連載
ゾンビ×バトル×学園ラブコメ。「放課後ライトノベル」第121回は『あるゾンビ少女の入学』で汚物を焼却します!
メディアミックスはいいものだ。
作品の出来次第では賛否両論巻き起こる事態にも陥りかねないが,やはり自分の好きな作品がメディアミックスされると,その作品が持つ世界が一段広がったようでワクワクするし,それを機に新規読者が増えることを考えると,原作ファンとして嬉しくなってしまう。
マンガ化,いいね!
ゲーム化,いいね!
アニメ化,すごくいいね!
実写化……たぶん,いいんじゃないかなあ……。
というわけで,今回の「放課後ライトノベル」で紹介するのは,アニメ化に続き実写映画化も決定した『あるゾンビ少女の災難』の続編,『あるゾンビ少女の入学』だ。ちなみに映画版のタイトルは「フジミ姫 〜あるゾンビ少女の災難〜」。「角川スニーカー文庫なのに,フジミかよ!」と思ったのは筆者だけじゃないよね?
『あるゾンビ少女の入学 I』 著者:池端亮 イラストレーター:蔓木鋼音 出版社/レーベル:角川書店/角川スニーカー文庫 価格:630円(税込) ISBN:978-4-0410-0580-4 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●まずはおさらい『あるゾンビ少女の災難』
一度は死んだものの,希代の錬金術師だった父親によって,再びこの世に生を受けた少女ユーフロジーヌ。甦ったことで,不死身(死んでるけど)の身体と人間離れした怪力を手に入れた彼女は,波乱万丈ながらも豊かな生活を送っていた。だが,あれやこれやの末,ユーフロジーヌは借金のかたに,棺に詰められ古物商に売り飛ばされてしまう。
それから100年。ユーフロジーヌが長い眠りから目を覚ますと,そこは極東の島国である日本の大学だった。一緒に売り飛ばされていた彼女のメイド,アルマ・Vの話によれば,ユーフロジーヌのお腹に埋められていた秘石が大学生に盗まれ,そのことが原因で目覚めてしまったらしい。秘石がなければ,彼女の身体はいずれ崩壊してしまう。殺してでも奪い返さなければならない。
生物(?)としてのスペックは圧倒的に人間に勝っており,その気になれば「えいやっ」とか「えい」などと,軽い感じで人間をミンチにできるユーフロジーヌだが,お嬢様育ちのためか基本的に天然ボケで,詰めも甘い。一方,石を盗んだ人間側には,彼女の正体を知る者や,中国拳法の達人,そして殺傷本能全開の超ドS中学生,小鳥遊眞子(たかなしまこ)がいた。果たして,勝つのは人間かゾンビか。血みどろの一夜がここに幕を開ける――というのが,前作『あるゾンビ少女の災難』のストーリー。
天然お嬢様と毒舌メイドによる,漫才のようなやりとりは楽しく笑えるが,ユーフロジーヌが人間を殺したり,逆に人間に罠にかけられ,頭を撃たれたり,手足を斬られたり,火だるまにされたりと,やっていることは結構凄惨。表現的にも倫理的にも映像化が大変そうだが,それはそれとして,話自体は前作で綺麗に完結していたのに,続編をどう作るのかなあと思っていたら,タイトルが「入学」ですよ。えっ,学校に通うの? ゾンビが?
●入学先はゾンビ学園。そしてまさかのヒロイン変更!?
