連載
マフィア梶田の二次元が来い!:第164回「灰と人形のLEGACY COLLECTION ささやき,詠唱,祈り,目覚めよ」
4Gamer編集者と共有しているGoogleカレンダーに「ローゼン放送開始日」と書き込んで,その必死さを嘲笑されながらバッチリ放送初日にチェックしたわけですが,これはヤバイかもしれん……。
俺が純真な高校生から油汚れ系ゲームライターに変貌を遂げるくらいの長い年月を経て,再び動いてしゃべる可憐なドール達と出会えたことで,美しき青春の思い出(どどめ色)として心の奥底にしまっていた熱情が,ふつふつと再燃し始めています。
放送終了してすぐ,テンションが上がりすぎた俺はAmazon.co.jpでKindle版を全巻ポチっちゃいましたからね。もうコミックスで持っているのにね。これは……今後アホみたいにグッズを買い漁るフラグ……。
「RADIO 4Gamer」の第171回では,昨日(2013年7月11日)に発売された「METAL GEAR SOLID THE LEGACY COLLECTION」を特集しました。
本作はシリーズ生誕25周年を記念して,初代「METAL GEAR」から「METAL GEAR SOLID PEACE WALKER」までの,小島秀夫監督作品計8本をまとめてしまった,超豪華仕様のパッケージです。ゲームのみならず,映像作品やブックレットも収録されており,シリーズのファンならば,たとえ全作品をすでに所有していても,あらためて購入したくなるような内容になっています。
番組ではゲストとして,KONAMIで本作のプロモーションを担当する山宮友美氏をお招きし,1987年にMSX2用として発売された「METAL GEAR」をプレイしてみました(※「METAL GEAR SOLID 3 SNAKE EATER」に収録されたMSX2復刻版)。
ちなみに,俺にとってのシリーズ初体験の作品は,1998年にPlayStation用タイトルとして発売された「METAL GEAR SOLID」で,それ以前のタイトルはプレイしたことがありません。なので,METAL GEARは今回初めて触ったのですが,これが驚きの面白さ。ステルスアクションのドキドキ感,敵の監視をかいくぐって先に進めたときの達成感は,2Dでも3Dでも変わらぬものですねぇ。
今さらながら,METAL GEARシリーズは25年間,根幹の部分でまったくブレていない魅力を保ち続けているのだということを実感できました。
……ただ,動画を見ていただければ分かるように,かなり序盤で進むべき道が分からなくなってしまったのは悔しい。何かを見落としているのでしょうが,ゲーマーとして不覚の至りですよ。これは個人的にクリアしないと気が済まない感じになってきました。いっそ,あらためてシリーズ1作目からマラソンするのもアリですね!
フリースタイルすぎる連載形式がたたり,ネタに困った挙げ句にくだらない世間話でお茶を濁しがちなこのコーナーですが! 今回は,ビビッとクる本に出会ってしまったので,珍しく書評などしてみようと思います。
今回取り上げるのはオーバーラップ文庫から発売されている,十文字青先生のファンタジー小説,「灰と幻想のグリムガル level.1 ささやき、詠唱、祈り、目覚めよ」です。
「灰と幻想のグリムガル level.1 ささやき、詠唱、祈り、目覚めよ」
おれたち、なんでここでこんなことやってるんだ……?
著者:十文字青
イラスト:白井鋭利
版元:オーバーラップ
発売日:2013年6月25日
価格:672円(税込)
ISBN:978-4-906866-22-9
→Amazon.co.jpで購入する
ハルヒロは気がつくと暗闇の中にいた。何故こんなところにいるのか、ここがどこなのか、わからないまま。
周囲には同じように名前くらいしか覚えていない男女、そして地下から出た先に待ち受けていた「まるでゲームのような」世界。
生きるため、ハルヒロは同じ境遇の仲間たちとパーティを組み、スキルを習い、義勇兵見習いとしてこの世界「グリムガル」への一歩を踏み出していく。その先に、何が待つのかも知らないまま……。
これは、灰の中から生まれる冒険譚。
ところがどっこい。本作の主人公であるハルヒロには特殊能力もなければ,勇者の子孫であるといった特別なバックボーンもありません。加えて,いきなり超強いファンタジー美少女が現れて守ってくれるというような展開もありません。
これが他作品だと「異世界から来た」というだけでも特別視されそうなものですが,グリムガルには彼ら以外にも同じような境遇の人間がゴマンといるようで……服装がおかしいという以外には,大して珍しくもないみたいです。
また,ハルヒロ達はグリムガルに来た時点で記憶喪失のような状態に陥っており,名前以外は満足に思い出せなくなっています。家族の存在も,元いた世界がどんなところだったのかも分かりません。
つまるところ,「元の世界に帰りたいよぅ!」とホームシックになって取り乱すようなこともないわけで,幸か不幸か大した葛藤もせず,状況に流されるまま「日々の糧を得るために」モンスター討伐を生業とする「義勇兵」見習いとして生きていくことになります。
そして「俺TUEEEEEEEEEEEEEE!!!!」どころか,本作で描かれる冒険は非常に過酷で無慈悲です。ハルヒロ達は準備金として用意されたなけなしのお金をギルドに払い,おのおの「盗賊」「戦士」「暗黒騎士」「神官」「狩人」「魔法使い」としての職業訓練を積むのですが,スキルが未熟なのでゴブリン1匹を相手にしても,大苦戦の末どうにか倒せるという有様。
