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海外ゲーム四天王 / 第63回:「Lost Horizon」
ドイツのデベロッパ,Animation Artsが制作した「Lost Horizon」は,はみ出し者のパイロットがナチスの陰謀を阻止するというアドベンチャーゲーム。チベットの山奥に建つ寺院に眠る,強大なパワーを秘めた財宝をめぐり,香港からモロッコ,ベルリン,そしてヒマラヤ山脈の奥地へと,世界を股にかけた冒険が繰り広げられるのだ。ノリは間違いなく「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」であり,登場人物もお約束のキャラクターばかりだが,それだけに安心して楽しむことが出来るはず。
そんな本作を,「毎日がある意味冒険」という締め切り前限定放浪ライターの朝倉哲也氏が紹介する。
第三帝国の指導者ヒトラーは,世界制覇の野望を達成するために超自然のパワーも利用しようと,世界中の遺跡の調査や伝承の研究を秘密裏に進めていた。1936年,ついに彼らはチベットの山奥に建つ寺院に,とてつもない力を秘めた財宝が眠っていることを突き止めた。
その頃,香港で輸送機パイロットをしていた,Fenton Paddockは,親友でイギリス軍士官,Richardがチベットで行方不明となったことを知る。香港総督の要請を受けたFentonは,親友Richardの行方を捜すうちに,ナチスの陰謀に巻き込まれ,彼らの世界制覇の野望を阻むためにチベットの秘境へと向かうのだった。
「Lost Horizon」は,そんな映画のようなストーリーが楽しめるアドベンチャーゲームだ。チベットだったり,ナチスだったり,オカルトパワーだったりと,制作者が「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」を意識しているのは間違いないが,開発は「Secret Files:Tunguska」を制作したドイツのデベロッパ,Animation Artsが行っている。イギリスのDeep Silverがパッケージ版の販売を行っているが,2010年9月25日にはSteamから購入できるようになった。
ゲームシステムとしては,最近のアドベンチャーゲームでは一般的なポイント&クリック式が採用されており,例えば移動するときは行きたい場所をクリックするだけ,調べる必要がある場所ではマウスカーソルの形が変わって教えてくれるといった感じで,直感的に分かりやすいシステムになっている。
上記のように,ゲームは1936年の香港からスタートする。香港総督からの呼び出しを受けたFentonは,軍隊時代の親友だったRichardが,任務のため赴いたチベットで行方不明となっていることを知る。
友人の消息を知るため,単身でチベットへ向かおうとするFentonだったが,ナチス情報部の息のかかった暴力組織,Tongの手が早くも彼に伸びてくる。からくもTongの追跡をかわしたFentonは,チベットの謎の寺院のことを知っているという女性Kimと共に,香港からモロッコ,そしてベルリン,さらにはヒマラヤの奥地へと,世界を股にかけた冒険を開始するのだ。というあらすじだけで,ウキウキしてくる人もいるだろう。まあ,モノがアドベンチャーなので,派手なアクションを自分でプレイできるわけではないが,カットシーンはなかなか迫力がある。
アドベンチャーらしく,壊れたレコード板を元に戻したり,石版を動かして壁の模様を再現したりといったパズル要素があちこちに登場する。もっとも,パズルは総じて難度が低めなので,手強いものを求めている人にはちょっと物足りないかもしれないが,そのぶん,ゲームはサクサクと進む。
掲載したスクリーンショットを見てもえば分かるように,グラフィックスは必要十分に美しいが,とくに突出しているわけではない。それでも引き込まれてプレイを続けてしまう理由としては,やはりストーリーとキャラクターが挙げられるだろう。
Fentonと戦うことになるナチスの女性士官は,鉄のように冷血な人物で,憎らしいことこのうえない。また行きがかりでFentonと行動を共にするKimも,おとなしそうな見かけに反して,口論でFentonをひるませたり,見事な格闘術を見せたりと,タダ者ではない。深みのある人物造形というわけではなく,むしろお約束的なキャラクターなのだが,こうした多数の登場人物がゲームを盛り上げてくれるのだ。
会話シーンでは長い英文を読まねばならないが,マウスをクリックしなければ会話が先に進まないシステムなので,分からない単語が出てきたときにはそのつど調べるゆとりがある。読み終わる前に,どんどん流れていって,ついには分からなくなってしまうという,筆者がしばしば遭遇するような事態に陥らなくてすむのがありがたい。
現在の欧米ゲーム市場において,残念ながら「超人気ジャンル」とは言えないアドベンチャーゲームだが,一定のファンが存在していることは間違いなく,とくにヨーロッパを中心にコンスタントに新作が発表されている。日本に入ってくることはほとんどないが,目の肥えたファンを唸らせる意欲作も少なくないようだ。2002年の「Syberia」(邦題,シベリア 日本語版)のときのように,何かのきっかけさえあれば,再びブレイクしうる分野だといえるかもしれない。
本作についていえば,そこまで高いポテンシャルはないものの,空いた時間に冒険活劇を見ているような充実感は得られるはずだ。安心してプレイできる佳作,といって良いだろう。
ゲーム冒頭の1章分をプレイできるデモ版が,4Gamerの「こちら」からダウンロードもできるので,気になった人はプレイしてみよう。
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(C)2010 Animation Arts Creative GmbH, Published 2010 by Deep Silver, a division of Koch Media GmbH, Austria