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[CEDEC 2010]最新グラフィックス技術を現場はどう見ているのか。ゲーム開発マニアックス〜グラフィックス編
ここで紹介するグラフィックス編は,昨年と同様,現在注目されているグラフィックス技術を開発者に語ってもらおうという内容だ。ディスカッションという形式上,ややテーマが散漫になりがちなところもあるため,筆者が興味深いと思った発言を中心に取り上げてみた。
物理ベースのレンダリングでも
デザイナーの調整は欠かせない
そこで,光の反射モデル,例えばBRDF(双方向反射率分布関数)のような計算を使って(ある程度)真面目に質感を出そうという試みが物理ベースのレンダリングだ。オブジェクト表面の光の反射特性を指定しておけば,シーンが変わってもリアルな質感が維持でき,デザイナーの負担も軽くなるという。
「私が大学で研究していたとき,金箔や漆をリアルな質感でレンダリングしてほしいという依頼があった。そこで,金箔や漆をの質感を突き詰めていったが,既存の反射モデルではうまくいかない。物体の表面の反射特性をどうやって手に入れるか,この点で新たなコストや手間が発生しかねない」と指摘する。
この問題に対しては,サードパーティが素材のデータをライブラリとして揃え,それをベンダーが購入する,という展開が考えられるだろう。とはいえ,正しいデータさえあれば,物理ベースのレンダリングで破綻のない絵作りが可能になるのかというと,そうでもないようだ。
いずれにせよ,デザイナーの取り組みは相変わらず欠かせないようだ。「データフローも含めて,プログラマとデザイナーが一緒になって取り組んでいく必要がある。フローが変わると(デザイナーには)なかなか受け入れてもらえないため,我々が啓蒙していくことも大切ではないか」と高部氏は述べていた。
レンダリングに関しては,欧米で流行しているDeferred Shading,Deferred Lightingも話題になっていた。
ピクセル単位に陰影を付けて絵を完成させる一般的なレンダリングの場合,複数の光源があって,しかも動くようなケースには対応しづらいが,Deferred Shading,Deferred Lightingを使うことで問題が軽減されると考えてもらえばいいだろう。
コントラストを効果的に使いたいようなゲームでは有効とされるが,高橋氏は「日本は半透明(の表現)が主流だが,Deferred系は半透明を描画するのには向いていない。なかなか受け入れられないのではないか」と言う。「ゲームの内容によって,半透明を活かしたい場合,Forward Rendaring(従来型のレンダリング)を利用し,光と影を表現したいときにはDeferred Lightingというのもありじゃないか」というのが高橋氏の意見だ。
また,高部氏は「(欧米では)Deferred系が主流だが,今後逆転する可能性もあるのではないか」と予想していた。現在は欧米で好まれてはいるが,今後は従来型との使い分けが重要になるということだろう。
レイトレーシングとラスタライザの間に
もう一つ別の技術があっていい
実際,ジオメトリに関してはDirectX 11でようやくポリゴン分割(テッセレーション)が加えられた程度で,それまでは手つかずだった。
「レンダリングが向上しても,技術者には分かるかもしれないが,一般のゲーマーにはその違いが分からなくなっている。欧米では“何かを切断する”といった表現が(分かりやすく)人気が出るのでははないか」と西川氏。そのためにも,動的なジオメトリ表現ができるといいわけだ。
高橋氏は、バンダイナムコゲームスが海外で発売しているPlayStation 3/Xbox 360用タイトル「アフロサムライ」ではジオメトリの動的な切断が行われていることを紹介した。
さらに「最新のDirectX 11で破壊切断処理をGPUに行わせるなどした際,ストリーム出力を利用しても頂点バッファの分割には制約がある。これは現状では非常に困難であり,将来のコンシューマ機でもかなり苦労するだろう」と説明した。
高部氏も「ソフトウェアで頑張れば(切断などの表現も)できなくないが,無理にやってもパフォーマンスが出ない。新しい表現ができるよう,ハードウェアがもっと進化してほしいという声が,現場にある」とする。
さらに高部氏は,「現状では表面しかなく,ポリゴンに厚みがないのが不満だ。厚みのある四面体を使い,ソリッドなレンダリングがハードウェアレベルで効率よくできると嬉しい」とジオメトリのさらなる進化に踏み込んだ。
現在は三角形のポリゴンでサーフェスが描かれているが,「テトラへドロン(正四面体)の集合体が使えれば,従来の概念と違うレンダリングが可能になるはず。(GPUベンダーの間では)現在のラスタライザの次はレイトレーシングだという話になっているが,レイトレとラスタライザの間にもう一つ別の技術があってもいいのではないだろうか」という高部氏の指摘はなかなか興味深い。
リアルな表現のためには
解剖学の知識も必要に?
続いてアニメーションに話題が移った。現在のアニメーションでは,モーションキャプチャのデータに,アニメータやデザイナーが情緒的な表現や演出を加えていくという手法が一般的だが,物理シミュレーションをアニメーションに使用する方向性も出てきている。
「ワンダと巨象」を手がけた杉山氏は「情緒的な部分を残しつつ,(物理シミュレーションを)後づけしていく技法はあるはず。例えば,地形適応など」と,やはり人間の手による演出を最優先する考えのようだ。
リアルさの追求では,今のところモーションキャプチャにかなりの分があるようで,「人間臭さとは(動きの)あいまいさ,ふらつきなどにかかってくるのではないか」と高部氏はいう。もっとも「それらも,いずれ計算で動きを与えられるのかもしれない」とも付け加え,今後の研究が必要だと指摘した。
橋本氏は「筋肉のシミュレーションで,リアルな表情が生まれる可能性があり,筋肉モデルが重要になるのではないか。次の世代(のコンシューマ機)なら高い計算力を持っているはずで,そこでできるかもしれない」と期待する。
すでに似たようなことは行われているそうで,「筋肉の代わりに余分な骨を人体モデルに入れ,関節の曲がり具合に対応して(別の骨で)筋肉っぽい表現をするといった試みは,すでに各社が取り組んでいる。だが,現世代機ではなかなか難しく,パフォーマンスは足りていない。将来には,筋肉の動きを自動的に作ってしまうといったことが行われるかもしれない」と高部氏は述べた。
将来のゲーム制作現場では,解剖学や生理学の知識が必要になってくるのかもしれない。
以上,ディスカッションのうちで筆者が気になった部分をまとめた。
開発の効率化やコスト低減には各社とも力を入れており,それは,次世代コンシューマ機でグラフィックスのリアリティがさらに上がった場合,開発の負担が爆発的に増加する可能性が高いからだ。
最後に高部氏が「デベロッパであれば皆(コストに対する)同じ危機感を持っている。効率を上げるにはどうしたらいいか,海外に負けないように日本のデベロッパも効率を上げた生産スタイルに取り組んでいかなければならない」と熱を込めて語っていたのが印象的だった。
※記事中,高橋氏の「アフロサムライ」への関与に関する記事に誤りがあり,講演者からの依頼により修正いたしました。ご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。
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