インタビュー
世界に通用する日本ならではの2D対戦格闘は,いかにして生まれたのか。「BLAZBLUE」シリーズプロデューサー モリ トシミチ氏へロングインタビュー
海外向けに作ったPC版
悩みの種は違法コピー
コンシューマ,そしてアーケードとお話を聞きましたが,もうひとつ。「BLAZBLUE」シリーズはPC向けにも発売されていますよね。どういった狙いがあってのことなんでしょうか。
モリ氏:
ぶっちゃけ,PC版は海外……とくに欧州の格ゲーファンを意識したものです。
4Gamer:
なるほど,しかしPC版となると,違法コピー問題がとくに無視できませんね。
モリ氏:
そこなんですよ。そこが一番気になっているんです。欧州あたりでは,ゲームプラットフォームといえばPCがぶっちぎりなので,そういう人達のためにもPC版は出さなきゃいけないと思っているんですが……悪いヤツがいるんですよね。だって,どんなに強固なプロテクトをかけても無駄なんだから。あの天下のマイクロソフトでさえ無理だって言ってるんですもん。
4Gamer:
デベロッパ,プラットフォーマーレベルの手に負える話ではないですからね……。
モリ氏:
最大の問題がプロテクトなんですよね。強固にすればするほど,プログラムの展開が遅くなってしまうので。ゲームが“重く”なっちゃうんですよ。
アーケード版「CONTINUUM SHIFT」に関しても,違法コピーのデータが流出して,ネット対戦まで可能になっちゃってますから。
4Gamer:
それは酷い。
モリ氏:
もうどうにもならないですよ。一応食い止める努力はしたんですが,イタチごっこです。ミラーサイトとかすぐ作られちゃって,データがバンバン流れている。
だから,今回はそれを踏まえてDLCの内容も考えました。だけど結局,本編とはあまり関係ないので……難しいなぁ。
4Gamer:
難しいですねぇ。
モリ氏:
すごく難しいですよ。この問題に関してはもう僕らだけの問題じゃないので。
4Gamer:
マジコンなども社会問題になり,任天堂を中心にさまざまな対抗策を講じていたりもしますが,それでも駆逐はできていない。偶然,可愛い子供が使っているのを見かけると,非常に悲しくなります。
モリ氏:
あれ,もう明らかに親が買い与えてますよね。だって量販店とか行くと,普通のおばちゃんがいきなり「マジコンってどこで売ってるんですか?」って聞いてるんですよ。罪の意識がない。ゲームという日本が誇る産業を守るために,ゲーム業界出身者が政治家にでもなってくれないですかね(笑)。
原作モノの格闘ゲーム化にも定評のあるアーク
そういえば,アークは他社作品を2D格闘ゲーム化することがありますよね。
モリ氏:
「これちょっと格ゲーにしてくれませんか?」という話はけっこう来ますね。
4Gamer:
やっぱり,他社の作品だと色々と気を使いますか?
モリ氏:
そうですね。仮にもし僕が他社の作品を扱うという話になったら,「僕らのやりたいようにやらせてください」という条件を出します。その代わり絶対面白いものにしますと。
4Gamer:
ネタとして,もしモリさんが好きな作品を格闘ゲーム化できるとしたらどうします? 「むしろやらせてください!」くらいのテンションですか。
モリ氏:
えー。けっこうあるんですよねぇ。漫画の「無限の住人」とか。
4Gamer:
渋い!
モリ氏:
やりたいですね。その代わり,規制を全部とっぱらってほしいですけど(笑)。
4Gamer:
フェイタリティ(笑)。でも確かに「無限の住人」って格ゲー向きですもんね。
モリ氏:
あとは……「ホーリーランド」とかも好きだけどちょっと地味ですよね。「餓狼伝」と「バキ」はもう出ちゃってるし。あと,「エアマスター」と「一騎当千」も。好きな作品,結構すでにゲーム化されてるんですよね。
キャラゲーは多いですよね。でも,モリさんが作るとガチゲーになりそうな……。
モリ氏:
ガチゲーにします。やっぱりやるんだったら,絶対に面白くしたいんで。またカプコンさんの話になっちゃいますけど,「ジョジョの奇妙な冒険」という凄い作品を使われちゃってるんですよね。あれは多分,原作再現率では最上位です。
4Gamer:
あー。愛がありましたね。
モリ氏:
はい。格闘ゲームとしてどうかと言われると,ちょっと色々ありますけど。あんなに原作の雰囲気をしっかり出した格闘ゲームはほかにないと思います。
だって,ディオがザ・ワールドしても,承太郎だとザ・ワールドを返せるんですよ?
