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[TGS 2013]「World of Tanks」では歴史の正確性とエンターテイメント性の両立を目指す。WargamingのCEOインタビュー
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印刷2013/09/22 17:58

インタビュー

[TGS 2013]「World of Tanks」では歴史の正確性とエンターテイメント性の両立を目指す。WargamingのCEOインタビュー

画像集#004のサムネイル/[TGS 2013]「World of Tanks」では歴史の正確性とエンターテイメント性の両立を目指す。WargamingのCEOインタビュー
 95式軽戦車をトレーラーに乗せて都内をパレードし,その戦車を東京ゲームショウ2013のブースに展示と,なんとも驚きのプロモーション活動を見せているWargaming Japan
 同社が運営する「World of Tanks」(以下,WoT)においても,日本戦車の実装が発表されるなど,ここ最近の動きからは目が離せない。

 そこで今回は,TGSにあわせて来日したWargaming.netのCEO,Victor Kislyi氏に,「World of Tanks」と,サービス開始が待ち望まれている「World of Warships」について,聞ける限りを聞いてみた。

 なお,本来は文中で氏の名前を「Kislyi氏」と表記すべきなのだろうが,Wargaming Japanスタッフの間でも「Victor」で通っているため,あえてVictor表記で進行させていただく。


遺棄された戦車を実際に調べた


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まず最初に,「World of Tanks」に日本の戦車を実装していただくことに深く感謝します。ですが,日本の戦車というのは資料が少なく,再現が難しかったと思うのですが,どのようにしてリサーチを行ったのでしょうか。

Wargaming.net CEO Victor Kislyi氏
画像集#001のサムネイル/[TGS 2013]「World of Tanks」では歴史の正確性とエンターテイメント性の両立を目指す。WargamingのCEOインタビュー
Victor:
 現在,我々の会社には2200人の社員がいて,そのなかにはフルタイムで戦車の歴史的研究をしている社員が12人います。図書館や美術館は基本ですが,ロシアの各地には日本の戦車が残っています。遺棄された戦車を実際に調べにも行きました。

4Gamer:
 今回の発表は軽戦車と中戦車が実装されるという内容でしたが,戦車はこれ以外にも増えるのでしょうか。

Victor:
 もちろんです。私自身は日本戦車の専門家というわけではありませんが,社員が広範な調査を行っています。日本の戦車というと95式のような軽戦車を思い浮かべがちですが,キングタイガー級の重戦車も存在していますしね。
 それ以外にも,プロトタイプや秘密兵器扱いだったもの,さらには駆逐戦車や自走砲といったものの実装も予定しています。加えて,戦車だけでなく日本のマップを追加することにもなっています。
 非常にたくさんの研究をしましたので,日本のファンにも喜んでいただけると思いますよ。

4Gamer:
 実は,今回の日本戦車実装にあたっては,私も少し協力させていただいております。

Victor:
 そうなんですか,ありがとうございます! やはり我々から見ると日本は遠い国なので,日本人の助けは重要です。


歴史的正確さと,ゲームとしての面白さ


4Gamer:
 WoTにおける日本の戦車についてもう少し踏み込んだ質問です。もしかしたら,日本のプレイヤーの中には,今回発表された開発ツリーにある74式に乗ったことがある人が結構な数いるのではないかと思います。
 なかには「自分はこの戦車に乗っていたが,本物はこうじゃなかった」という人も出てくるかもしれません。

Victor:
 そうかもしれませんね。ただ,WoTはコンピュータゲームであり,最も大事なのは,エンターテイメントであるということです。
 WoTはもちろん,「World of Warplanes」も,そして「World of Warships」も,歴史と,歴史に存在した兵器をベースにして作られています。ですがそこには開発者として避けられないジレンマがあって,歴史的正確さと,ゲームとしての面白さの間での,最適なバランスをとらねばなりません。

4Gamer:
 確かにそのバランスは難しいと思います。

画像集#003のサムネイル/[TGS 2013]「World of Tanks」では歴史の正確性とエンターテイメント性の両立を目指す。WargamingのCEOインタビュー

Victor:
 ゲームにおいては,すべてがリアルというわけではありません。70年前に起こった戦いと,我々が提供するゲームにおける戦いは,異なるものです。端的に言って,現実の戦いにはもっと時間がかかっていました。例えば飛行機であれば何時間も飛行してから,戦闘をしていたのです。
 ですが我々は,「2時間飛行したあとに戦闘する」というリアリティよりも,「5分で楽しめるエンターテイメント」を選びました。1回や2回で終わってしまうゲームではなく,毎日毎日,何年にもわたって遊び続けられるゲームですから,「面白い」ということには重要な意義があります。
 そういえば,「ガールズ・アンド・パンツァー」も,兵器をベースにしながらエンターテイメント性を追求しているという点でWoTと同じですよね。

