インタビュー
「僕はiPadが大好きなんです。Twitterも大好きなんです。だから,作りました」――西 健一氏が手がけるiPad用ゲーム「Followars」について聞いた
この作品は,Twitterユーザー同士が一台のiPadを使って,RPGの戦闘シーンのようなバトルを楽しめるというもの。今回,4Gamerでは,本作の開発を担当しているRoute24の西 健一氏に,ゲームの内容や開発を決意したきっかけ,そしてゲーム作りにおいて最近の西氏が考えていることなどをまとめて聞いてきた。
「Followars」公式サイト
iPadの周りに集まって,わいわい楽しめるゲーム
4Gamer:
iPad用ゲーム「Followars」が,いよいよ配信開始となりましたね。
発表してからずいぶん時間がかかってしまいましたが,ようやく配信にこぎつけました。もっとすんなりいくはずだったんですけど(笑)。
4Gamer:
なかなか思うようにいかないものなんですねぇ。
もう率直に聞いてしまいますが,これはどんなゲームなんですか?
西氏:
もの凄く簡単に説明してしまうと,Twitterのアカウント同士を戦わせるiPad専用のゲームです。iPadとTwitterアカウントを持っている人しか遊べません。
例えば,僕のRoute24というアカウントと,4GamerNewsのアカウントで戦うとしましょう。Followarsを起動したら,まず2人がTwitterにログインします。
4Gamer:
Followarsから,Twitterにログインするんですね。
西氏:
ええ。するとアカウントごとに能力値が決まって,1vs.1で戦ったり,フォローしている人を仲間に加えて,3vs.3のパーティで戦ったりできるんです。
要するに,Twitterユーザー同士が自分のアカウントを使ってRPGの戦闘シーンのようなバトルができるという仕組みなんです。
4Gamer:
能力値は,フォロー数やフォロワー数を基準に決めているんですか?
西氏:
いえ,それだけじゃありません。そのあたりは遊びながら探ってもらいたいところなんですけど,例えばTwitter暦が長ければ長いほど,賢さのパラメータは高くなります。
Twitterを早くからやっている人は賢いだろう,と。
4Gamer:
西さんは相当早くからTwitter使っていますよね?
西氏:
ええ,僕は情報感度が高くて賢いんです!(笑)
あとは相互フォローしている仲間を選ぶと,戦闘に好影響があるとか,Twitterに関するさまざまな要素が,パラメータに関係してくるんです。
4Gamer:
あくまで賢さは一例ということですね(笑)。
基本的に,凄く手軽に遊べるゲームという印象を受けました。
西氏:
ええ,それを目指しています。
iPadが発表されたとき,アーケードのテーブル筐体を思い出したんですね。テーブルの上にiPadを置いて,その周りに人が集まってわいわい遊んでいるような。そのイメージを実現するには,手軽さが第一だなと。
やり込むっていうより,その場のノリでバンと戦って,バンと終わるっていう。
4Gamer:
手軽さは確かに魅力的だとは思うんですが,キャラクターの成長要素みたいなものはないんですか?
西氏:
最初のリリース時点では,ありません。
ただ,戦闘が終わるごとにバトルポイントというものが溜まっていくんですが,バージョンアップ後にはバトルポイントによって,魔法使いや戦士といった職業に転職できるようにします。
誰をどの職業にするかとか,そういう楽しみ方もできるようにしたいんですよ。
4Gamer:
あ,じゃあ最初のバージョンでは,基本職だけしかなくて,ヒットポイントや賢さみたいなパラメータだけで勝負するような感じですか?
ええ,素っ裸の状態で一発ずつ殴り合うような。
ただ,「見てるだけじゃ面白くない。プレイヤーが手を出せるようにしたい」と,こちらの“天才プロデューサー”(マーベラスエンターテイメント 平田 真氏)が言い出しまして。「スペシャルアクション」というシステムを入れました。
4Gamer:
スペシャルアクション……?
西氏:
双方の手元に一つボタンがあるんです。これが戦闘中,たまにピカーンと光って「スペシャルアクションチャンス」が発生します。これは,ツイート数やラストツイートからどれぐらい経ったかという部分を参照して決まるものなんですね。
で,その瞬間にタイミング良くボタンをタップすると,一人で三人を連続攻撃できたりするんです。
4Gamer:
スペシャルアクションをうまく使えば,能力的に劣っている側が勝てる可能性もある,と。
平田 真氏(以下,平田氏):
誰でも遊べるように,これの操作も簡単にしています。
西氏:
とくに普段ゲームをやらないような女性にも遊んでほしいですからね。
むしろ,女性からTwitterアカウントを聞き出すために作っているようなところもありますから(笑)。
西氏:
「Twitterやってる? アカウント教えてよ!」と言っても,「プライベートだからちょっと……」みたいなことを言われがちじゃないですか。それを打破できるんですよ……と,平田さんが言ってます。
4Gamer:
ええと(笑)。一応確認しておきたいんですが,Followarsにアカウント情報が記録されるわけではないんですよね?