4Gamer:
格ゲーとしてはありえない(笑)。
モリ氏:
ありえないですね(笑)。それでも,あれは本当に面白かったです。原作ファンは納得だし,格闘ゲームファンもある程度取り込める,良い意味で非常に優れたバカゲーかなと。
4Gamer:
やっぱり原作ものをやるからには,愛がないとダメですよね。
モリ氏:
この人達は本当に好きなんだなっていう。原作ものとかキャラものを作るときは,そういう姿勢で臨まないといけないですね。「分かってるわ〜!」って言ってほしいじゃないですか。
4Gamer:
なるほど。自分が他作品をゲーム化するとしたら,そういう姿勢で挑むぞと。
モリ氏:
ええ。だからドンドン依頼してください(笑)。その代わり,さっきも言ったとおり僕がやりたいようにやらせてもらいますが。
4Gamer:
記事を読んだ人から依頼来ないですかね(笑)。
モリ氏:
ゲームとしての面白さは保証しますよ!
目に見えるコミュニティの広がり
モリ氏の思い描く最終的な理想像とは?
「BBCS」に話は戻りますが,売り上げはかなり好調ですね。
モリ氏:
新規タイトルでは十分成功した部類に入ると思いますよ。だって「CALAMITY TRIGGER」が出た年って,格闘ゲーム何本くらい出ましたっけ?
4Gamer:
ちょうど盛り上がっていた頃でしたからね。けっこう多かったですよね。
モリ氏:
その中で生き残ったのって「BLAZBLUE」だけだと思うんですよね。「ストリートファイター4」は別格として(笑)。
4Gamer:
そうですねぇ。今回もしかしたら20万本とか!
モリ氏:
行かないですよぉ。格闘ゲームは現状,MAXが15万本くらいかなと思ってるんで。
4Gamer:
15万なら,今回もう行きそうな雰囲気じゃないですか?
モリ氏:
どうですかね。僕は楽観しないんで。胡坐をかきたくないんですよ。ユーザーってすごく鼻が効くから,こっちが手を抜くとすぐ気付く。
4Gamer:
「BLAZBLUE」から格ゲーに入ってきたという人は,どれだけいるんでしょうね?
モリ氏:
ファンの2割くらいは,普段格ゲーなんて遊ばなかった人なんじゃないでしょうか。
4Gamer:
「ぶるらじ」などの影響もあってか,女の子のファンも沢山いますからねぇ。
モリ氏:
多いですね。そういえば「CONTINUUM SHIFT」のロケテストをやったときに,すごく申し訳ないんですが,お客さんを8時間も並ばせるという記録を作ったんですよ(笑)。
4Gamer:
8時間!?
モリ氏:
それまで,ロケテストの待ち時間で最長だったのが「GUILTY GEAR」の7時間半だったんです。ちなみに,「CALAMITY TRIGGER」のロケテストでは30人しかこなかったんですよね(笑)。僕,すごい悲しい気分になったんですよ。で,そのイメージがあったから「CONTINUUM SHIFT」のロケテやるときには「贅沢言わないから80人〜100人ぐらいはきてほしい……!」と願っていたんです。
4Gamer:
そしたら記録更新しちゃったと。
モリ氏:
何百人も来てくれたらしいです。で,「『BLAZBLUE』が最長記録出したぞ!」って言った瞬間,「Project DIVA」に抜かれました(笑)。
4Gamer:
初音ミク強い(笑)。
モリ氏:
うん。僕も見ながらドキドキしちゃいましたし。面白れぇなこの野郎,可愛いな初音ミクって(笑)。
でも「CONTINUUM SHIFT」も相当なもんですよ。
モリ氏:
そうですね。そのときゲームセンターの人に「見たことのないお客さんが多い」と言われたんです。で,聞いてみると「ぶるらじ」を見て来たとか,友達にススメられてとか,色々なところからコミュニティが広がっているんですよ。この間の体験会でも「今ここで知り合った」というグループが結構いたんですよね。そうやって輪を広げていくのはとても大事なことなので,嬉しかったですね。
僕の理想では,このままコミュニティが広がって,最終的には「BLAZBLUE」というものを格闘ゲームだけじゃなく,ひとつのコンテンツとして色々な人に楽しんでほしい。だから,ちょっと人にはPRを任せられないんですよね。
4Gamer:
理想を叶えるためには自ら全国を飛び回るしかないと。
モリ氏:
格闘ゲームが好きな人に任せちゃうと,格闘ゲームの部分しか推さないんですよ。そうすると,初心者が入ってこられなくなっちゃう。どんな形でもまずは楽しんでもらって,ネタにしてもらえればいいんです。モノの楽しみ方って色々あると思うので。
4Gamer:
そうですよね。勝つことだけが格闘ゲームの楽しさではない。
モリ氏:
ないですし,じゃあアドベンチャーゲームにするかって言われたら,アドベンチャーゲームにしても良いんですよ,別に。どんな形でも,エンターテイメントとしてみんなに楽しんでもらいたい。
4Gamer:
エンターテイメントといえば,最近「戦国BASARA」がアニメ化されてヒットしているじゃないですか。モリさん的にはゲームのアニメ化ってどうでしょう?