高校に進学したばかりの指宿孝晴(いぶすきたかはる)は,入学式に向かう途中,食パンをくわえて走る女子高生と出会いがしらに衝突してしまう。ラブコメだ! しかも,ぶつかった女子高生の正体は小学生時代の幼馴染み,小鳥遊眞子だった。王道だ! 数年ぶりの再会だが,思わず震え上がる孝晴。なぜなら,かつての眞子は常日頃からカッターナイフを持ち歩き,その残虐な性格で学校中の男子を恐怖に陥れていたのだ。
しかし,その眞子の様子がどうにもおかしい。向こうはこちらのことを覚えていないし,性格がまるで別人のように変わっている。しかも校門に挟まれて右腕がもげているのに,微笑を浮かべている。何と,眞子はゾンビになっていたのだ! ……やっぱり王道じゃないね,これ。
ゾンビであることが判明した眞子は駆けつけてきた市役所の職員に捕まり,そのまま連れ去られてしまう。彼女が送られた先は,私立椛祢(かばね)学園。ゾンビになったことで眞子の性格が変わっていると考えた孝晴は,積年の恨みを晴らすため,彼女を追って椛祢学園に転入する。だが,この学園,明らかに普通じゃない。生徒会の人が,むき出しの心臓やホルマリン漬けの脳みそを運んでいるし,生徒がみんな武器を持参しているし,父親からの入学祝いが散弾銃だし,ヤバい匂いしかしない。
そして,入学式で明かされる真実。椛祢学園は,ゾンビ退治の専門家「重殺士」を養成するためにゾンビと人間が共に学ぶ特殊校だったのだ! しかし,実際のところ入学した生徒は冷やかし半分だったり,とりあえず資格が取りたかったりという者ばかりで,ゾンビの存在なんて半信半疑……と思ったら,式の壇上でゾンビが早くも大暴れ。悲鳴と銃声が飛び交い,体育館は大パニックに。こんな感じで孝晴の波乱の学園生活がスタートする。
あれ? ところで,前作の主人公だったユーフロジーヌとアルマ・Vはどこに? それは読んでのお楽しみである。
●ラブコメ要素も追加で前作以上にパワーアップ
前作である『災難』は元々ハードカバーで出版されており,「閉鎖空間で次々と人間が殺される」というホラー映画の定番を殺人鬼側の視点から書いた異色のスプラッタ・コメディだったのだが,今回は最初からライトノベルレーベルでの発売ということもあり,ラノベの定番,学園ものになっている。それに伴い,平気でマシンガンをぶっ放す教師や,チェインソーを振り回す修道院出身の少女など,アクの強い新キャラクターも多数登場する。
では,前作とはまったくの別物になってしまったのかというと,そうではない。入学式の騒動で死んだ少女がさっそくゾンビになって蘇ったり,脱走に失敗したゾンビの生徒が電流有刺鉄線で黒こげになったり,合宿で作ったカレーの肉がひとりでに動きだし人間の口に無理やり入り込んできたりと,ゾンビものならではのブラックなギャグは,むしろパワーアップしている。
また,ゾンビと人間による血沸き肉踊るバトルシーンも健在。今回は舞台が特殊なだけに,武器のバリエーションに加え,ゾンビの種類や数も増えている。さらに前作にはなかった恋愛要素も追加され,ラブコメ度も増大。果たしてゾンビと人間の種族を超えた愛は実現するのか?
というわけで,ギャグあり,ラブあり,バトルありと,てんこ盛りの『あるゾンビ少女の入学』。唯一の欠点は,前作で活躍していた毒舌メイド,アルマ・Vの出番が少ないこと。今回足りなかったアルマ分に関しては,次巻以降での登場と,そしてアニメと映画での活躍に期待するとしよう。
■実写映画とライトノベル
しかし,この内容を実写化か……というわけで,今回のコラムのテーマはライトノベルと実写映画。まず,最初に紹介するのは,ハリウッドで製作予定の『All You Need Is Kill』。ギタイと呼ばれる異星人と人類が戦争をする近未来。何度死んでも同じ一日を繰り返す無限ループに巻き込まれたキリヤ・ケイジが,ひたすら実戦で経験値を積み重ねていくSFミリタリー。原作の設定では主人公が新兵&日本人なのに,主演はまさかのトム・クルーズ。確かに超大物だけど……。あと桜坂先生はそろそろ新作を出してください。
『All You Need Is Kill』(著者:桜坂洋,イラスト:安倍吉俊/スーパーダッシュ文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
次に紹介するのは,入間人間の『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』。原作でのみーくんはイラストで一度も顔を見せないのだが,映画ではそういうわけにもいかず,顔がばっちり映っている。が,まさか坊主頭だったとは……。みーくんを演じる染谷将太による「ルージュの伝言」の鼻歌がすごく不気味だったり,屋上で座禅を組んでいる姿がすごく怪しかったり,決め台詞の「嘘だけど」をいちいちカメラ目線で言うのに少しイラッと来たりするが,そういうものをすべて含めて良い映画です。あと,実写でヤンデレを見ると胃が凄く痛くなる。
最後に紹介するのが,本田透の『ライトノベルの楽しい書き方』。高校生の与八雲が,クラスメイトのライトノベル作家,流鏑馬剣に協力するため恋人ごっこをするラブコメディ。映画版は,主人公役がミュージカル「テニスの王子様」にも出演している佐藤永典,ヒロインがアイドルグループ,Berryz工房の須藤茉麻,サブヒロインが人気声優の竹達彩奈,脚本が美少女ゲームの人気シナリオライター高橋龍也と,いろんな層のオタクをいっぺんに狙っていて凄い。けど,何よりも國府田マリ子がお母さん役を演じていたことに時の流れを感じました。
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