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[TGS 2011]モバイルでもっともっと面白い作品作りを目指そう。パネルディスカッション「ゲームユーザーはどこに向かうのか」レポート
ユーザー動態が異なる海外市場
田中氏:
椎野さん,何か言いたいことがありそうですね。
椎野氏:
基本は,吉田さんの言うとおりだと思うんです。でも,自分は海外のマーケットと商売していますが,海外だと,「仲間と一緒に何かやる」というのがあんまりないように思えるんですね。
田中氏:
外国人がですか?
椎野氏:
はい。GREEさんがサービスされているようなゲームは,仲間同士で新しいゲームに移行して,開始直後に50万ユーザーとかに吹き上がるという話を聞くんですが,海外のソーシャルゲームはそういう友達関係にまったくとらわれず入ってくるんです。
田中氏:
なぜでしょうかね。
椎野氏:
あんまり,友達と一緒にゲームをやらないんですかね?(笑)。 いずれにしても,次のゲームを設計するにあたって,海外向けにサービスを作る場合と,国内向けに作る場合とで,コミュニティの強さやコミュニティによる招待の強さといったものは意図的に変えなきゃいけないと思っていて,その調査をしているところです。
田中氏:
GREEさんは今,海外展開を目指していますが,そのあたりはどうですか?
吉田氏:
まず,ゲームのバリエーションがいろいろあって,仲間と一緒に何かやるというものもあれば,もうちょっとライトなものもあります。
あと,友達とのつながりをどこで作らせるかというのもいろいろ変えていこうと思ってます。ネットワークからつながるのもあれば,身近に集まって遊ぶという場面にも対応させようという構想もあります。そういう接点を多くするようにはしています。
田中氏:
海外におけるローカライズ展開の違いという点では,スクエニさんやコーエーテクモさんはどうでしょう?
安藤氏:
うちの会社の場合,ローカライズは内部と外部にチームがあるんですが,内部に入ってる人達は,クリエイターのような翻訳をするんです。例えば日本語でも,このキャラクターは邪悪な人間だから邪悪な雰囲気を漂わせたような言い回しをさせる,といった演出がありますが,こういうのは各言語にあるんですね。でもそれは,作品をやりこんだうえで,語尾とかを決めていかなくてはいけない。それができるのが内部の良さですね。
ただ,時間はかかりますし,社内でも人気があるので(笑),内部のチームを押さえるのは大変だったりします。そういう違いはありますね。
田中氏:
コーエーテクモさんはアジアに展開されてますが,アジアはどうですか?
松枝氏:
対人要素が顕著な差としてあります。国内で作ると対人要素は抑えめですが,中国市場だと,バトル要素にとても多くのリクエストがきたりします。バトルするのがプレイの動機なので。
安藤氏:
外国人のコミュニケーションについては,個人的な仮説があるんですよ。外国の人って,人生にとって最大のエンターテイメントは直接人と話すことなんです。それ以上のエンターテイメントなんてないと思っていて,イギリスとかですと無条件でみんなパブに行って,おしゃべりするんです。コミュニケーションコストを積極的に高めるんですね。
でも携帯のゲームって,コミュニケーションコストが下がる方向に行ってるじゃないですか。どんどん「ゆるくつながる」ようになっている。でも海外では,どうせコミュニケーションするのであれば,PCを使った環境でフルチャット,ないしはヘッドギアをつけて喋りながら遊ぶ,そういう傾向があると思うんです。
これって,人々が何を一番のエンターテイメントにしているかと考えたとき,そこで会話が占めるウェイトというのが,日本と海外で違うんじゃないかなと勝手に仮説を立ててます。
田中氏:
GREEさんは今,世界中に支社を展開したりしてますが,こういったことは意識されてますか?