4Gamer:
 「ガールズ・アンド・パンツァー」の話が出たところでもう1つ質問なのですが,アニメには大洗の市内で戦う場面があります。こういった,「ガールズ・アンド・パンツァー」を踏まえたマップのような企画はあるのでしょうか。

Victor:
 ああ……それはまったく考えていませんでしたが,確かに良いアイデアです。(スマートフォンを取り出し)ちょっとメモさせてください。

画像集#010のサムネイル/[TGS 2013]「World of Tanks」では歴史の正確性とエンターテイメント性の両立を目指す。WargamingのCEOインタビュー

4Gamer:
 ゲームの内容に踏み込んだ質問ですが,日本の戦車のだいたいの特徴はどのようなものになるのでしょうか。現状のWoTですと,例えばアメリカ戦車は砲塔が固くて俯角が大きい,フランス戦車は装甲が薄いが機動性が高いといった特徴があります。

Victor:
 そこに関しては実装をお待ちください。ですが他の国にもそれぞれの戦車に個性があるように,日本の戦車もまた特別な個性がありますよ。

4Gamer:
 Xbox 360版のWoTがリリースされましたが,日本においてはPS3のシェアが非常に大きいというのが現状です。PS3版のWoTという可能性はあるんでしょうか。

Victor:
 我々はMicrosoftと独占契約を結んでいます。これは決して我々がソニーを嫌っているというわけではなく,我々はずっと前からMicrosoftと良い関係にあり,その経験を生かしてゲームを作っているからです。
 また,Xbox 360版は単なる移植ではありません。テレビの画面とゲームパッドでプレイすることを前提とした再設計を行っています。

画像集#002のサムネイル/[TGS 2013]「World of Tanks」では歴史の正確性とエンターテイメント性の両立を目指す。WargamingのCEOインタビュー

タブレットでWoTを――World of Tanks Blitz


4Gamer:
 PS3版の予定はないとのことですが,そのほかのプラットフォームに作品を提供する予定はありますか。WoT以外のタイトルでもかまいません。

Victor:
 まず,「World of Tanks Blitz」iOS /Android)というタイトルが,スマートフォンやタブレット向けに開発されています。これはWoTと同じスタイルのゲームですが,7対7でプレイします。ゲームメカニクスもPC版とほとんど一緒で,装甲の貫通判定などもあります。
 ちなみにゲームの基盤となっている技術は独自のもので,一般的なゲームエンジンは利用していません。iOS版とAndroid版をリリース予定で,もちろんFree to Playです。

4Gamer:
 モバイル版のWoTですね。

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Victor:
 「World of Tanks Generals」というトレーディングカードゲームもあります。これはもともと紙に印刷されたリアルトレーディングカードゲームでしたが,これをブラウザゲームとしてリリースします。
 戦車のカードを中心にプレイするゲームですが,カードの入手方法は購入ではなく,WoTのように「リサーチする」形になります。同様に,「Tier」や「テクノロジーツリー」の概念もありますし,戦車を強化する歩兵のようなカードも用意されているんです。
 テンポが早いゲームですが,作戦立案や戦略という要素が強く,考える要素は多いですね。ルールは簡単ですが,勝つのは簡単ではありません。
 それから,以前Wargaming.netが買収したGas Powered Gamesのクリス・テイラーが,シアトルのスタジオで秘密の大型プロジェクトを進行させています。これについての詳しい情報は,もちろんトップシークレットですが(笑)。

4Gamer:
 クリス・テイラー氏が新作を作っているという話は聞いていましたが,改めて聞くと嬉しいですね。大いに期待しています。


女の子は出てきませんので,そこはご了承ください


4Gamer:
 期待つながりで言うと,日本のゲーマーは「World of Warships」に非常に大きな期待を寄せています。可能な範囲でお話を頂けないでしょうか。

Victor:
 現在World of Warshipsはフレンズ・アンド・ファミリー・ステージ,つまりWargaming.net従業員の友人や家族の間で毎晩のようにテストプレイする段階にあります。
 まだ正式に公開はできないのですが,基本のゲームプレイと,技術ツリーをはじめとするシステムの仕組みは完成していますし,駆逐艦・巡洋艦・戦艦・空母といった船が登場し,いわゆる「三すくみ」的なバランスも取られています。