西氏:
ええ,それはもちろん。ログに残すわけではないんで。
平田氏:
一度教えてもらったら,それを覚えておけばいいんじゃないかなって。必死に対戦するより,必死に記憶しようと。
4Gamer:
どうしても,Twitterアカウントを聞き出すためのきっかけにしたいんですね(笑)。
リストなんかも使えるんですか?
西氏:
ええ。例えば,Followarsで戦う用の強い人リストみたいなものを作っておけば,どんな仲間と戦うかを選ぶときに便利だと思いますよ。
あと,倒されたときには,ダイイングメッセージならぬダイイングツイートをキャラクターがつぶやきます。これはその人の最後のツイートなんですけど,うまくはまると楽しいんじゃないかなと。
4Gamer:
たまたま「疲れたー。もう寝る!」みたいにつぶやいていた人が,Followarsで倒されると,吹き出しからこれが出ると(笑)。
西氏:
そういうことです!
さらに,対戦結果が自動的にTwitterにつぶやかれるような設定も可能です。
iPadとTwitterが好きだから作る。実機はないままに
4Gamer:
そもそも,なぜiPad向けにゲームを作ろうと思ったんですか?
僕はAppleが大好きなんです。だからiPadも発表された瞬間……いや,iPadの噂が流れていた時点から,iPadが好きなんです。触らなくても好きだし,たとえiPadがどんなものであろうとも好きです。
4Gamer:
な,なるほど(笑)。
では,なぜTwitterと結びつけようと考えたんですか?
西氏:
Twitterも大好きだからです(笑)。
だから,僕が好きなものを全部組み合わせたのが,Followarsなんですよ。
4Gamer:
Twitterの魅力は,どこにあると考えていますか?
西氏:
速効性というか,スピード感ですよね。
僕は仕事をしているときでも,Echofonを出しっぱなしにしているんですけど,ニュース速報みたいに常にタイムラインが動いているんですよ。
有名人の訃報であるとか,大きな事件だとか,そういうことがポータルサイトのニュースに取り上げられるよりも早く,タイムラインに集まってくるんです。そのスピード感,ライブ感がTwitterの魅力だと思うんですよ。
4Gamer:
興味のないジャンルのニュースなんかでも,Twitterのタイムラインで語られていると知ることはできますよね。たとえ気にはならなくても,把握はできるというか。
西氏:
ええ。そういうところの面白さってありますよね。
そうやって,大勢がいろいろな形でコミュニケーションしている様子を見ながら,ゲームという切り口で,もっと面白い遊びを提示できないか? ということを考えたんです。ゲームクリエイターとして。
で,タイミング的にiPadも発売されるということで,僕が好きなもの,僕が面白いと思っているものを,くっつけてしまおう,と。
4Gamer:
その発想もまた,スピード感というかライブ感がありますね。
普段もやはり,ゲームを作るときには,その時々の好きなものを反映していくものなんですか?
西氏:
嫌いなものだとやってられないですからね(笑)。
4Gamer:
確かに(笑)。
西氏:
入念なマーケティング・リサーチをして,ニーズに向けてゲームを作ろうというわけじゃないんですよ。
もちろん,そういうやり方が効果的なケースも多々あるとは思うんですけど,いろいろなことを想定しているうちに訳が分からなくなったりしますよね。何が作りたかったんだろう? って。
今回の場合は,とにかく自分が好きなものを作って,その感覚を共有してもらえたらいいなっていう考え方でやっています。それで誰からも見向きされなかったら,もうズレちゃってるんだな……っていう話になっちゃうんですけど。
4Gamer:
思っていたよりも自分が少数派だったことに気付かされたりもしますよね……。
基本的に僕は少数派なんですけどね(笑)。
だって,同じAppleのプラットフォームで何かをやろうとなったら,iPhoneのほうが遥かにパイが大きいんですよ。
でもそういうことじゃなしに,iPadが出るぞ! iPadを置いて,みんなで遊べたら面白そうだ! っていう部分で突っ走ってみました。
4Gamer:
それをマーベラスエンターテイメントと一緒にやることになったのは,なぜですか?
