企画記事
連休ドキュメンタリー:「アイドルマスター2」天海春香海外公演顛末レポート。霧のサンフランシスコと豪雪のユタで,何が起きたのか
いきなりで恐縮だが,私はもはや,プロのプロデューサーと言ってもいいのではないだろうか。前作「アイドルマスター」では,ゲームについて何も知らずに,ふとしたはずみでプレイを始め,いつのまにやら首までつかってしまったわけだが,最新作である「アイドルマスター2」については,予備知識も十分にあり,いろんな意味で完璧だった。事前のゲーム情報の記事もたくさん書いたというか,書かされたし,おまけに,発売前にプレイするという貴重な経験もしてしまった。やるなあ,オレ。ええ,がんばりました。
「アイドルマスター2」公式サイト
ふとしたはずみと,
うまくいかなかったサンフランシスコ公演
要するに,最初のユニットはバッドエンドを迎え,悲しい目に遭う公算が非常に大きいわけで,とくに,年齢のせいでリズム感に問題が多発しがちな私の場合,そうなる可能性はさらに増大する。えへへ。
ご存じのように,前作アイドルマスターもそういう作りになっており,多くのプレイヤーが担当アイドルとの涙の別れを経てゲームにはまりこんでいった。以前掲載したレビューは,私自身のそうした経験を書いているのだが,あとでいろんな人に,「オレもそうだった」と言われてかなりビックリしたものだ。書いているときには,自分の体験がごく個人的で非常にユニークなものだと思っていたのに,なんのことはない,何年も前に多くの人々に起きたことを,きれいにトレースしていただけだったというわけだ。うーん,そうだったのか。
まあそんなことはともかく,やはり最初は春香だろうか? それとも彼女は最後にして,満を持してトップアイドルへの階段を駆けのぼってもらうべきか。しかし,かなりの確率で泣かせることが分かっているのに,ほかに誰がいるというのだろうか? うう,仕事にならん……という感じで,ハタから見ればかなーりアレなことに,日夜頭を痛めていたのだ。編集部で隣の席に座っているgingerに「最初は誰がいいだろうか」と相談し,「知るわけないですよ,そんなこと」とバッサリ切って落とされたのもいい思い出だ。ああ,発売が待ち切れん。
ところが,好事魔多し。リリース直後の2月下旬に私はサンフランシスコ出張を命じられたのである。いやまあ,出張のスケジュールは昨年(2010年)から決まっていたことで,突然行けと言われたわけではないのだが,この時期に1週間も日本を空けるのはつらいので,なんだったらキャンセルさせてもらおうかとも思ったけど,理由を聞かれるとちゃんと答えられないような気がしたのでやめた。もういい歳なので,アイドル達が私を待っているんです,と主張しても分かってもらえないだろう,社会人として。
うーむ,こうなったら――と,私は出張に持って行くスーツケースにXbox 360と買ったばかりのアイドルマスター2を詰め込んだのである。何をしたいのかといえば,もちろん,取材先でプレイしようという魂胆。こうやって文字にしてみると,自分でも相当おかしなことをしているような気がするが,そのときは,あまりのグッドアイデアぶりに我ながら感心したものだ。頭が良すぎる! まあ,問題といえば,スーツケースがやたらと重くなり,真冬だというのに,移動時に必要以上の汗をかいたことぐらいだ。
しかし正直な話,そのときの私は誇らしい気持ちでいっぱいだった。日本には数多くのプロデューサーがいるはずだが,さすがに「天海春香サンフランシスコ公演」を成功させたプロデューサーは私が最初だろう。できることなら,ゴールデンゲートブリッジとかアルカトラズ島とか,えーと,ゴールデンなんとかとか,(編集部注:松本はサンフランシスコにあまり詳しくない)そうした名所を背景にアイドル達に歌って踊ってほしいところだが,残念ながら電気がないとXbox 360は動かないので,難しいだろう。しかし,うーんと頑張ればそういうこともできるのではないだろうか,なんとなく。
さて,結果から述べると,海外公演は失敗に終わった。理由はごく簡単で,ホテルのテレビにXbox 360がうまくつながらず,音声は出るが,映像がまったく表示されなかったのである。音だけを頼りにプレイしてみようかとも思ったが,そもそも初見のタイトルなので何が起きているかさっぱり分からず,あきらめざるを得なかったのだ。
