連載
“フルメタ”賀東招二の新シリーズ。「放課後ライトノベル」第132回は潰れかけのテーマパーク『甘城ブリリアントパーク』に10万人を集客せよ!
映画といえばアニメ,それもなぜか微妙にマイナーなアニメ映画ばかり見ている筆者だが(「ももへの手紙」と「ねらわれた学園」はいい映画でした),2013年3月23日公開の「シュガー・ラッシュ」が少し気になっている。クッパ大王やらザンギエフやら,実在のゲームキャラが大挙して出演! とくれば,ゲーマーとしては見ないわけにいくまい。筆者的にベガの声は若本規夫なのだが,果たして吹き替え版ではどうなってるんでしょうかね。
ゲームの悪役連中が車座になって愚痴を言いあう予告編はかなりシュールだったが,よく考えると彼らは自分の役目を演じているだけであって,それで非難されたりみそっかすにされたりしたのでは,たまったものではないだろう。うむ,分かる,分かるぞ。筆者も締切に苦しむ世のライターたちのために,率先して締切を破るという悪役をときおり演じているのだが,なぜか普通に怒られる。おとなはりふじんだなあ。
そして悪役に限らず,子供たちに夢を与えるキャラクターたちも,客の見えないところではいろいろと不満を抱えているのかもしれない。というわけで今回の「放課後ライトノベル」では,潰れかけたテーマパークを舞台に,キャスト(従業員)たちの悲喜こもごもを描く『甘城ブリリアントパーク』を紹介する。ライトノベル史に残る名作『フルメタル・パニック!』を手掛けた賀東招二が満を持して送り出す,待望の新作だ。
『甘城ブリリアントパーク』 著者:賀東招二 イラストレーター:なかじまゆか 出版社/レーベル:富士見書房/富士見ファンタジア文庫 価格:609円(税込) ISBN:978-4-8291-3828-1 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●潰れかけのテーマパークに,2週間で10万人を集客せよ
「次の日曜日、わたしと遊園地に行かない?」
ある日の放課後,高校1年生の可児江西也(かにえせいや)は,転校生の千斗(せんと)いすずから(古風なマスケット銃を突きつけられながら)そう誘われる。命惜しさに渋々承諾した西也がいすずと共に訪れたのは,甘城(あまぎ)ブリリアントパーク,通称甘ブリ。1980年代のバブル全盛期に作られ,現在では「ダメなデートスポットの代名詞」とまで言われる,古い遊園地だった。
パークを訪れた西也が目にしたのは,その呼び名どおりの老朽化した設備に,閑散とした場内。おまけにマスコットの態度は最悪。当然のごとく憤る西也に,いすずはある人物を紹介する。ラティファ・フルーランザ――お姫様然とした可憐さを持つ,銀髪盲目のその少女こそ,甘城ブリリアントパークの支配人だった。
驚く西也に,ラティファはこう告げる。
「この甘城ブリリアントパークの支配人になって、この遊園地を救ってください」
実は甘ブリは,魔法の国メープルランドが人々の喜びの気持ちを集めるために作った施設なのだという。集められた人々の思いはアニムスという結晶になり,魔法の国の大切なエネルギーとなる。だが現在,甘ブリは閉園の危機に立たされており,それを救ってくれる存在として神託が下されたのが,西也だったのだ。
閉園を回避するには,2週間で10万人の客を集める必要がある。これまでの集客状況を考えると絶望的な数字だ。加えて西也は文武両道,多芸多才だが傲岸不遜なナルシスト。果たしてこんな状況で,パークの未来を守れるのか!?
