インタビュー
10周年を迎える「World of Tanks」,ウォーゲーミングのCEOビクター・キスリー氏インタビュー。「ここまでのヒット作になるとは全く予想していませんでした」
そんな「World of Tanks」がロシアでのサービス開始から10周年を迎える。
今回は,4Gamerでも幾度となくインタビューを行っているウォーゲーミングのCEO ビクター・キスリー氏(Victor Kislyi氏)に,10周年を記念したインタビューを依頼した。最初は「10周年なので日本のファン向けに何かコメントいただけないでしょうか」くらいの打診だったのだが,キスリー氏の提言で「じゃあせっかくなのでオンラインで直接お話ししましょう」という展開に。
World of Tanksのこれからに加えて,ウォーゲーミングの開発事情や,開発中の新作についても聞けたので,ぜひお目通しいただきたい。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。4Gamerでは2019年のgamescomでインタビューさせていただきましたが,私自身としては2017年の東京ゲームショウ以来ですね。お久しぶりです。
ビクター・キスリー氏:(以下,キスリー氏)
ええ,お久しぶりです。ちゃんと覚えてますよ。
現在はCOVID-19の影響で,日本だけでなく他の国にも簡単には行けない状況が続いています。ワクチンの開発などの解決策が見つかり,一日でも早く世界が日常を取り戻すことを期待しています。
私自身,日本が大好きなので,COVID-19が終息したらイベントなどの何らかの機会に乗じて日本に行きたいですね。私は普段ヨーロッパにいますが,日本や韓国,シンガポールに行くのはいつも楽しみです。
オフラインイベントが中止になって文化的な交流は減っています。ですが,アニメなどの日本のIPとのコラボレーションは継続して行えています。最近だと「World of Warships」「World of Warships Legends」(PS4 / Xbox One)でのコラボもありましたね。これは,私たちを通じて日本のコンテンツを世界にも発信している,ということです。
4Gamer:
World of Tanksは今年で10周年を迎えました。いまだにニッチなジャンルだとは思いますが,これほどヒットして長く愛されるタイトルになることを予想していましたか。
キスリー氏:
いいえ。10年前はここまでのヒット作になるとは全く考えていませんでした。CISで成功して以来,ヨーロッパ,アメリカ,日本,韓国,南アジア,中国とサービスを展開していきました。重要なのは全地域の人たちに愛してもらうことだと思っています。そのために我々は10年間,非常に多くの試行錯誤をしてきたのです。10周年を迎えられたのはその結果だと思います。
4Gamer:
ちなみにCIS地域での戦車とはどういった存在なのでしょうか。
キスリー氏:
宗教に近いですね(笑)。日本でのアニメ文化に等しいと思います。
4Gamer:
ああ,なるほど。すごくしっくりきました(笑)
World of Tanksのこれから
4Gamer:
World of Tanksの今後の展開を教えてください。
キスリー氏:
我々は「World of Tanks」を当たり前の,あるいは日常の1つにしたいんです。釣りやサッカーのような数多くある趣味の1つとして,人々に受け入れてもらえるように日々努力しています。
マップや新しい車輛などのコンテンツの追加はもちろんですが,大切なのは「季節的なイベント」だと考えています。「World of Tanks」にはおどろおどろしい雰囲気になるハロウィーン,お祝い的な雰囲気になるクリスマスやニューイヤーといったホリデーシーズン,ヨーロッパでは戦勝記念日なども重要ですし,エイプリルフールでは一風変わった取り組みを行ったりもしています。
夏の時期は夏休みが始まり,海に行ったり家族と過ごしたりとゲーム的にはいわゆるオフシーズンになりますが,8月はWorld of Tanksの誕生月で,そこでは限定のスペシャルイベントを実施します。そして9月に新学期が始まり,また1年を通した行事を行っていく。それぞれが年に一回訪れる“恒例のお祭り”なのです。
バトルロイヤル形式のSteel Hunterモードのような新しいコンテンツも9月頃から取り入れていく予定です。そして日本のアニメや,アメリカのポップパンクバンドThe Offspring,Warhammer 40,000などのようなコラボレーションも継続して実施します。そういったものを取り入れつつ,ゲーム自体のクオリティの向上を図っていきます。
4Gamer:
次の10年はどうなっていくのでしょうか。
キスリー氏:
