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[CEDEC 2010]フリー版もアリ,意外と凄い「Unity」はゲームエンジンに価格破壊をもたらすか
さて,Unityというのは,最近あちこちで使われているゲームエンジンだ。どんなところに使われているかというと,まず,iPhoneでは非常に大きな成功を収めている。それ以外に,FacebookやMySpaceなどのソーシャルゲームでもよく使われている。
こう書くとライト級の低機能なゲームエンジンではないかと思う人もいるだろうが,iPhoneでそれなりに本格的な3Dゲームを作る際に定番となっているもので,ブラウザゲームで多様されるとはいっても,世界最大のゲーム会社EAがブラウザゲーム用(Tiger Woods PGA TOUR Online)として採用するなど,性能については折り紙付き。
ローエンド環境だけではなく,Wii,PlayStation 3,Xbox 360といったコンシューマゲーム機はもちろん,近々Androidにも対応予定と,守備範囲を広げている。
当然ながらPCにも対応している。PCでは,ネイティブ対応のほか,各種Webブラウザ用のプラグインが用意されているので,前述のようにFacebookなどとの相性もよいわけだ。
ブラウザでどんなものが動くかというのを見るには,Live Demoがなにより分かりやすい。
実際のゲームは,同サイトのデモリールを見るのがよいだろう。
通常版は無料でPro版の価格が1500ドルとなっている。ざっと見たところ,買い切りで(アップデートは有料),ロイヤリティなどもないようだ。また,「10万ドル以上の売り上げがある場合はPro版を使うこと」という制限はあるが,フリー版を商用に使ってはいけないとかいった制限はないようだ。
前作に当たる「LIGHTBIKE」は200万ダウンロードを記録したというiPhone初期の大ヒットゲーム。ある日,その続編を作らないかという話が持ちかけられたのだそうだ。
問題はどうやって3Dゲームを作るかだが,困った氏は「3Dゲームを一人で1か月で作る方法」のような感じでググった結果「Unity使え」という示唆を得たのだという。
続編の開発にあたり,グラフィックスと動きのスムーズさを意識したとのことで,そのあたりでのUnityに対する評価はかなり高いようだ。
ただ,別にUnityを使ったからといって,綺麗な絵のゲームができるわけでも,パフォーマンスの高いゲームができるわけでもないと宮川氏は語る。使わなくても,同じようなものは作れる。Unityの最大のメリットだと氏が考えるのは,コミュニティの充実度だ。例えば,絵を綺麗にしたいときやパフォーマンスを改善したいときに,フォーラムに投げかければすぐに適切なレスが返ってくる。なんとなれば,Web検索するだけでもどんどん答えが出てくる。いろんな人のやっていることを見れば,どれくらいのパフォーマンスが出せるか予測しやすくなる。
また,物理エンジンが標準で搭載されていることも好印象のようだ。いくらカジュアルゲームが多いとはいっても,海外のiPhoneユーザーの目は相当に肥えており,ゲームに臨場感を与えることができる物理エンジンは一つの武器になる。とはいうものの,物理エンジンは適切なエディタがないとなかなか扱えるものでもない。その点でも統合エディタから各種機能が使えるUnityはおすすめらしい。そして,氏は,カジュアルで見た目にシンプルかつ臨場感があるゲームというのは,海外で売れやすいとの認識を持っているようで,Unityに寄せる期待はかなり大きいようだ。
宮川氏は,過去に発表したゲームもすべてゲームエンジンを使って開発効率を上げてきたとのことだが,その氏が,ほぼ絶賛状態であり,UnityはiPhoneゲームの開発にかなり適していることが見て取れる。
最後に行われたワークスゼブラの発表は,非ゲームでのUnityの活用に関するものだった。紹介されたカーコンフィグレーターというのは,クルマの仕様を変えると,3Dモデルで即時確認できるようなシステムである。それの作成にUnityを使ったとのことなのだが,1日でテストアプリ(タイヤだけ表示される)が完成し,翌日にはクルマ全体を表示し,パーツの入れ替えもできるまでになったという。Unityの扱いやすさを示すよい例といえる。
現在作成中という,カーコンフィグレーター2の実演が少し行われたのだが,かなりリアルなクルマがレンダリングされ,ライトの点灯やドアの開け閉めなども再現されていた。Webブラウザ上でこれだけの絵が出せると,いろいろな分野に活用できそうだと思わせる。
全体的な比率としては,残り1/3が教育用,そして残り1/3が建築や医療,軍事,マーケティングなど「その他」な感じの使われ方なのだという。
Unityは有名ゲームエンジンを駆逐するか
似たような例で,メインフレーム,いわゆるデカコンの話も挙げられた。かつては,メインフレームを入れないと仕事にならないという花形だったものが,パーソナルコンピュータの登場で,いまや地下室の奥へ追いやられている。
ゲームエンジンでも同じことが起こるとHelgason氏は語る。ゲームエンジンというものは,一般の人が使うようなものでもなく,高価で高機能な製品が展開されている。しかし,現在のゲーム市場は急激に拡大しつつある。ゼペットの宮川氏のように,たった1人で開発するような小規模開発も増えてきている。開発環境の大衆化という流れは,確かに根拠のない話でもなくなってきている。
Unityは,ブラウザゲームやiPhoneの好調を追い風に,存在感を増している。
例えば,最近ではある程度以上の画質のゲームを作るには,事前計算でライトマップなどを作成しておくことが重要になっている。うまく使えば超高性能なGPUでなくても,かなりそれっぽい画像のゲームもできるのだ。そして,Unityでは,ライトマップ生成に業界最高峰といえるIlluminate LabsのミドルウェアBeastが使えるのだ。これが無料版にもついてくる(Beastのライセンス価格は最大9万ドル)。Unreal Development KitにSpeedTreeがついてきたときにも驚いたのだが,これもなかなか衝撃的な提携である。
フリーで使えて,シンプルで使いやすく,マルチプラットフォーム対応で性能もよいと,非常に魅力的なUnity。これがCEDECでプロのゲーム開発者の目にどう映ったのかは興味のあるところだが,同人ゲーム界などにはインパクトの大きそうな話題といえるだろう。どうもゲームエンジン系がなかなか馴染まない日本のゲーム業界だが,それもゲームプラットフォーム拡大の波とともに底辺から変わってくるのだろうか。
Unity 公式サイト
http://unity3d.com/- 関連タイトル:
Unity
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