西氏:
マーベラスさんとは以前も「PostPetDS」でご一緒させていただいたんですが,あれが終わったあとで平田さんと食事に行ったんですね。
そのときにAppleやiPadの話題で盛り上がって,「じゃあ,iPadが発売されたら一緒に何かやりましょう」という口約束をしていたんです。で,iPadが本当に発表されたときに,「平田さん,こんなネタあるんだけど,どうですか?」という電話をかけたんですよ。
そうしたら,企画会議なんかも通さないで「やりましょう」みたいなことに。
4Gamer:
某社の社長のようだ……。
西氏:
本当にそんな感じでしたよ。具体的なやり方はあとで考えるとして,まずはやる方向で動きましょう,と。
普通は企画書を提出して,検討してもらって,会議にかけてもらって……みたいな流れがあるんですけど,今は直感を信じて突き進まないといけないような時代になっていると思うんですよね。
4Gamer:
確かに。何かを待っている間に,環境を含めてあっという間に変わっていくご時世ですもんね。とくにiPadやTwitterとなったら,スピード命みたいなところはありますし。
そんなFollowarsですが,開発体制はどんな形なんですか?
西氏:
絵描き,サウンド担当,それと2人のプログラマでやっています。
4Gamer:
凄く少人数なんですね。
西氏:
ええ,でも凄腕揃いですよ。
サウンドは,かつて「moon」を一緒に作った,現バンプールの安達昌宣さん。ネットワークまわりは,松村技研。それから名前は出せないんですけどプログラマにはiPhone系の大御所もいます。絵描きも,いろいろ事情があるのがやっていますね。それと,バトルステータスデザインは猿楽庁の中林さんです。
4Gamer:
皆さん,一か所に集まって作業しているわけではないですよね。
西氏:
全体で集まって会議をしたのは2回ぐらいですね。
基本的にはメーリングリストとSkype,それとRedmineというプロジェクト管理ソフトを使ってやりとりしています。Evernoteで仕様をまとめつつ。
4Gamer:
最先端のテクノロジーをフル活用している感じですね。
西氏:
もうね,ハイテクに翻弄されています(笑)。
4Gamer:
そうやってプロジェクトを進めていくうえで,不便なことってないんですか?
西氏:
いや,プロジェクトの進め方云々以前に,開発中はiPadの実機が手元になかったのが痛いですね(笑)。
ご存じのとおり,OSなんかは基本的にiPhoneと同じなので,そう変わらないはずなんです。でも,シミュレータでちゃんと動いているから大丈夫だろうと思っていたら,実機では動かないというレポートが来ちゃったり……。
4Gamer:
それを開発現場では再現できないとなると……。
西氏:
本当に困っちゃいますよね。
今は,インタラクティブな作り方が面白い
4Gamer:
先ほど,今後のアップデートで職業の概念を追加するといったお話がありましたが,アップデート自体は無料で行う予定ですか?
西氏:
Followarsは,定価800円(税込)なんですが,当面はiPadリリース記念特価で350円(税込)で販売していきます。ただし,アップデートは無料の方針です。
4Gamer:
アップデートによって追加される要素は,職業ぐらいですか?
西氏:
いえ,最初は対面型の対戦しかできないんですが,いずれネットワーク経由で遠隔地のプレイヤー同士が対戦できる仕組みは入れる予定です。
4Gamer:
リアルタイム型の対戦ですか?
西氏:
いや,最初はそれを考えていたんですが,ラグの問題やTwitterのAPIの制限を含め,クリアしなければならない課題がかなり多いんですよ。そこで非同期型の対戦を考えました。平田さんが(笑)。
4Gamer:
非同期型の対戦は平田さんのアイデアなんですね。
例えば家を出る前にFollowarsを立ち上げて,パーティを編成したとします。その状態でしばらく放置しておくと,誰かと対戦した結果が蓄積されているのを確認できるんです。
4Gamer:
ああ,なるほど。デッキを組んでおくと,オートで対戦が進むような感じですね。
これもあちこちから聞かれていると思うんですが,iPhoneへの移植は計画されていますか?
西氏:
考えてはいるんですが,開発メンバーも少ないですし,出来ることから順番に……という感じなんですよ。なので,いつか作れるといいなぁ,ぐらいですね。具体的な予定は現状ではありません。
4Gamer:
あ,iPhone向けはiPhone向けで「geotrion」が配信されましたよね。
西氏:
はい。並行して頑張りました。
4Gamer:
現在の西さんとしては,iPhoneやiPad向けに小回りの効く体制でゲームを作っていこうという気持ちが強いんですか?
