レビュー
「バトルフィールド 3」を快適にプレイできるGPU選び(前編)〜新世代グラフィックスを堪能するには何が必要か。GPU全11製品を試す
ただ,そこはPC版。より美麗なグラフィックスを堪能するためには相応のGPU性能が必要であり,PC側の環境によっては,グラフィックス設定を高くしすぎると,フレームレートが低下してゲームにならなくなるという可能性も十分にある。
では実際のところ,PC製品版のBF3を快適にプレイするには,どの程度のグラフィックス性能が必要なのだろうか。前後編に分けて,調査結果をお伝えしてみたいと思う。前編のテーマは,「PC版ならではのグラフィックスを堪能するのに必要なGPUは何か」だ。
「バトルフィールド 3」を快適にプレイできるGPU選び(後編)〜細かな謎を解明しつつ,安定した高fps環境を目指す
BF3のグラフィックス性能を
測るということ
さて,どうやって計測するのか。
マルチプレイとシングルプレイではテクスチャやモデルのサイズがやや異なるようだが,描画エンジン自体は同じものが使われているので,シングルプレイのパフォーマンスはマルチプレイの目安として使えるはずである。
フレームレートの計測には,4Gamerのベンチマークレギュレーションにおけるリファレンスソフトウェア「Fraps」を用いる。本稿で使ったのはテスト時点の最新版となるバージョン3.47だ。
BF3では,[~]キー([Shift]+[`]キー)を押すと開くコマンドコンソールが用意されており(※),ここからコマンドを入力することでフレームレートやCPU&GPU負荷状況などをオンスクリーン表示させられるようになっているのだが,残念ながら本機能ではフレームレートの推移を記録したりすることができない。そのため,4Gamerのベンチマークレギュレーション10〜11世代で採用している「Battlefield: Bad Company 2」(以降,BFBC2)のテストと同じく,Frapsを用いることにした次第だ。
※[~]キーは日本語キーボードだと[半角/全角]キーに割り当てられており,日本語キーボードのユーザーが安易にこれを押すと日本語IMEが起動して操作不能に陥る。BF3の起動前には,コントロールパネルの「地域と言語」−「キーボード」−「キーボードの変更」から「規定の言語」をUSキーボードなどに変えておくことをお勧めしたい。USキーボードは「インストールされているサービス」−[追加]−「英語(米国)」から選択可能だ。IMEの無効化は,いわゆる洋ゲープレイヤーの間では常識だが,BF3の場合,日本語IMEが起動してしまうと,ゲームの終了すらできなくなるので,十分注意してほしい。
従来のベンチマークレギュレーションではBFBC2のセーブデータを配布しているが,BF3では,セーブデータを上書きすると,ことによってはゲームが起動不能に陥ることが分かっている。バグなのか仕様なのかは現在のところ不明ながら,少なくとも現時点では配布してもいたずらに混乱を招くだけなので,今回はセーブデータの配布を行わない。読者自身で4Gamerのテスト結果とフレームレートを比較してみたいという場合は,頑張ってキャンペーンを進めてもらえればと思う。
ちなみに,日本発売された最初のビルド(Build 876650)版BF3だと,この「保存データの上書き問題」以外にも不安定なところがいくつか見受けられる。たとえば,起動時にエラーが出るとか,ゲーム中にいきなりキーボードが使えなくなるとかいった具合だ。ただし,今回のテストを終えた直後となる北米時間11月3日付けでEA DICEはゲームの安定性向上などを盛り込んだアップデートを実施しているため,後編で安定性,そしてフレームレートに変化が生じるかもしれないことはあらかじめお伝えしておく。
GIGA-BYTEとCFD販売の協力により
ミドルクラス以上の全11製品を用意
余勢を駆って(?),日本ギガバイトからゲーマー向けマザーボードも貸し出してもらったので,今回はGIGA-BYTEづくしのテスト環境となる。
GV-N56GSO-1GI Ultra Durable VGA PLUS準拠のクロックアップ版GTX 560カード。クーラーはWINDFORCE 2X 実勢価格:1万9000〜2万1000円程度 |
GV-N550OC-1GI クロックアップ仕様となるGTX 550 Tiカード。品質規格Ultra Durable VGA準拠となる 実勢価格:1万1000〜1万4000円程度 |
GV-R697OC2-2GD Ultra Durable VGA PLUS準拠,WINDFORCE 3X搭載のHD 6970カード。現在はRev.2.0が流通中 実勢価格:3万7000〜4万円程度 |
GV-R695OC-1GD クロックアップ版のHD 6950カード。Ultra Durable VGA準拠でWINDFORCE 3Xクーラーを搭載 実勢価格:1万9000〜2万4000円程度 |
