レビュー
初心者から上級者まで長くやり込める仕掛けが詰め込まれ,3D立体視やジャイロセンサーとの相性も抜群
マリオカート7
本作は,「メトロイドプライム」シリーズや「ドンキーコング リターンズ」を手がけたアメリカのレトロスタジオと任天堂が共同開発しており,コースに空中や水中のエリアが追加されたり,ジャイロセンサーでの操作が可能になったりと,新しい試みも採り入れられている。本稿では,シリーズ最新作となる「マリオカート7」のレビューをお届けしよう。
※ほかにも,アーケード向けに「マリオカート アーケードグランプリ」「マリオカート アーケードグランプリ2」が,バンダイナムコゲームスからリリースされている
「マリオカート7」公式サイト
まずは,「マリオカート7」の概要を簡単に説明しておこう。
本作は,マリオシリーズの世界観を活かしたレースゲームで,その内容は,マリオをはじめとしたキャラクター達がカートに乗り,コースを走ってタイムを競うというもの。
コンマ一秒を競うシビアな要素がありつつも,コースに仕掛けられたギミックやアイテムで順位がめまぐるしく変わるなど,プレイヤー同士でわいわい遊べるパーティーゲーム的な要素も含まれている。
プレイヤーキャラクターは,マリオ/ルイージ/ピーチ/キノピオ/ヨッシー/ドンキーコング/クッパ/ノコノコの8人。また,ゲームを進めることで,隠しキャラクターのデイジー/ワリオ/ロゼッタ/ヘイホー/メタルマリオ/ジュゲム/ハニークイーン/ハナチャン,およびプレイヤーのMiiが使用可能となる。
また「7」では,カートのカスタマイズも可能だ。フレーム/タイヤ/グライダーの3パーツを組み合わせることで,性能を自分好みに調整できる。なお,最初に選択できるパーツの数は少なく,コイン(詳しくは後述)を貯めたり,すれちがい通信をしたりすることで入手できるようになる。
1人プレイの場合は,「グランプリ」「タイムアタック」「ふうせんバトル」「コインバトル」の4種類のモードがプレイ可能。ローカル通信対戦の場合は,その4モードに加え,「VSバトル」がプレイできる。
グランプリやタイムアタックでは,「7」で初登場となる16の「オリジナルコース」と,既存シリーズに登場した16の「クラシックコース」,計32コースが登場。
「7」では陸だけでなく,水中を走行したり,空を飛んだりといった要素が加わっているため,オリジナルコースはそれらのギミックを活かしたものが多い。
また,クラシックコースについても「7」向けの調整が行われており,たとえば既存シリーズではコースアウトになってしまった海の部分が,走行可能になっていたりする。
グライダーでの飛行中は,スライドパッドを下に入れると上昇,上に入れると下降する |
水中では車体が浮きやすく,ハンドリングやドリフトの感覚が陸上とは異なる |
なお,「ウーフーアイランド」など一部の新コースについては,コースの長さが通常の3倍ほどある。ロングコースは3つの“セクション”に区切られており,コースを1周するまでのタイムで競うため,コース周回とは違った楽しみ方ができる。
なお本作はダウンロードプレイに対応しており,「7」のソフトを持っている人が1人いれば,最大8人でローカル通信対戦が可能だ。ソフトを持っていない人の使えるキャラクターは「ヘイホー」だけで,カートのカスタマイズもできないが,対戦の楽しさを体験するには十分だろう。
Wii版のシステムを引き継ぎつつ,「コイン」システムが久々に復活
ドリフトのアクションから行える「ミニターボ」は,DS版までは“ドリフト中に細かく左右にキーを入れる”ことで行えたが,「7」ではWii版の仕様に近く,“ドリフト時間が長い”と発生するようになった。
コーナーの内角側にキーを入れ続けると発動時間が短くなるという仕組みなので,「マリオカートDS」のように,直線コースでミニターボを連続で行うという技は出しづらくなっている。
なお,ミニターボが発動したままドリフトを続けると,より強力な「スーパーミニターボ」が発動する。カーブの長さや状況に応じて使い分ければタイムを短縮できるだろう。
Wii版から新たに登場し,「7」にも導入された「ジャンプアクション」は,ステージ内の段差やジャンプ台などで車体が空中に浮いた際にタイミング良くRボタンを押すと,着地時(もしくはグライダーでの飛行中)に短時間ダッシュできる,というもの。段差やジャンプ台は各コースの随所に存在するので,ジャンプアクションを確実に成功させられるようになるだけでも,けっこうタイムを短縮できるのだ。
マリオカートでは,ドリフトがコース攻略における重要な要素だが,中には,ミニジャンプと十字ボタンの組み合わせで行うマニュアルのドリフト操作が苦手という人もいるだろう。しかし「7」では,カーブに合わせて大きくハンドルを切るだけで,自動的にドリフトが行えるので安心だ。
Wii版でのオートドリフトは,コンフィグでオート/マニュアルの一方を選択する方式だったが,「7」では,両方のドリフトが使用可能になった。ただし,オートドリフトでは先述したミニターボが使えないので,より高みを目指すなら,マニュアルでのドリフトを使いこなせるようになろう。