西氏:
別に据え置き機の仕事はしない! っていうわけじゃないんですよ。PlayStation 3向けのゲームを作らないか? と言われたら,出してみたい企画がないわけじゃないですからね。それが通るかは別として(笑)。
ただ最近,iPhoneアプリやブラウザゲームなんかの方面の人達と話す機会が増えましたし,自分でもそういうところに手を出すようになると,最初のリリースは最低限のものだけにしておいて,お客さんの反応を見ながら次の展開を考えていくような,インタラクティブな作り方が面白いなって感じるようになったんです。
4Gamer:
一本のパッケージで完結させるのとは,かなり違う方法論ですよね。
西氏:
もちろんパッケージのゲームだって,開発メンバー同士や,スポンサー,営業や広報担当の人達と,あれこれ話し合うインタラクティブ性はあるんですよ。でも,発売しちゃったら,そこで終わりなんですよね。
発売後のプレイヤーの反応を見ながら,「そうそう,それはやりたかった」なんて思っても手遅れですし。
4Gamer:
そういうときに,「やりましょう」とばかりに機能追加できるような世界に,今は興味を持っている,と。
西氏:
短距離走と長距離走に例えると,どっちが上でどっちが下ってことはないんですよ。それと同じことで,一つのパッケージソフトを長い時間をかけて熟成させていくのは凄いことです。
ただ,僕は飽きっぽいんですよね(笑)。だから,うわーっと突っ走ってポンと出して,反応が返ってきたらそこでまた何かを考えて……ということができるようになったのが楽しいんです。
4Gamer:
スピード感とインタラクティブ性が重要な時代になっていますしね。コンテンツの流通形態も含めて。
西氏:
ただ,ダウンロード配信が100%万能だ! なんて言うつもりはないですし,パッケージを小売店で売るような文化も残ってほしいんですよ。
お祖母ちゃんが孫にゲームソフトをプレゼントするとなったときは,やっぱりダウンロードコードをあげますっていうのより,綺麗に包装したパッケージを手渡ししたほうが,人間の皮膚感覚的に気持ちのいいものだと思いますし。
4Gamer:
ええ。
西氏:
でも,メーカーも小売店も在庫を抱えなくていい仕組みが向いてるコンテンツもあると思うんです。
そう考えると,従来よりもチャンスは広がっているんですよね。お店には置いてもらえないようなものだって,売ることができるという意味で。
4Gamer:
ゲームに限らず,音楽なんかもそうですもんね。CDショップではなかなか売っていないようなものだって,iTunes Storeでは手軽に買えたりしますし。
西氏:
まさに今,もの凄い勢いでエンターテイメントを取り巻く環境が変わっているんですよね。今後はさらに,人間とエンターテイメントの関わり方も変わっていくでしょうし。
4Gamer:
そんな激流の中,西さんはご自身が面白いと思うものを作っていくということですよね?
西氏:
ええ,Followarsは,まさにそういう作品ですから。これを遊ぶためにまず,iPadを買ってください(笑)。
一家に一台,いや一人に一台ぐらいで。コンピュータが今までよりもぐっと身近になるデバイスだと思いますから。
4Gamer:
そしてTwitterを始めよう,と。
Twitterは世界が広がるから,やったほうがいいですよ。フォロー数とフォロワー数が100人超えたところから,見えてくる世界が激変しますから。そこまでは頑張ってみてください。
そして,Followarsで遊んでみてください!
4Gamer:
分かりました。iPadユーザーなので,すぐに買ってみます。対戦相手がいない気がしますが。
西氏:
それは僕の責任じゃないですよ(笑)。
4Gamer:
ですよね……。
ということで,今日はありがとうございました。
Followarsの基本的なシステムは至ってシンプル。日頃ゲームで遊ぶ機会のない人であっても,すぐに理解して楽しめる作品だ。それでいて,例えば戦闘時のキャラクターの動きやBGM,SEなどは,往年のRPGからそのまま飛び出してきたような雰囲気に仕上がっており,ゲームファンならば思わずにやりとしてしまうような仕掛けに満ちあふれている。
もしもiPadを購入するつもりがあって,Twitterを使っているならば,ぜひ一度遊んでみてほしい。本作発表時の西氏によるコメント,「バカバカしいゲームを本気で作ってみました」を思い出しながら。
「Followars」公式サイト
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