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AMD,次世代GPUを従来製品の拡張に留め,2012年以降,2種類の新型GPUアーキテクチャを展開へ
デスクトップPC向けには
第2世代DX11 GPU「Islands」が登場
Islandsファミリーでは,ディスプレイインタフェースとしてDisplayPort 1.2やHDMI 1.4をサポートし,より広帯域幅のデータ伝送が実現可能になる予定。また,高解像度ビデオ再生支援機能である「UVD」(Unified Video Decoder)は第3世代の「UVD3」へと進化し,Blu-ray 3Dなどの立体視表示サポートが強化される予定である。
なお,TSMCがらみの理由で,製造プロセスは現行製品と同じ40nmに留まるため,パフォーマンスアップを図るIslandsファミリーで,消費電力は若干の上昇が見込まれている。
具体的な製品としては,
- Caicos(カイコス,開発コードネーム):CedarコアのATI Radeon HD 5400シリーズを置き換えるモデル
- Turks(タークス,同):RedwoodコアのATI Radeon HD 5600シリーズを置き換えるモデル
が,2010年末のタイミングで先陣を切る予定だ。
続いて2011年初頭になると,
- Barts(バート,開発コードネーム):Juniperコアの「ATI Radeon HD 5700」シリーズを置き換えるモデル
- Cayman(ケイマン,同):Cypressコアの「ATI Radeon HD 5800」シリーズを置き換えるモデル
- Antilles(アンティレス,同):Caymanコアを2基搭載。「ATI Radeon HD 5970」を置き換えるモデル
も,登場の予定になっている。
OEM関係者によれば,とくにBartsとCaymanでは大幅な性能向上が図られる見通しとのこと。DirectX 11世代で築いた,グラフィックス市場におけるリーダーシップを,積極的な世代交代で堅持したい構えだ。
ちなみにIslandsファミリーの開発コードネームは,カリブ海の島々に由来する。
Fusionの姿が垣間見える
ノートPC向け次世代GPU「Vancouver」
ノートPC向け製品は,大手PCベンダーからの受注が殺到しており,供給量の不足を起こしている現状を受け,現行の「Manhattan」(=ATI Radeon HD 5000)ファミリーのマスクチェンジ版(=改良版)となる「Vancouver」(バンクーバー,開発コードネーム)を投入して,歩留まりの向上を図ることになる。
Vancouverファミリーでは2010年内に,
- Granville(グランビル):Broadwayコアの「ATI Mobility Radeon HD 5800」シリーズを置き換えるモデル
- Capilano(カピラノ):Madisonコアの「ATI Mobility Radeon HD 5600」シリーズを置き換えるモデル
- Robson(ロブソン):Parkコアの「ATI Mobility Radeon HD 5400」シリーズを置き換えるモデル
が登場予定というのが,OEMベンダー関係者の弁。VancouverファミリーのGPUアーキテクチャはManhattanファミリーから変わりなく,ディスプレイインタフェースの改良により,ノートPCでも「ATI Eyefinity」をサポートできるようにする程度の,小規模な改良が行われる計画だと言われている。
デスクトップPC向けのIslandsファミリーと同じように,UVD3などをサポートしたGPUが登場するのは,それから少し遅れて,2011年初頭の登場となりそうだ。
Vancouverファミリーの第2派として登場する予定なのは,開発コードネームでいうと,
- Blackcomb(ブラックコーム)
- Whistler(ウィスラー)
- Seymour(セイモア)
の3製品。2010年後半に登場する3製品と,2011年初頭に登場予定の3製品がいずれもVancouverファミリーに位置づけられることから,OEM関係者は「モバイルGPUに関しては,デスクトップPC向けGPUほどのパフォーマンス向上はないのではないか」と見ている。
いずれにせよ,2世代にわたるGPUコアを一つのファミリーとしてAMDが扱うのには,何らかの事情がありそうだが,AMDに近い関係者によれば,AMDは,2011年中の市場投入が計画されている“Fusion APU”「Llano」(ラノ,開発コードネーム)で統合されるグラフィックス機能として,EvergreenとIslands,両ファミリーの中間コアを選択したとのことで,このあたりが理由として挙げられるかもしれない。
同関係者いわく,「LlanoのGPUコアは,Islandsファミリーの特徴でもあるUVD3サポートを実現する一方,ディスプレイインタフェースはDisplayPort 1.1&HDMI 1.3に留まるなど,ちぐはぐな部分が見られる」。要するに,VancouverファミリーにおけるRobsonとSaymourの“間”に位置する,グラフィックスコアが採用される予定で,“その前後”が,GPU製品として世に出てくる,というわけだ。