GV-R687OC-1GD 定格比でクロックが若干引き上げられたHD 6870カード。Ultra Durable VGA&WINDFORCE 3X仕様 実勢価格:1万7000〜1万9000円程度 |
GV-R685OC-1GD HD 6850搭載のクロックアップモデル。Ultra Durable VGA準拠でWINDFORCE 2Xを採用 実勢価格:1万4000〜1万5000円程度 |
GV-R677SL-1GD ファンレスのHD 6770カード。大型のパッシブクーラーを搭載する。Ultra Durable VGA準拠 実勢価格:1万4000〜1万5000円程度 |
GV-R675OC-1GI クロックアップ仕様のHD 6750カード。Ultra Durable VGAに準拠したカード設計が特徴 実勢価格:1万1500〜1万2500円程度 |
ご覧のとおり,今回入手したカードの多くでメーカーレベルのクロックアップ設定が大なり小なりなされているが,今回はいずれもリファレンス相当のコアおよびシェーダ,メモリクロックにすべて再設定した。再設定にはMSI製のオーバークロックユーティリティ「Afterburner」(Version 2.2.0 Beta 8)を用いた次第だ。
なお,GeForce GTX 560には公式のリファレンスクロックが設定されていないため,今回はコア900MHz(シェーダ1800MHz),メモリ4004MHz相当(実クロック1001MHz)に設定している。
そのほかテスト環境は表のとおり。言うまでもないことだが,グラフィックスドライバである「GeForce Driver 285.62」と「Catalyst 11.10」は,いずれもテスト時点の最新版となっている。
以下,グラフィックスカードは,「GeForce」「Radeon」を省略したGPU名で表記する。
3つのシークエンスで
平均&最低フレームレートを計測
前編となる本稿で,PC版ならではのDirectX 11グラフィックスを楽しむ前提に立つというのは冒頭で述べたとおりだが,テストにあたってのグラフィックス設定は,BF3の「オプション」にある「ビデオ設定」−「映像品質」から「最高」を選択する。そのほかグラフィックス設定の細部は下記のとおりだ。
- 「フルスクリーンモニター」:1
- 「フルスクリーン」:オン
- 「明るさ」:スライダー中央
- 「垂直同期」:オフ
- 「モーションブラー量」:スライダー中央
- 「視野角」:70(度)
ちなみに,「映像品質」を「高」以下に落とした場合,GeForceではNVIDIAの開発したアンチエイリアシング技法である「FXAA」(Fast Approximate Anti-Aliasing)が適用され,Radeonとは見栄えが変わってくるという情報もあるが,「最高」設定時は4x MSAA(Multi-Sampling Anti-Aliasing)が用いられるため,理論上,見栄えに差はないはずである。
なお,フレームレートに影響する可能性を踏まえ,サウンド設定はデフォルトのままとした。「音声言語」は「英語」,「改良ステレオモード」は「オン」としている。
冒頭で後述するとした3シークエンスだが,今回用いたのは「COMRADES」「GOING HUNTING」「THUNDER RUN」の各ミッション。以下,順に見ていこう。
■COMRADES
市街地走行中は,建物や木々に加え,周囲に歩く人や道路に飛び出してくる人など,いろいろと変化がある。BF3で頻繁に出てくる市街地戦と近いグラフィックスになっているのが特徴だ。
ミッション開始と同時に計測を始める。オレンジ色の照明のトンネルを抜け…… |
市街地を走行する。建物や木々に加え,周囲に歩く人や道路に飛び出してくる人など,さまざまな変化がある |
計測は合計3回行い,キャッシュの影響を排除するために初回の計測値を捨て,後ろの2回の平均値を取ることにした。
「さくさくプレイできる」条件はシングルとマルチで異なるが,両者に共通していえるのは,平均フレームレートは高ければ高いほどよいということ。また,最低フレームレートが30fpsを下回ると画面が目に見えてガタつくため,そのラインは死守しなければならないということだ。
一方,マルチプレイの前提に立った場合は,最低フレームレートが60fpsを下回らないことが絶対条件となる。
……という基準でグラフ1を見てみよう。これは1600×900ドット時のフレームレートである。今回はFrapsのデータからGPUごとに最低フレームレートと平均フレームレートを重ねてグラフ化しており,4Gamerが普段掲載しているグラフとは見方が若干異なる点に注意してほしいが,GeForceならGTX 560,RadeonならHD 6850以上が合格ラインにあると分かる。GTX 580とGTX 570が平均60fpsを超えてきている点と,GTX 560シリーズのスコアがHD 6950を上回っている点,GTX 550 TiおよびHD 6700シリーズのスコアがそれぞれ上位モデルから大きく引き離されている点も目を引く。
