連載
「放課後ライトノベル」第118回は『ROBOTICS;NOTES 瀬乃宮みさ希の未発表手記』で10年前の種子島に行ってみよう
俺はジョジョを見ないことをやめるぞ! ジョジョーッ!!
というわけで,このたび筆者は長年の禁を破り「ジョジョの奇妙な冒険」に触れない人生に終止符を打つことにした。だがアニメで。こんなことを書くと熱心な原作ファンから石を投げられそうだが,原作があまりに長いから仕方がないのだ。そりゃあ,できることなら「『ジョジョ』は○部が最高」話とかしたいよ! でもアニメを楽しんで見てるから,それで勘弁して! なぜか毎話,知ってる台詞がひとつふたつは出るから安心して見られるしね!
そんなわけで「ジョジョ」に釘付けなあまり,今秋のアニメはせっかく原作をプレイした「ROBOTICS;NOTES」(PS3 / Xbox 360)すら,ろくに見られていないという体たらく。せめてノベライズでも読んでメディアミックス気分を味わおうとしたら,すでに4作も出ていて泣きそうになった。ど,どういうことだってばよ……。
泣いていても仕方ないので,涙をぬぐって小説の中でも綯ちゃんに会えることだけを楽しみに4作を読み切った筆者が今回の「放課後ライトノベル」で紹介するのは,最後発となる『ROBOTICS;NOTES 瀬乃宮みさ希の未発表手記』だ。なお,本書はその性質上,紹介に当たって原作の少なからぬネタバレが不可避なので,これから「ROBOTICS;NOTES」に触れてみようと思っている人はご注意いただきたい。ちなみに綯ちゃんは4作中1作しか出てきませんでした……。
『ROBOTICS;NOTES 瀬乃宮みさ希の未発表手記』 原作:5pb. 著者:海法紀光 イラストレーター:笹森トモエ 出版社/レーベル:アスキー・メディアワークス/電撃文庫 価格:630円(税込) ISBN:978-4-04-891150-4 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●2009年。すべては,10年前に始まっていた
瀬乃宮みさ希(せのみやみさき)。1994年,種子島生まれ。中央種子島高校ロボット研究部の設立者。原作ゲームの劇中では,世界的なロボット開発企業エグゾスケルトン社の広報として広く知られ,世間では半ばアイドルのような扱いを受けている。
才色兼備,文武両道。主人公・八汐海翔(やしおかいと)にとっては格闘ゲームにおける永遠の強敵。ヒロインのあき穂にとっては,大好きな憧れの姉にして,現ロボット部部長として超えるべき壁でもある。その存在は2人にとってあまりに大きく,長年離ればなれに暮らしていてなお,彼らに影響を与え続けていることが,原作では何度も描かれる。
本書はそんな,瀬乃宮みさ希の視点から描かれる,本編の前日譚だ。
中学時代のみさ希は,端的に言ってごく普通の中学生だった。ちょっと頭が良すぎ,妹好きっぷりが度を外れているきらいはあるが,世界を救う使命を課されているわけでも,狂気のマッドサイエンティストを自称する中二病患者というわけでもない。そのまま大人になれば,その才能を活かしてばりばり活躍したり,あるいは幸福な家庭を手に入れたり,といった未来図が容易に想像できそうな「普通の」少女だったのだ。
そんな彼女を変えたのは,道でスマートフォンを拾ったこと,そしてそれをきっかけに,1人の男と出会ったことだった。彼女にとって,この出会いは平穏な日々の終焉でもあった――。
●優秀すぎたライバルにして姉の,知られざる過去
原作では主人公グループからは一線を引かれ,サブキャラクターの立場だったみさ希。多くを語られることはなかった彼女の内面が,本書では丹念に描かれていく。
彼女がどんなに妹を愛していたかということ。友達ができないことに悩み,落ち込んだこと。ロボット作りを目指した背景には,純粋な(ある意味では不純な)動機があったこと。前述のような「海翔たちにとっての巨大な壁」としての印象が強いみさ希だが,そのイメージが強ければ強いほど,本書における表情の豊かさは鮮烈に映ることだろう。
伊禮瑞榎(いれいみずか)や長深田充彦(ながふかだみつひこ)といった,友人たちとのエピソードも見逃せない。原作中,大人の立場として海翔たちをサポートし,時に叱咤していた彼らも,このノベライズの中では高校生。原作よりずっと若い彼らとみさ希とのエピソードには,青春という言葉がなによりふさわしい。これはみさ希自身にも言えることだが,若かりし頃の彼らがイラスト化されているというビジュアル面での楽しみもある(ミッチーこと充彦はあまり変わらないが)。
そうした中でも一番の肝はやはり,みさ希が出会った1人の男とのエピソード。才能はあれどまだ子供だったみさ希と彼との物語がどのような決着を迎えたのか,このあたりはもしかすると,原作を未プレイの人のほうが楽しめるかもしれない。
●神となりうる男の,欲望の行く先とは――?