いや,全然良いんじゃないですか。やっぱアニメ化すると強いですよ。ファン数が一気に増える。
4Gamer:
「BLAZBLUE」もアニメ化の予定とかないんでしょうか? 見たいですねぇ。
モリ氏:
僕も見たいねぇ。もうこれ募集しておいてください本当に。どこかアニメ作ってくれるところありませんかって。マジで話し合い応じますよ(笑)。
4Gamer:
モリさんアニメ詳しいじゃないですか。制作会社に希望とかあります?
モリ氏:
そこまで詳しくないけど,やっぱりボンズさんだね。
4Gamer:
詳しくないとか言いつつ,即答ですね(笑)。
モリ氏:
「ラーゼフォン」とか「鋼の錬金術師」好きですし,ボンズはクオリティが安定してますからね。あと,ついでに秘書も募集したい(笑)。
4Gamer:
「BLAZBLUE」をアニメ化してくれるところとモリさんのハードスケジュールについていける秘書,両方募集中です!
今後もコンセプトを大事にしていく「BLAZBLUE」
東京ゲームショウでは新タイトルを発表か?
そろそろ東京ゲームショウが近いですけれども,どうでしょう。アークは何か出すんですか?
モリ氏:
出しますよ。
4Gamer:
「BLAZBLUE」で?
モリ氏:
違います。ニヤリ。
4Gamer:
まさか「神宮寺」が格闘ゲーム化……!?
モリ氏:
それはないわ。もう神宮寺はタバコを額に押しつけるのが必殺技で(笑)。まだ一切情報出てないですね。まぁ,僕はそっちにはあんまり関わっていないんですが。多分,「えー!」って言うと思いますよ(笑)。まぁ期待していてください。
※インタビュー時点では発表されていなかったが,7月23日,以下の情報が公表された
アークシステムワークス,アーケードで絶賛稼働中の2D格闘アクション「アルカナハート3」をPS3,Xbox 360で今冬発売
4Gamer:
では,しばらくモリさんの仕事はプロモーション中心ですかね?
モリ氏:
プロモーションと小説版チェックとドラマCDと……あと新キャラのシナリオ(笑)。あとは続編の企画を立てないと。
4Gamer:
早くも次を考えないといけないんですね。
モリ氏:
そうですね。まぁ,続編に関しては本当に「CONTINUUM SHIFT」が売れてくれないと。
4Gamer:
かなりいい調子ですけれども,もっと上を見たい感じですか。
モリ氏:
もっと売れてほしいですね。アークだって「BLAZBLUE」だけやってるわけじゃないですから。ほかの作品に迷惑かけつつ「BLAZBLUE」を作っているので,どんどん還元しないといけないんですよ。
4Gamer:
もし続編が出るとして,「BLAZBLUE」シリーズは今後もコンセプトを変えず,間口の広さを大切にしていくつもりでしょうか?
モリ氏:
変えません。エンターテイメントという部分を大切にしていきたいです。
4Gamer:
チュートリアルモードなども入れたまんまに?
モリ氏:
はい。僕はクオリティを下げたくないので,今あるものをなくすというのは嫌なんですよ。今までの要素はすべてぶち込みます。
4Gamer:
では最後に,ファンに向けてのメッセージをいただければと思います。
モリ氏:
今年いっぱい頑張りますんで,よろしくお願いします。DLCとかもありますし,期待してお待ちください。
4Gamer:
お忙しい中,本日は本当にありがとうございました。
「BLAZBLUE」オフィシャルサイト
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