多くのホテルと同様,我々が宿泊したホテルのテレビにも“ペイTV”チャンネルがあり,有料で映画などを見せている。DVDプレイヤーなどを持ち込まれてテレビにつなげられてはホテルが儲からないので,そういう制限が加えられているのではないかと,同行したAV機器に詳しい編集者は想像していたが,がっくりだ。ケーブルのせいかと思って,わざわざショップでS端子つきAVケーブルを35ドルはたいて購入した私の立場はどうなるのだ? あきらめきれず,Xbox 360を持って外に出てみたが,このページに掲載したのはそのときの写真だ。もちろん外に出たって,どうなるものでもない。この心境をあえてFPSにたとえてみると,万全の迎撃態勢を整えて待っていたら,敵が背後から来たので全滅したという感じだろうか。くっ。
夕日に誓ったリベンジと,アイドルマスター2
帰国した私はリベンジを誓った。なぜ誓ったのか自分でもよく分からないのだが,誓ってしまったものはしょうがない。春香,キミの海外公演,必ず成功させてやるからな。もしかしたら本人は迷惑かもしれないが,必ず成功させてやるからな。
日本ではすでに多くのプロデューサーが何周もゲームを進め,それに伴ってさまざまな情報が次々に明らかになっていたので,いずれにせよ私の出遅れムードは濃厚だ。というわけで,悩んだあげく,私は春香をリーダーとしたユニットを結成してゲームに挑み,案の定,アイドルアカデミー大賞はおろか,部門賞1つ取れずにエンディングを迎えた。しかし,大丈夫。なーんにも知らなかった半年前の私ではなく,今や冒頭にも書いたように,いろいろなことに非常に詳しくなったプロデューサーに成長したので,ここで失敗するのはとっくのとうに折り込み済みだ。ふふふ。
……だったはずなのに,不覚にも私はバッドエンドにショックを受けた。ショックどころか,思いがけないほど打ちのめされたのである。
デビュー以来の半年,たった1人でアイドル活動をしてきた春香は,ちっとも人気がでないので,さすがに気落ちしていたが,そんな自分にプロデューサーが付いてくれたことや,ユニットの仲間と活動できるようになったことがもう,嬉しくて嬉しくてたまらない。リーダーの重圧に耐えられなくなったり,仲間との関係がギクシャクしたりすることもあったが,そんな問題もがんばって乗り越えてきた。それなのに,結局私は彼女をどうしてやることもできなかったのだ。すまない。そんなに泣かないでくれ。
よし分かった。こうなったらやることは1つしかない。レッスンにオーディションに練習を積み,ゲームシステムを理解し,ときにリセットスイッチを押したりなんかしながら腕を磨いていくしかないだろう。もちろん,伝家の宝刀,マイクロソフトポイントも――今のところ,そんなにダウンロードコンテンツは出ていないけど――抜きまくる。春香,私はいつかキミをトップアイドルにしてみせるって,あれ?
えーと,薄々気づいている人もいるかもしれないが,これは半年ほど前,私が前作アイドルマスターで陥ったのとまったく同じ状況だ。もうね,分かっていたはずなのに同じことになる自分が憎くてしょうがない。どこが“プロのプロデューサー”なのだろうか? ともあれ,私は残るアイドル達をリーダーにして,プレイを再開した。するしかないじゃないですか。
システムが大きく違うので,前作に比べて難度が上がったのか下がったのかは一概には言えないが,アイドルマスター2に限れば,グッドエンドを迎えるのは比較的容易だが,パーフェクトエンドを狙うとハードルがググッと跳ね上がるという印象だ。実際,如月千早のユニットが最後の特殊なフェスをクリアしたのは,ゲーム開始後53週目のことで,残りわずか2週というきわどさ。冷や汗タラタラだった。
また,アイドルマスター2の特徴として,ユニットのメンバー3人の相互の関係が重視されていることが挙げられる。具体的には,3人のメンバーの間柄が険悪になったり,2人対1人でグループができちゃったりするわけで,最初はさすがに当惑した。なぜなら,半世紀ほど生きてはいるものの,女の子のケンカを仲裁するというチャンスは,記憶のどこを探ってもまったくなかったからだ。もう,どうしていいか想像もつかないので,これは困ったぞ。
もっとも,こうしたトラブルにはちゃんと処方箋が用意されており,それさえ分かってしまえば,これまで見られなかった彼女達の姿を余裕をもって楽しめる。春香の「プロデューサーさん,おはようございます。ふん!」はあまりにも分かりやすすぎて,何度見ても吹き出しちゃうのね。
ポーカーフェイスとは無縁な女の子ばかりなので,プレイヤーはアイドルが何を考えているのか,彼女達の表情を見つめることが多くなり,向こうもこちらを見返しているので,真夜中に1人でプレイしているときなど,だんだん彼女達がそこにいるような気分になってきて,いろんな意味で私はもうダメだと思う。
かくして睡眠時間とか仕事とか,さまざまなのものを犠牲にしつつ,私は8組のアイドルユニットをトップに導いた。さあ,いよいよ,春香リーダーの出番だ。さすがに10週目ともなると順調に進むはずだと思っていたら,え,ユタ州へ出張ですか?