今回とくに重要なポイントとなるのが,ゲームボーイアドバンスの「マリオカートアドバンス」以来,「7」で久々に復活した「コイン」システムだ。
コインは,アイテムボックスと同様,コース上のあちらこちらに配置されており,コインを獲得した瞬間に短時間のダッシュが発生する。手持ちの枚数(最大10枚まで)が多いほどスピードがアップするので,コインを取れば取るほど有利になるというわけだ。ただし,アイテムや障害物によってクラッシュした場合には手持ちのコインを数枚失ってしまう。
なお,タイムアタックモードでもコース上にコインが存在するので,最速タイムを目指すには,コースのライン取りでコインの配置も考慮する必要があるなど,より戦略性が増している。
なお,集めたコインは累計枚数がカウントされ,一定枚数に達するごとに新たなパーツがアンロックされるという楽しみもある。カスタマイズの幅が広がるので,コインを積極的に集めて,パーツのコンプリートを目指してほしい。
コインシステムは,単純明快でありながら,対戦プレイとタイムアタックの両方において奥深さが増す,非常に優れた要素だというのが,実際にプレイすると分かるはずだ。個人的には,今後のシリーズでもコインシステムをぜひ継続してほしいと思う。
ファイアボールは,当たった相手をスピンさせられる攻撃。前方だけでなく,真後ろにも投げられるので,後続車を振り払うのにも便利だ |
スーパーこのはを取った状態でアイテムボタンを押すと,しっぽがクルリと一回転。攻撃だけでなく,相手の攻撃を防御することも可能だ。そのほかにも,真横のコインを取るといった用途にも使える |
「ラッキー7」は,出現確率が非常に低いものの,「ミドリこうら」「アカこうら」「バナナ」「ボムへい」「ゲッソー」「ダッシュキノコ」「スター」の7つのアイテムを使えるようになる,という非常に強力なものだ。ただ,他プレイヤーの「サンダー」攻撃でアイテムを失う可能性もあるので,ラッキー7を引き当てたときは,出し惜しみをせずにじゃんじゃん使ったほうがいいだろう。
なお,これまでのシリーズと同様,出現するアイテムの種類はプレイ中の順位で変動する。コースアウトで順位が落ちても,「キラー」や「サンダー」などの強力なアイテムが入手できれば,巻き返せるチャンスは十分にある。
新アイテムは,ユニークさが際立っていて基本的にいい感じなのだが,個人的に残念だったのが,「にせアイテムボックス」が登場しないこと。本物のアイテムボックスのすぐ近くに「にせアイテムボックス」を配置し,他プレイヤーをハメるのが最高に楽しかったので,ぜひ次回作での復活を希望したい。
3D立体視やジャイロセンサーとの相性も抜群
「7」はニンテンドー3DS向けのタイトルということで,言うまでもなく,3D立体視に対応している。
ゲームのジャンルや作風によって,3D立体視との相性は変わってくると思うが,こと「7」については,非常にマッチしている。レースの臨場感がアップするのはもちろん,障害物や他のカートとの距離感もつかみやすく,3D立体視によるメリットが存分に得られるという印象だ。
また,紙吹雪や花びらなど,3D立体視で映えるような演出も随所に見られるので,普段は3Dボリュームをオフにしている人も,ぜひ3Dボリュームのスライダーを上げてプレイしてみてほしい。
それから,「7」ではニンテンドー3DSのジャイロセンサーを使い,本体を左右に傾けてハンドル操作することも可能だ。なお,アクセルやアイテム使用などの操作は通常操作と同様にボタンを使うことになる。
レース中に十字ボタンの上を押すと,画面がドライバー視点に切り替わり,ジャイロセンサーによる操作が有効になる。元に戻したい場合は,十字ボタンの下/左/右のいずれかを押せばOKだ。また,スライドパッドでの操作を併用したハンドリングも可能。
通常のハンドリングでは3DS本体を傾けて操作し,急カーブをドリフトで抜けるなどといった難しい場面ではスライドパッドを使用――といった遊び方もできるわけだ。
ドライバー視点で味わえる没入感はかなりのもので,3DS本体とともに,無意識に身体全体を大きく傾けてしまうほどだ。とくに,3D立体視をオンにした状態で空中を飛んでいるときに味わえる浮遊感は格別だ。
ちなみに,ドライバー視点でプレイするときは,プレイヤー名の横にハンドル型アイコンが表示される。オンライン対戦はもちろん,ゴーストのデータでもハンドル型アイコンは表示される。
画面内の視野が狭くなることもあり,多くの人にとっては,ドライバー視点より通常視点でプレイしたほうが遊びやすいかもしれない。ただ,本作は(タイムアタックでなければ)そもそも緻密な操作が要求されるゲームではないので,ちょっとした気分転換のつもりで,ドライバー視点でのプレイに挑戦してみてほしい。
「スーパーマリオ3Dランド」の3D立体視もそうなのだが,“常識”であればオプションで変更するような項目を,プレイ中いつでも切り替えられるようにした点は注目だ。これからも積極的に取り組んでいってほしいところである。
