するわけですね。非常に悩みそうですが,面白い仕掛けですね。
平岡氏:
そこまで含めてゲームになっていたほうがいいのかなと思いまして。
「アライアンス」は既存のギルドシステムに対する回答?
国家という大きな枠組みの中に,さらに「アライアンス」という概念がありますよね。いわゆるギルドやクランに相当するものだと思うのですが,各国家ごとにもともと用意されている3種類のアライアンス以外に,ユーザーが任意に設立することはできないんでしょうか?
平岡氏:
はい,できません。実は,そこは非常に悩んだ部分です。弊社が10年ほどオンラインゲームを運営していった中で,ギルドシステムの問題は必ず付いて回っていました。ギルドに入りにくいという問題に対処するため,ゲーム開始時のチュートリアルで「ギルドを作りましょう」だったり「ギルドに入りましょう」と強制的にギルドに加入させようとしたものもいつかかあるのですが,そうして作られたギルドで長続きしているものはそれほど多くないんではないかと。また,すごく盛り上がったギルドでも,その長と副長とが仲違いをしてしまったりすると,そこに入っていた人たちも抜けていってしまって,熱意が冷めてしまうこともありますよね。
4Gamer:
確かに大勢の人が交流する以上,そういったトラブルはありますね……。
平岡氏:
ですので,従来のギルドシステムのよいところを取り入れたうえで,ライトな人達が抵抗なく入ったり抜けたりできるようなシステムを考え,このアライアンスの形に落ち着きました。
まず,アライアンスごとに違ったメリットが生じますので,「なんでこのアライアンスを選んだのか?」という共通の話題が生まれますよね。それ以外にも,ゲーム内でファントムが奪われたときに,仲間に助けを求めるということもできます。
4Gamer:
既存のオンラインゲームにおけるギルドシステムに対して,一つの回答となるわけですね。
ええ。デバッグテストでは「アライアンスチャットってなんのためにあるの?」と感じた方もいらっしゃると思いますが,ゲームが始まってすぐではなく,徐々に進んでいくにつれて,アライアンスチャットの使われ方が決まっていくだろうと想定しています。
最初はワールドチャットが活性化しますが,その比重がだんだん身内のほうに寄っていくのかなと。
4Gamer:
デバッグテスト版ではアライアンスの数が各国三つずつでしたね。
平岡氏:
これは,シンプルにしたほうが共通の話題を持ちやすいだろう,という理由によります。
4Gamer:
プレイヤー数が増加しても,アライアンスは増えないのでしょうか。
平岡氏:
そうです。ただ,アライアンスに所属することによるボーナスの比重は人数によって変わる予定です。勢力差を埋めるために,人数の多いアライアンスのほうがボーナスの値が少なくなるといったような。
また,アライアンスについては「敵がこういう属性だから,この依頼はこのアライアンスに所属したほうがいいよ」といったことも攻略要素の一つになります。アライアンスを抜けたり入ったりというのは,流動的にやってほしいですね。
4Gamer:
コミュニティ関係ですと,細かい部分では,ログイン時に「ログインアンケート」として「好きなスポーツは?」といったアンケートに答える場面がありますが,あれにはどういった意図があるのでしょうか?
平岡氏:
ランダムボトルメールは誰に届いてもいいんですが,若干,同じ特性の人に届くような仕組みも入れてありまして,そのパラメータに使用しています。
4Gamer:
ログインアンケートに答えることで,隠しパラメータとしてユーザーの特性が処理されて,似た傾向の人に届きやすくなると。
あくまで「届きやすく」なので,基本的にはランダムです。ただ,なるべく傾向が似た人に届くお手伝いができたらと。
4Gamer:
あと,プレイの印象としては,プレイヤーのレベルに相当する「クロームランク」が少々上がりにくいように感じました。ブラウザゲームやソーシャルゲームの場合,序盤はハイペースでレベルが上がっていくタイトルも多いと思うのですが,これは意図的にこうしたバランスにしているんでしょうか?