吉田氏:
意識はしてます。やはり海外に行くと,ティータイムにはちゃんとお茶を飲みますし,みんなで喋ります。日本みたいにお茶を飲みながら携帯電話を取り出すとかいったことはありませんね。Twitterをしながらお茶を飲むとか,絶対にやりません。
でも,昔は日本もそうだったはずなんですよ。変わった結果なんだと思うんです。ネットワークや通信デバイスが出てくると,コミュニケーションのあり方も変わっていきます。昔は手紙を書いていたのが,電話を使うようになり,携帯電話を使うようになりと,だんだん変わってきました。だから,それをさらに変えられるようにしたいな,という思いはあります。
次のタイトルを考えるとき,企画設計をどうするか
最近,ソーシャルゲームやっている人は皆さん感じていると思うんですが,「同じようなゲームしか出ないじゃないか」っていうのがあります。「全部ドラコレ(ドラゴンコレクション)じゃん」と。とにかくドラゴン出して,バトルすればいい,みたいな空気があって。GREEさんも最近,ドラゴン増えてますよね(笑)。
これと似てるなと思うのが,昔のアーケードゲームの最盛期なんです。シューティングにしても2Dの対戦格闘にしても,いろんなゲームが似てきて,マニアックなところでは確かに違うんだけど,本質的には「これはあのゲームと一緒ですね」みたいな部分がありました。
次にもう一段階ソーシャルゲームが跳ねるとしたら,ファミコンで言うと「マリオからドラクエになった」みたいな,そういう飛躍がないと伸びないなと思っているので,そのあたりを話したいと思います。
吉田氏:
スマートフォンが出てきたのは大きかったと思ってます。フィーチャーフォンだと,ゲームジャンルがデバイスによって制限されてしまうことが多かったんです。
スマートフォンになることで,できることがかなり増えました。もちろん,今までの日本の携帯電話で動いていたゲームや,Facebookのソーシャルゲームのようなものは引き続き,いくつか準備してますが,もうちょっとコアのユーザーさんが喜んでくれるものもいくつか仕込んでますし,逆にスマートフォンを買ったんだけど使い方が分からないというような人が遊べるような,もっとライトなものも用意しています。
田中氏:
いろんなパターンを試そうという感じですか。
吉田氏:
試したいと思ってます。あと,僕の中で衝撃的だったのは,Kingdom Conquestがずっと売り上げランクの1位にいたことですね。僕にとっては,びっくりすることでした。このクラスのゲームを,スマートフォンでみんなが遊ぶんだ,という感じで。
田中氏:
Kingdom Conquestは,完全に「ゲーム」ですよね。
吉田氏:
そういう本格的なゲームを,みんなが遊んでるわけです。一方で,ドリランドみたいに,フィーチャーフォンで作られたものも受け入れられています。ユーザーさんに随分と幅ができているな,と思いました。ということは,もっといろいろ振っていいだろう,と。なので思い切り試してみようとしているところです。
傑出したギミックとしての「ガチャ」
椎野氏:
質問なんですが,そういう感じでライトなゲームもヘビーなゲームもありますが,ガチャは普遍なんですかね?
吉田氏:
ガチャは普遍ではあると思うんですが,ガチャじゃないモデルというのも準備しようとしています。
椎野氏:
僕は,ガチャは醤油だと思ってるんです。日本人ってお醤油大好きじゃないですか。どんな不味いものでも,お醤油かければ食べられちゃったりする。
ガチャって割とそういうものなのかなと思ってます。非常に売り上げが立つし,一つ欲しいものに対して直接的ではないプロセスを経ることになるので,マネタイズの方法として優れています。
ソーシャルゲームはマネタイズをどうするかに大きく依存している部分もあって,GREEさんはそこを上手にやられていると思うんですが,今後,ガチャ以外の方法としてどんなものを考えているんですか?
田中氏:
そんな方法があるんですかね?
吉田氏:
あると思ってます。椎野さんがやっていることって,スマートフォンをPCに見立てるやり方だと思います。携帯電話って性能が上がってきて,いまやPCと同じになってきた。じゃあ,無料で遊べるゲームの大先輩はってことになると,PCのネットワークゲーム,MMOじゃないですか。であれば,そのスキームをそのまま持ってくることは可能だろう,と思ってます。コミュニケーション手段としてフルチャットとかはできないので,その部分はカスタマイズが必要ですが。
PCゲームでは,ガチャがなくてもちゃんと売り上げが出ているタイトルがありますから,そういうマネタイズは絶対に参考になると思います。人間の心理って,携帯だろうがPCだろうがそんなに変わらないですから。
田中氏:
コアゲーマーはそうだと思います。でも,そうじゃない人にとって,ガチャは分かりやすくていいんじゃないか,とか思ってしまうんですが。
椎野氏:
海外でガチャをどうするのか,という問題もありますね。
吉田氏:
海外だと,できない国があったりしますね。中国だと結構こまめにアイテムを売るというパターンが有効だとか,そういうやり方もあります。
ただ,もともと釣りスタってガチャはなかったんですよ。アイテムに意味があれば,普通に買ってくれるので。そこをちゃんとゲームモデルとしてやったり,あるいはギフト系のものを活性化させたりするというのもやりやすい手段だと思います。
アバターとOpenFeint
安藤氏:
アバターの可能性はどうですか? GREEさんはSNSでアバターをやられてますし,PCゲームにはアバターアイテムが大きな収益になっているものもあります。
吉田氏:
アバターは難しいところがあって,露出する面積が増えないと買ってもらえないんですね。ゲームの中にアバターアイテムを入れるにしても,単に服を売ればいいというわけじゃなくて,ちゃんとそれでコミュニケーションをとるときに見せられなくてはいけないんです。そういうデザインになっていれば,大丈夫じゃないかなと思います。
田中氏:
実際僕も,アバターもガチャもやってますが,アバターアイテムって一定量買うとそこで終わっちゃうんです。ガチャって新しいシリーズに対してコンプする楽しみというのがあって,そこでユーザーさんは遊べて,結果的にお金を使ってもらえるというところは優れていると思います。
椎野氏:
OpenFeintはアバターないんでしたっけ?