次々世代GPUアーキテクチャは
Hecatonchiresだけに留まらない
ところで,「Hecatonchires」(ヘカトンケイレス)という開発コードネームを覚えている人の中には,あれはどうなったのかと疑問に思う人もいるだろう。結論から先にいうと,(実は冒頭で述べたとおりだが)TSMCの28nmプロセス移行を待つことになった。
同アーキテクチャは,もともと,旧ATI Technologiesが「R800」という開発コードネームで開発を進めていたもの。R500(=Radeon X1000)系アーキテクチャの流れを汲む現行GPUとは,まったく異なるコンセプトで開発が進められてきた。R600世代のATI Radeon HD 2000シリーズが世に出た頃には,すでに複数のアーキテクト(※当時)が,「R800ではまったく新しいアーキテクチャに進化する」と語っていたほどである。
ただ,このR800計画は,AMDとの合併を受けて見直しがなされた。DirectX 11世代では,競合より早く対応製品を市場投入することが優先され,従来アーキテクチャの拡張版となるEvergreenファミリーが出てきた……というのは,皆さんもよくご存じのとおりだろう。
しかし,NVIDIAがFermiでアーキテクチャの刷新を行ったことからも想像できるように,単体GPUの性能を追求するうえで,R500系の“枯れた”アーキテクチャを踏襲するAMDの現行GPUだと,これ以上の大幅なパフォーマンス向上は望めない。そこで,いったんは見直されたR800計画が,Hecatonchiresとして再開になったというわけだ。
問題はここから。当初,2010年内にも立ち上がるとされていたTSMCの28nmプロセスは,かなり遅れ気味。現行の40nmプロセスについても,安定した歩留まりを実現できていないというのが,半導体業界関係者の指摘する現状である。
そしてそれを受けて,Hecatonchires開発計画は,再度の見直しを受けているという。AMDに近い半導体業界関係者によれば,AMDが開発を進めているグラフィックスアーキテクチャは,今やHecatonchiresだけではないとのこと。Hecatonchiresは,あくまでも単体GPU向けのアーキテクチャであり,AMDは,CPUに統合するためのグラフィックスコアでも,新しいアーキテクチャの開発を進めているというのだ。
AMDは,次世代CPUで,「Bulldozer」(ブルドーザ,開発コードネーム)と「Bobcat」(ボブキャット,同),二つのCPUアーキテクチャを用意しているが,同じようにグラフィックス機能でも,用途ごとに最適化されたアーキテクチャというものを,追求していく考えのようである。
CPUでは6コア製品を拡充へ
話をCPUに移すと,AMDは,6コア製品をさらに拡充することで,競争力を高めていく。
具体的には,「Phenom II X6」に,「1035T/2.6GHz」と「1075T/3.0GHz」を追加していくほか,Phenom II X6の発表会でも明らかになった,「Phenom II X4」のAMD Turbo CORE Technology(以下,Turbo CORE)対応版となる「960T/3.0GHz」も,順次市場投入していく構えだ。
このうち,Phenom II X4 960Tは,「Zosma」(ゾスマ)コアを採用した初の製品になる見込み。半導体そのものは,Phenom II X6で採用される「Thuban」(トゥバン)コアと共通のようだ。
マザーボードベンダー関係者は,「AMDはTubanコアの投入を機に,歩留まりが悪い現行のPhenom IIシリーズを収束させ,メインストリーム製品を『Propus』(プロパス)コアのAthlon IIシリーズに切り替える計画だ」と証言する。確かに,AMDがパートナー企業に示しているロードマップを見ると,Turbo COREをサポートした上位モデルに新製品の予定がなく,逆にAthlon IIでは,第3四半期に「Athlon II X4 645/3.1GHz」や「Athlon II X3 450/3.2GHz」,「Athlon II X2 265/3.3GHz」が投入される予定になっていたりする。
このラインナップ整理により,AMDのCPUビジネスにおける収益性は改善されると見られるが,自作ユーザーにとっては,Phenom II X3&X2のコアを“アンロック”して,Phenom II X4として使うといったアプローチが,少なくとも低価格モデルでは使えなくなる可能性が高いということでもある。AMDファンは複雑な思いをすることになるかもしれない。
なお,次世代CPUアーキテクチャである「Zambezi」(ザンベジ,開発コードネーム)ならびに前出のLlanoは,2011年半ばの市場投入になる見込み。ただ,その詳細は今のところ,主要マザーボードベンダーやOEMベンダーにも明らかにされていない。まもなく開幕するCOMPUTEX TAIPEI 2010で,どのようなアップデートがあるかに,注目が集まるところだ。
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