平岡氏:
チューニングについてはすごく悩んだ部分です。手軽さを考えてスピーディにレベルアップするように調整して試してみたところ,どうもファントムに対する愛着が薄くなってしまうんですよ。一つ一つの依頼の攻略時間を短くしたところ,自分のファントムが頑張っているという感覚がスポイルされてしまい,本当にただのデータになっちゃったんです。ゲームとしてのバランスを取るには,ウェイトを置くことで「この子が頑張っているよ」という感覚を与えなくてはいけないんですね。
クロームランクについても同じで,頑張った分だけクロームポイントが溜まっていって,それでやっと次のランクになったときに初めて使役できるファントムの数が増える,という感覚を味わっていただきたいんですね。
4Gamer:
ただ,最初に使役できるファントムの数が少ないため,同時に複数の依頼を受けることができないのが少々ストレスに感じる気もしました。
平岡氏:
レンタルファントムを利用して一時的にファントムの数を増す,というテクニックも実はあります。島トモからのレンタルなら金額も安いですし。
4Gamer:
ゲームバランスとしては,どういったところを目指されているんでしょうか?
平岡氏:
軽く始めたライトユーザーの皆さんでも,一歩踏み出したら,違う世界が開けるような作りを目指しています。ですので,「この依頼が成功できないんだけどどうしたらいいの?」とほかのプレイヤーに質問して「配置を工夫しよう」とアドバイスをもらうなど,そうしたことで新しいチャレンジをしてもらえればと思います。
例えば,各ファントムがどういった武器を得意とするかといった情報は,ファントムのプロフィールには書いてなくて,実は「図鑑」のほうに載っているんです。一度「図鑑ってなんだろう?」と覗いていただいたときに,そこに大事な情報が記されている――といった仕掛けを用意しています。
4Gamer:
そういえば,図鑑も項目数がずいぶん多いですよね。これは相当なボリュームがあるなと感じたのですが,これはやはりコア層を意識してのものですか。
平岡氏:
そうですね。やっぱりやり込みとして,コンプリートしていく楽しみがないといけないなと思いまして。原作の「ファントム・ブレイブ」自体の設定が膨大ですし……(笑)。
4Gamer:
ところで,ガマニア側が提案した設定などで,日本一ソフトウェア側がボツにしたものはありますか?
小酒井氏:
そこまで変なものはなかったですね(笑)。
芳賀氏:
お互いこだわっている部分で「ここはこうしてほしい」という提案を出して,「ではこうしていきましょう」とかたちにしていくことが多かったように思います。
平岡氏:
例えば,ウチで最初にこういうことをやりたいといったときに,「イヴォワールでこれだけの変革が起きるなら,300年後という時代設定が妥当じゃないですか」と提案されたり,「そういうのはダメです」「ウチはどうしてもやりたいんです」と揉めるようなことはなく。素直に受け入れていただき,そのうえでさらなるアイデアを被せあっていくような感じですね。
4Gamer:
アイデアをボツにするのではなく,膨らませる方向で組み立てていったんですね。
平岡氏:
今回,「ツインドリル」というオリジナル武器があるんですが,これは「アーチャーの髪型が昔ツインテールだったときに,“ツインドリル”と呼ばれていました」という逸話を聞いたことがきっかけです。それならばアーチャー専用武器として入れなければ,と(笑)。
4Gamer:
そういった裏設定に絡めたネタもあると。
平岡氏:
ゲーム内で,「弓はないけどアーチャーはいる」というネタがあるんですよね。そのうえで得意武器を何にしようかと話があったときに,こちら側でいろいろと設定をいじりまして(笑)。名称からしてニヤリとしていただければと。
4Gamer:
日本一ソフトウェアが,元の世界観として大事にした部分はどういうところでしょうか。
小酒井氏:
「この世界観をガチガチに守って作ってください」というのではなく,もともとある「ファントム・ブレイブ」の世界をブラウザゲームに落とし込むときに,「いかに広げていただくか」――ということを大切にしたいと思っていました。守りに入ってしまうと,元の「ファントム・ブレイブ」よりも広がりのないものになってしまうイメージがありましたから。
正式サービスも早ければ月内にスタート
2010年10月のインタビューでは「従来のサーバー/クライアント型も検討中」とありましたが,そちらの開発状況は?
