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[CEDEC 2010]犬型ロボットが日本を救う? 「ウイニングラン」に携わった武田氏が語る,新たなコンセプトを持ったプラットフォームの必要性
ゲーム業界や携帯業界など,広い意味での通信情報業界の現状と今後の発展に関して考えをめぐらせている武田氏にとって,現在は憂うべき状態であるようだ。
それを打破するためには,日本ならではの,既成概念にとらわれないコンセプトを持った新たなプラットフォームが必要であり,それが,ゲームシーンの限界を超え,新たな地平線を開く可能性を持っていると武田氏は語るのである。
ところで,「新しいプラットフォーム」と聞いて,新型コンシューマ機などを想像する人も多いと思うが,武田氏のセッションで説明されたのは,Androidをベースにした「DENSUKE」という概念モデルであり,今のところ実体はない。さらに言えば,それはゲームを楽しむだけなく,普段の生活や社会福祉に役立つことも目的としている。どうにもスケールの大きな話なのだが,ともあれセッションの紹介をしよう。
ゲーム業界周辺を取り巻く市場状況
まずは,講師である武田氏の自己紹介が行われた。
武田氏は,ナムコ(現バンダイナムコゲームス)で「ウイニングラン」「リッジレーサー」といったアーケードゲームの3Dシステムに関する技術開発やツール開発などを行い,最近は,大手SNSで運営されている3Dアバターシステムやクラウドベースのレンダリングシステムに関する開発を行ってきたというから,かなり技術系の人だ。
そんな業界の状況に合わせるように,ゲームの質も変わってきたと武田氏は続ける。
「ゲームはここ数年,ネタ切れとの戦いだったのではないか」というのだ。1980年代後半は,それまで続いてきた2Dゲームにネタ切れが起き,1990年代には3Dゲームがネタに困り始めた。そこで,オンラインゲームや携帯ゲームに目が向いたが,それもそろそろネタが尽きつつある。
開発者達にとって,ソーシャルアプリには新しさを感じていないと武田氏。ユーザーには新しい経験かもしれないが,制作サイドは従来のゲームを焼き直して使っている感が否めないというのだ。
国のレベルで考えてみても,基幹産業の凋落,高齢化問題,老人独居問題,ITの知識不足,新たなコンセプトと「夢」や「理想」の不足……。というように,課題は山積みだ。
では,そういった課題をどうやって解決するのか?
オープンプラットフォーム構想「DENSUKE」
武田氏の提唱する,DENSUKEの基本コンセプトは以下のとおりだ。
・1 社会福祉の実現/明確化
・2 (フリーの)Androidベースのシステム
・3 オープンプラットフォームの構造
・4 (ユーザーに好かれる形の)ロボティックインタフェース
・5 エモーティブ
・6 最先端のゲーム&ケータイハードウェア&通信環境を完備
実際にどのような使われ方をするのかについては,プロモーションムービーで紹介された。登場したのは,子犬のようなサイバーペット端末で,それが仕事や日常生活の中で,さまざまな役割を担うといっだ。紹介されたシステムや機能は以下のようになっている。
・DENSUKEシステム
ペットロボット型インタフェース機器。この機器そのもの,およびこの機器とこのあと紹介されるシステムとが統合されたものの総称。
・高齢者見守りシステム
とくに独居高齢者の健康を見守るためのシステム。各種センサーとテレビ会議システム,家庭向け端末,クラウド情報管理システムなどから構成される。
・子供見守りシステム
子供の位置や状況を把握するためのシステム。各種センサーとテレビ会議システム,キッズ向け小型端末,クラウド情報管理システムなどから構成される。
・テレビ会議システム
立体視に対応したテレビ会議システム。通常のビジネス用途より,より一般の方に使用しやすいエンターテイメント性とユーザーインターフェイスを持つことを特徴とする。
・BMIシステム
個人認証と長期間の利用を前提とし,応用に十分な精度を確保しつつ,生存確認,基本的な気分などの確認に利用できるシステム。
・デジタルサイネージスステム
立体視ディスプレイやハイエンドグラフィックス,クラウドベースの情報更新や共有に対応したデジタルサイネージシステム。3Dカメラでのジェスチャー認識などのユーザーインタフェース機能を持つ。
・クラウドARシステム
AR(拡張現実)を使った端末とクラウドベースに処理を協調して行い,さまざまな処理を効率的に可能としたシステム。