World of Tanksの根幹はずっと変わっていませんし,これからも変わりません。先ほどお話したように1年を通した行事的な取り組みももちろん行いますし,グラフィックスのアップデートや新しいコンテンツの開発,ゲームとしてより競技性の高いものに仕上げていきます。今後もユーザーからの要望にしっかりと耳を傾けていきたいです。
4Gamer:
600種類以上の戦車が登場している本作ですが,“新しい戦車の追加”はそろそろ難しくなってきていませんか。
キスリー氏:
種類が多くなると,バランス調整の面でもなかなか難しくなってきますね。今までは新しい車輛の追加に注力してきましたが,今後はバランス調整を重点的に取り組みたいです。
もちろん,今後も新しいコンテンツの追加は行います。以前より追加するペースは鈍化するかもしれませんが,今回追加された,ユニークな機能を持つ6両のポーランド中戦車など,新たな車輛を導入する予定です。
ポーランドの中戦車ですが,「通常」と「ターボ」の2つのエンジンモードを持っており,ターボモードを使用することで,凄まじい機動力を発揮します。その代わり,照準速度や隠蔽率の低下などのデメリットもあります。面白い車輛ですよ。
4Gamer:
なるほど。まだまだユニークな車輛はありますね。とはいえ,そろそろ第3世代MBTなどの追加も視野に入ってくるのでしょうか。
キスリー氏:
それについてはノーコメントでお願いします(笑)。
4Gamer:
やはり何も言えませんか(笑)。
ウォーゲーミングの新作動向
4Gamer:
それでは新作タイトルについて聞かせてください。
2019年のgamescomでオンラインTPS「Caliber」が発表されましたが,現在はどのような状況なのでしょうか。
キスリー氏:
1Cが開発している「Caliber」は,現在CIS地域でβテストを実施している状況です。まずはCISでどのように受け入れられるかというのを見たあとに,他の地域でもそのような展開が可能かどうかを検討していきます。なので,現状,他の地域でのサービスに関してはなんとも言えません。
4Gamer:
なるほど。もう1つ,gamescom 2019のインタビュー(関連記事)で話題になった,Sean Decker氏が開発中のタイトルの状況はいかがでしょう。
キスリー氏:
Sean Deckerは,ウォーゲーミングに入社する前はストックホルムにある,EA DICEでバトルフィールドの開発に関わっていました。
発表からだいたい1年半くらいになりますが,イギリスのシリコンバレー的な立ち位置である,ギルフォードにあるスタジオで彼を中心に新作を開発中です。我々の得意とするミリタリーモノで,競技性の高いものになっています。World of TanksやWorld of Warshipsのようなゲームではありません。
開発にはUnreal Engineを使用しています。私もギルフォードのスタジオを訪れていますし,社内でも社員で定期的にプレイして開発状況をチェックしています。大きなタイトルですが,アナウンスしてから何年も開発に時間が掛かるわけではないので,ひとまずは今後の発表に期待してもらえればと思います。
4Gamer:
バトルフィールドシリーズは個人的によくプレイゲームしているタイトルの1つなので,その開発に携わっていたSean Decker氏が率いるスタジオのタイトルは楽しみですね。
キスリー氏:
それはよかった! もちろんバトルフィールドではないですけどね(笑)。
4Gamer:
COVID-19で世界の様相は一変してしまいましたが,ウォーゲーミングとしての対応はどうだったのでしょうか。開発に影響は出ていたりするのですか。
キスリー氏:
COVID-19によって本当に世界は悲しい状況に見舞われています。ウォーゲーミングとして対することを決断しました。ウォーゲーミングにとって,安全性と社員の健康はいつも第一にあります。
社内システムの改修や,開発用のPCを社員の家に送るといった物理的な作業まで,やらなければならないことは膨大でしたが,2週間でこれを完了しました。そして2月初旬にはウォーゲーミングのオフィスを閉鎖しました。全社員が一丸となって結束し,取り組んでくれたことに感謝しています。
このような状況下でも我々の創造性は全く落ちていません。どのタイトルも計画通りに進行できています。「World of Tanks」は特別なイベントを含む,大きな山がいくつかありましたが,しっかりとパッチを配信しています。
私自身も家族と共に家にこもって仕事をしていますが,開発に対する創造性が上がっている自覚があります(笑)。家族と共に過ごす時間は大切なことだと,改めて感じていますね。
会社では必要性の分からない会議に出席することもありましたが,いまは大事な会議のみに出席できているので,その影響もあるかもしれません(笑)。
4Gamer:
不幸中の幸いというか,災い転じて福となすというか(笑)。しかし,COVID-19の影響でオフラインイベントも多くが中止になりました。「World of Tanks」も10周年でその影響はあったのでは?