平岡氏:
――まずは「Webファントム・ブレイブ」をきっちりと立ち上げてから,ですね(笑)。
4Gamer:
では「Webファントム・ブレイブ」の方に話を戻しますと,すでにオープンβテストのスケジュールが発表されていますが,今後の予定についてはいかがでしょうか。
芳賀氏:
オープンβテストが2月15日から開始し,そこで何も問題がなければそのまま正式サービスに移行する予定です。
4Gamer:
ということは,早ければ今月中には正式サービス開始ですね。デバッグテストの参加者に対して,「OBTではここが変わっている」とアピールできる部分はありますか?
平岡氏:
チャットの名前の横に記号が付いてまして,それをクリックするとその相手の島に飛べますね。
チャットでよく会話する人などに対して,簡単に島トモ申請ができるわけですね。
正式サービス開始後のアップデートのスケジュールはどれくらい決まっているんでしょうか。
芳賀氏:
あまり具体的な項目は出せませんが,先々まで考えています。一例を挙げると,島トモとよりコミュニケーションを取れるような,協力の仕掛けを入れられるようにしたいと思っています。
4Gamer:
島トモ関連の機能が強化されるということは,早めに多くの人と島トモになっていた方が良さそうですね。
では最後に,今後を楽しみにしている方々へのメッセージをお願いします。
平岡氏:
ライトユーザーの方もコアユーザーの方も,どちらも楽しんでいただけるような作りになっています。なので,ライトユーザーの方はもう一歩進んだゲームの発見をしていただければと思います。またコアユーザーの方は,裏側にいろいろな設定や遊び方が詰まっていますので,それを見つけてやり込んでいただきたいですね。
芳賀氏:
「ファントム・ブレイブ」という作品を知っている方・知らない方,どちらにも楽しんでいただけるように作っているので,ぜひ一度実際に遊んでいただければと思います。
コンシューマ版とは違う「ファントム・ブレイブ」ですので,新しい「Webファントム・ブレイブ」というのものを体験していただければ,実際に新しい発見もあると思いますし,いろいろなご意見をいただいていると思います。「ファントム・ブレイブ」という世界がどんどん広がっていくところを体験してみてください。
小酒井氏:
今まで「ファントム・ブレイブ」はコンシューマでしか出ていないので,そこで語られていない物語を,コアユーザーの方にも楽しんでいただきたいですね。また,「Webファントム・ブレイブ」からの新しいプレイヤーの方にも,大元の「ファントム・ブレイブ」を知っていただく機会となれば,お互いに良い相乗効果が生まれるのではないかと感じています。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「ファントム・ブレイブ」がオンラインゲーム化する,と聞いたとき,筆者はコアゲーマー向きの内容になるのだろうと想像していた。ところが今回のインタビューを読んでいただければお分かりのとおり,本作はライト層が楽しめることを第一に作られている。
原作の「やり込み」度の高さを知っていればいるほど意外に感じられる話だが,原作の明るい世界観を活かしつつ,ブラウザゲームという手軽なプラットフォームで展開する――という発想は,これまで「ファントム・ブレイブ」というタイトルを知らなかった人に対してもアプローチできる面白い切り口であると感じた。気軽にプレイでき,よりコアな遊び方への橋渡しとなるような工夫も行われている。
もちろん,原作ファンが楽しめる仕掛けや,「アライアンス」のように既存のオンラインゲームが抱えたジレンマに対する解決策など,コアゲーマーの目を引くような要素もしっかりと詰め込まれている印象だ。2月15日からのオープンβテストに参加して,いち早くイヴォワールの新たな物語を体験してみてはいかがだろうか。
「Webファントム・ブレイブ」公式サイト
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