4Gamer:
 基礎となる部分はだいぶ出来上がっている感じですね。

Victor:
 World of Warshipsは海戦ということで,展開が遅いのではないかという懸念があるかもしれませんが,最初に述べたように,我々はエンターテイメントとリアリティのバランスには注意を払っています。ですので,長くても15分程度で1つのマッチが終わるようなゲームになっています。
 もちろんWarplanesに比べたら,大きな空母や戦艦の動きは遅いです。しかしこういった船には搭載火器が多く,同時に射撃すべき方向も多くなっています。また,あちらから魚雷が,あちらから砲撃がと,プレイヤーが同時に対処すべきこともたくさんあるので,アクションゲームとして良いリズムが作れています。

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4Gamer:
 空母が出てくるというのは個人的には驚きました。簡単に言って,ほかの船とまったく射程が違うので。ゲーム中,空母はどのような扱いになるのでしょうか。

Victor:
 空母は動きこそ遅いですが,艦載機を次々に飛び立たせることで,敵艦を爆撃できます。
 World of Warshipsは,ほかの作品よりストラテジー要素が強いゲームとして作っているところです。

4Gamer:
 リリースはだいたいいつ頃になるでしょうか。

Victor:
 2013年中は難しいですね。正式ではないですが,2014年中と考えて頂ければ。隠したいのではなく,なるべく正確な情報をお渡ししたいと思っているので,このような表現になってしまいますが。
 なにしろ,ゲーム開発というのは,何百人もの人員が数年にわたって携わる,何十億円というお金が必要になる巨大プロジェクトです。さらに我々は,歴史性とエンターテイメント性のバランスもとらねばなりません。巨大な戦艦による偉大な戦いを,10分間で楽しめるような魔法の方程式を見つけるには,歴史の研究にも,テストプレイにも,非常に長い時間が必要になるんです。

4Gamer:
 それはプレイヤーも理解していると思います。

Victor:
 加えて,我々のゲームの表現は映画的で,フォトリアリスティックなものです。World of Warshipsではたくさんの船が出てくるだけではなく,海面の動きやカメラのアクションなど,考えなくてはならないことが多くなっていて,これも時間がかかっている要因の1つですね。
 ともあれ,公開できる情報が入り次第,すぐにお伝えします。ああ,でも女の子は出てきませんので,そこはご了承ください(笑)。

4Gamer:
 そこは理解しています(笑)。
 さて,Warshipsがリリースされると,WoTとWarplanesとWarshipsという形で陸海空が揃い踏みすることになります。これらのゲームの間でプレミアムアカウントが共有されるというのは先日ミンスクでもうかがっているのですが,クラン・ウォーにおいてこれらのゲームがリンクするような計画があるという話も小耳に挟みました。

Victor:
 この計画は私自身が持っている非公式なビジョンでしかない,ということを最初に申し上げたうえで説明しましょう(笑)。
 クラン・ウォーは基本的に戦車戦が行われ,領土をめぐって戦います。ですが例えばロンドンでの戦車戦の前に,戦闘機による戦いがWarplanesで行われ,そこで勝利したクランは戦車戦において敵クランに空襲を2回くらい仕掛けられる,といったことを考えています。
 あるいは海峡を横断する戦いが行われるときは,Warshipsにおける戦闘を通じて海峡の制海権を得なくてはなりません。こういった地政学的な側面も入れていきたいですね。もちろん海沿いでの戦車戦においては,制海権を持っている側が艦砲射撃できるということも考えています。
 繰り返しますが,あくまでこれは,私の個人的なビジョンですよ!(笑)

画像集#011のサムネイル/[TGS 2013]「World of Tanks」では歴史の正確性とエンターテイメント性の両立を目指す。WargamingのCEOインタビュー

4Gamer:
 了解しました(笑)。ところで,先ほど陸海空揃い踏みと言いましたが,歩兵を扱ったゲームは予定があるんでしょうか。

Victor:
 今のところ,そういうプランはまったくありません。人間が殺しあうゲームはたくさんありますし,そういうゲームをサービスするとなるとレーティング(年齢制限)といった問題もでてきます。今は兵器が出てくるゲームに集中したいですね。