続いてグラフ2は1920×1080ドット時のスコアだ。解像度が上がってもスコアの傾向自体はあまり変わっていないが,全体的にスコアは下がり気味となり,HD 6800シリーズが合格ラインを下回った。さすがは最新世代のグラフィックス,という負荷になっているわけである。
■GOING HUNTING
今回は建物内での戦闘シーンに通じるシークエンスとして選択している。
中尉の後について空母内の廊下を進む。途中,階段などがあるものの,動くオブジェクトは少ない |
甲板に上がったところで約60秒が経過する |
本シークエンスの負荷は低いと述べたが,実際,1600×900ドットでは,GTX 580が,マルチプレイ時の絶対条件すらクリアしてきた。「最高」設定でこのスコアは大したものである。GTX 560以上ならシングルプレイの必須条件をクリアできているのはCOMRADESと同じだ。
一方,Radeon勢では,HD 6800シリーズのスコアが1920×1080ドット設定時にほかのGPUより落ち気味なのが気になった。HD 6800シリーズだけがそういう傾向になる理由はなんとも言えないところだが,テクスチャが多いシーンではないので,光源の多さが原因になっている可能性はあるだろう。いずれにせよ,「最高」設定を前提にRadeonで1920×1080ドット解像度に設定したいなら,HD 6900シリーズが必要な気配である。
■THUNDER RUN
スクリーンショットだけ見ると,開けた場所なので負荷が低く感じられるかもしれないが,走り抜ける敵や着弾による爆炎や振動,漂う煙や塵といった描写が次から次へと行われるため,全体の負荷はかなり高い。BF3における「開けた戦闘シーン」を代表するグラフィックスになっていると言っていいだろう。
戦車は同僚の操縦で街へと向かう。プレイヤーは機銃担当だ |
途中,撃破するべき敵(車)が現れるが,無視してフレームレートの計測を行う |
というわけで,そんなシークエンスの平均フレームレートがグラフ5,6となる。
描画負荷が高いためフレームレートは低く,また,シーン全体の描画負荷に変動が少ないため,平均フレームレートと最低フレームレートが近くなる傾向が見られる。
もっとも,「最高」設定におけるボーダーラインという観点で話をするなら,COMRADESやGOING HUNTINGから状況に変化はなく,1920×1080ドットでGeForceならGTX 560以上,RadeonならHD 6950以上というということになる。また,1600×900ドットならHD 6870も合格ラインに達するといったところだ。
システム全体の消費電力
念のため,システムの消費電力推移をロギングできるワットチェッカー「Watts up? PRO」で,BF3実行時におけるシステム全体の消費電力も示しておきたい。今回は,3シークエンス6種のテストを通じて得られた最も高い消費電力値をスコアとし,グラフ7にまとめてある。
クロックアップモデルは電圧設定も変わっている可能性があるので参考値となるが,基本的にはフレームレートと消費電力がほぼ一致した傾向にあるといっていいだろう。ただ,GeForce,Radeonとも,ハイエンドカードの電力効率は今一つで,全体的に高めとなっている。バランスがいいのはGTX 560シリーズとHD 6950になるだろうか。
GPU性能に比例したスコアが得られるBF3
後編ではより突っ込んだテストを実施
以上,やや駆け足気味だったが,ざっくりとした傾向は掴んでもらえたのではないかと思う。要するに,グラフィックスの「最高」設定,1920×1080ドット解像度を前提とするなら,現時点ではGTX 560かHD 6950以上を用意すべき,というわけである。解像度を1600×900ドットまで落とせばHD 6870も候補になるものの,安価さから自作市場で一時期人気を集めていたHD 6850はやや苦しいか。
しかし,一部に謎も残されている。
まず挙げられるのが,序盤でも触れたFXAAである。今回はFXAAが使用されない最高画質設定にしてあるので,「FXAAが有効になるとどうなるのか」という問題からは逃れられているが,「高」以下の設定でGeForceとRadeonのテスト条件を揃えられるのかどうかはまだ分からない。
さらに,BF3はグローバルイルミネーションに「Enlighten」というミドルウェアを採用しているのだが,これがCUDAアクセラレーションに対応しているため,グラフィックス設定とは別のところでGPUやCPUがグラフィックスの質やフレームレートを左右する可能性はある。実際にどの程度の違いがあるかはチェックしておかねばなるまい。
そしてそもそも論として,「マルチプレイでそこまで画質を求めるのはナンセンス」という意見もあるだろう(筆者も同感だ)。後編では,いま挙げたポイントについて,できる限り取りあげたいと考えている。
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