本書は瀬乃宮みさ希の視点から描かれる,本編の前日譚であると同時に,彼女が出会った「ある男」の物語でもある。
ある男――その名は「君島コウ」。原作では,さまざまな形で海翔たちを翻弄した,「敵」と呼べる男。本書では,そんな彼の内面にも,ごくさらりとだが触れられている。
短いセンテンスから読み取れるのは,彼が深い絶望を抱えていたということ。それは常人には決して理解できない――人を超えた,神にも等しい力を持ってしまった人間だからこそ持ち得る悩み。それゆえに彼は静かに暴走を始め,恐るべき計画を実行に移す。そして物語は「ROBOTICS;NOTES」本編へと続いていく。人道的に見れば,彼の行いは明確に「悪」だった。だがそこに至る経緯は本書を読めば,原作中の彼への見方も多少変わってくるかもしれない。
なお本書の幕間では,彼が原作の物語により深い形で関わっていたということが明かされる。彼の恐ろしさを再確認すると共に,原作をプレイした読者には,驚きをもって受け止められるに違いない。そのあたりも含め,原作を補完する物語としての本書の役割は小さくない。原作をプレイしたあとには,ぜひ手に取ってみてほしい1冊だ。
■「ROBOTICS;NOTES」のノベライズ作品を一挙紹介
先に述べたように,「ROBOTICS;NOTES」のノベライズは現在までに4作が刊行されている。残る3作についても,ここで軽く紹介しておきたい(いずれも原作は5pb.)。
『ROBOTICS;NOTES 1 キルバラッド・アノテーション』(原作:5pb.,著者:岩佐まもる,イラスト:bun150/角川スニーカー文庫)
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『ROBOTICS;NOTES 1 キルバラッド・アノテーション』は原作に忠実なノベライズ。ただし,視点人物が原作ヒロインの1人,神代フラウに据えられている。……と書けば予想がつくかと思うが,@ちゃんねる語が原作以上に乱舞し,描写がよりひどい(褒め言葉)ことになっている。性質上,原作では途中から判明する彼女のバックボーンが早々に明かされているので,そこには注意しておきたい。
同じく原作の主要人物である日高昴にスポットを当てたのが『ROBOTICS;NOTES プロジェクト・プレアデス』(著:foca/ファミ通文庫)。謎の仮面ロボットマイスター・ミスタープレアデス誕生秘話ともいえる,原作の前日譚だ。登場人物も大半がオリジナルの,爽やかな青春ものとなっている。それにしてもミスタープレアデス……いったい何者なんだ……。
最後に紹介する『ROBOTICS;NOTES』(著:長野一郎/富士見ドラゴンブック)では,副題がないことから予想がつくように,ほぼ原作どおりに話が進む。ただし,重要なところで設定の変更が見られるので,今後の展開に予断を許さない。視点人物は主に海翔とあき穂だが,原作と異なり三人称で描かれるのが新鮮。
いずれも異なる角度から「ROBOTICS;NOTES」の魅力を掘り下げているので,気になったところから手をつけてみるのも一興だ。
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