通信機能を活かした,長くやり込める仕掛けも満載
本作では,インターネット経由でのオンライン対戦も可能だ。世界中のプレイヤーとのランダムマッチング,フレンドやライバルとの対戦,そして「コミュニティ」のメンバーとの対戦という3つのモードが用意されている。
ランダムマッチングでは,プレイヤーの腕前が「VR」という数値で表され,レースに勝てば上昇,負ければ下降する。このVRによって,腕前の近いプレイヤーが最大8人で対戦を行うという仕組みだ。
プレイするコースは,各参加プレイヤーが選択した中からランダムで選択され,1レースあたりにかかる時間は3分程度となる。
マッチングは自動で,腕前が近いプレイヤー達のレースの空き枠に参加することになる。レース中だったときは次のレース開始まで待つ必要があるが,一度参加してしまえば,ほぼインターバルなしで次のレースがすぐにスタートするので,非常に快適だ。
参加者の誰かが抜けても,ほかのプレイヤーがどんどん合流してくるし,仮に8人揃わなくてもレースはスタートする。
オンライン対戦にありがちだった“マッチング待ち”の時間でイライラすることもなく,テンポ良くゲームが進むので,ひたすらレースに専念したい人にはお勧めだ。
また,オンラインで友達と対戦することも可能なのだが,「すれちがった人」とも対戦できるのが面白いところ。
フレンドやライバルとの対戦を選択すると,フレンドコードを交換済みの「フレンド」「最近対戦した人」「すれちがった人」の各項目でプレイヤーがリストアップされる。オンラインで対戦中のプレイヤーがいれば,そこに自分も合流して参戦できるという仕組みだ。
そして,「7」のオンライン対戦でもっとも特徴的なのが「コミュニティ」だろう。
プレイヤーは最大8つまでコミュニティを作成可能で,コミュニティごとに対戦ルールを設定できる。なおコミュニティには“番号”が付けられるため,番号を入力すれば,検索の手間なしにコミュニティに参加できる。
設定できるルールは,モードが「グランプリ」(50cc/100cc/150cc/ミラー),「ふうせんバトル」,「コインバトル」の3つ。使用可能なアイテムの設定も可能で,「アイテムすべて」「こうらのみ」「バナナのみ」「キノコのみ」「ボムへいのみ」「アイテムなし」から選べる。
また,コミュニティには,先述の「VR」とは別に,コミュニティ内で自分の成績を示すポイントが存在する。そのため,上位へのランクインを目指して,大規模コミュニティで対戦を重ねるのも面白いだろう。
なお,任天堂オフィシャルのコミュニティがいくつか「おすすめ」として用意されているので,まずはそこに参加してみるといいだろう。
個人的には,ルール設定の自由度がやや低く感じられたのが残念なところ。たとえば,「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズの「アイテムスイッチ」や「ステージスイッチ」のように,アイテムやコース選択をもっと細かく設定ができれば,より多彩なプレイが楽しめるのではないだろうか。
ほかにも,ニンテンドー3DSの「すれちがい通信」や「いつの間に通信」の機能を活かした要素も用意されている。
「7」ではSDカードに「マリオカートチャンネル」(Wii版の同名のものとは機能は大きく異なる)を作成することで,プレイヤーデータやタイムアタックのゴーストを,すれちがい通信やいつの間に通信で受け取れるようになる。
プレイヤーデータには,各プレイヤーの走り方の“クセ”や使うパーツの組み合わせが記録されており,それを再現したゴーストとグランプリで対戦できる。また,そのグランプリで勝利すれば,そのプレイヤーが持っているパーツを獲得できるため,すれちがい通信を積極的に行うのも良いだろう。
また,受け取ったタイムアタックのゴーストのデータは,数十人分が保存できる。一回のタイムアタックで複数のゴーストと一緒に走行できるため,タイム短縮の参考にもなるはずだ。
マリオカートシリーズは,すでに既存シリーズで基本システムが完成しているといえるが,その完成度の高さゆえに,“新作”を買うモチベーションが高まらない人もいるかもしれない。
しかし「7」では,これまでのシリーズ作品で培ってきたものをしっかりと踏襲しつつ,「これまでと同じ感覚で遊べるが,手触りが新しい」という,理想的な進化を果たしている。
コースには“空中”と“水中”をはじめ,これまでになかった要素が加えられており,旧作のコースも「7」のシステムに合わせて,しっかりとリメイクされている。また,コインシステムや通信機能など,初心者から上級者まで長くやり込める仕掛けが詰め込まれている。これまでのシリーズを遊んでいればいるほど,進化を実感できる部分が非常に多いはずだ。
マリオカートをこれまで遊んだことがないという人にはもちろんのこと,過去のシリーズをプレイしたことのある人にも,自信をもってオススメできる一本だ。この年末年始,ぜひじっくりとプレイしてほしい。
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