キスリー氏:
ええ。World of Tanksの10周年記念イベントを企画していたのですが,それは中止になりました。あとはインタビューをやっと受けられたことですね。昨日,今年初めてのインタビューをしました。最初はアメリカのメディア,さきほどは韓国メディアのインタビューがあって,いま日本の4Gamerとお話しできています。こうした機会を待ち望んでいまして,「やっと,インタビューを受けられるぞ!」という気持ちです(笑)。
現在は世界的にもオフラインのイベントが中止され,プレイヤーの皆さんに会えませんが,いつかこの事態が終息したときにまた,皆さんとお会いできる日が来ることを楽しみにしています。こうした状況の中でも,ウォーゲーミングのゲームが皆さんの心の拠りどころになれたらいいなと思っています。
4Gamer:
終息したときにあらためて10周年のイベントに期待したいです。
キスリー氏:
そうですね。ですが,まずは世界が落ち着いてからですね。オフラインイベントなど,今できることを実直にやっていき,終息したら考えていきたいと思います。会社としても酸素濃縮器を購入してベラルーシの公的機関に寄付するなど,やれることをやっていきます。
4Gamer:
今年は次世代コンシューマ機が発売される見通しですが,ウォーゲーミングとして対応の予定はあるのでしょうか。
キスリー氏:
もちろん,何かしらの対応はしていくと思いますが,まだ具体的に何をやるかということは発表できません。コンシューマ機の対応ではPS4とXbox Oneのクロスプレイが7月21日にやっと実現できました。長年にわたって取り組んできたことなので,嬉しいですね。
次世代機に関しては何かしら発表するにしても,もう少し後になると思います。コンシューマ機と言えば,最近日本でも人気が高まっていると聞いている「WWE」とのコラボを行いました。アメリカを始め,非常に人気のあるコンテンツなので,楽しんでもらえたと思います。
4Gamer:
WWEだったり,Sabatonだったり,ユニークなコラボが多いのですが,こうしたコラボは誰が決めているんですか。
キスリー氏:
各タイトルにはそれぞれの地域に精通するパブリッシングチームがいて,その地域のマーケティングやパブリッシングチームが決めていますね。アニメ系のコラボは日本のチームが決めてきます(笑)。そういうわけなので,特定の誰かがという感じではありません。
4Gamer:
コラボする基準というのはあるのでしょうか。
キスリー氏:
「Blitz」はカジュアルですが,「World of Tanks」「World of Warships」は史実を再現することがゲームの根幹にあります。日本のガールズ&パンツァーを始め,Sabaton,ジャンルイジ・ブッフォン,The Offspring,アズールレーンなどいろいろなコラボを行ってきましたが,順序としては,その根幹を大事にし,世界観を壊さないように,そしてやりすぎないように,ユーザーの意見も聞きつつ,非常に慎重に進めています。
4Gamer:
最後に日本のファンへメッセージをお願いします。
キスリー氏:
東京ゲームショウはいつも行きたいと思っています。このインタビューのためのリップサービスではなく日本は本当に好きな場所なのです。次回,開催されたときにはぜひ参加したいですね。日本のファンの皆さんに会える日を楽しみにしています。
WoTもWoT Blitzも日本のプレイヤーは本当に熱心で,対戦結果の内容も素晴らしく,ひたむきで高い技術を持っています。ウォーゲーミングが運営しているタイトル全てで,このような素晴らしい日本のプレイヤーに支持して頂き,非常にうれしく思っています。今後,日本のプレイヤーにも嬉しいニュースを届けられたらいいな,と思っていますが,今はまだ言えません(笑)。
私はWoTでMausが好きで使っていたのですが,最近はもっぱら五式重戦車を使っています。ちなみにWoWsで好きなのは島風です。9割がたそれらで遊んでいますね。東京ゲームショウで,日本のプレイヤーと一緒にゲームができるイベントをやれたらいいですね。そのときには五式重戦車の使い方をお見せしましょう!
4Gamer:
東京ゲームショウでお会いできる日を楽しみにしています。ありがとうございました。スパシーバ。
キスリー氏:
スパシーバ! ありがとうございました!
「ウォーゲーミングジャパン」公式サイト
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