いやしかし,春香のユニット「リボンシスターズ」は今,非常に微妙な時期で,ここで日本を離れるわけには……,という言い訳が通じるわけがないのは,上にも書いたとおりだ。分かりました。行ってきます,高木社長。
実は,サンフランシスコ公演のあと,これではいけないと思って,持ち運べるテレビの購入を検討したのだが,検討しただけで買うのをすっかり忘れており,画竜点睛を欠くとはまさにこのことだろう。しまった!
謎の切り替えスイッチと,成功したユタ公演
そんな仕掛けだったとは,ちっとも知らなかった。これはもしかしたら,サンフランシスコでも,このスイッチを切り替えていれば,ちゃんと映ったのかもしれない。もうほんとにドジっ子だなあ,オレは,あははは。なんて言ってる場合じゃなくて,ついにユタ公演成功である。
画面では,765プロにやってきた春香が「おはようございます,プロデューサーさん。今日もはりきっていきますよー」とかなんとかしゃべっているのだ,アメリカで。
とはいえ,出発の時間は迫っており,ホテルを出るまでそれほど残り時間はない。どうすべきか? もちろん続行だ! 当然,ここでやめるわけにはいかないだろう。
とはいえ時間は少なく,ものすごい超特急でゲームを進めなければならない。通常,春香のセリフはスキップせず,同じフレーズを何度も何度も何度も聞いているのだが,今回だけはカンベンしてもらい,Aボタン連打。また,これもあんまりやらないのだが,難度の高いフェスでは「アイドルにお任せ」を選び,これまで一度もやったことのない「ステージシーンのスキップ」まで何回かやってしまった。だがそれでも,時間がない。
うっ,この忙しいのにオーディション失格か。おっと,うっかりじゃんけんに勝ってしまった。なに,アイドル任せでも勝てないだと。くー,レッスンだ。という具合に,手に汗握るプロデュース活動の末,出発の約1時間前にようやく最後の勝利を収めたのだ。やったぞ春香。おめでとう。よくがんばったな。それにしても,いい歳してゲームで徹夜かよ,おっさん。しかもアメリカで。
エンディングを見てから,あわててスーツケースにXbox 360を投げ込み,なんとか日本に帰ってきた。言うまでもないことだが,大変疲れた。だが,私は満足だ。
上に掲載した写真はそのときのものだが,まあそれにしても,室内でやっていたのでは,今さらながらちっともアメリカらしくないような気がしないでもない。ちなみに次回は「天海春香ロサンゼルス公演」が6月に予定されているので,ディスプレイと電力の問題を解決して,なんとかロサンゼルスっぽいところでプレイしたいと思っている。もちろん,その前に偉い人から「いいかげんにしろ!」と怒られる可能性も十分にあるが。
というわけで,さて,以下はちょっとネタバレ注意だ。
徹夜明けで,精神的にかなりまいっていたというハンディも考慮しなくてはならないが,「えへへ,だーれだ?」という嬉しそうな声とともにゲーム画面が暗転したとき,私は安堵のあまり肩から力が抜け,不覚にも画面が涙でにじんで見えた。またか,と思う瞬間もあっただけに,本当に良かったと思う。そう,もう以前のように,悲しいことでも笑って受け入れる物分かりのいい少女ではないのだ。やっぱり,そうでなくちゃ。
もちろん,ほかのアイドル達にもそれぞれの新たな物語が用意されており,ときに感動的で,ときにユーモラスで,ときにほのぼのとさせてくれる。
かくして,私はあの嬉しそうな声をもう一度聞きたくて,いつもの無限ループに突入している。前作も平行してプレイしているため,ときどき何がなんだかよく分からなくなるが,少なくとも幸せであることは間違いないだろう。さあ今日も,ファンレターを確認して帰るか。
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