・キッズ向け小型端末
子供に利用しやすく,一般の端末の機能を大幅に抑え,低コスト化と安全性,必要最低限の機能の両立を図った端末。
・家庭向けバッド型端末
一般的なパッド型端末をより老人層や子供層に特に使いやすいように,ユーザーインタフェースを大幅に改変した端末。
・ハイエンドバッド端末
パッド型端末であるが,立体視ディスプレイやハイエンドグラフィックスに対応した高付加価値端末。
DENSUKEには,どういうメリットがあるのか。まずは,エンターテイメントの概念が大きく変わると武田氏は言う。これまでとは異なるユーザーインタフェースが使われることになるし,想定される使用者の年齢層も広いので,従来型のゲームとは違ったものが求められ,これにより,前述のネタ切れから解放される。
また,ムービーでも紹介されていたように,独居生活をしていても,DENSUKEによってさまざまなサービスが受けられる。DENSUKEのセンサーで体調の変化を感知して知らせたり,携帯機能によってほかの人とコミュニケーションを取ることもできるのだ。これにより,ゲームと福祉といった,異なる分野を横断するようなサービスが可能になる。
さらに,ロボット技術やAR技術といったテクノロジーのさらなる発展が期待でき,そうした,DENSUKEのために開発された技術がさまざまな分野に波及するはずだ。
以上のメリットは,通信やゲーム業界に限らず日本全体へ影響をおよぼし,例えば,高齢化問題の解決策の一つとなるかもしれないし,福祉環境の実現につながるかもしれないと武田氏は語った。
生活の中の課題にDENSUKEはどう役立つか
本当に実現はできるのか?
国家や業界といった大きな枠組みではなく,地域のような生活に近い場面でも,例えば独居老人や子供達の生活の安全を与えたり,子育て中の主婦の社会参加を促したり,地域の雇用を創出したりといったメリットを持つ。
そんなDENSUKEだが,技術的な実現性はあるのだろうか?
武田氏の話では,Googleのモバイル技術やクラウド技術といった既存技術を応用することで実現は可能であるとのこと。アプリケーションの制作に加え,見せ方や考え方などは大きく変わってくるが,技術的にはそれほど困難ではないという。
DENSUKEに賛同する,研究機関や企業も複数あるので,そこからも協力が得られるはずだ。
もちろん,技術面以外にも,市場性やコスト,国際競争力など気になることは多数ある。
だが,すべての人が“いいよね”と思えるDENSUKEのコンセプトが実現すれば,閉塞感のある今の社会に新しい「未来」をもたらすかもしれない。そう,DENSUKEとは人間の夢につながるプロジェクトでもあるのだと武田氏は訴えた。
DENSUKE実現に向けた取り組み
DENSUKEが担う役割を説明したうえで,武田氏はすでに実現に向けたさまざまな取り組みが行われていると続けた。
その一つは,一般社団法人OESF(Open Embedded Software Foundation)への参画。OESFとはオープンソースプロジェクトであるAndroidをべースとした組込みシステムの開発,構築などの事業を行う企業によって組織されたもので,現在85社が参加している。また,韓国や台湾,ベトナムなどにも支部がある国際的な組織でもある。
実現に向けて動き出しているDENSUKEだが,いくつかの課題があるのも確かだ。
まずは「固定概念との戦い」になるだろうと武田氏は語る。できない,売れない,うまくいかないといった否定的な意見はもちろんあるが,古い概念は放棄されるべきであり,「とくに若い人達の理解と熱意と行動が時代を変える」と武田氏は言う。
オープンで続けられるのか? という問題もある。利益が出れば,すぐにクローズドに向かおうとする人々は必ずいる。だが,それでは今ある閉じた状況と同じになってしまうため,オープンに賛同する人々の持続するコミュニティが必須になると武田氏は言う。
もちろん,クローズドな部分は企業の収益のために必要であり,その点も十分な留意しなければならないだろう。
さまざまなハイテク機能を搭載したバーチャルペットが,ゲーム業界のみならず,福祉や地域の活性化,ひいては日本の将来や国際競争力に影響を与えるというこのセッション。実物がまだないことや,話のスケールの大きさからピンとこないところもあるが,今後の展開に注目する価値はあるだろう。
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