賞金総額250万ドル,Wargaming.netリーグ


4Gamer:
 かつて「Ural Steel」のような大会がありましたが,e-Sports大会としてはどのような計画をお持ちでしょうか。

Victor:
 e-Sportsは我々の会社にとって非常に重要な存在ですし,その重要性も急激に上昇しています。ご存知のように,今年はWargaming.netリーグにおいて賞金総額250万ドルを用意しました。
 リーグとしては,各リージョンからチームが勝ち上がってきて,最終的にそれらのチームで決勝戦を行い,優勝チームを決定します。決勝戦をどこでやるかはまだ決めていないんですが。
 また,ESLやWCGといった既存のリーグでもWoTが使われています。自分たちとしては,サッカーでいうFIFAのようなものを作りたいと思っているんです。まだ少し時間はかかると思いますが,大きな力点を置いている領域です。
 WoTをプレイしているゲーム・プロのチームも非常に多いですし,これを上手く生かしたいですね。

4Gamer:
 日本ではe-sportsはまだあまり広く認知されていませんが,レッドブルが協賛するe-sports大会が注目を集めるなど,徐々に浸透しつつあるようにも思えます。そういう大会でWoTが見れたら素晴らしいと思うので,是非よろしくお願いします。

Victor:
 我々は賞金という形ででも,賞品という形ででも,あるいは両方でも,各国の法律に従って協力できますよ(笑)。

4Gamer:
 いっそ,Wargaming.netリーグの決勝戦を日本でやりませんか。

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Victor:
 アイデアとしては素晴らしいですが,日本には2020年のオリンピックもありますから,ほかの国のプレイヤーから反感を買ってしまうかもしれませんね(笑)。

4Gamer:
 では最後になりますが,4Gamer読者にメッセージをお願いします。

Victor:
 まず,9月にWargaming.netが東京にオフィスを開き,そこでスタッフたちがカスタマーサポートやカスタマーリレーションシップを行うなど,正式なサービスが始まったということを強調したいと思います。
 また,今回WoTに日本戦車が登場することを発表しましたが,WarplanesやWarshipsも含め,この規模で日本の兵器を扱っているゲーム開発会社は,世界的に見ても弊社だけだと思います。ゲームに登場する兵器は,戦車も,戦闘機も,戦艦も,いずれも高い歴史的精度を有していますので,日本の,とくに男性ゲーマーに受け入れてもらえると思っています。

4Gamer:
 TGSブースでのエキシビションマッチでは,女性もプレイしていましたよ。

Victor:
 それは素晴らしいですね! なにしろ私はこの部屋で皆さんとお話をするのが仕事なので,ブースのイベントをほとんど見られないんです(笑)

4Gamer:
 非常に素晴らしいブースで,強いインパクトを持っていると思います。今後の日本におけるWargaming.net作品の普及に期待しています。本日はどうもありがとうございました。

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 歴史を素材にしたゲームを作るデザイナーが必ずぶつかる「史実とエンターテイメント性のジレンマ」に,Wargamingもまたぶつかっていたというのは,必然とはいえ興味深いエピソードだったように思う。

 モバイル環境で動くWorld of Tanks Blitzは,実際に目の前でデモプレイしてもらったが,お世辞抜きに素晴らしい完成度で,リリースが待ち遠しい作品だ。寝転んでオンライン戦車戦ができる時代って素晴らしい。

 WoTに導入される日本戦車に関しても,「ロシア国内に残っていた日本戦車を調査した」ということで,戦車の種類によっては日本国内で得られる情報以上の精度でモデルが作られている可能性がある。
 ちなみにWargaming Japanの川島代表は,「もしご自宅の近所に日本の戦車がある,または土蔵から図面が見つかったなどということがありましたら,ぜひWargaming Japanにご連絡ください」と話していた。実際,「完全に破棄された」とされていた富嶽に関する資料が発見されたというケースもあるので,実家に蔵があるというWoTファンは一度宝探しをしてみては如何だろうか。平成維新を志しているご家庭以外,蔵に戦車はないとは思うが……。

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 また,日本の戦車が登場するムービーを見た日本プレイヤーからは,「あのトレイラーの風景は全然日本じゃない」という声が出ているようだが,日本オフィスが開設されたうえ,「ガールズ・アンド・パンツァー」とのコラボ企画も進むとあって,徐々に改善されていくことに期待したいところだ。

 ――このインタビューからしばらく経ってWargamingブースを訪れたとき,連日の取材からようやく解放されたらしきVictorが,上坂すみれ連隊長のステージイベントを大変良い笑顔で見ていたことを最後に追記しておこう。

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