●ビールだって飲みたくなるさ,マスコットキャラだもの
それこそ,「シュガー・ラッシュ」の製作会社の大本が運営しているところには遠く及ばないものの,れっきとしたテーマパークである甘ブリ。違うのはただ一点,魔法の国の施設であること。キャストもその多くが魔法の国の住人で,マスコットは着ぐるみではなく,本当にその姿をしている本物の妖精。リアル「中の人などいない」状態なのだ。
だが,そんなマスコットたちの描写,これがなんかもういろいろひどい。営業中は子供たちに笑顔を振りまいている彼らだが,終業後は近所の焼き鳥屋でビールを飲みながらくだを巻いている(ちなみに魔法のアイテムによって周囲からは一般人にしか見えないので無問題)。
羊のマカロンは別れた元妻が引き取った子供の養育費の支払いに苦慮している愛煙家。ティラミーはポメラニアン似の可愛らしい外見でありながら,四六時中,女の子とパッフする(メープルランドの言葉で「決して上品ではない行為を意味する言葉」らしい)ことばかり考えている。キャストたちのまとめ役であるモッフルも,プリン体を控えるよう医者から言われているためホッピーで乾杯するという世知辛さ。はっきり言って,ただのおっさん連中である。
しかし,華やかなテーマパークのキャストたちも,仕事以外では普通の人のはず。一見とんでもないと思えるマスコットたちの会話も,現実にある日常の一場面かもしれないのだ。これがほんとに,ただのおっさんだったらげんなりするだけだが,外見は可愛らしいマスコットというギャップのおかげで,そのやりとりが妙に楽しい。
ほかにもパークが閉園する直接的な原因は,第三セクター企業に経営権を買い取られそうになっているからなど,設定がいちいち生々しい。魔法の国とかが出てくるのでファンタジーかと思いきや,それがおまけに思えるほど,全編から「あるかも」感が漂っている。メルヘンな設定でオブラートにくるみつつ,テーマパークの裏事情を赤裸々に描いたお仕事もの。それが本作,『甘城ブリリアントパーク』なのだ。
●人を楽しませるということは,かくも大変なことなのです
作中で,西也はこんなことを言っている。
「だれかに夢を見せたいなら、まず自分たちがその夢を信じるべきだ」
人を楽しませるというのは大変なことだ。客はちょっとでも不満があればすぐに文句を口にする。そんな彼らに心から楽しんでもらうには,徹頭徹尾,だましきる覚悟がなければならない。仕事場の外では愚痴を言ってもいいだろう。けれどひとたび作り物の世界に戻ったなら,大切なお客さんを楽しませるため,笑顔を貫かなければならない。
甘ブリのキャストたちは,ほとんど確定となった閉園という事実の前に,そんな気持ちさえも失いかけていた。だが,西也の不遜な態度の裏にひそむ真剣さを感じ取り,残された時間,精いっぱいできることをやろうとし始める。そこには都合のいい魔法などない。奇跡を信じて全力を尽くす,キャストたちの懸命な姿があるだけだ。
そして,某世紀末病人が言うように,奇跡は起きないから奇跡と呼ばれる。その奇跡を起こしたいなら,多少の無茶もしなければならない。喜びの中にどこか苦いものが混じる結末が,それを象徴している。
細かなギャグやパロディを交えた軽快な文章の端々から覗く,エンターテイメント業界の悲哀と苦労。ともすれば単なる業界裏話になりかねないそれが,テンポよく進む物語の合間に巧妙に織り込まれ,良質なエンタメ作品として昇華されている。
パッケージングは今どきのライトノベル的だが,中身は大人だからこそ感じるところがありそうな『甘城ブリリアントパーク』。この道20年近くのベテランならではの「今だからこそ書ける」ライトノベルだ。
■中の人にも分かる,マスコットキャラが活躍するライトノベル
本作で準主役級の活躍を見せるマスコットのモッフルだが,そのビジュアルは『フルメタル・パニック!』に登場するボン太くんそのまんま(絵師公認)。この2冊に限らず,マスコットキャラクターが登場,活躍するライトノベルは意外と多い。今回のコラムではそんな,ライトノベルの印象的なマスコットキャラクターをご紹介。
『人類は衰退しました』(著者:田中ロミオ,イラスト:戸部淑/ガガガ文庫)
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まずはアニメ化の記憶も新しい『人類は衰退しました』。衰退した人類に代わって台頭した,新たな人類こと妖精さんは,三角帽子のこびとさん。人間が好きで,ぽやぽやしたしゃべり方の癒し系だが,テクノロジーは旧人類をはるかに凌駕しており,そのせいで騒動を起こすこともしばしば。お騒がせながらも憎めない,愛すべき新人類たちだ。
続いての紹介は,本連載の第96回で取り上げた『魔法少女育成計画』のファブ。設定上はゲームのマスコットキャラクターで,プレイヤーたる魔法少女たちをあれこれガイドする役どころなのだが,その内実はといえば……あれこれ言葉を尽くすより,/人◕‿‿◕人\ ←こいつの同類,と言ったほうが話が早いだろう。作中ではこれでもかという外道ぶりを見せつけてくれるが,実際のソーシャルゲームのナビゲーターも,似たり寄ったりだと思うのは筆者だけだろうか。
同じく本連載の第4回で紹介した『あそびにいくヨ!』では,宇宙人のキャーティアをあの手この手でサポートする猫型ロボット「アシストロイド」が登場する。猫型ロボットといえば当然,青い色したあいつが思い浮かぶが,このアシストロイドも負けず劣らず万能かつ萌える。数も多いうえ,それぞれに微妙な個体差があるのも面白く,なにより萌えるのがポイントだ(大事なことなので2回言いました)。
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