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[CEDEC 2010]プログラマもアーティストも押さえておきたい光学の基礎
講演は,写真光学の基礎部分から始まり,こういう具合になっているから,ここを気をつけようといった感じの豆知識を披露しつつ,非常に多くの内容を急ぎ足で進め,最後に,アーティストに任せる場合の注意点などをまとめていた。前半はカメラの原理的な部分から数式などを交えて示すなど,どちらかというとプログラマ寄りの内容で展開してたのだが,4Gamer読者の大半にはちょっと分かりにくいと思われるので,ここでは,インタビュー時に川瀬氏が言及すると述べていたデザイナーなどアーティスト向けの視点を中心に,流れを逆順でまとめておこう。
ちなみに,不自然に感じるかどうか自体も個人差は大きく,やっている本人は不自然だとは思っていないのは当然として,カメラに詳しい人ほど細かい部分まで気になりがちである。ただ,カメラに詳しくない人でも,テレビや映画で自然と目にすることの多い現象については,再現されているとそれなりに「おっ!」と思うこともあるはずだ。
個人的な見解だが,アニメ調の絵などだと,別にボケ加減がどうであれ,あまり気になることはない。マルチプレーンカメラなどを使うとアニメ絵でも光学的に正確な(当たり前だが)ボケを出せるわけだが,前景や背景に描かれているものの縮尺が正確である保証はまったくない。絵作りがリアルになればなるほど,光学的におかしな挙動があると目立ってしまうように思われる。
プログラムでシミュレートするシステムを用意し,デザイナーが光学的なパラメータを指定する場合でも,あまりに極端な値が設定できるようになっていると,さすがに「これはちょっと」という感じのものが上がってくることもあるようだ。F/0.1のレンズとか……。
先ほども述べたように,ある程度カメラの知識があるかどうかで,そういったものに対する感覚自体が変わってくるので,デザイナーも少しは知識をつけておいたほうが現実的な運用ができそうではある。
さて,そういったシステムを用意するのはプログラマの仕事になるわけだが,デザイナーが知識を付けて適切に処理したとしても,肝心のシステムが正確でなければ話にならない。そこで,講演前半部の話になるわけだが,「この式を使うと正しい値にならない」とか「用語は同じでも意味が違うので気をつけて」「テレビだとこれくらいで映画だとこれくらいの撮像素子なんで」などといった豆知識が生きてくるわけだ。
以下,紹介されていたものをいくつか抜き出してまとめておこう。
●錯乱円の半径(いわゆるボケの大きさ)
遠くにピントを合わせていると小さい
近くにピントを合わせていると大きい
最近見かけることが増えてきたトイカメラ風の加工を行うプログラムでは,周辺部分を適当にぼかしているだけなんだけど,それだけでなんとなくミニチュア撮影ぽくなる。そういうのは,こういった現象が影響しているわけだ。
●撮像素子の大きさと回折限界のボケ
素子が小さい場合,絞りすぎるとボケる
最近は「絞りすぎるとボケるからF8くらいで」とかいった,昔には聞いたことのないようなアドバイスもされたりするのだが,さすがにこれは一般の人が見ても分かるものではないので,シミュレートしてもメリットは少ないような気がするのだが。
・35mmフィルム(フルサイズCCD)
f/2.0 |
f/4.0 |
f/8.0 |
f/16 |
f/32 |
f/128 |
・1/2.5インチCCD
f/4.0 |
f/16 |
f/32 |
f/128 |
●レンズの中心
レンズの中心は,通常,カメラの回転軸の手前にある
カメラを構えた人,ないし三脚を使用したとしても,回転軸の中心とレンズの中心は異なる。カメラを振る場合などは,これを考慮したほうがリアルか。
●フォーカスと画角
インナーフォーカスのレンズでは,近接撮影で広角になるものが多い
レンズの構成とフォーカス時の挙動はさまざまだが,最近多いインナーフォーカス式のレンズでよく見られる特性がこれ。普通のカメラを使ったことのある人であれば,見れば分かる効果。
今回は,基本から応用まで話の範囲が広かったこともあり,非常に多くスライドを用いた講演となっていた。当日の聴講者には,細かい話が多くて驚いた人もいるのではないだろうか。また個人的意見で恐縮だが,以前,川瀬氏の同種の講演を聞いたときは,私も「ここまでやることはないんじゃないか?」と思っていたものだ。しかし,その後,そういった演出が稚拙な映像を目にするにつけ,「やっぱり必要なんだなあ」と実感するに至っている。下手にレンダリング品質は高いのに妙に不自然な映像は,見ていてなかなかに情けなくなるものがある。プログラマの方もアーティストの方も,そういう情けない絵だけは作らないように,よい作品を作ってほしいところだ。
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