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[CEDEC 2011]チャレンジを苦にするのではなく,楽しんでほしい。「熱意を形にするプロジェクト 〜ダンガンロンパで目指したちょっとオンリーワンなゲーム〜」レポート
このセッションでは,ダンガンロンパという新規IPの企画立案から開発,そして発売に至るまでの過程が,スパイクの社内資料を交えて紹介された。
「ダンガンロンパ」プロデューサー 寺澤善徳氏 |
「ダンガンロンパ」シナリオライター 小高和剛氏 |
まず寺澤氏は,2009年にダンガンロンパのベースとなる新タイトルの企画を立案した背景を説明した。
当時,市場には続編タイトルがあふれており,新規IPはなかなか売れない状況だった。スパイクでは「侍道」「喧嘩番長」に次ぐ新規IPの確立が社内的な課題となっていたが,そういう理由で新規の企画が通りにくかったという。
ここで寺澤氏は,新規IPの企画を社内でプレゼンテーションするために重要なポイントとして,以下の3つを挙げた。
1.過去のタイトルとの比較(ゲーム性を伝える,売れるイメージを伝える)
2.「今までにない!」差別化のアピール
3.大きなインパクト
ちなみにスパイクの場合は「(他社と)ネタが被ると負ける可能性が高い」という理由から,以上のうち,差別化とインパクトに重点を置いている。そのため,このプロジェクトでは,とにかく「今までにはないゲーム」という部分を強調した。
しかし,やり取りを続けているうち,寺澤氏が「絶対に面白くなる」と確信するような企画に育っていき,3か月後の2009年5月,「DISTRUST 15少年少女殺戮期 もしくはボクらの7日間生存戦争」という仮タイトルをつけた企画書が仕上がった。この時点でのゲームの流れはすでにダンガンロンパとほぼ同じだったと小高氏は振り返る。ただし,全体の雰囲気はかなり異なっており,学級裁判は心理戦を意識したものであり,グラフィックスもサイコミステリー調で,製品のようなポップな感じではなかったという。
この企画書を見た寺澤氏は,「これはいい」という印象を得たものの,その一方でプログラム相手の心理戦にはピンと来なかったと話す。また市場でアドベンチャーゲームが売れなくなっていることもあり,さらなるブラッシュアップを小高氏に求めた。
続く2009年6月,見せ方や雰囲気にポップな要素を盛り込んだ新たな企画書が作成される。そこでは,小松崎 類氏の描くイラストや,ダンガンロンパの象徴となる「モノクマ」,そしてカラフルな色使いを駆使した楽しげなイメージなどが強調されていた。ゲームのキーワードになる,「処刑」や「サイコポップ」という概念が登場したのもこの頃だったという。
寺澤氏は,相変わらず心理戦の部分に疑問を感じつつも「これなら行けるだろう」と判断し,この企画書を持って最初の社内プレゼンテーションに臨んだ。
ところが社内の反応は,要約すると「面白そうだけど,売れそうにない」という,はっきり言って芳しくないものだった。とくにアドベンチャーゲームであることと,セールスポイントの不明瞭さが不評だったそうだ。
そうした社内の反応を,寺澤氏は「大きな転機となった」と話す。
このままアドベンチャーゲームとして進めるのは無理と判断した寺澤氏は,まずジャンル名を変えようとした。そしてスタッフとともに「ハイスピード推理アクション」というジャンルを考案し,ゲーム性を含めた方向性を大きく変えていく。
新たに作られた企画書からはアドベンチャーの文字が消え,仮タイトルも「処刑学園と絶望高校生」に変わった。またセールスポイントとして,新ジャンルであることに加え,2.5Dのモーショングラフィックスと,仲間を多数決で処刑する「背徳民主主義」を掲げた。
しかし,イメージムービーの上映とともに行った2回目のプレゼンテーションは,さらにネガティブな反応を関係者から引き出してしまった。とくに処刑のシーンや,論理的思考を持つ人間がそうでない人間を論破する様子が「いじめ」を想起させるというのだ。また製品版よりグロテスクな表現を強調していたイメージムービーも不評だった。
この反応を見て,もはや手詰まりと感じた寺澤氏と小高氏だったが,企画に対する自信,そしてスタッフの高い熱意を見て,経営陣に直接プレゼンすることを決める。
ダメなら辞表を出すほどの熱意を持ってプレゼンテーションに臨んだ結果,経営陣から開発の承認を得ることができた。これがつまり,セッション名に含まれる“熱意”の一つというわけだ。
承認を得たあとは,社内向けにプレイアブルな評価版を制作しなければならない。しかし新しいジャンルのゲームであるため,与えられた期間内では,ゲームの内容を伝える映像を制作できただけだった。しかし,この映像は社内でも評価され,ダンガンロンパがどんなゲームであるのか理解が深まったそうだ。
なお,寺澤氏と小高氏によると,ダンガンロンパはマスターアップの1か月前まではゲームの体をなしていなかったという。それまで,個々のパートで開発を進めていたものを,わずか1か月でまとめあげたというから驚きだ。
プロモーションに関しては7つのポイントを掲げ,その中でも,豪華声優陣,映像のインパクト,社内クリエイターの売り出しに焦点を当てて進めた。とくに声優に関しては,モノクマのボイスに大山のぶ代さんを起用したことで,大きな反響を得られたという。
またターゲットには,コアゲーマー層をアーリーアダプターに据えるのはもちろんのこと,流行モノや新しいモノが好きな学生や若いサラリーマンをトレンドフォロワーとして想定。そのため,必要以上にマニアックになったりアニメ寄りになったりすることを避け,スタイリッシュでポップなイメージを心がけたと寺澤氏は話す。併せて映像などで斬新さをアピールした。
そしていよいよダンガンロンパは発売日を迎えるが,初動販売数は約2万本と振るわない。しかし有名クリエイターなどを含め,実際にプレイした人の口コミによりジワジワ売れていき,現在ではDL版も含めて10万本セールスが視野に入ってきたという。
最後に寺澤氏は「高い評価や賞をいただけたダンガンロンパは,作品としては大成功で,プロモーションもうまくいった。その一方で,ビジネス的には,あまり収益が大きくなかった。しかし,当初の目的だった続編につながる新規IPを立ち上げることができたので,今後,それを大きくしていくのが私の仕事だ」と述べた。
また小高氏は,「熱意は大事だが,それをアピールする相手とタイミングも大事。いかに周りを巻き込めるかを考えながら,熱意をアピールする。今までにないものを作るにあたって,躊躇したり不安になったりしたこともあったが,常にチャレンジを続けてきた」と述べ,来場者には「チャレンジを苦にするのではなく,楽しんでほしい。チャレンジを楽しむ姿勢があれば,たとえ弾かれても何度もチャレンジできる」と呼びかけ,セッションを締めくくった。
- 関連タイトル:
ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生
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