戦闘の描写も,逃げようとするゴブリンを複数人で囲んで惨殺したり,寝込みを襲ったりと,基本的には「自分達よりも弱そうな存在」を狙って殺して所持品を奪い取り,それを拠点で売却してお金を稼ぐという,“英雄的な美しさ”みたいなものとは一切無縁な泥臭い展開が続きます。
格安の粗末な宿に寝泊まりしながら日々ゴブリン狩りを繰り返し,稼いだお金で装備を整え,新しいスキルを習い,ゆっくりと,歩くような速さで成長していくハルヒロ達。決してカッコ良いわけではないし,憧れるような生活ではないのですが,彼らの行動には妙なリアリティがあり,強く共感してしまいます。
それもそのはず,副題でピンと来た人もいると思いますが,本作は大きな特徴としてコンピュータRPG……とりわけ「Wizardry」へのリスペクトを多分に含んでいるのです。転職,節約,ザコ狩り,スキル習得……自分がこれまでWiz系ゲームで幾度となく繰り返してきた行動なんですから,そりゃリアリティや共感を感じてしまうのも当然ですよね。
ご丁寧に,デバフをかけてから戦闘に突入するという基本戦術や,タンクやヒーラーといった職業の役割分担まで,非常にゲーム的かつリアリティ溢れる筆致で見せてくれます。本来,“ゲーム的”と“リアリティ“は両立しづらいものだと思うのですが,それをまとめあげてしまうのが十文字先生の凄いところです。
ハルヒロ達は,我々のようなゲーマーにとって,とにかく“等身大”のキャラクターなんです。レベル1でパーティを組み,冒険に踏み出すときの期待と不安。戦利品を売却して収入を得たときの充足感。新しい装備やスキルを獲得する高揚感。
……そういったWiz系RPGファンならば誰もが絶対に知っている“冒険の味”が,ハルヒロ達を通じて読者にも流れ込んでくる。しかも,味付けはかなり濃い目。なんたって結局のところハルヒロ達は,丸々一冊ゴブリン狩りしかしませんから。
ただ,勘違いしないでほしいのですが,物語としては山あり谷ありで,かなり読み応えのあるものとなっています。特筆すべきは人物描写です。
例えば,ハルヒロのパーティには有能な人間ばかりが集まっているわけではありません。ハルヒロ自身も他力本願で積極性に欠ける性格を自覚していますし,ワガママで騒がしい暗黒騎士の「ランタ」,気弱過ぎる魔法使いの「シホル」,狩人なのに弓が苦手な「ユメ」,大柄だが鈍くさい戦士の「モグゾー」など,クセのあるメンバーを,行動的で人当たりの良い神官の「マナト」がまとめている形になっています。
序盤の彼らは戦術も確立できておらず,戦闘の度に危なっかしい目にあうし,しょっちゅう喧嘩はするし,ランタはウザいし,ランタはウザいし,ランタはウザいしで,かなりグダグダなパーティです。
それでも幾度ものゴブリン狩りを経て徐々にまとまってくるパーティ。しかし戦闘に慣れてきた頃の慢心が招く“とある事件”をきっかけに,大きな危機を迎えることになります。
そして新たに神官の「メリイ」がパーティに加入するのですが,これまた性格に難アリの人物で,言動も行動も絶対零度。戦闘では前に出ようとせず,回復魔法もなかなか使ってくれないというツンツンぶりで,パーティの空気は最悪のレベルまで落ち込みます。
しかし後に,そんなメリイの行動にもちゃんとした理由があるということが判明。それがまたゲーム的な設定と伏線を生かしつつ,リアリティのあるエピソードで描かれているので,RPGファンなら「メリイが正しい!」と心底納得すること間違いなしです。
また,“とある事件”の発生とメリイの加入は,ただ「日々の糧を得るために」戦っていたハルヒロ達に小さな……だけど重要な目標をもたらします。気が付けば,この辺りから読者もまるでパーティメンバーであるかのように,彼らへ感情移入していることでしょう。あれだけウザくて「早く死なねぇかな……」とすら思っていたランタのことまで,いつの間にか好きになってしまうのだから驚きです。
……それ以降の盛り上がりまで語ってしまうのは,さすがに野暮というもの。ここまで読んで興味をソソられた方は,ぜひとも自身の目で確かめてください。
それにしても,最後までゴブリンとしか戦っていないのに,よくこんな悲喜こもごものドラマを生み出せるものだと感心してしまいます。本当に,ドン引きするほどRPGが好きな人でなければ書けない小説だと思います。とくに“Wiz系”という単語にピンと来た方は読んでおきましょう。読まなきゃ損です。
この巻では「グリムガル」という世界が本当に異世界なのか,それとも何者かによって仕組まれたデスゲームなのか,その辺の謎も解けていませんし,ハルヒロ達の素性も不明なままです。最後の最後にかなり重要な伏線が張られているので続刊への期待はもちろんですが……俺はこの作品をゲームでやりたくてたまらない! もちろん,Wiz系のRPGで!!
そのためにも,アニメ化などして人気爆発してほしいものですね。この記事が少しでも応援になれば幸いです。
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METAL GEAR SOLID THE LEGACY COLLECTION
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