吉田氏:
アバターはまだ入れていません。もともと写真とかが多いんです。
椎野氏:
割とリアルグラフに近いじゃないですか。バーチャルグラフ寄りにしていこう,という計画はあるんですか?
吉田氏:
そこは……迷ってまして。今のGREEのアバターは日本寄りのアバターで,海外とはテイストがぜんぜん違うんですね。それを持ち出すのか,でも,それを共通のプラットフォームでやると結構違和感が出るんじゃないか,とか。
田中氏:
Xbox 360のアバターとかも,僕らから見ると「これはどうなんだ」とか思いますが,ああいう等身が高くてアダルトな感じのアバターが海外ではウケていたりしますから,キュートな路線だと海外では難しいかもしれませんね。
本当に統一すべき? それとも分断すべき?
椎野氏:
もう一つ,皆さん全員に質問があって,これからゲームを作るにあたって,スマートフォンってグローバルな時代じゃないですか。Kingdom Conquestも日本以外でもサービスしていますし。
そうなると,ユーザーさんっていろんな国籍の人がいますし,カルチャーも違うので,全部のユーザーを一緒にゲームさせるのか,それともリージョン単位で切っていくのが正しいのか,悩むところだと思うんですよ。コミュニケーションの問題も含め,そのあたりはどうでしょう?
田中氏:
理想は「マリオ」ですよね。同じ作品を,世界中の全員に楽しんでもらう。でも,なかなかそうはいかない,と。
椎野氏:
ソーシャルゲームなので,コミュニケーションをとることが前提じゃないですか。そうなると,言葉やカルチャーの問題が大きいんですよね。
吉田氏:
確かに,理想はマリオです。なので,今はそういう前提で作ってはいます。とはいえ,日本のソーシャルゲームってイベントが多いんですね。お正月イベントとか,バレンタインイベントとか。そのため,それぞれの国に合うよう,カルチャライズすることが必要になるかなと思っています。
安藤氏:
ケースバイケース,ですね。「ファイナルファンタジーXI」は世界を共有してるじゃないですか。あれは一つの理想だと思います。
田中氏:
FF11は,どう見てもキャラクターが外人ですもんね(笑)。
安藤氏:
世界観もしっくりくる部分がありますし。でも,必ずしも,つながってるから良いというものではないと思うんです。分けたほうがいいものもあるでしょう。つながっていくと凄いみたいな雰囲気がありますけど,それって都市伝説かなと思っていて,「繋がる=成功」「繋がる=面白い」とは限らないんじゃないでしょうか。分けること,制限することで初めて面白さが出るということもあると思います。
田中氏:
コーエーテクモさんのゲームだと,「そもそも信長って誰?」みたいなことになりませんか?(笑)。
松枝氏:
確かに,アジアでは強くても,ヨーロッパではダメ,といったタイトルはありますね。とはいえ,歴史上の人物としての信長は,台湾では知名度がありますよ。
椎野氏:
我々が直面している問題は,オンラインゲームではよくあることなんですが,日本人は割とルールに則って楽しんでもらっていることが多いんです。でも,中国などのプレイヤーはバグさえもルールの一つと考え,そこに対してかなり強く突っ込んでくるんです。
将来的に,世界を一つにまとめていくべきなのか,それともカルチャー単位で分けていくべきなのかという議論は,今後絶対に起こってくると思います。コアなゲームは分けたほうがいいという側面があると思いますが,カジュアル寄りのゲームではどうなのかな,とか。
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